勝てたけど、実質負けだった。
フラメアが最後気合で《復唱》を発動させられなかったら負けてた。アレはデータ上では詠唱スタック数x3%の発動率だった筈だ。あのタイミングで詠唱は1あったかなかったぐらい。確率は3%かそれ以下。それを彼女は俺のミスをカバーする為に技量で引っ張り上げてくれたのだ。
負けていた、マスターとして。読み違えていた。焦ったか? いや、たぶん気負い過ぎてた。勝たなくてはいけない、勝つ必要がある。そうやって自分を追い込み過ぎた。
……前の俺なら絶対にやらない様なミスだったと思う。前ならもっと機械的に判断して対処してたような気もするが、過ぎ去った時の自分なんて今更思い出せと言われても難しい。今回は純粋に俺の読み負けで、試合はフラメアで覆した勝利だ。
悔しい。
読み負けはメッチャ悔しい。死ぬほど悔しい。こっちはリソースを枯らして読み勝った所に采配込みでふっ飛ばす計算でやってたのに、計算がズレた挙句リカバリーされてしまったのが本当に悔しい。
読めてただろう、という事実が何よりも悔しい。
蘇生アイテムをイーリュに投げて蘇生しつつフラメアに近づく。
「フラメア、さっきは助かった。ありがとう」
「いえ、マスターを支える者として。運命を共にする者としてこれぐらいは出来て当然です……と言いたいですけど、今回は調子が良かったから何とか出来ました。2度目はキツイので出来たら期待しないでくださると助かります……!」
「いや、本当に助かった。やっぱり凄い奴だよお前は」
いや、ほんと。俺の足りない所をちょくちょくカバーしてくれてる働き、絶対に忘れないから。お前がいなければ負けてるって場面は何度かあった。今回もこうやって助けられているんだ、後でなんかご褒美あげておかないとな……。
フラメアにこれまでの活躍にどう報いるか考えていると、七海がやって来た。
それに無言で握手を交わす。
「GG」
「GG」
これだけで互いにバトルを楽しめた事は解るし、俺達には一切の遺恨が残らない。勝敗は戦う時点で生まれるもの。それはもうしょうがない事なのだ。重要なのはそこから何を学ぶのか、という事だ。そういう意味では今回は学びのある戦いだった。
「負けちゃった。やっぱり尊くんは強いね。今回は勝つ為に出来る事を全部詰め込んで来たのに」
「いや、負けたのは俺の方だよ。最後はお前が読み勝ってたよ。俺が最後の盤面を覆せたのは俺の力じゃなくて、フラメアの力だった」
「それは違うよ」
ビシ、と指を七海が向けて来る。
「尊くんは確かに大事な場面で読み負けたよ。だけどそのリカバリーを含めてそういうモンスターと出会い、力を発揮して貰える所含めて実力だと思うよ。完璧な人間はいないんだから、足りない部分を別の才能やモンスターのサポートで埋めて貰う事なんて特別でもなんでもない、普通の事なんだから」
そこで一旦言葉を区切ると、七海は続ける。
「私は……今の尊くん結構好きかな。初めてあった頃よりも熱を感じる」
「熱、か」
「熱に浮かされるのは弱みって言う人もいるけど……それだけ楽しめてるって事でしょ? その方が良いに決まってるよ。
人間らしくなっている事を弱くなっていると俺が思った。失うものが多く、前程精細に動かなくなるのだと思っていた。だけど七海はそれで良いという。元々人間なんて完璧じゃないんだと。弱かった彼女だからこそ言える。
何事も、楽しんだもの勝ちだと。
その言葉にありがとう、と伝えてから一緒にステージを降りる。これでとりあえずは1勝。回復と治療を行い、再び次の戦いに向けて待機する。
結構脳味噌を酷使したのでチョコバーをむしゃむしゃして糖分補給する。この手の簡単に摂取できるバータイプのお菓子、バトルの後や合間に食べるもんとして非常に優秀で重宝する。
そうやって次の試合に備えていると花火師対雅人の試合が始まる。
花火師は何時もの自爆構築。相方にタンクかデバッファーかで枠が変動することはあるが、逆に言えば変動するのはそこだけだ。構築としては完成度が高く、変える場所がほぼない。
それに対抗する雅人は……連携連撃特化のアグロ構築を持ち出してきた。
「まあ、結論そうなるよね」
「そだね。アレに勝つにはダイナマイトが爆発する前に倒す必要があるからね」
そうなるとターン中に最大ダメージを叩き出す事にどうしても力を入れてしまう。というかそうしないと間に合わない。見たところ、雅人が対花火師に選んだのは2体のゴーレム系モンスターだ。
鋼で出来た金属系のモンスターは耐性系が優秀だが、ステータスも高い。ただゴーレム系は凄く鈍足だ。それこそ速度バフ一本入れてもどうしようもないレベルで。
そこをどうカバーするつもりなのかがこの勝負の焦点になるだろう。火力だけなら倒すレベルは出るだろう。
俺達が見守る中、花火師と雅人の勝負が始まる。
開幕、《暗黒樹海》が発動するも、最遅行動のギアゴーレムが《根の国》を展開する。リーサルラインを引き上げて倒しやすくしたのだろう。対花火師で一番有効なフィールドだと言える。
「行くぞ! 《ワープスター》!」
「当然やるよなァ!」
「あ、マスタースキル使ってる」
「本来ならCランクでは見ないんだけどなぁ」
なんか最近当然のように使ってるよね。環境よりも人の強さがインフレしてねぇか? そのうち岩盤にモンスターを叩きつける人間が増えるかもね。それはそれで嫌だな……。
速度で勝ってる場合、ワープにはワープ返しが定番になる。ここでワープ返しされたら雅人は打つ手がなくなる。
「俺も《ワープスター》だァ!!」
「はい、ワープ返し」
「Cランクの動きしてなーい」
これ、詰みでは?
