最強以外ありえない   作:てんぞー

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俺、悪い事してる気分になるじゃん

 さて、問題児3人の合体なので誰からやるかなぁ、と思ってたら扉の向こう側から言い争う声がする。

 

「当然、私が最後です。この中で一番活躍して一番戦闘貢献したのは誰ですか? 私ですから」

 

「私は女神ですから……」

 

「滅亡神攻略の肝である私がトリを飾るのが当然では?」

 

「私は、女神ですから」

 

「一番印象に残ってる私が残るべきだと思いまーす」

 

「女神は当然一番最後です。女神ですから」

 

「……」

 

「……」

 

「どうぞ、下界の方々。先は譲りましょう」

 

 イーリュがフラメアとシェイナに蹴り飛ばされて此方に転がり込んできたので無言で除夜の鐘(イーリュ)を掴んで、持ち上げて、そのままシリンダーの中に放り込んだ。

 

「不思議だなぁ、イーリュ。お前にはそこそこ世話になったのにこうやって向き合うと除夜の鐘になってる記憶しか残ってねぇんだ」

 

「流石に酷くありませんか? いえ、私もだいぶ楽しんでたので文句はありませんが」

 

 文句ないのかよ。

 

「それに」

 

 イーリュが話を続ける。

 

「我々、神にとって時間軸とは人間が見るものとは違います。恐らく滅亡の女神を見て既にある程度は察しているでしょうが、私達は別に時間という概念を現在のみで捉えている訳ではありません。過去、未来、現在、全てを同時に俯瞰しているのに近い視点を持ち合わせています」

 

「つまり次に生まれて来る女神もお前……って事なのか?」

 

 いえ、それは違います、とイーリュが続ける。

 

「私は私達なのです。継承され、統合され続ける限り、この血統の者達は全て私達なのです。神という位階に到達した時点でここにいる私達は同一人物の様な物なのです。今この瞬間もその気になれば次の私と接続して―――」

 

 イーリュはドヤ顔で言葉を続けようとして、それから数秒フリーズし、こっちを見た。

 

「着信拒否に設定されてました」

 

「駄目じゃねぇか」

 

「まぁ、合体してしまえば強制的にお前も私だ! 状態なので関係ありませんね。良いでしょう、次の私にこの趣向をフルで受け渡してしまいましょう! 代々継承されるマゾ血統の始祖に私は立ちます! ちゃんと手遅れにした責任取ってくださいね」

 

「ちなみに次の世代のお前は堕天使になる」

 

「待って、それ聞いてない」

 

 ばぁん! とシリンダーの扉を閉めてイーリュの前から離れる。合体先変えましょう! という力強い主張がイーリュの方から飛んで来るけど、除夜の鐘になったお前は正直そんな堕天使と変わらないと思うぜ。隠し味の投入を始めているとシリンダーの中でイーリュが解った、と頷いた。

 

「これもまた試練……! 我が全てを次世代へと託すこととしましょう! この経験、知識、性癖の全てを余すことなく次世代へ!」

 

 地獄みたいな覚悟が決められてた。恐ろしい呪いが血統にこうやって残されて行くんだなぁ……と他人ごととして考える事に逃げつつイーリュの合体をスタートする。本日4度目の合体も何も問題を起こさずにスムーズに……スムーズに? 中央シリンダーで合体しようとしてる姿が顕現しないなぁ。

 

「合体拒否じゃのこれは。合体先が意地でも嫌だと主張してる奴じゃ」

 

「あるんだそんなの」

 

「偶にあるねぇ!! レアケースだよ!!」

 

「合体を強制執行します。そこ、補佐をよろしくお願いします」

 

「あいさー!」

 

 何時の間にか元ノア勤務の従僕さんが作業のメインパートを務める様になっていた。違和感なく補佐に入る博士とQちゃん、そして見せられないよ! 状態の研修くんが合体のサポートに入り、顕現する事を拒否するモンスターの姿を強制的に合体させる。

 

 こんなケースあるんだぁ……。

 

 というかイーリュ、割とガチ目の着信拒否だったんだお前。

 

 呪いの継承はやっぱり嫌かぁ。そう思っている間にも合体は進み……いよいよ、完了する。中央シリンダーの中に新たな人の姿が現れ、そして誕生と共にうずくまった。

 

