最強以外ありえない   作:てんぞー

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負けないよ

「お待たせー」

 

「遅ぇんだよ!!」

 

「ジジィでももう少し早ェぞ!!」

 

「お前ら友人への罵倒が早いな……」

 

 七海が戦闘を全部終了させて手を振りながら走り寄って来る。その度に胸がばるんばるんと揺れるので俺達の視線は自然とそこに吸い寄せられる。最初は中指を突き立てながら早くしろと叫んでいた俺達も直ぐに静かになってそれを見た。

 

 芸術品だ……。

 

「ひぃん、セクハラだよお」

 

「その馬鹿でかい胸が悪ィんだろ」

 

「そもそもデカパイのデカパイって芸術品見るような感覚でそこに情欲を感じた事は一切ないからな」

 

 きっぱりと言い切ると花火師や雅人だけじゃなくて七海や他の脱落マスターまで集まってきて俺を見た。

 

「なんだよ。なんだよお前らのその視線」

 

「いや、前々から尊くんの視線から一切そういう感じの視線を受けた事はないけど芸術的目線で見てるとか……そういえば久遠ちゃんもそういう事言ってたね。逆に聞くけど尊くんって性欲あるの? ちゃんとそこら辺の人間としての機能備えてる……?」

 

「なんで今度は俺が逆セクハラ受けてるの?」

 

 腕を組んでちょっと考え込む。久遠柔らかいなぁ、とか感じたりしたことはあるけど別に性欲を感じた事はこの人生で1度もないな……。素直にそう伝えると花火師が両手でデカいTの字を作る。

 

「タ―――イ―――ム―――!」

 

 それを見た協会の審判が深く頷いた。

 

「許可します」

 

「よっしゃ、緊急会議すッぞ」

 

「そこまでぇ?」

 

「いやいやいや、鴉羽ちゃん、今中3でしょ? 中3と言ったらもう超思春期よ! 滅茶苦茶出汁の取れる頃合いじゃない! 性欲も出てきて彼女欲しい、ヤリたいとか言ってる年頃よ! なのに性欲がないのは高二病でもなければおかしいわよ!」

 

「おい、オカマ」

 

「いや、コイツ俗世から半歩解脱してる部分あるからな、無くてもおかしくないぞ」

 

「尊、お前死ぬのか……?」

 

「雅人、お前解脱=死みたいなイメージ持ってないか? というか今認定戦だぞ!! いまする話じゃねぇだろこれ!!」

 

「いや、エロは生きる意志だ……鴉羽に生きる意志が足りてねぇのはエロが足りねぇからかもしれねぇ……!」

 

 なんでそうなるんだよ。しかも集まってる奴はうんうん頷いてるし。

 

「良し、認定戦終わったら皆でAVとかエロゲ持ち寄って誰のが一番反応するのかちょっと鑑賞会すっか」

 

「俺の秘蔵のコレクションが火を噴くぜ」

 

「盛り上がって来たな……!」

 

「なんでそこまでこんな事で盛り上がるんだよ!! オラ!! 散れ散れ負け犬共!! ここからは勝者のみのステージだ! はよ散れ!!」

 

「くぅーん」

 

 しっしっ、と雑魚共を追い出して平和を取り戻す。お前らは俺をどんな風に見てるんだよ。クラスメイトたちも偶に俺を見る目が保護者かなんかの様になるし、そんな見ていて不安になるのか? ちゃんと人間ごっこ出来てる気がするんだけどなぁ……。

 

「なんつーか……てめェ、ちょくちょく視点が人間というより上位存在というか……神みたいな視点で話すからな……?」

 

「ねー。尊くんってこう……結論から逆算して物事喋る所あるよね? 未来の完成された形がこう、だから結果として現在はこうなる! って感じに。タイムラインが逆向きなんだよね、物事の」

 

「あぁ、だから理解力高いのかお前」

 

 思ってたよりも俺への解像度が高いのは俺が取り繕わないからか、それともこいつらが俺を良く観察してるからなのか。そこら辺の判別はつかないが、見事な茶番タイムを挟んでからの対戦表の発表へと移る。

 

 スマホのアプリに4x4のグリッドで表示される対戦表には俺達の名前が表示されている。

 

 総当たり戦形式なので、全員が一度は全員と勝負する。その上で勝利数が同数なら1位決定戦を行うという形式になった。まあ、全勝すればそこは何も悩まずに済む。そう、全ての問題は暴力で片付く! 全て滅ぼせば俺の勝利だ!

