宣戦布告を受けてからステージの反対側へと移動する。七海は本気だ。今ばかりはデカパイと揶揄う余裕はあんまりない。ちょっと思考を整理しよう。
ドラグロはドラゴンモンスターを横並びにする雑に強い編成の見本だ。高火力高耐久を並べる事で盤面を制圧するというスタイルだ。問題があるとすれば第4世代……Cランクで展開出来るドラゴンはキッズ属性持ちで未成熟なのか、或いは進化の行き止まりみたいなのが多い。
その為、バトルに活用できる個体は限られており、弱点が存在する。キッズ系のドラゴンは確かに耐久も火力も兼ね備えた優秀なモンスターだが、足が遅い。その為頭を取って殴って来るタイプに対して弱いという弱点が存在する。
アグロ構築において鈍足なのは致命的だ。先手を取ってプレッシャーを与えるという事が構築の目的である以上、先手を取れないのは大きな弱点だ。だがこれはプレイングでカバーできる範囲の弱点とも言える。しっかりと弱点を把握し、それをカバーする方法があれば勝機は存在する。
そしてこの場で出してくる以上、奇襲性以上にちゃんと勝ち目を見出して繰り出してきているのだと信じる。少なくとも初期のクソザコデカパイみたいな無様な姿は見せないだろう。
幸い、構築の意味、弱点、そして長所は理解している。元々は図書コントロールを想定していたが、この様子だと大きく中身が変わっている。それに合わせてスキルを更新しなくてはならない。いや、完全に意表を突かれた。まさかCランクでこんな事をされるとは。
もしイーリュじゃなくてチビを選んでいたら多分耐久力不足で負けてたな。ドラゴン達が使うブレス系統の攻撃は属性的に魔法と同じ必中属性持ちだし、チビに強制的に《アヴォイドマジック》を切らされていた。
だがそれも《ディスペル》で解除されたらひたすら威力の高いブレスを連打されて全体への圧力に落ちてただろう。チビの生存力は確かに高いが、全体への軽減手段を持たないのが弱点だ。この手の全体へのプレッシャーを継続的に与えられるモンスターに対しては弱い。
こういうパターンは単体火力で集中砲火して一気に食い破るのが定石だ。とはいえ、七海がそれを簡単に通してくれるとは思えない。Cランクでの戦いはモンスターの数が少なく、アドバンテージを取るとそのままリードしやすい環境だ。
間違いなく盤面での有利を取りに来るだろう……それをどう躱すかが問題だ。
初期位置に就きながらもスキルカードの動きを止めない。イーリュとフラメアのスキル構築を悩みながらも更新し、変えて行く。相手のモンスターが見えた時点で何が出来るかは把握した。問題はそれを上回れるかどうかだけだが……越えられないのではそもそも未来に進む事なんて出来ない。
鴉羽尊に、勝つべきステージでの敗北なんてものを受け入れる余裕も時間もない。
最短最速のステージでSに、グランドマスターにならなくてはならない。
それは未来を守り、久遠を、家族を守る為に必要な事なのだ。
だから七海の戦意を真正面から受け止め、彼女の負けないよ、という言葉に対して俺はこう返してやることにする。
「―――出来るものならな」
ライバルの七海が現れた!
ドラゴンパピーAが現れた!
ドラゴンパピーBが現れた!
フラメアの登場に伴い《幻想図書館》が展開される!
ドラゴンパピーAは《暗黒樹海》を呼び覚ました!
ドラゴンパピーABの《ロケットスタート》!
ドラゴンパピーたちの速度が1段階上昇した!
イーリュの《オートガード》!
フラメアを守る盾が展開された! ダメージを軽減する!
イーリュは《幻想図書館》を呼び戻した!
「まあ、こうなるか」
「うーん、予想通りかな」
反対側にいる七海の呟きは聞き取れないが、大方セットアップに関しては予想通りという様子を見せている。ここら辺はお互いに予想できるセットアップだ。開幕発動の自動スキルで速度を上げる事で主動作での先手を取るようにしてきた。
《暗黒樹海》をセットさせたのはワンチャン通せるかどうかのチェック……通るならそのまま《ディストーション》の様な高威力単体魔法を封じられるからだ。当然、通さないと負けるので最遅イーリュに図書館を展開させて割る。
以降、七海は行動を消費して樹海を再展開しない限り高威力単体攻撃を防げなくなった。セットアップはこんな所だろう。だが樹海が破壊される前提で動いてるならどうにかして《ディストーション》とかのリーサル火力を抑える手段を持っているだろう。
……《スペルアブソーバー》? まあ、十分あり得るな。アブソーバーを構えてるなら相手の読みのタイミングを外すのが重要だ。
読み合い勝負かぁ。楽に勝たせてくれないなぁ。
ドラゴンパピーAの《ファイアブレス》!
