「それではBランク昇格を祝しまして」
「乾杯!」
「乾ぱーい!」
ジョッキを掲げてぱっかーん! わははは! これジンジャーエールだ! 未成年だもん!
わはわは笑いながら花火師と肩を組みながらジンジャーエールを呑む。
「危うく昇格取り消しになる所だったわ!」
「ボケカスッッッ!!! アホ!!! クソボケ!!! アホ!!!」
「わーっはっはっは!」
「許せ! ははは!」
いやあ、采配と憂鬱がC帯使用禁止だってすっかり忘れてたな! ゲームと違って使えないんじゃなくて使ってはならないだからふつーに頭からすり抜けてたわ。お蔭で試合全部終わってライセンス更新終わった直後冷静になった協会の人がアレ? ってなってたわ。
なんで俺含めて誰も試合中に気づかねぇんだよ。
テンションがそれどころじゃないからだよ。
わはははは! 笑いごとじゃすまなくなる所だった……。
昇格試験終了後、ライセンスの更新に成功してBランクになった。その時思い出してしまった憂鬱と采配の制限に関して、当然緊急会議が開かれた。これ、昇格取り消しじゃね? ルール違反じゃね? でも采配憂鬱て実質コイツら専用だしな……みたいな会話があった。
その中、1人の職員が立ち上がった。
『ルール違反はカスだけど既にC卒業の実力あるって解ってるのにこんな詰まらない事で落としてみてくださいよ。次の認定戦まで環境荒らし続けた上にまた認定戦勝ちますよ。落とす意味ありますこれ? さっさと上に行かせましょうよ……迷惑だから……』
真理。
と、いう結論に達してしまったのでなんとかギリギリのところで昇格を許された。いや、ほんと申し訳ない。完全に頭の中からすっぽ抜けてた。もう2度とこんな事しないぞ……と思ったけど、どうせこの手の事件をまた起こすんだろうなぁ……って思ってるのは多分俺1人じゃないだろう。
ともあれ。
無事、ライセンスの更新が完了して、Bランクに上がった。なので負け犬共の奢りで焼肉タイムとなった……が、集まった負け犬共はほぼ今日の参加者全員だった。その為、駆間でも比較的にデカい店を選んだ筈なのに店内は焼肉パーティーでぎゅうぎゅう詰めになっていた。
「肉を焼くぞ」
「任せてー」
女性陣は肉の焼き方に一家言あるのか率先してトングを占領してしまった。かくいう俺達男性陣はそこら辺、全部女性陣に丸投げして、とりあえずメニューの肉を端から端まで全部頼む事にしていた。そうして始まった焼肉タイムは大盛況。とりあえず肉を焼いてそれを口に頬張りながら話が進む。
「いやあ、改めてルールを守るのは大事って教訓になったね」
「たった3か月の奉仕活動がペナルティでほんと良かったなお前。アレだけ戦って勝ってルール違反で取り消しになってたら暴れてた自信あるからな……」
「俺なんてよォ、半年の奉仕活動と1か月のランクマ禁止だぞオイ。優勝できなかったからな!」
「自慢する事じゃないよ……?」
「ミコト、肉だ。肉を食え」
久遠が肉を焼いて皿の上に乗せて来るのでそれを白米に乗せてむしゃり。他人の金で食べる焼肉テラウメェ。別にお小遣いに困ってる訳じゃないんだけど、単純に他人の金で焼肉するっていうシチュエーションが最高に気分が良くて美味しい。これこそまさに勝利の味。
ちなみにBで采配憂鬱が使えるかどうかは議論中らしいっすよ。まあ、エデがいるから采配も憂鬱もBからは使わんのだが……。C帯じゃないとあんまり使わない性能なんだよな、正直。で、突破しちゃったので今更解禁されてももう出番はない。
エリクサー亜種か?
「というか花火師お前何時の間に憂鬱の方を覚えたんだよ」
「あァ? お前がフリマで良く使うのを見てたからそれで覚えたんだよ。つーか俺以外にも何人か使えるのいンぞ」
「魔境か?」
雅人の真顔のツッコミにまあまあそうかな、と頷いて肯定する。そのリアクションに雅人は腕を組むと何も言い返せないと気づいて大人しく焼肉する。ちなみにメイドさんは今日は外から雅人の初めての焼肉記念日を記録するので忙しいらしい。
「ミコト、肉だ食え」
「あむあむ」
「コイツずっと餌付けされてるな」
「日常的に餌付けされてる感あるよなコイツ」
「尊くん基本的に久遠ちゃんに逆らえないからね」
どうも、餌付けされてる人です。文句はありません。本日は大ポカしたので人権も失ってます。まあ、この話はともかく、和やかな雰囲気でこうやってアフタータイムを過ごせるのはここら辺の独特な価値観のおかげだ。
全てをかけて本気で勝負をして負けた奴と勝った奴が一切の遺恨を残さずに卓を囲めるのは中々珍しい。
「そう言えばさっきの試合《エクストラオーダー》でMS+1してたけどさ、憂鬱2連に対して采配1回打って最後に1回回してたよね? アレ采配2回で良くなかった? タイミングズラす必要あった? 2連だったらランタゲで2確出来なかった?」
「そもそもランタゲはそこまで期待値高くないからな。最終プランに回避持って来た時点でそっちで勝てた方が美しいって感じてたし」
アレの話?
