最強以外ありえない   作:てんぞー

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うぅぅ、合体……えっちすぎる……!

 認定戦が終わればいよいよ合体の準備に入る。

 

 合体素材は日常的にちまちま集めているので、合体前に最後の調整に入る。

 

 例えば大会向けに耐久調整を行っていた部分を削除して速度や火力に直結するステータスに特化振りし直すとか。メタ向けに変更していたスキルを合体用のものに戻すとか。合成屋が牧場に開業したとはいえ、固有や専用枠の様に合成出来ないスキルもある。

 

 そう言うのは結局モンスターを合体させる時にしか作れないので、失敗しないように3重にチェックしてスキルを入れ替える。スキルの合体・進化はパズルみたいなものだ。しっかりと未来まで予想図を描いてやらないと最終世代に行くとき何らかのスキルが足りない! というパターンが出て来る時もある。

 

 俺の場合、そのランク最強のモンスターを揃えながら次の世代に行く訳じゃなく、最終的に最強になるモンスターを育てながら進行しているのでかなり重要な部分になる。とはいえ、魔女血統、死神血統、歌唱血統はそもそものパワーがまるで違う。この3つを軸にすればそこまで困る事はないだろう。

 

 何よりもBからは歌唱血統の戦闘運用が本格参戦になる。これまでは非常に微妙だった性能も、敵味方対象選択可能になる上に多重バフの展開、耐性や免疫の付与によってさまざまな場面で活躍するようになる。PvEからPvPまで、幅広く活躍の見込めるエースサポーターになる。

 

 固有枠を抜きにすれば必要なスキルも大半は樹海で合成して揃えられる。エデは7割ぐらい、B時点で完成したと言えるだろう。残り3割がかなり無法なのでこれで良いとは絶対に言えないが。寧ろその残り3割がSやエンドコンテンツでは最も大事なのだが。歌唱そのものはほぼ使える様になる。

 

 さて、そうやって最終チェックを終わらせれば……もう、留まる理由もない。

 

 ―――お別れの時間だ。

 

 

 

「カルマー」

 

「おぉっとぉ、駆間でのみ流行っている奇怪で気さくな挨拶をしながら唐突に物置部屋から登場するのは止めんか? 思わずツッコミに回ったぞ」

 

「博士ツッコミも出来たんだな」

 

「芸人として当然じゃ」

 

 芸人なんだ……。

 

 予約の時間になったので合体部屋にやってくると今日も山積みになったエナドリが俺達を歓迎してくる。そこに何時ものモンスター博士、Qちゃん、そして見知らぬ白衣の青年の姿が見えた。とりあえず無言で銃を抜いて構えた。

 

「わあ、待ってください待ってください! 初めまして! 研修で来てる新人です! 好きなものはモンスターの合体する姿です! 二つの生き物が合体して全く違う姿に変貌するのってこの世で最もえっちだと思いませんか……!?」

 

「なんだ、ただの変態か」

 

「逸材じゃろ? 本部から預かった新人なんじゃよ」

 

「将来有望な変態だよぉ!!!」

 

「相変わらず狂ってるなここの連中は」

 

 のそりと久遠もやって来る。モンスター文化の根幹を支える施設だから当然新人とか出てくるんだろうなぁ、と思うけどこうやって実際に見るのは初めてだな。ちょっとだけ興味がある。腕を組みながら博士の方を見る。

 

「新人研修とか実在するんだ……って気持ちが強いんだけど一体どういう制度でこの施設の人員とか資格とか決まってるんだ?」

 

「死ぬほど面倒じゃよ。知識、知恵、能力、その上で何重にも精神チェックを受けた上で推薦を受けて記憶のチェックを受けた上で本部の方で試験を受けて……何十というテストを合格したら監視付きで実地研修じゃからな。後ついでに履歴を消去したり名前も消したりするのう」

 

「本名残してるとこの業界では危険だって言われましたねぇ……だから私の事も研修くんと呼んでください!」

 

「合体装置の情報が漏れるだけで凄い事になるからね! まあ、根幹部分に関しては未だに解明されていない部分が多いブラックボックス状態だから手の付けようがないんだけどねっ!」