「あああああ―――! この記憶と! 経験を! 私の中から抹消するッッ! 記憶を抽出、それをデジタル化させて洗脳能力を自己へと発信、干渉して自分の認知を改ざんする事でこの呪われた継承を除去する……!」

 

 黒髪。黒い4枚翼。黒いドレスに白い肌、そして口元を隠す薄いヴェールの様なレース……見た目はえっちなんだけどなんか、それどころじゃなかった。本人は今、自分がネタキャラになるのか残念キャラになるのかセクシー路線を守れるのかその境界線上にいた。

 

 堕天使として備えた洗脳能力を使って自分の認知の改ざんにまで手を出そうとする根性、正直脱帽だ。そこまでして呪われたアイテム(イーリュ)を外したいのか。どうしたもんかなぁ、と腕を組みながら必死になっている堕天使を眺めていると久遠がうむ、と頷いた。

 

「お座り」

 

 良く通る声で久遠が発すると、シリンダーの中で頭を抱えて蹲っていた堕天使が一瞬でお座りのポーズを取った。

 

 ついでにチビもお座りのポーズを取った。ちゃんとお座りが出来て偉いぞぉ、とチビを撫でる。甘やかしすぎじゃないかなぁ、と館長に言われる。でも……でも……チビってこんなに可愛い奴なんですよ……? 見てくださいよこの無垢な瞳……!

 

 ちなみにお座りした瞬間にレジスト失敗した堕天使は絶望の表情を浮かべて泣いていた。

 

 それを見て久遠はこっちにサムズアップを向けて来る。

 

「神格持ちは初手上下関係を叩き込んでおけ……だったな!」

 

 久遠の背後にシティエルフ共の幻影が浮かんでくる。誰がこんなアドバイスをしたのかは丸解りだった。悲しい程に犯人が理解出来るのに、何一つ責める事の出来ない完璧で残酷なアドバイスだった。あのエルフ共、なんでそんなに調教する事が得意なんだよ。訳が分からねぇよ。解らないなら考えなくていっか。

 

「か、体が勝手に……!」

 

「お手」

 

 お手コールするとシリンダーの中でお座りしてた堕天使が一瞬で此方まで瞬間移動してお手をしてきた。チビもしてきた。

 

「ま、待」

 

「おかわり」

 

 すっ……とおかわりまでしてきた。完全なる尊厳破壊完了に堕天使の女は涙を無言で流し続けていた。

 

「マスター……私、エストは貴方への忠誠と屈服をここに誓います……!」

 

「どうしよう、泣きながら忠誠を誓うって言われたら俺、悪い事してる気分になるじゃん」

 

「ハッピーバースデー!」

 

「ハローワールド!!」

 

「■■■■■■!!」

 

 クラッカー持った3人組がぱんぱかぱーんって堕天使の周りでクラッカーを鳴らしまくって誕生おめでとうしてる。ぐるぐるぐる堕天使の周りを回って新たな世界開拓をおめでとうしている。なんてゴミカス精神してるクソ野郎どもなんだ。後研修くんはついでに音声に検閲入った。期待の新人だね。次合体でここに来る時までに異動かクビになってて欲しい。

 

 いや、でも優秀なんだよなこの変態共……。

 

「まあ、若干申し訳なさもあるけど……ようこそ、そして初めまして。俺がマスターの鴉羽尊だ。これからよろしく頼むよ、エスト。お前も、これから奴を倒す為に戦っていく上では絶対に外せない仲間の1人だからな」

 

「マスター……継承された記憶を通して知りましたが本気ですのね……」

 

 まあな、と答えつつ堕天使エストに手を掴ませ、立ち上がらせる。ハンカチで涙を拭いて手を結ぶ。

 

「アレを倒さない限り未来はないからな」

 

「貴方のその自信がどこから来るのかは解りませんが……貴方に仕える身として、相応しい主であろうかどうか私が―――」

 

「お座り」

 

「久遠?」

 

「上下関係は叩き込んでおけ」

 

 たぶん上から目線なのが気に入らなかったんだな……。エストも完全に上下関係が叩き込まれて生意気な口が開けなくなってしまった。割と可哀そうだなぁ、と思いつつもシティ派エルフさん達の言う通り女神とかの上位存在って基本的に上から目線で反逆的だからこれが正しい関係構築の仕方なのかもしれない。