 

 総当たり戦なので結局全員と戦う事になるが、俺の対戦順は七海→雅人→花火師という順番になる様だ。最後の勝負に花火師を持ち出してくる辺り、実によくエンターテイメントというものを理解していると評価せざるを得ない。

 

 さて。

 

 七海の方を1回だけ見てから少しだけ悩ませる。対七海はどの構築で挑むべきか。これまではロングゲーム指向のコントロール構築だったので、こっちも長期戦に備えるべきか。それとも単純な火力を増強して一気に押し通して相手の破壊を狙うべきか。

 

 アグロ環境で勝ち残れるコントロールはつまり、しっかりと受け側を意識して構築している事になる。単純火力で押し通せるような相手なら今の環境、七海が勝ち残る事もなかっただろう。つまり火力の増強はあまり正しい判断にはならない様な気もするんだよなぁ。

 

 セオリーを考えれば対応幅の広いフラメアと回復力を備えるエデが良いだろう。でもエデって別にそこまで回復力が高い訳じゃないからな。採用した所で……って感じはある。そうなるとオーバークリティカルで一気に防御を抜くやり方がスマートかもしれない。

 

 歌を控えめにしたエデ+攻撃寄せのチビが正解か? フラメアをここで素直に出すとなんかハメられそうな気がするんだよなぁ。《スペルアブソーバー》は公開済みだし、そういうスキルをしっかりとチェックしてくるタイプだしコイツ。

 

 七海は駆間のマスターで一番長い付き合いがある奴だ。

 

 初めてモンスター協会に来た時のコイツと出会って、それ以来ずっと一緒に遊んできた。個人的な連絡先も交換してるし、コンボや対策の話もしている。だからコイツが此方の構築を見て、その脆弱性を指摘してこないとは思っていない。

 

 つまり相手の意表を突く必要がある。

 

「尊くん、まずは私達からだけど選出決めたー?」

 

 にこにこしながら此方に声をかけて来るのはプレッシャーをかけてるつもりなのか? まあまあありえる。その手の盤外戦術も学んでるみたいだし。中指を突き立ててなんでぇ!? と鳴かせておきつつこっちも編成を決める。

 

 ……良し、決定。

 

 シェイナの採用を悩むが、シェイナは対花火師用の最終兵器だ。彼女の性能はこれまで選出された事がないから把握されていない筈だ。ここで使ってしまえば花火師にバレる。何としてもここは《ウィークメイカー》抜きで戦い通さないとならない。

 

 スマホで決めたモンスターを送る事で編成は決まる。これ以降、モンスターを入れ替える事は出来ず、試合が始まるまでのスキルの入れ替えだけが許可される。

 

「良し、待たせたな」

 

「じゃ、いこっか」

 

 雅人と花火師にまた後でな、と手を振ってから自販機の置いてある休憩エリアからアリーナ中央、対戦用のステージへと戻る。

 

 中央に立ったところで七海と向き合う。

 

「私がこうやって強くなるなんて昔は考えもつかなかったよ。尊くんは少し後ろにいた筈なのに何時の間にか前を走るようになっちゃって……」

 

「最初の頃は本当に弱かったな。まともなスキルを覚えさせる事も出来なくて、変な戦い方をして負けてた。たった数年前の出来事なのに凄い前の様に感じる」

 

「ねー? でも強くなるきっかけは貰えたし、私はまだまだ強くなるつもりでいるから。そう簡単に勝てるとは思わないでね!」

 

 そうやって向かい合うとモンスター達が合流してくる。ロングゲーム化でリソースを削って来る事を考慮に入れてイーリュを採用、Cランクではあまりしない防御を固める事を考えた。アタッカーは正直、フラメア以外を編成する事にあまり意味を感じないのでフラメア一択だ。

 

 コイツだけDLCキャラの中でも突出して強いので、アタッカー採用で悩むならとりあえず魔女血統というだけで選べる。バランスの良い構築にして様々な局面に対応できるようにした此方に対し、七海はふむふむ、と頷いて答えを出して来た。

 

「尊くんはそういう風に来るんだね? じゃあこれが私の答えだよ」

 

 そう言って七海は2()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

「あ、コントロールで来ると思った? ぶっぶー、不正解でーす! これまでずっとコントロール握って来たからここぞという場面でも同じ手で来ると思ったでしょ? いやあ、今日始まってからずっとロングゲーム挑んでおいて良かった」

 

 ドラゴンが2体。それは俺の牧場にもいるキッズサイズのミニドラゴンだ。ミニ、と言ってもドラゴンという種族は高種族値モンスターだ。非DLC出身のドラゴンであっても、同じランク帯では他を圧倒する高いステータスを見せるモンスターだ。

 

 平均して高い能力に継続可能な攻撃リソース。ドラゴンというモンスターはその種族というだけで非常に強い―――ドラグロ……ドラゴンアグロと呼ばれる構築はB帯からA帯で非常に強く、人気の根強い構築だった。

 

 種族専用パッシブ防御サポート、《龍鱗》等で耐性系を高めて耐えながらそのまま殴り返す。

 

 それだけのパワープレイで大半の相手に有利が取れるからだ。

 

 それを今、この女は、一切誰にも悟らせず、お出ししてきた。これまでずっとコントロールを握ってたからそれ専門だと思わせて、この一番重要な場面で構築そのものを大きく変えて刺してくる。

 

 普段の構築をブラフに取った、プロシーン等で活用する奇襲戦術だ。

 

 ―――1本取られた……!

 

 素早く腰のカードホルダーから調整用のスキルカードを抜き取り、それで素早くスキル調整を施して行く。それを見ながらゆっくりと七海が宣言する。

 

「最初に教えて貰った時からずーっと負け続きだったけど……今日は勝ちに来たからねー」

 

 一拍、間をおいてから普段はのんびり、穏やかな目に鋭さが宿った。

 

「負けないよ」

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