 

 研修生がいるせいか普段よりもどこか博士もQちゃんも余裕があるように見える。やっぱ1人増えるだけで負担が減るのかなぁ、と思っているがよく見るとこいつら僅かに透けてる。ちょっと部屋の中を歩き回って調べてみるとやっぱあった。

 

 3人の死体が。

 

 どうやら肉体を捨てて魂だけで作業する方が疲れないと理解したらしい。理解かこれ? 生きるのを諦めてるだけじゃない? まあいいか……。

 

「所で剛三Jrよ、おぬしいったいどこから来た? え、いや、待て、もしや―――」

 

「うん? 牧場から連れてくるの面倒だから図書館経由で直通ルート開通したけど……」

 

「なんて事を……!」

 

 博士と研修くんとQちゃんがドン詰めしてくる。これまでにない気迫にもしかして機密に触るからこれ良くなかった? と思っていると凄い勢いで話しかけて来る。

 

「図書館と!? 図書館と繋いだのか!?」

 

「なんて事を……なんて事を!!」

 

「や、ヤバイ、心臓が止まりそうです! 心臓止まりそうですよ私!! あ、もう止まってた」

 

「え、やっぱやっちゃ駄目だった?」

 

 便利だから直通ルート開通したかったけどやっぱ駄目だったかぁ、と思っていると後方、図書館口の方から声がしてくる。

 

「成程、これがこの世界におけるモンスター合体の根幹施設か……君達はこんな風に技術を進めたんだね」

 

 優しい声と共に部屋に入って来たのは他でもない、館長だった。実は館長の方から1度で良いからモンスター合体に使われている施設や装置、その現場を確認したいという声があったのだ。技術の根本は館長が提供したものらしいから今なおどういう風に稼働しているのか見たかったのだとか。

 

「は、はわわ、はわわわ」

 

「ほ、本物、本物の館長様だ……!」

 

「うっ、逝く……!」

 

「け、研修く―――ん!」

 

 研修くんの姿が消し飛んだ。館長の存在に耐えられなかったらしい。アレだな、オタクが推しに出会えた結果その尊さに耐えきれずに消滅してしまったパターンみたいだな。

 

「そうだよ!! 私達の根幹はこのレジェンダリー館長様の生み出したものだよ!!」

 

「我々は結局の所与えられた技術を解析しながら生きている矮小なゴミクソクズでしかない……! はわわ、本物がおるぅ……!」

 

 ぎゃあ―――という悲鳴を上げながら館長の視線を直視した2人が消え去った。悪い事しちゃったかなぁ? そう思って死体を確認したら笑顔に変わってたからこのままでええか……って事にした。いや、良くねぇよ。予約入れてるのに合体出来ねぇじゃねぇか。

 

 起きろ、オラ、起きろ。

 

「ビンタしても起きないなミコト」

 

「まあ、死んでるしな。そのうち勝手に根の国逆走して帰って来るとは思うけど」

 

 この前お供え物納品しに根の国に行ったら魂だけの状態でバニーホップする博士とQちゃんを見かけたけどあの2人、定期的にギャグ時空に突入するせいでどこまで真剣に捉えたら良いのか解らなくなるよね。100%ギャグだと割り切って接する方が精神的には楽だけど。

 

 もう……数年間も付き合いがあるとある程度の諦めが付くよね。

 

「いやあ、懐かしい……このシステムの根幹にあるのはノアに搭載されている造物エンジンなんだよね」

 

「造物エンジン!? ノア!? それは一体……!?」

 

「うわぁ、予告なく生き返った」

 

「諦めろミコト。リアクション取るだけ無駄だ。我々は合体の準備だけ先に進めよう」

 

「せやな……」

 

 まずはチビ、エデ、ウェルギリウスの人格変化なし組からかなぁ。1度に皆を連れてくると流石に狭くなるのでまずはチビから。チビは引き続き回避力を伸ばす方向性で育成する。Bに上がる事でついに回避能力はその極限に、絶対回避スキルを習得する事が出来るようになる。

 

