2月が過ぎ去り。3月も気づけば終わり。
4月がやってきて、新年度が始まる。中学2年生から3年生に進級し、これからの事を考え始める年齢にもなる。
来年からは高校生になる。このまま駆間で進学する? それとも駆間を出る? そういう選択肢が出て来る時期だ。なにせ、駆間内には大学が存在しない。進学するなら必然的に駆間の外へと出る必要が出て来る。
後は学歴の都合上、プロフェッショナルの専業マスターを目指す者は駆間外にある専門の養成校に通う必要が出て来る。どれだけ強くてもプロとして活躍するにはスポンサーや資金力が必要になって来る。そして駆間にいる間はそういうスポンサーは寄って来ない。
物騒なキチガイしかいないからだ。
最低限養成校に通える外面取り繕えるキチガイじゃないと金出すのはちょっとな……みたいな意見が多い。まあ、正論なので何も言えないけど最近はブラックバスルートが開拓されたせいで学歴無視で殴り込む無法者が増えてしまった。もう何もかもおしまいかもね。
そういう訳で中学3年からは色々と頭を悩ませる時期になって来る。少しずつ未来のビジョンを構築し始める年頃になって来る。
そんな中学3年になって今。
「―――ここに鴉羽尊って奴はいるのか! おい、顔を貸せやパイセン!!」
「みこっちゃーん、お呼びだよ。今年の1年生は活きが良いねぇ」
「俺を番長扱いするの止めてくれないかなぁ……」
新入生の襲撃を受けてた。
教室の入り口を見れば今年入って来た新入生が入り口でガンを飛ばして来ている。もうこれで何人目だよー、と思いながら教室の入り口へと向かう。近づいてくるとたぶん睨んできている1年生が話しかけて来る。
「よお、アンタが鴉羽パイセンか? 聞いたぜ……あんたがこの駆間中で一番ヤバイって話をな」
「いやいや、俺よりもヤバい奴はいっぱいいるよ」
授業中腹が減ったから弁当を箱ごと食い出す奴とか俺よりもよっぽどヤバイと思う。胃腸どうなってんだよというツッコミはもはや遠い過去のものだ。うわぁ、やる気満々だなぁ、この1年生。めんどくさいなぁ。
めんどくさいので銃を抜いてそのまま会話を遮るように5発ぐらいぶち込む。
「ちょごごごごごっ!?」
「電磁スタン弾だ。モンスターでさえ撃ち込まれたら数時間動けなくなる代物だから……まあ、人間なら数日動けなくなる感じかな。ウチの魔女が弾丸にスタン用の魔術込めて作ってる特製品なんだよね」
よいしょ、と倒れて動かなくなった姿を持ち上げて。
そのまま窓際まで運んで。
開いてる窓から外に捨てる。
「お゛っ」
そのまま折り重なっている何人もの番長挑戦者達と一緒に小さな山の一部となる。本当に誰かに慕われているならそこから助けてくれるだろう。そうじゃなきゃ人心を集められない自分を呪うんだな。という訳で新入生の襲撃を会話中に処理する事で時短を成功する。
「いやあ、お待たせ」
「最近の1年生はリスペクトが無くて困るよなあ」
「ねー、もうちょっと状況や時間を考慮してくれて良いのに」
「まあ……考慮された所で俺は考慮せずに撃つけど……」
そういう事してるから番長扱いされてるんだよお前みたいな視線が突き刺さる。仕方がないじゃん、駆間中で一番破壊活動して日本中に悪名轟かせてるCランカーって俺なんだから。少し前の環境破壊活動がこんな形で返って来るなんて思いもしなかった。
お蔭で最近は人に銃弾を撃ち込む事にも慣れて来た。ありがとう、フラメア。非殺傷用の弾丸用意してくれて。駆間人ならまあ致命傷にならないだろ……のガバ感覚で最初は撃とうとした事実を私はここに告白します。
そう、駆間の治安は最悪だ。最悪なのに強い人間ばかりが集まって来る。だから全国の不良からすると武力やカリスマを備えていても絶対に制圧する事の出来ないヤバイ地として認知されている。
その為、毎年威勢の良い新入生がやってきては退学か転校している。気合があるとか不良とかそういうスケールで耐えられる環境を駆間はしてないのだ。だけど毎年毎年、こういう新入生が中学でも高校でも絶えない。
ここ数か月は悪い意味でも名が売れてしまった影響で、目を付けられてしまった。
ホームルーム前や休み時間の度にこれなのは困る。
どこかで適当に違うヤバそうな奴を番長にしてデコイにするか。教室に戻ってよいしょ、と自分の席に座る。
「うちの学校で喧嘩強くてヤバそうな奴って誰が居たっけ」
「飯田とかどうだ? 見た目はガリ勉だけどインナーマッスル鍛えまくって鉄を噛み千切る逸材だよ」
鉄を嚙み千切れる事に見た目ガリ勉とインナーマッスル関係ありましたか??? まあ、人としてだいぶ怪しいしコイツに次の番長を任せるとするか……。
これで少し襲撃が減れば犠牲者も減るんだけどな。新年度開始してからやや憂鬱である。
だらん、と机の上に倒れているとお疲れ様と労われる。
「しかし中3かあ、駆間中で過ごす最後の年だと思うとちょっと感慨深いな」
机を囲む1人がそんなことを言う。
「そう言っても大半はこのまま駆間高校に進学するだろ」