イーリュが行動に割り込んだ! 《ワイドガード》! 範囲攻撃を庇う!
イーリュは《魔壁の構え》を取った! 属性ダメージを軽減する!
イーリュにダメージ!
ドラゴンパピーBの《ファイアブレス》! イーリュにダメージ!
フラメアは《暴走詠唱》を唱えた! 詠唱が蓄積された!
イーリュは防御している! HPが回復した!
《ワイドガード》の使用回数を回復させた!
防御時に守護系スキルの使用回数が回復出来るスキルと、HPの回復スキルを組み合わせる事でイーリュは長期戦に備えた構えを取る事が出来る。これでフラメアへのダメージは大きく減らせる。問題はイーリュへのダメージが重なって耐えきれなくなってきた時だ。
俺だったら《根の国》辺りを裏に用意してイーリュのHPを残り3割まで削ったら展開して即死させる。そうすれば1体はアブソーバー構えてもう1体で殴り続けるだけで勝てるからだ。この勝負はイーリュがフラメアを庇えるうちに何とかしないと俺が詰む。
《暴走詠唱》で10スタック詠唱を溜めた今、何時でも《ディストーション》は撃てる。だがこれ1発で勝てる程ドラゴンパピーは柔らかくはない。最低限2発か合体魔法を使った3連打が必要になる。そこまでまずは詠唱を溜めないとならない。
次の手があっさりと決まる。
《幻想図書館》より叡智が授けられる。
ドラゴンパピーAの《ファイアブレス》!
イーリュの《ワイドガード》! まだだ! まだ余裕だ!
イーリュは《魔壁の構え》を取った! 解除してはダメか?
イーリュにダメージ!
ドラゴンパピーBの《ファイアブレス》! イーリュにダメージ!
フラメアは《高速詠唱》を唱えた! 詠唱が蓄積された!
イーリュは防御している! HPが回復した!
《ワイドガード》の使用回数を回復させた!
1ターン目と互いの動きはほぼ一緒。詠唱スタックが16になった。《ダブルマジック》からの中級魔法2連射が発動できるラインに到着した。ダメージ収支はターン毎にイーリュがマイナス1割ぐらい。2ターン合わせて2割削られている。
《魔壁の構え》は後1回使えばそれで終わりだ。イーリュが先手取れるなら《スタンブロウ》辺りでスタンさせて時間稼ぐ事も考えられたが相手がセットアップで速度上げているからその選択肢は入らない。
中級2連からの上級で倒せるかどうか……乱数次第、という所か? 確実性がないのに詠唱を消費してしまうと戦況を覆す手段がなくなってしまう。が、ここで速攻をかけた場合恐らく七海は対処できない。
……出来ないよな?
「―――」
詠唱というコストでありリソース、これの切り処を間違えた瞬間負ける。《暴走詠唱》はリユース系のスキルなしでは再使用が出来ない。これを失った場合再びリーサルラインの火力確保には3ターンから4ターンかかる。ヒーラー抜きのイーリュではそれだけのターン数耐える事は出来ないだろう。
《幻想図書館》より叡智が授けられる。
ドラゴンパピーAの《ファイアブレス》!
イーリュの《ワイドガード》! バッチこい!
イーリュは《魔壁の構え》を取った! 火傷痕で肌がひりひりする……悪くない!
イーリュにダメージ!
ドラゴンパピーBは大きく《息を吸い込む》!
次に行うブレスダメージが倍になった!
フラメアは《高速詠唱》を唱えた! 詠唱が蓄積された!
イーリュは防御している! HPが回復した!
《ワイドガード》の使用回数を回復させた!