 なので引き続き、魔狼の方向性に血統全体を進めながら回避力を上げる。樹海抜きだったら挑発系のスキルも合体させる必要があったが、樹海のおかげでそこら辺の心配をしなくて良くなったのは良い事だ。

 

 なおAになる時にチビはサブで育成してるカウンター血統と合流する予定であり、Aになって初めて()()()と表現できる火力を手にする事が出来るようになる。絶対回避→回避起動カウンターという流れが成立するようになって回避が直接攻撃に繋がるようになる。

 

 なのでBでは回避タンク運用のままになる。Bランクの3対3環境ではチビは火力を出す必要がないので回避タンク運用だけで済むのだ。シェイナの次世代がウィークメイカーパッシブ化+クリティカル火力が出る様になるので火力はこっちで出せるからだ。

 

 スキルは世代交代する度に圧縮される。圧縮し、統合する。これを繰り返せば繰り返すほどモンスターはスペック以上に強くなる。

 

 今のSランクが弱いのはこれが原因だ。スキルの統合と圧縮が全く行われていない事に尽きる。

 

 これが出来ればもっと強くなるんだけどね……。

 

「造物エンジンは創造主の創造の権能をそのまま物質化させたもので世界の創造を終わらせた後に過ぎたる力を切除する為に生み出したもので―――」

 

「おおおおお、神話の時代の話で脳が震えるぅぅううう」

 

「話を聞いてるだけで涙が溢れてきますよ!!」

 

「今、私達は! 神話を前にしているのだよ!!!」

 

「神よ……!」

 

「私は神じゃないよー」

 

 あっちは駄目みたいですね……。オタクが限界化しちゃった。

 

 仕方がないので図書館の方に頭を突っ込んで従僕を呼び出してみる。これ使える? ノアにあった施設よりは簡単に使える? へぇ、元はノアの図書館勤務だったんだ。ノアに置いてある造物エンジンのメンテもした事があるからこれぐらい余裕? へぇ、凄い。

 

 凄いので博士たちは無視して合体進めちゃうか。という訳で元ノア勤務の従僕さんにぱぱっと合体マシンの準備を整えて貰って、その間にチビとの短い別れを告げる。チビの合体先は固有種ではなく、汎用モンスター枠なので継承する際はチビの人格が100%保証で継承される。

 

 この事実に、少なくない安心感を覚える。

 

 無論、チビの合体相手はこれでばいばいになってしまう。その事実は普通に寂しいので、これまでありがとうの気持ちを込めて来る前にはちゃんとブラッシング等を行って労っている。鴉羽尊はそこら辺、ちゃんと合体素材を素材としてではなく仲間として見ているのだ。

 

 お蔭でお別れは毎度苦しいのだが、これもそこそこ慣れて来た……。

 

「鴉羽様、パラメーターはこのような形で? 隠し味をここにセットしまして……はい、これで問題ない筈です」

 

「うん、これで問題ない……ね。隠し味良しスキル良しステータス調整良し! これで全部問題ない。後は合体事故を起こさないだけ」

 

「ご安心を、合体事故は元ノア勤務の誇りとして阻止しますので」

 

 博士の上位互換じゃん! もうモンスター博士とか不要じゃんね? いや、でも、図書館の従僕って基本的に図書館の勤務に探索者の接待とモンスターシステムの定期チェックやバグ探し等で酷い忙しいらしいから手を煩わせたくないな……博士、続投でお願いします。

 

「じゃ、チビ。行ってらっしゃい」

 

「わん!」

 

 自認が子犬の魔狼はもう幾度目ともなる合体に慣れた様子でシリンダーの中に入り込むと何時もの合体プロセスを経て、1つになって行く。巨大な魔狼の姿が分解され、中央シリンダーで二つの姿が合流し1つになる……生命の神秘を体現する奇跡が成され、1つのモンスターの姿となって現れる。

 

 合体の余波で生まれた白煙の内側、シルエットを見せる姿は前のチビよりもだいぶ小さく見える。

 

