最強以外ありえない   作:てんぞー

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るんるんるるーん

 12月に入って半ばも過ぎ、漸く1回目のベータテストが終了する。テスターたちからの意見をまとめたアンケートなどの整理も終わり、いよいよ俺達が作ったものは面白かったのかどうか、という忌憚のない意見が聞けるようになった。

 

 図書館の特別開発室に俺達は集まり、集まったアンケートの前にワクワクしながらその時を迎えていた。こういうクリエイティブな行動は実は初めてで基本的に破壊系の活動を専門にしているから、作ったものに対する評価は初めてなのだ。

 

 環境壊しやがって悪魔め! とかなら良く言われるんだけどね。ポートフォリオを用意するなら環境破壊のリストを提出出来るんだけど……社会では評価されない項目ですからね……とか照れながら言った方が良いのかな。

 

 ちなみに学校ではそこそこ評価される。破壊活動が評価される学校ってなんですか……?

 

「いやあ、ついにベータの評価や意見が確認できますね」

 

 パンイチマンが楽しそうに着席しながらそう言う。館長も頷く。

 

「目立ったバグもなかったみたいだし、どんな風に評価されるのか楽しみだねぇ」

 

「良い評価が貰えると嬉しいねー」

 

 ねー、と声を揃えていると作業に参加した従僕達も集まって来た。これでこのチームに参加している開発側のメンバーは全員揃った。いよいよテスターたちからの意見を確認する時間だ。とりあえず集まったアンケートの一番上のを1枚手に取り、確認する。

 

「グラフィック良し、ハードとの最適化も良し、UIも触れやすく調整されていて遊びやすかったって」

 

「おぉ」

 

「頑張りましたから」

 

「自慢のグラフィッカーちゃんです!」

 

「こんにちわ、やり込み系ゲーマーです」

 

 開発側にゲーマー気質の奴が混じってるからそこら辺は信用してるんだけど……こういうシステム面的なのは評価が高かった。グラフィックも最適化がちゃんとしてて無駄な負荷をかけない、操作にストレスを感じないで遊びやすくなっていると書かれている。頑張ってるのが評価されてると嬉しいよね。

 

「……」

 

「尊くん?」

 

「どうしたんだい?」

 

 読んでいたアンケートを館長に渡して、それから次のを手に取って確認する。それも大体褒めてるところは一緒で……苦言の部分もほぼ一緒。数枚確認してから一気に流し見で皆でアンケートの中身を確認して行く。

 

 技術は凄い。グラ凄い。UI良い。センスが良い。データ豊富。

 

 でもそれXXXで良くない? 他社のゲームに似てる。やりたい事は解るけど、XXXにデータMODとして追加したらそれで解決しそう。似たようなゲームがある中でこれを出す意味は? 初期は遊ばれるけどもっと人口が多い所にデータコピーされて終わりそう。ガチャの必要性は? 収益重視? ガチャではモンスターへの愛着が。

 

 うおん、結構辛口な意見が多いぞ。読んでるとちょっとずつ辛くなってくるけどまあ、意見は意見なので目を通しておく必要はある。それをとりあえず皆で確認し、終わった所で改めて会議に入る。

 

 それで取りあえずは読み終わった。

 

 とんとん、と読み終えたアンケートや報告書を纏める。

 

「意外と同業他社のゲームで良くない? とかの意見が多かったね」

 

「そうですね。別に新規開拓してるわけじゃないですし、新規スキル発見に備えてユーザーデータの追加に対応する物もありますし。データ面で勝負するならそれで良くない? という意見が多いですね」

 

「実際の所、スキルやモンスターデータそのものに著作権を付ける事は難しいからね。実在するものがモデルである以上は……」

 

 思ってた以上にゲーム制作の難しさを舐めてたのかもしれない。最高の人材を揃えれば最高のゲームが作れる、というのは甘えか。

 

「うーん、悔しいけど割りと正論」

 

「そうだね。データやグラフィックが良ければ戦えるという考えは捨てたほうが良いかもね」

 

「単純な啓蒙活動なら鴉羽さんがデータを大手に提供すればそれで解決します。ですが私達が求めるのは戦闘データの収集です。そうなると何千、何万というユーザーが毎日何百戦もする環境が欲しいです」

 

「そうなるとやっぱ自分で自分のデータを管理出来るソフトが欲しいよね」

 

「そうだねぇ、データを提供して、勝手にそれを抜いたり閲覧するのには問題があるからね」

 

 そうなると今あるゲームの方向性を大きく変える必要性が出てくる。元々はアプリ形式で遊びやすい手頃なものにする予定だったが、この感じだとそれが難しい……というより同業他社が強すぎる感じがする。

 

 見通しが甘かったなぁ。

 

 でもバトルログシステム開発のためには大量のデータが必要だ。ここを妥協する事は出来ない。特に何をしてるのか一見理解できないパペッターの様な大ボス相手には必須アイテムになる。

 

 この世界にはセーブ&ロードなんてないのだから。1回きりの勝負、決戦。間違えることは出来ないのだから最高の装備や備えを用意するのは当然の事だ。

 