「……」
「これでお互いに火力を出すタイミングが重なったね、尊くん。どうする? 攻撃する? それとも躱すのに集中する? 今ので《魔壁の構え》切れたよねぇ……? 図書館、オトガ、ワイガ、魔壁、再使用、リジェネでたぶん大体5枠から6枠使ってるし……後どれだけ耐える手段持ってるかな? どちらにしろリソース切れはそう遠くなさそうかなぁ」
「こっちの詠唱20スタック溜まるのに合わせてチャージしてきたな。火力を出すってよりこっちの思考に情報増やすのが目的かな。ターンでのHP収支は攻撃がなかった分プラスで終わったけど次のターンの総攻撃に魔壁が残ってないのが痛いな。軽減する為のリソースを大体数えて管理してるな」
思考のリソースを情報で圧迫される。一番の悩みどころは攻撃を切るタイミング。何とか相手の意表を突く必要がある。相手の読みと重なってしまった場合、アブソーバーで詠唱を吸収されてそのまま反撃の手段を失って負ける事になる。
総攻撃に移るだけなら今からでも行けるだろう。
だが相手には《暗黒樹海》がある。先手樹海展開読みで《ワープスター》から《ディストーション》を叩き込むか? だが相手がこれを読んでいた場合、同じ《ワープスター》から樹海か……或いはアブソーバー待機でワープ無視して詠唱消費を狙ってくるだろう。
《スペルアブソーバー》は高性能なスキルだ。だがMP消費が重い。そう何度も使えない。特にあのドラゴンパピー達では1度使うのがMP的に限度だろう。ブレス系統は種族特性で消費が大きく減らされていて連打出来るから考えるだけ無駄だが―――。
「……」
攻撃に出るか、否か。《息を吸い込む》を誘いとみるか、ブラフと見るか。
「……」
アグロ戦術を相手してる筈なのに無限に択と読みの勝負をさせられている。
これだから! コントロール! 出身の! 連中はよ!!!
何を握っても択を押し付ける事と読みの強要をしてくるんだよ!! こんなのアグロじゃねぇ―――!!!
誰だよこのえぐい脳カロリーの消費を押し付けて来る戦いを教えたのは! 俺だよ!! 糞! 文句が言えねぇ!
「どーしよっかなー」
「どーすっかなぁー」
どーしよっかなー、どうすっかなー、どうするんだろうねー。
惑わせるようにお互いに適当な言葉を口にしながらも全力で互いの性格を読み合う。どのタイミングで攻撃されるのが嫌? 何時リソースが枯渇する? 今一番やられて嫌な動きって何? 見えてない物で握ってるものは何? どこで罠を仕掛ける? 焦らせてる? 焦ってる?
お前は、どう動いて欲しい?
一手。お互いに一手間違えるだけで一気に戦局は傾いて終わる。ミスは許されない。その瞬間からBランク認定戦は事実上の終わりだと考えても良い。現実にセーブ&ロードなんてものはない。本気で勝ちに来た七海達と戦って超える機会があるのは今日だけだ。
楽しもう。この苦痛も、悩みも全部、楽しもう。
そう思うと、次の手を差す動きが軽くなった。
《幻想図書館》より叡智が授けられる。
ドラゴンパピーBの《ファイアブレス》!
イーリュは防御している! HPが回復した!
《魔壁の構え》の使用回数を回復させた!
フラメアは防御している!
イーリュにダメージ!
フラメアに中ダメージ!
「……詠唱と庇うのを放棄した!?」
「よし、魔壁1回分確保したな」
肝が冷えた。Aが動かなかったのを見るに恐らく《スペルアブソーバー》を宣言して待機させてたな。ざっとダメージ計算をすればフラメアは今ので大体HPが6割削れている。ギリギリ根の国による即死ラインに入らない程度だ。
これなら後1ターン、魔壁込みでイーリュが余裕で耐えてくれる。アブソーバー1回分は潰したから残りの使用回数は使用してないドラBの1回分だ。だがその前に七海の思考にノイズが入るだろう。
―――根の国のリーサルラインにフラメアが入ってるか否かの。
俺と違って、そこまで細かいHP計算が出来る人類がこの世にはいない。俺みたいにあらゆるモンスターの種族値を把握してるならともかく、七海にはそれが出来ない。HP計算が出来ないから根の国によるリーサルラインに到達してるかどうかは見えない。
目視で、どれだけフラメアがぼろぼろになっているのかを見て、それで把握しないとならない。
「……」
「……」
今、七海の脳内では根の国を展開してリーサルを探るかどうかという考えが巡っているだろう。もしくは樹海を展開して此方のリーサルを防ぐか。先手は彼方が握ってる。先に樹海を置くのも、根の国を置くのも彼方からの動きになる。
崩れろ―――崩れろ……崩れろッッ!!!