 サイズそのものは平均的な狼サイズにまで落ちている。体毛は全身が銀色に染まり、頭には2本の角が横から前へと向けられるように曲がりくねって生えている。中央シリンダーが開き、飛び出して来たチビは自分の身体をその場でぐるぐる回って確かめると、体が小さくなった事に気づき頭に大量のビックリマークを浮かべてから笑顔でこっちへと向かって飛び掛かって来る。

 

「はは、念願のダウンサイジングに成功してご満悦だなチビ」

 

「わん! わんわん!」

 

「はは、今受け止めるのに肋骨が折れて痛いからちょっと前足で胸を踏み踏みするのは止めようね。たぶん肺に刺さってるからこれ」

 

「わん! わんわん!」

 

 相変わらず鳴き声が子犬みたいなんだけど何時になったらコイツの子犬自認が抜けるんだ? しかし本当にうれしそうに絡みついて来るので体がデカくなって一緒に家の中に入れなかったの相当気にしてたなコイツ……。

 

「お、カオスウルフだね。中々珍しいモンスターを作ったんだね」

 

「新種! 新種だぁ! 私達新種大好き!」

 

「記録! 記録! データ! データ!」

 

「うぅぅ、合体……えっちすぎる……!」

 

 これからまだ数回の合体残してるんですけど研修くんこの刺激に耐えきれるんですか? もう既に限界極まってる気がするんですけど? この性癖がヤバイ奴本当に最後まで居座るの? 放送コードに引っ掛からない? もう既に引っ掛かってる気もするんだけど。

 

「ヤバイ、まだ最初の合体終わったばかりなのにもう帰りたくなってきた」

 

「これを越えなくてはBランクでは戦えないぞミコト」

 

 それはそうなんですけど……勇気が必要というか……久遠が横に居てくれて本当に良かった。1人だったらこのカオスから逃げてたと思う。

 

「カオスウルフは常闇の国の山岳地帯に住まう種で、元は別の種が変異した事で誕生した種だって言われてるね。凄く警戒心が高く、孤高。群れを作らず、賢く、自分の縄張りに踏み込んだ者を執拗に追いかけて殺すと言われている非常に凶暴で凶悪なモンスターなんだけど……」

 

 館長の説明に無言で変態トリオが手の残像だけを残し全ての言動をメモに書き込んでいる。

 

 それから視線がチビに向けられる。

 

「……? わんっ! へっへっへっへ」

 

 どうしたん? と首を傾げてから俺と久遠の足元に移動すると転がって、お腹を見せて来る。撫でてアピールをしてくる可愛い子である。

 

「うん! 元の獰猛さの欠片もないね!」

 

 まあ、人格が継承されてるからこうなるよね。

 

 ともあれ、これでチビの合体は完了した。アプリを起動して確認すれば目的のスキル《カオスタイム》がちゃんと習得されていた。これこそまさしく絶対回避スキル。発動すれば必中属性でさえも回避対象として回避する事が出来る、究極の回避スキルになる。

 

 ただし、《あたれ》や《イーグルアイ》等の必中効果は避けられない。逆に言えば魔法やデバフ等は回避できるのだ。十分すぎる。これまで詰んでた《アヴォイドマジック》や《シュレディンガー》に回避+%系のスキルを全て消費合体、消滅させて回避関係はもうこれで1枠だけで良いというレベルの強さをしている。

 

 ここから《カオスタイム》は《カオスタイム・極》や《カオスタイム・絶》へと合体させるスキルによって変化して行き、目的に合わせてカスタマイズする。現状、バニラ状態の《カオスタイム》は発動後、1スキルを絶対回避するという効果で収まっている。

 

 この状態だとそこまで強くないので、効果回数を増やす、パッシブ化させる、即時発動スキル化する等の派生を行ってスキルの性能を上げる必要があるが、現時点で骨組みは完成した。これだけでもだいぶ脱法ムーヴは出来るし、回避ハメも運用可能だ。

 

 強化扱いなので強化無効化によって発動失敗もあるが、チビの回避性能はこのスキルに集約されるだろう。

 

 ヒールで折れた骨を何とかして貰いつつチビが計画した通りの合体が出来たので良し、と拳を握る。これでトップバッターの合体は完了だ。

 

 さあ、どんどん合体を進めるぞ!

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