花火師の先手が決まり最速ミサイルが投げ込まれる。終わったかなぁ、と思っているとゴーレム達の姿が超加速し始めた。
「え、なにあれ」
「え、《エン・カウンター》! 攻撃を受ける前に発動するカウンターだ! 攻撃を誘発させて殴り返すカウンター、通称冤罪痴漢コンボだ……!」
「ね、ネーミング最悪だよぉ……!」
ほんとにね。
「ちなみに派生として満員電車痴漢コンボがある」
「本当に最悪だよ!! どうしたらそんなの生まれるの!?」
インターネッツの闇っすよ。ネットワークで作られる構築って大体皆変な名前ばかり付けようとするからな。必然的になんかおかしい名前ばかり増えて行くよ。
ともあれ、これが決まればカウンターでリーサルが決まる。火力を見る限りゴーレムのパンチ一発で食いしばりまでは割れる。それに《根の国》が加わればワンパンでリーサルまで持ち込めるが、そう甘くはないだろう。
「止めろォ!」
《インタラプト》で妨害、2発目のカウンターにも《パーフェクトキャンセラー》が入って機能停止する。これで花火師が相方にデバッファーじゃなくてタンク選んでれば勝機はあったのだが、今回は止める手段を持ってた花火師の勝ちだ。
ステージが爆発に飲まれて消し炭に変わって行く。
「たーまやー」
「今日も綺麗に爆発したねー」
これで花火師と俺が1勝か。七海と雅人が1敗。次の試合が俺対雅人だから雅人対策をしなくてはならないが……どうしたもんか。
「尊くん、どう? 勝てそう?」
「雅人は読み辛い事してきたからなぁ、困ってる」
この鴉羽尊、モンスターさえ見ることが出来れば何が出来るのか、大凡の戦術も見えてくる。問題があるとすれば七海みたいに直前まで構築隠してる奴とかだが……。
雅人の予選映像はある。
問題はこいつ、全試合全部違うモンスターで戦ってやがる。
「ここまで絞り込めないのも珍しいわ」
「戦う傾向を見れば大体の予測は付くのにねー」
練度とかを確認すれば大抵のマスターの本命や本来のスタイルというものが見えてくる。問題は雅人がまさにオールラウンダーとでも言うべき才能を発揮し、予選を全勝で勝ち進んだ事にある。
今の試合、花火師は自爆をキメて気持ちよく勝ったように見えた。
実際のところ、最近鬼の様に何故か流通してるパフェキャンやインタラ抜きだったら冤罪痴漢コンボを止められなかった。カウンターはカバーリングの対象にならないからな……。
タイミング的に庇えないからタンクが相方だった場合、あのままカウンターを通してリーサルだった。逆に言えばそれを察して打ち消し持ちのモンスターを選んだ嗅覚も凄いんだが。
解説抜きで今の試合の凄さ伝わるかなぁ?
いや、その前に俺自身の試合のが大事だな。久遠から映像を送ってもらってから確認できるが、構築やモンスターに統一感はない。予選段階で情報リードを守りに来てる。
花火師達の試合が終わり、インターバルタイムに入る。マスタースキルの入る試合は合間合間にインターバルが入る。脳を休め、回復させる為だ。
だけどそれも長くて15分程度。
雅人は間違いなく尊キラーとでも呼ぶべき構築を七海みたいに持ち込んでるはずだ。それが何なのか、それを予測する必要がある。
うーん……全く脳が休まらない!!!