「……方針転換しよう」

 

「と、言いますと?」

 

 パンイチマンが聞き返してくる。どうでも良いけど図書館の皆もパンイチマンに慣れたな……。

 

「これでこの市場は大体開拓されてる分野だと解って来た。これで勝つにはまだ手つかずの領域か、既存他社の作品を超える必要がある」

 

 もうここまで来ると大体の事を皆察し始める。そして今一番意識しているワードを従僕の一人が口にした。

 

「オープンワールド……!」

 

正解(エサクタ)

 

 ビシィ、と指差す。ガタッ、とゲーマー従僕が椅子を揺らす。

 

「今の大手IP、ソシャゲは最低限オープンワールド製ではないと勝負にならない所まで来てます……。豊富な探索要素、謎解き、そして日常生活……ガチャそのものに飽きても広い世界を探索する喜びと探索要素は何時の時代もユーザーの心を掴みます……! 時代は大オープンワールド時代!」

 

 ゲーマー従僕の言葉にパンイチマンが頭を抱えた。

 

「工数や販路がまるで違う……!」

 

「どうしよう、ここまで凄いファンタジックな世界観なのに急に企業戦士みたいな流れになってきたな。世界観変わった?」

 

 パンイチマンは頭を抱えた。

 

「アプリリリースと据え置きタイプのゲームでリリースするのは販路がまるで違いますし、宣伝の仕方や必要なプラットフォームも変わってきます。何よりもここでの方針転換で一番大変なのは開発班です……マップデータ、キャラ、テキスト、あらゆるものを作り直す必要がある……!」

 

 急に地獄が始まった。そこまでやる必要はないんじゃない? とか言いたかったけど今の時代、据え置きでやるならかなり気合入れないと常にアップデート入れ続けるソシャゲベースのオープンワールドには勝てないからな……。

 

「買い切りベースで再構築するとなると良質なシナリオ、探索用のマップ、そしてモンスター周りのシステムの大々的な変化が必要になります。特にこのスタイルでやるならガチャ要素は不適切です」

 

「はい! 私! 他社にはない要素として可愛い美少女モンスターと結婚できる要素があるべきだと思います!」

 

 フラメア、お前いつの間に会議に紛れ込んだんだ? しかもうんうんと従僕達が頷いて同意してる。システム構築するのお前らやぞ。要望を言うのは簡単だけど地獄を見るのはお前らや。

 

「ふふ」

 

 そう微笑むと館長はテーブルの下から分厚いノートを取り出した。

 

「こんな事もあろうかと」

 

「断言するけど館長、絶対に書きたいから書いてますよね? こんな事もあろうかとじゃなくて欲望のまま書いてますよね」

 

 館長は曖昧に笑って誤魔化した。大人って汚い。というかこの流れってもしや。

 

「マップ! マップ作ります! 作れます! もう作ってます!!」

 

「育成システム変更ですわーーー! やはり牧場! 牧場システム! 育成と言ったら牧場ですわね!?」

 

「今軽く業界を調べましたけど、オープンワールド形式でこの手のゲームは開発中ばかりのものが多くて、今飛び込めば先んじてリリース可能かもしれませんよ!!」

 

「対抗馬は2Dや同人形式の奴ですねぇ。これなら需要で勝てますよぉ」

 

「キャラクリ!」

 

「オシャレ!」

 

「ハウジング!!」

 

 なんか制御不能になってきた。椅子の上で膝を抱えて丸まって暴走しだす現場をぼーっと眺める。

 

「メインシナリオをちゃんと構築しつつライバルとの戦いを盛り込んで……最終的にはあの女をラスボスにしましょう!」

 

「異議なし!!!!」

 

 満場一致の異議なし。ラスボスの出演が決まった。肖像権……まあ、いいか。あの女だし。

 

「恋愛要素も必須ですよ!」

 

「ダンジョンダンジョンダンジョンダンジョンダンジョン」

 

「もうこの際根の国とか図書館とかマップそのままま再現しましょう!! 他社では絶対に出来ないから!」

 

「私! 今からドラゴンズバレーに取材しに行ってきます!!」

 

「ロストエデン行ってきまーす!!」

 

「実在するトップマスターとのコラボで再現した者を登場させればオオウケ間違いなしですよ! コネ、フル活用しましょう! 鴉羽様名義でプロの人達にアポ入れてきますね!」

 

 パンイチマンも膝を抱えて丸くなった。

 

 もうだめだ。

 

 ここまで辛うじてアプリで容量削減してたからセーブが利いてた、だが買い切り型に移行するに当たってそこそこ辛辣なことを言われたのが反発心を招いてしまった。

 

 そもそも拘るところは拘るオタク気質の集団だ。

 

 1度本気になったらもう、どうしようもない。

 

 るんるんるるーん。るんるんるるんー。

 

 鼻歌を浮かべながらリミッターを解除した開発チームを眺める事しか俺もパンイチマンも出来なかった。

 

 もはやこのプロジェクトは館長たちの本気で遊ぶ場となってしまった……!

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