「いやあ、解らないぞ? もしかして養成校に行くかもしれないし」
「まあ、駆間を出るなら高校辺りがベストって話は聞くけど、まともに聞く奴はいるのか? ここのが鍛えられるだろ。最近はスポンサー抜きも流行ってるし」
「でもスポンサー抜きだと生活厳しいぞ? 特に上のランクは育成辺り勝てない限り赤字って話だし」
「へー、赤字なんだ」
「あぁ、特にBは赤字出やすいらしいな」
それは初耳だった。ちょっと興味のある話題なのでもうちょっと教えて、とジェスチャーを取る。仕方がないなぁみこ太くんは……される。
「Cまではまだマイナーと呼べるランク帯だろ? だけどBからはメジャー帯に入ってくる。最大の理由はモンスターのインフレが進むからだ」
Bからは大型モンスターが登場するし、この手のモンスターは強い。それにスキル面も段々と完成図が見えてくる。より派手で破壊力のある攻撃手段が増えてくる。
C帯では中威力が精々だったが、B帯になると高威力の攻撃が見られるようになる。
「試合として派手さと戦力が併せ持った、エンターテイメントになる戦いが始まる。それがB帯だ」
「まあ、C帯ってモンスターが少なくてちょっと戦略性に欠けるところあるしね」
「まあ……」
エデとかろくに戦わせられなかったしな。仕方のない話だけど4:4前提でビルドしてるから範囲型とか複数対象前提のキャラクターは決定力に欠ける。戦略的に組み込むのが難しい。
無論、フラメアみたいなインチキ火力を出すモンスターも存在する。が、それは本当に稀だ。あの火力を出せるモンスターはDLC実装以降に出現する種に限定されるから普通は手に入らない。
だからC帯の戦いは地味になりやすく、そしてBからはモンスターも増えて派手になる。
ここはゲームにおける中盤とも呼べる部分だ。
「だけどBでフルパ維持するのって大変なんだぜ? まず食費、それからトレーニング施設も共用の物じゃ対応出来ないモンスターが出てくるから専用のを用意しなきゃならない」
種族、サイズ、能力。
駆間市にあるジムの様な施設でモンスターの育成もできるが、巨大なモンスターに対応したトレーニング器具とかは中々見つからない。こうなると専用を特注するか……持ってるところを頼る必要が出てくる。
「ついでに言えばBからは兼業マスターが難しくなる。資金、土地、時間……本業としてのマスターを目指す上で多くの問題と直面するのがこのランクだ。だから、まあ、赤字経営も珍しくないらしいぜ」
「ウチは余裕あるからへーきへーき」
「へー」
いやあ、ね? なんか国家予算レベルのお金が入ってきましてね……? ちょっと使うのが怖いから家族会議であーだこーだ相談して牧場の経営と投資、運営とかだけに使おうと決めました。
ちょっと見たことのないゼロの数でしたね。
ちなみに買い取ったのはアメリカくんだった。
「まあ、みこっちゃんの事はあんま心配してないけど、そういう事もあって趣味として続けるか、本業にするか……って岐路に立たされる所でもあるんだよな」
「副業でC辺りだらだらしてるのも小遣い稼ぎには悪くないしな」
「でもCとBじゃかなり金額に違いが出てくるぜ? Bは優勝で当然のように100万ぐらい入るからな。世界が変わるよ。1000万……2000万あればBからAはスポンサー抜きで行けるんじゃね?」
「でかい数字だなぁ」
モンスターマスターがかなりの金食い虫なのは事実だが、具体的な数字が出てくると怖いな。とはいえ、資金に関しては今は心配しなくて良い。今は余裕があるし、最悪アンナに無心する事も出来る。
なんなら東吾とかブライアンが勝手に押し付けて引退するなって訴えて来そう。
……まあ、あり得るな!!
「みこっちゃんは……まあ、本業移行か」
「未来のSマスターは決まったな」
級友の言葉に頭をカキカキと掻きながら3人で一斉に銃を抜いて教室の入り口から声を張ろうとした不良新入生に向け、黙らせて来た道を帰らせる。
「まあ、本業にするというか……せざるを得ない、というのが正しいけど」
「お家騒動大変だねぇ」
それもあるが、世界の未来を守らないといけないからね。ちょっとラスボス倒さなきゃいけないのさ。だからSは踏み台でしかない。その先、グランドマスターになってからが俺の本番だ。
たとえ刺し違えこの世を地獄に変えてでも……その後はきっと館長がなんとかしてくれると信じて。
奴だけは必ず俺が倒す。
その為にも。
「まずはBからかな。今回……激戦の予感がするんだよなぁ」
視線を教室の反対側にいる久遠へと向ける。あちらも級友に囲まれて何かを話している。此方の視線に気付くとかウィンクしてくるから此方も軽く手を振り返す。
するとなんか数人泣いてた。
「みこっちゃんが人間性を見せてる……!」
「小学生の頃から成長したなぁ!」
「何目線だよお前ら」
守るべきものを守る為にも、Bは勝てて突然の範囲だ…躓くのはあり得ない。勝って通過しないとならない。そうじゃなきゃ話にならない。
だから……迫る認定戦シーズンを前に静かに闘志を燃やす。