「アレはリーサルチェックだね」
「リーサルチェック?」
「あの時点では花火師が対抗手段を保ってるかどうかが不明だったから本当に即座に打ち返していいか疑問だったんだよね。結果を見ればそれで良かったけど、ワンチャン何らかの対抗手段が隠れてる可能性もあったろ?」
なので一旦寝かせて、花火師のリーサル宣言を待った。
「で、リーサル宣言が出たからあ、これ以上出せるものはないんだな……ってなったから対抗を気にせず打てたって訳。《シュレディンガー》で回避そのものは十分な気配はしたから不要論はあるけど流石に命中率確認しないと解んないかな、ここら辺は」
調整込みの詳細な命中までは流石にわからんわからん! だから余裕を確保する追い采配が良かった訳ね。
それを説明するとほー、とウチのテーブルのみならず周りのテーブルからの感嘆の声が上がる。
「確かにリーサル宣言すると心に慢心はいるな」
「リーサル確定と思わせて油断させたわけだ」
「ランタゲは見せ札で本命は回避の方、だからリソースをギリギリまで残したかった訳か。なるほどなー」
「お肉焼けたよー」
「野菜を食え野菜を」
久遠が野菜で肉を包んで此方に向けてくるので口を開けてもぐり。もぐもぐむしゃむしゃ。おいしー。
「正直イチャイチャしてるというより介護されてるって方がイメージ的に合うよね、みこくおって」
「なんて毒を吐くのこの娘」
肉を焼きながらとんでもない事を言い出す七海に憤慨するが、周りはうんうんと頷いてる。もしかして俺、要介護患者って思われていないか? 間違ってないか。美味しいから何でもいいや。
色々とあったが、これで数年掛かりのCランクもいよいよ終わりだ。残すは合体だけで、大会向け調整してたモンスターを合体調整したらそれで合体させて次の世代に移行だ。
いや、ほんと長かったな……。
「これでBかあ」
ルール違反による取り消しをギリギリで回避出来たライセンスを取り出し、掲げる。新品のライセンスカードがちょっと眩しい。
「鴉羽がこれでBかあ」
「寂しくなるな」
「俺たちも次は昇格目指さないとな」
第二次ブラックバス放流、確定。Bランクで会おうな皆! そのうち何割かは来年合流しそうな気もする。
「しかしBからは大変だぞ、お前大丈夫か?」
雅人が肉を箸でつつきながら確かめる。焼肉経験がないからほんとに食えるの? みたいな目線を向けながら恐る恐る肉を食べてる。ちょっと仕草可愛いなこのお坊ちゃん。
「Bからはランクマの価値が落ちて大会がメインになるけど、出られるまでが大変だぞ」
「出られるまでが?」
うん、と頷かれた。
「Cまでのマイナーリーグとは違って、Bはメジャーだ。監視や審査はより厳しくなってくるのは戦闘の舞台が人造ダンジョン内に変わってくるのもある。メディアへの露出も増えて、マスターの認知度が追っかけてる層だけじゃなくて、一般層にも浸透してくる。そういうランクだ」
一般層への認知度も出てくるのがBから、という話をしてくれる。
「レートを稼ぐには大会に出なきゃならない……だけど協会が開催する大会はぐっと数が減る。大体……月に1個か2個ぐらいか? その代わりに企業発の大会が増える。つまりそっちのコネがないと大会に出辛いんだよ」
「普通には出れないん?」
「難しいぞ。そもそも大会の見栄え自体良くしたいから問題で話題の奴より顔と態度の良いスタープレイヤーで視聴率と人気を稼ぎたいからな。お前みたいな奴はインビテーションが永遠に貰えなくて上に行けない」
「割と酷いこと言ってない?」
「今日の出来事振り返れよボケ」
参った。何も言い返せない。でも……まあ、大丈夫じゃない? そこまで世間的に酷いことはしてないと思うし。
「本当に解ってるのかコイツ……」
そんな雅人の呟きを流しつつ、感想会を絡めた焼肉パーティーは続いた。
これでBランクだ! やったー!