 

 ほんとあのエルフたち何なんだよ。

 

 エスト、種族堕天使。天使系のサブカテゴリ―型の種族で天使よりもステータスを魔方面に尖らせたタイプの種族だ。C帯だと入れる枠がキツくて出番は少なかったが、B帯からは出番が増えて来るだろう。

 

 まあ……それよりもその呪いの記憶をどうにかするべきだと思うんですけど……。

 

 エストの合体は終わったのでちょっと下がってて貰う。オラ! 散れ変態共! まだまだ仕事はあるんだぞ! エストを端の方へと退かすとチビがエストに顔を寄せて覗き込んでいる。同じ犬ポジションとして上下関係叩き込んでるのかな? チビは上下関係が作れて偉いねぇ。見ないふりしよ。

 

 さて。

 

 フラメアとシェイナの方を確認すると丁度じゃんけん勝負が終わった所で、フラメアが負けた様だった。ぐぬぬ、と声を零しながらフラメアが先に合体するのが決定し、シェイナがトリを確保してにっこりと微笑んでる。本当に何時の間にか仲良くなったな。

 

 フラメアは軽く駆け寄って来るとす、と久遠の前で一時停止する。それを見て久遠は数歩後ろに下がる。

 

「私も、それほど無慈悲という訳ではない」

 

「ありがとうございます」

 

 ここでも上下関係がしっかりと決まってる……。

 

 久遠の伺いを立ててからフラメアはこっちまで来ると、此方の両手をしっかりと握って来た。強く、強く両手を握ると顔を上げる事なく、俯いたまま手を握っている。流石に1分近くそうしていると不安になって来る。

 

「フラメア?」

 

「もう少し、もう少しこのままでお願いします……」

 

 そう言われたら何も言い返す事は出来ない。諦めてそのまま数分間、手を握らせ黙っていると、フラメアが声を絞り出す。

 

「私は信じています……マスターなら、必ず勝てるって。ですがそこに私はいません。これはきっと前の私も……そして次の私もずっと悔やむ事です。私達は結局、最後の1人までバトンを渡し続ける事が出来ないんです。だから出来たらずっとこのまま、一緒に……留まりたいと、そう思う自分もいるんです」

 

「フラメア」

 

「このまま、一緒にずっと過ごせたらどれだけ良かった事でしょうか……」

 

 ですが……ですが。そうフラメアは区切った。

 

「きっと、それを選んだらマスターは……マスターのままではいられません。貴方は自分を不完全と称しながら怒りと義憤で立ち上がったのです。私達が好きになった人はそういう人なんです」

 

 だから、と、頬に軽くキスをして、フラメアは下がり、自分からシリンダーの中へと進んだ。

 

「私は過去に留まります。これから永遠に過去になります。貴方は足を止めずに未来へと向かってください……そして偶に、こんな女がいた事を思い出してください」

 

「さようならフラメア、Cでは1番お前の世話になったな。どれだけ巫山戯ようとも……これまで関わってきた全てを忘れる事はないよ」

 

 その言葉を最後に、フラメアは微笑んで去る事を選んだ。

 

 程なくして合体の準備が整い、フラメアの姿は過去に残されて消え去った。

 

 合体が進行する。

 

 最強の魔女を生み出すためのプロセスが進行し、次世代へと繋がる。チビに上下関係叩き込まれたエストが私の時と違う……と不貞腐れてる。文句は前任者へどうぞ。

 

 2つのシリンダーからモンスターの姿が消えて合流し、中央シリンダーで合体した姿が現れーーーない。

 

 代わりに施設のライトが消える。

 

「あ、SSR演出だ」

 

「お静かに」

 

 登場演出凝るタイプって事前に準備してきてるのかなぁ……? どうやって……? とか思っているとなんか周りの空間がファンシーな背景に変化する。

 

 その中で登場するのは緑髪の女の子。

 

「へーん身っ!」

 

 可愛らしい声と共に軽く跳躍すると衣服が溶けるように消え、謎の光さんが出勤する。光が体に纏わりついて、それが弾けるとふりふりの衣装が装着されている。

 

 手指、靴、スリーブ、スカート、胴体、そして後ろへと伸びるヴェールのような頭飾り。白と緑色の魔法少女……そう、魔法少女だ。魔法少女に変身していた。

 

