「行くな行くな行くな逝くなァ―――!!! 俺の許可なく勝手に逝くなああ―――!!!」
「逝きます……」
光に包まれて亡者共が消える。あまりの光景に膝を折って呆然となりながら安らかな表情で消える姿を眺める。ありえない、こんな事あってはならない。そもそもお前ら宗派的にそれはオッケーなのか? 色々とツッコミどころはある。
重要なのは目の前で低レベルのゴーストが全滅して行くという光景だ。
「わあ、見事な成仏っすね。もしかして前世で徳とか積んでたタイプっすか? 畜生っぷりからは全然そういうの想像できないっすけど」
「お前中々言うな」
立ち上がりながらふぅ、と溜息を吐きながら歩く。歩いてエンカウントするゴーストたちが浄化されて行くので俺が全自動浄化マシーンか寺生まれのイケメンボーイになってしまう。というかもう既になっている。どうしてこんな事に? という話をすると覚えしかない。
「見れば解るのかこいつら……」
「?」
頭の上にはてなを浮かべてるララは全く理解していない様子だが、ゴースト達は真っ先に気づいて反応している。或いは連中の起源に関する部分が引っかかっているのかもしれない。こいつら、正確に言えば日本人がベースに―――というか地球人じゃないし。
「ウワ、ナンダアレ!」
「見ルナ見ルナ! 絶対ヤバイゾ!」
「ウワ! コッチ見タ! 逃ゲロ!!」
「あ、小鬼に逃げられてるっすよ」
「関係のない所にまで被害が及んでる……!」
明らかにヤバイ光景なので当然アンデッドではないモンスターも近寄って来るが、見た瞬間光景のヤバさに逃げ出してる。全自動でゴースト吸い寄せて成仏させてる奴がいる? 絶対に近づきたくないよね! 俺だって近づかないよ! 普通は。
「待ってくれ皆! 成仏する前に少しだけ話を聞いてくれ! 転生だって別に良い事ばかりじゃないんだぞ!? またこの苦界で生きて行く必要がある! 他者と関わり、そのしがらみに囚われる事になるんだ!! 死んでる方が100倍楽だろ!?」
「見るからに人生エンジョイしてる奴に言われてもな……さよなら……」
「逝くなぁ―――!!!」
論破されて終了。
再び膝をつく。
「いやあ、マスター、これ諦めないっすか? なんか、もう、無理でしょこれ」
「諦められないんだよ!! 死神作る材料に必要なんだよコイツら!!」
それだけではなくチビが合流予定のメイン血統も死霊x2の合体に隠し味として【白紙の物語】を投入する事でロストヒーローズというシリーズの幽霊の英雄達が生み出せる。名を世界に残す事なく、密かに終末に抗った覚えられる事もない無名の英雄たち、その幽霊だ。
その果てに生まれるのが“未来”なのだから。絶対に最初の素材として必要なのだ。妥協は不可能。そして“未来”はラスボスに対する完全メタユニットなので抜く事も出来ない。だからここで死霊系モンスターの勧誘を諦めるのは勝利を諦める事に等しいのだ。
気合を入れて立ち上がる。
「待ってくれ。ここで成仏する前に俺に協力してくれるって奴はいないのか!? 合体素材にならなれるって奴とか! なあ、少しはコミュニケーション取ろうぜ!! なあ、おい!! 誰でも良いから……!」
「凄い切実で面白いっすね」
覚えてろよクソウサギ、お前後々過労死する羽目になるから。
切実な祈りが通じたのかどうかは知らないが、成仏するのを一旦中断してゴーストたちが会議を開始。未練たらたらだったり人格に問題があったり半分発狂してて話が通じない奴とかはそもそも気づかずに成仏できないかもしれない……とか言い出してる。
「じゃあその不良在庫預かるね。合体後への影響は……まあ、ままままま、ま。様子を見ましょか」
「これが一般マスターの交渉術っすかぁ」
見事にゴースト達から不良在庫の確保に成功した。なので不良在庫の所へと向かい、会話にならない連中を連れ歩くのも面倒だから自分に無理矢理憑かせて体内に囚えて捕獲する。良し、悟りに届かない連中だから勝手に成仏しない。やっぱ発狂者がナンバーワンだ。