《幻想図書館》より叡智が授けられる。
ドラゴンパピーAは《息を深く吸い込んだ》!
ドラゴンパピーBは《息を深く吸い込んだ》!
フラメアの《高速詠唱》!
《幻想図書館》は既に展開されている!
崩れ……ないッ! ここに来て崩れないか! そうか、展開してこないか。となるとこっちが攻撃を受けた事自体セーフラインを見極めて受けてるって判断された? 十分あり得る。アイツはそういう所、俺の判断や読みを信用してる部分がある。
こっちの展開読み再展開を読んで溜めにターンを使った。イーリュのリソースを削る事はないが、次のターン、チャージに更にスキルを乗せて殴って来る。ここをどう凌ぐかで勝負が決まる。
詠唱スタックは十分。イーリュも動ける。ドラゴンパピーは大火力の準備が整った。
ステージ越しに互いに視線を向け合い―――それから勝負の分かれ目となる指示を繰り出す。
《幻想図書館》より叡智が授けられる。
ドラゴンパピーAの《逆鱗》! 攻撃力と被ダメが倍になった!
《集中砲火》で範囲攻撃を単体化させ、威力を上げる!
ドラゴンパピーAの《ディヴァインブレス》!
「カット貫通攻撃か!!」
軽減意味ねぇ!! 防御受け以外の選択がない!
吐き出されたブレスが一本の細い線へと姿を変え、それが一瞬でイーリュを飲み込む砲撃へと姿を変えた。盾を使って防御に入ったイーリュの姿が焼ける……だが僅かに体力を残し、耐えきる。このまま追撃があればイーリュは焼かれて死ぬ事になるだろう。だがパピーBの動きが鈍い。
《全能者の采配》が振るわれた! フラメアの全ステータスが2段階上昇した!
フラメアの《ダブルマジック》! 2連魔法を繰り出す!
フラメアは《ディストーション》を唱えた!
ドラゴンパピーBは《スペルアブソーバー》を解き放った!
フラメアの《ディストーション》不発に終わった!
2発目の《ディストーション》ドラゴンパピーBに襲い掛かる!
空間が捻じれ、歪み、粉砕される。上級魔法の破壊力がドラゴンパピーに襲い掛かるが、生来の耐久力の高さでその破壊を生き延びる。2度の上級魔法と《ダブルマジック》の発動により詠唱コストはほぼ使い切った。此方のタイミングに合わせて《スペルアブソーバー》を置いたのはまさしく妙手。
読み切った七海にこそ天晴という言葉を送るしかない。
負けた。ここから戦況を覆す手段はない。詠唱が足りなければ火力を出す事は出来ない。チャージを見て焦った俺が悪かったか。
「―――いいえ」
負けた、そう思った直後に声を放ったのはフラメアだった。
「マスターの足りない所を補うのが……私達の役割ですからっ!」
フラメアは《復唱》を気合で発動させた!
《ディストーション》の詠唱がこだまする!
《ディストーション》は再発動した!
ドラゴンパピーAに絶大なダメージ!
ドラゴンパピーAは死亡した!
発動した《ディストーション》と《ディストーション》が合体する!
次元の彼方に封じ込められた混沌が溢れだす!
《カオスインパクト》が全てを飲み込む!
《耐えろ》! ドラゴンパピーBは食いしばって攻撃に耐えた!
ターンが回る!
《幻想図書館》より叡智が授けられる!
フラメアの《高速詠唱》!
イーリュは庇っている!
ドラゴンパピーBの攻撃! イーリュは死亡した!
ターンが回る!
《幻想図書館》より叡智が授けられる!
フラメアの《ブリザード》!
ドラゴンパピーBは死亡した!
「っしゃああああ―――!!!」
リーサルが取れた瞬間拳を握る。
決勝リーグの初戦からこんな脳味噌使う勝負させるんじゃねえええ―――!!!