「変身バンク来たァーーー!」

 

 どこかフレッシュさを感じる緑色の魔法少女……と、ここまでは良かった。急にキラキラファンシー空間に黒い風が入り込み、魔法少女を浸食する。

 

 それまではキラキラだった筈の姿は一気にダークサイドに墜落して行く。衣装が漆黒に染まり、露出が僅かに増え、それまであった清純さが一気に消えた気がした。

 

「1話目から伝説の闇堕ちフォームを!?」

 

「馬鹿な……1話目から闇堕ちなんて前代未聞だ!!」

 

「■■■■■■ーーー!!」

 

 研修くんはそろそろ人語喋ってくれると助かるかなぁ。姿までモザイクかかってて目の毒なんだよね。

 

 こんな混沌とした状況の中、黒い風を弾き飛ばすように変身を終えた魔法少女が登場する。シリンダー前から飛んでくるようにステップを踏み、俺の前まで来た。

 

 そこで軽く一回転し、ポーズ。

 

「魔法少女アビサル・デスゲイル、登場っ!」

 

 ウィンクしてからキラリ、とポーズを取った。

 

「よろしくね、愛しい人」

 

 キラン、とハートマークと星マークが物理的に飛んだ。なんかもう名前も違うし姿も闇落ちしてるし演出どうなってんだって感じだけど……あ、性能に変化はないんですね、良かった。

 

 いや……何も良くねぇが……?

 

 何も良くねぇが!?

 

「なんで闇堕ちしてるの!? しかも芸名まで違うし!!」

 

「あ、そこは改名しました。ほら、今の私は闇落ちバージョンだから」

 

「バージョン……バージョン!?」

 

 ごめん、ツッコミが追いつかない。

 

「だってそうでしょう? 皆の為の愛と平和のヒロインが、たった1人の味方になるの。これは愛と心の独占以外の何物でもないわ……それって、魔法少女のルールに背いたという事……闇堕ち以外ないでしょ?」

 

 博士がうんうんと頷いてる。館長はやあ、久しぶりと手を振ってる。魔法少女アビサル・デスゲイルさん……本名ミレーナは館長の前時代の知り合いなのかやっほー、と手を振ってる。

 

 種族魔法少女は欺瞞であり、当然魔女血統なので魔女族である。本名ミレーナは終末、世界を回っては人助けをしていた正義のヒロインみたいなキャラをしてたが、現代文化と知識に触れて誕生した結果魔法少女に!

 

 というちょっと濃い目の味付けをしていたかわいい子だ。

 

 頼んでないのにラーメンがヤサイナマアブラマシマシマシマシマシマシ原液そのまま麺ゲキカタにされた気分だ。おかしいだろ。俺は何も悪い事してないぞ。属性の過剰投与は止めろって言われなかったの?

 

「前の私は凄く良い子だったわね……でも安心して愛しい人。私は闇堕ちしてるから倫理観は薄れてるわ! 略奪愛、寝取り、夜這オールオッケーよ! 今夜は部屋の鍵を開けておいてね」

 

 寝る前にコイツ殺しておいたら熟睡出来そうだな。起きたら蘇生でいいか?

 

「……ふっ」

 

 そんなミレーナの攻勢を見て久遠は小さく笑った。それにミレーナが視線を向けた。

 

「あら、余裕そうね?」

 

「無論。ミコトは私以外の女に満足出来るような男じゃないからな。貴様が何をし、どう足掻こうとも必ずミコトは私の隣に帰ってくる」

 

 明確に上に立つものとして久遠が自信を持って言う。

 

「突きたいのなら突いてみろ。多少揉まれた方が箔が付くというものだ」

 

「すいません、それで苦労するの俺なんですけど」

 

「へぇ」

 

 ここらへん空気悪いよー。怖いよー。怖いので館長の所まで逃げると苦笑されながら頭を撫でられた。

 

「うん、尊くんが悪いかな……」

 

「そんなぁ」

 

 そんな悪いことはしてないのに……。

 

 まあ、睨み合ってる女子とチビに上下関係叩き込まれた堕天使は無視する。これでメインとなる合体はいよいよ最後の1人となる。

 

 振り返るともうそこには彼女が居た。

 

「いよいよ、私の出番ですね」

 

 物語を次世代へと託す時が来た。

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