最強以外ありえない   作:てんぞー

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ここらでスパイスをひとつまみ

 合体が終わった! バトルじゃあああ―――!

 

 と、言いたいところですが。

 

 なんと、Bランクからは育成期間が増えます。伸ばせるステータスの総量が増える為、第5世代(Bランク)からは育成期間が大幅に増えてしまう。具体的な期間はモンスターによって変わって来るが、それこそ上位の能力を持つモンスターであればBランクで6か月はかかる。

 

 そして、なんと、鴉羽ファームで育成しているスタメンは基本的に全員上位モンスターなのだ。不思議だね。

 

 という事で、育成期間突入である。半年、ゲームだとスキップ込みで30分ぐらいで終わる時間だったよなぁ、とは思うがこれがリアルになると割とヤバイ長さになる。現在7月、ここから6か月経過という事は終わるのが1月、新年あけてからになる。

 

 つまり新年まではまるでバトルが出来ない事になる。

 

 ランクを上げた直後は仕方のない話なのだが、それでも半年もバトルが出来ないというのはちょっと辛い。そういう事情はさておき、モンスターのトレーニングは必須作業なので今期もガンガンモンスターの育成を進めて行く。

 

 まずはレベル100のモンスターを使ったレベリング道場。ミストドラゴンやマガちゃんを始めとする高レベルモンスターにスパーリングを任せる事で安全に効率的にレベルを上限まで育てる事が出来る。

 

 第5世代のモンスターのレベル上限はついに70になる。第4世代、Cランクの上限だった50からなんと20も上がる。ここまで来るとモンスターもだいぶ強く、その強さだけで災害レベルの脅威とみなされるようになる。都市で暴れる様な事があれば都市が滅びるのを覚悟するレベルだ。

 

 まあ……そんなの駆間では溢れてるので気にするほどでもないのですが……。

 

 レベリング! ステータスの最適化! スキル習熟!

 

 スキルは使い込まないと咄嗟の時に反応出来ない。レベルは上限まで伸ばすのが基本だ。ステータスは火力のラインを見極めて最適なレベルで耐久力を調整したい。ここら辺の知恵と知識は全て備わっているものだから何も問題はない。時間があれば最適なラインに調整が施せる。

 

 8月。訓練施設のアップデートが行われる。アンナの手配によって完成された新しい施設はBランク範囲で用意出来る施設で最も効率の高い設備だ。ここからトレーニングして漸く半年という時間がカウント出来るというのが正しいのかもしれない。

 

 ただそれだけではなく、新しい設備も増えた。

 

 その中でも目玉というべきなのはそう―――温泉だ。

 

 温泉狂いのモンスターがいて、Bランクになってから作成すると温泉を掘り当てるというイベントがゲーム内に存在したのだが、再現してみれば見事我が牧場でも温泉を掘り当てる事に成功した。

 

 ちなみに源泉なんてものは存在しないからこの温泉、異次元に源泉が存在している。ふぇぇ、怖いよぉ。ただ温泉は牧場内に存在するとモンスターのストレス緩和と疲労回復を加速させてくれるかなり強めの施設なので、作っておく事に越したことはない。

 

 そんな事で温泉経営すら始まってしまった鴉羽ファーム、金毛の羊すら放牧されているという日本一カオスな牧場とされる我が家はBランクになった事で大分知名度が上がった。

 

 だが当然、知名度が上がるのは何も、良い事ばかりではない。

 

 8月、中学3年生の夏。

 

 鴉羽尊、めでたくネットで炎上する。

 

 

 

 

「エスト! ペース落ちてるぞ!! もっと気合入れろ!」

 

「……! ぷはぁっ! やってんぷっ、ます、わよ!!」

 

 巨大な流れるプールを逆流する姿がある。

 

 エストだ。

 

 Oの字に作られたプールはトレーニング用の施設の1つで、どんな天候でもトレーニング出来るようにと用意された設備の1つだ。なんと牧場の地下にある。

 

 ウチには大型の湖もあるが、あっちは水棲モンスターの居場所になっているので波を起こしたりしてトレーニングに使うのは非推奨……というか良くない。

 

 管理側に回って解る事だが、ああいう湖の管理とかってかなりめんどい。大型モンスターと共存出来るタイプのモンスターとか見極めなきゃいけないし、定期的に底の方の掃除しなきゃいけないし。

 

 トレーニングには使えないんだよね。

 

 そんな訳で水泳系のトレーニングはプール施設が推奨される。どの大型ファームもこんな感じらしい。生活用とトレーニング用で用途を分けるらしい。

 

 そんな流れるプールの勢いは結構強いもので、それに抗うようにえすとと書かれたスクール水着姿のエストが逆流するように泳いでいる。

 

 丈夫さと体力を同時に効率鍛えるにはこれが一番だ。ひたすら耐久力を高めるタンクはこのトレーニングでひたすらプール漬けにするのが基本だ。

 

 残念ながらランクアップした事で除夜の鐘は卒業となってしまった。

 

「良し、ここらでスパイスをひとつまみ」

 

「きゃああああーーー!!」

 

 壁のレバーをガコン、とするとプールの中に丸太が放流された。流れるプールの中に放流された丸太が凄い勢いでエストに襲いかかる。回避しても一周して再び襲いかかって来る。

 

 エンドレス地獄なのだ。

 