そうやってゴーストをしこたま確保する光景をドン引きしながらララが眺めてた。
「体に悪そうっすけど……」
「ん? 頭の中になんか滅茶苦茶エコーしてるけどこれぐらいなら余裕っしょ」
「うおっ、人外」
失礼な。一応ガワは人間だよ。
目的のモンスターは確保できたので全自動浄化マシーンっぷりで戦闘を回避しながら奥へと進む。この光景を見ているモンスター達は相変わらず関わりたくないなあ、という顔で逃げて行くので想像の数倍安全にダンジョンの中を進めている。
お蔭でもってきた煙幕やらの逃走アイテムが全部無駄になった。
それから1層、奥部へと移動すると闇へと繋がる川が見え、その先から滝の音が聞こえてくる。河原には積まれた石の様な物があちらこちらに見える。賽の河原を思わせるデザインのエリアに、ゲーム内でのマップを思い返し、ここが最初の目的地である事を確認する。
「良し、比較的に安全にこられたな」
「なんかボクよりも強いモンスターが遠巻きにひそひそ声でしゃべりながら近づこうとしないんっすけど」
「なんでだろうね。不思議だね」
溢れ出る発狂幽霊オーラに押されてるのかもしれない。このオーラが通じる間にさっさと最下層まで移動したい。
「で、ここからどうするんすかマスター?」
「実はここ、1層から5層までの吹き抜けっぽい構造になってて、この川に沿って移動すると5層まで移動できるんだよね」
無論、ゲーム時代だと出来なかったのだが。進もうとするとマップが途切れていたり、壁にぶつかったり、滝があったりで進めないのだ。だけどマップ構造を把握しているとここから5層まで降りる事が出来るのが解る。
「ネットでも調べたけど飛行可能なモンスターがいるならここから降りて直行できるみたいなんだよね」
ゲーム時代にはなかったショートカットだ。ちなみにゲーム時代には普通に最下層へと移動する為のワープポイントが攻略後出現するので無用のショートカットだったりする。とはいえ、こうやって初めて向かうのなら有用である事は間違いはないだろう。
重要なのはここから移動すれば真っすぐ最下層へと向かえるという事実だ。
「じゃあなんで誰もいないんすか」
「そりゃあこんな目立つ所を降りたら総攻撃食らうだろ?」
「デスヨネ」
だから危ないけど実力があるなら利用できるショートカット、というのが認識らしい。
ちなみに黄泉平坂は攻略の進んでいるダンジョンだ。マッピングされているし、探索も進んでいるから出現するモンスターや、落ちているアイテムやアイテムが設置される場所も把握されている。目的のアイテムが出現するまで粘るマスターがいるのも先ほど目撃した。
流石の俺も、ゲーム時代の知識だけで攻略しようという気はない。
それでもゲーム時代の知識の大半が通じる事は既に把握している。
つまり最下層のギミックは未だに解除されておらず、隠しダンジョンである根の国への入り口もまだ閉じているのだろう。
「じゃんじゃじゃーん、鴉羽シークレットアイテムその1がこれ!」
「なんか木の板に見えるっすねぇ」
「ただの木の板じゃないよ。夜月パパん家のティターニアさんのご協力を得て浮遊の加護を貰ったホバーボードだよ」
「おぉ……なんか普通に凄そうなの出たっすね!?」
材料はスケートボードだったものをちょっと改造して乗りやすくしたものだ。取り出したホバーボードを下に落とすと、地面にぶつかる前に浮かび上がって静止する。その上に片足乗せて、片手でララの両耳を掴んで持ち上げる。
「あ、熱烈に嫌な予感するっす」
「夜月パパ曰く―――ダウンヒルは勢いが大事」
ゴーグルを被り、勢いよく大地を蹴りながら両足をボードに乗せればホバーボードが勢いよく―――予想の3倍ぐらい速く動き出す。やっぱり赤く塗ったり細かい調整を全部ティターニアに任せたのがダメだったかなあ。そう思いながら精神は一瞬で感情を置き去りにして適応を完了させた。
耳にララの悲鳴が響き、黄泉平坂の大空洞に轟く。
一瞬で河原を抜け、滝から飛び降り―――ない。空中へと浮かび上がった姿は直ぐに落下せずふわり、ふわりと浮かびながら勢いのまま前進する。その瞬間、辺りから一瞬で殺意と視線が降り注ぐ。それだけでも呪殺できそうな程の密度。
が、死そのものを経験した人間にそんなものは意味がない。
殺したいなら物理で来い。
「いいい、やっほぉ―――!!」
「生まれて来る所間違えたなぁ」
存在を感知して巨大な骨の怪物が闇の中から浮かび上がり、視界に此方を捉えて動きが鈍り出す。その存在はゆっくりとだが崩壊し始めている。どうやら精神強度が足りなかったらしい。雑魚が。救いを求めるように伸ばす手の上にボードを着地させ、それを足場代わりに一気に下へと向かって駆け抜ける。
「く、く、くくく、来るっす―――!!」
「見えてる」
襲い掛かってくるのはアンデッド系だけではない。死霊や白骨のモンスターだけではなく、鬼や魔の類も立派にダンジョンには生息している。最初は異様な光景に遠巻きに見つめていた姿も、やがてあちらを舐めていると理解した瞬間、怒りを燃料に襲い掛かって来る。
それを限界まで上げた速度を乗せて突っ切る。
「ふぅ! 気持ち良い―――!」
「わあ、暗闇の中から視線がいっぱいっすー」
魔法が多重に飛んでくる。必中属性の攻撃をどう回避する? 無論、先にぶつける事で処理する。伝っている巨大なスケルトン―――がしゃどくろ、だったと思うモンスターの体を滑りながら、ターンを決め、反転して腕の下に隠れながら魔法の盾にし、飛び降りながら空中に身を晒す。
「鴉羽360!」
「トリック100点! 命への配慮0点!」
360度回転を決めて気持ち良くなりながら腐敗した龍が下から飛び上がってくるのが見えた。右奥からは巨大な鬼が武器を投擲するように構えている。正面の先には呪いを唱えている死した陰陽師が見える。アレは今更来世とかに期待してないタイプか。1世代モンスターだったらなあ。
「あ、詰んだっすね。詰みっすねえ。このミニゲーム難易度難しいっすよー。リセットボタンどこっすかー?」
「残念、知性のある生物じゃなければ詰みだった」
目を閉じる。視界を奪う。認知をズラす。思考を汚染する。あまりやり過ぎると人から思考形態が外れすぎる―――久遠が悲しむ。これ以上は止めよう。
自分の体に思考が戻る瞬間には全てが終わっている。
放たれた呪いが鬼を捉え、投げた武器が龍の頭に突き刺さり、むき出しになった龍の横顔に着地し、一気にボードを下へと向かって滑らせる。加速させる全てをボードに乗せ、追いかけて来るあらゆる生物の視線を腐敗した龍の体を遮蔽物に遮り、最下層の闇の中へと向かって飛び込む。
「じ、じじじ、地面―――!!」
「シークレットアイテムその2、っと」
ポケットから霧の詰まった瓶を闇の中へと向かって放り投げる。ミストドラゴンの霧が詰まったビンは地面に当たって割れると同時に詰まっていた霧を放出し、充満する。
その中へと飛び込めば、速度が一瞬で消え失せて安全に着地する事が出来る。最後に振り返り、落下し始める腐龍や此方を探そうとする他の上級モンスター達の様子を視界をハッキングして確認し、もう使い物にならないホバーボードを捨てた。
「良し、無事に最下層まで降りてきたな。じゃ、ギミック解除の為にそこら辺うろつくか。ミストさんの霧がしばらくは俺達をステルス状態で維持してくれるから、その間にさっさと解くぞ」
「ボクも生まれ直したいっす。自分の成仏まだっすか?」
「死んでないからまだだねぇ」
「そんなぁ」
うさ耳を握られぶらんぶらんしてるララを引きずりながら更なる闇の奥へと向かって進んで行く。
帰り道は、隠しダンジョンに入らない限り存在しないプランなのだから。