 エストが苦しんでるのを横目にスマホをぽちぽちしているとSNSで自分の名前を見かける。それもあまり良くない感じに。

 

「やっぱ燃えてるなぁ」

 

 Bランク認定戦から2ヶ月が経過し、あの時のメディア映像が流出したり記事が出回ってそこそこ経った。駆間の環境は注目されていることもあり、直ぐに皆認定戦はチェックした。

 

 だがそこで目敏くルール違反をしている馬鹿が昇格している事が判明した。

 

 そうだね、俺の事だね。

 

 こういう事やってる奴が昇格していいのか? ルール守れない奴が上がってくるなよ! という感じに絶賛噛み付いてくる連中でSNSは炎上してた。

 

 正直正論なので言い返せなかった。大体正論で殴りかかってくる連中なのが困った話だ。

 

 9月はゲームショーに出店で俺も行く予定だったが、顔を出さない方が良いだろうという事になった。ちょっと残念。

 

 この手の炎上は下手に言い訳すればそれだけ長引くので、黙って結果を出すことに集中するしかない。まあ、大会に出れるようになって正々堂々蹂躙すればええやろ。

 

「あ、ちょ、ま、マス、マスター! ガコンガコンやめ、や」

 

「ん? あ」

 

 スマホ見ながらレバガチャしてた。プールを見ると大量の丸太がエストに突撃し滅多打ちにしながらプールの中を流れている。最初は抗っていたエストも次第に力尽きて死体となってプールを流れるオブジェと化した。

 

 5周ぐらいピクリともせずに流れる堕天使の死体を眺めてからプールの流れを止めて、エストの死体を回収してから蘇生アイテムを投げる。

 

 蘇生されたエストが両手を床について水を吐き出した。

 

「はあ、はあ、ご、拷問なのですのこれは!? 私が気に入らないんですか!? これは堕天使差別なのでは!? 神という存在に恨みでも」

 

「そこそこあるけど……」

 

 アレ相手に。

 

 それを告げるとエストは胸を持ち上げるように腕を組んで黙った。アレ相手に恨みあるという話をすると何も言い返さなくなる。これトリビアになりません?

 

「はあ……はあ……しんどい……脆弱な我が身が恨めしい……」

 

 蘇生されたエストはごろん、とプールサイドに恥も何もなく転がった、取り繕う余裕はそこそこないらしい。追い込めてるなぁ、と思う反面、心はまだ全然折れてないストロングメンタルなのでこれからも追い込む必要はありそうだ。

 

 勿論、心を隠してるノトスおぢさんも割と監視対象になる。が、この反逆メンタルバリバリの堕天使が今、1番の要注意モンスターになっている。

 

 こいつ、継承された呪いのアイテムで肉体的には陥落してるのに、メンタルは全然折れてない凄い奴だ。

 

 高位の神格ほどメンタルもプライドも高いから早めに上下関係叩き込まないと後々苦労するよ、とはエルフたちの証言。ゲーム内だと好感度が上がらないとトレーニングサボったりするのだが……リアルだと直接的反逆に繋がる部分もある。

 

 そういう理由もあり、エストは新世代の問題児筆頭だった。今までこの手の問題児がいなかったので、こういう監視必須のモンスターがいるのはちょっと新鮮な気分だ。

 

 カルマ値マイナスのモンスター育てる大変さってこんな感じなんだなぁ……。

 

「ふぅー……さて、トレーニングも一段落した事ですしそろそろ自由時間に」

 

「インターバルは終わりだよ」

 

「んっあぁっ」

 

 ブールに蹴り落とす時にちょっと喘ぐのやめてほしい。久遠に変な目で見られる。文句を言い出す前にガコン、と殺人レバーを落として丸太を放流する。こうなるとエストは生きる為に全力で泳がないとならなくなる。

 

 長く付き合わないといけないかなー、これ。

 

 付きっ切りになるから他のモンスターの様子を見れないのもちょっと問題だよな……と思っていると入り口の方から灯がやってきた。

 

「特殊プレイ中にごめんねー。お兄ちゃんお客さんだよー」

 

「東吾でも遊びに来たかなあ」

 

「特殊プレイは私の方で引き継ぐから行ってきてー」

 

「あいよー」

 

「特殊プレイ特殊プレイ言うの止めませんかこの鬼畜兄妹!? あっ」

 

 丸太がクリーンヒット、エストがプールに流されてゆく……。それを見届けつつプールを出て地上へと上がる。何時の間にかこの超豪邸生活にも慣れてしまったなぁ、と思いながら小走りで玄関へと向かう。

 

 そこで顔を出す客人とは、予想外の人物であった。

 

「よう、数週間ぶりだな……いや、数日か?」

 

「外だと年単位じゃない? ごめん、今何年の何月か解る? 地脈経由で脱出しちゃったから時間感覚が曖昧で、ここが現実かどうか解らないんだよね」

 

 そう言ってくるのはスクナに俵担ぎされた酒クズの姿だった。それだけなら追い返す所だったが、よく見れば酒クズの両足は折れ、スクナに至っては腕を一本残し顔も半分抉れてた。

 

「じゃ、あとは頼んだわ」

 

 そう言って立ったままスクナは死亡した。担がれたままの酒クズを見てどうするか一瞬悩んだが、取り敢えず。

 

「……お酒、取ってくる?」

 

「あるなら助かるかなぁ……」

 

 珍客、現る。

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