最強以外ありえない   作:てんぞー

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ララ死亡カウント

耐えろ

 

 数歩前に進んだララが振り返る。マジすか? という顔を作った後潤んだ瞳で此方を見る。

 

耐えろ

 

 マスタースキルで食いしばりを付与する。ララはまだ動かない。

 

耐えろ

 

 もう1回時間が切れる前に付与し直す。試合じゃないので無法ルール。何度でも食いしばり。消費されるのは精神力と人間性。元からないからセーフ。つまりこれはノーコストで連打できる違法カード。最強だね。

 

「あの」

 

耐えろ

 

「うす」

 

 いい加減決心のついたララは正面を向いた。そこにあるのは石で出来た箱だ。ダンジョンに配置された宝箱、それも最下層に設置されているものだ。当然出て来るアイテムはレア……ではないが、高等級のアイテムばかりだ。回収しておいて損はない。だから命じる。

 

耐えろよ

 

「う、うおお―――罠解除スキル発動! 解除失敗! ステータスが圧倒的に足りないっすわ! FOO! じゃ、ボク消えっから―――」

 

 宝箱を開けたララは振り返りながら宝箱から溢れだす閃光の前に、飲み込まれてかすれるように消えて行く。それを俺は少し離れた曲がり角に隠れた状態で伺いながら敬礼する。

 

「ララ……お前は何も悪くないんだ。悪いのはアイテムを設置しているダンジョンで、お前が解除できるレベルを超える難易度しかないって事なんだ。ついでに言えばお前に搭載された罠感知はラッキーラビットの固有スキルによって確定で発動するから死が解っちまうんだな……」

 

 ぼろ雑巾になったララが吹き飛んで地面に転がる。その横を抜けて宝箱に接近し、中に入ってるのが最高等級の回復アイテムであるのを確認する。

 

「ち、ゴミか。良し、宝箱回収しつつ次のギミックに向かうぞ」

 

「労基どこ……?」

 

 1層では仕事がなくて暇だったでしょ? 5層からはいっぱい働けるね!

 

 

 

 

 ラッキーラビットは探索特化モンスターと言える。罠探知を確定で成功させられる為、難易度の高いダンジョンでは必須のモンスターになる。その作成もとてもシンプルで合体事故を起こすだけ。なので序盤からも用意できる、最高の探索特化モンスターになる。

 

 発見された罠は罠解除を持つモンスターに解除させる事が出来るが、これは罠解除のスキルと、ステータスに依存して成功率が変わる。そしてここで要求されるステータスは技量のステータスになる。

 

 そしてここは最下層、B~Sランク推奨エリアになる。罠の要求ステータスもそういうレベルだ。

 

 だが心配しなくても良い。罠の解除失敗で基本的に犠牲になるのは解除に失敗したモンスターだけだ。罠を発見できずに踏んだ場合、深層レベルのダンジョンだと1発で全滅とかざらな事を考えるとかなり安いコストだ。

 

耐えろよ

 

「うす」

 

 そしてララは再び死ぬ。

 

 最下層の殺意マシマシの罠をララ受けで回避し、アイテムを回収し、ギミックを解除する。当然ながら裏ダンへと進むには難解なギミックを解除しなくてはならない。ダンジョン外にあるヒントを入手し、それを解読しないとそもそもギミックの意味を理解できないというめんどくさいものだ。

 

 隠されているだけあって事前準備は必要だ。

 

 だがその大前提となる情報の類は全部割れている。罠の類は全部ララで粉砕する。それが出来るなら後はララを酷使無双してギミックを解除する事になる。

 

 広大な深層のエリアを1度だけではなく何度か横断する必要がある。移動はなるべく早く、モンスターに見つからないようにコンパクトに、しかし確実に目的地へと向かわないとならない。そこでこのララが大活躍する。

 

 つまり罠ハメである。

 

 罠を見つけ、付近のモンスターをトレイン、誘導してララ諸共起爆すれば良い。深層という環境とリアル環境だからこそ許される無法テクニックでダンジョンを横断しながら回収する。

 

 まずは無縁仏で空になった酒杯を回収し、嘆いている女性の霊を探す。本来であれば彼女の後悔や無念を同じアンデッド系のモンスターで聞いて、それを解消する為のギミックがあるのだが、俺を見た瞬間成仏したのでギミックが一つ消えた。でも消えた後にちゃんとアイテムは残ったので問題無し。

 

 ここまでのララ死亡カウント5。

 

 女の無念が消えると残されるのは酒壺になる。無論これを回収し、これの中に酒を満たさないとならない。当然酒なんてものはダンジョン内で手に入らないので、事前に準備しておくことになる。これも知っているので事前に用意していたのでクリア。

 

 

 

「あれ、週末飲もうと思って買っておいたビールがないんだけど」

 

「あれ? 聞いてない? お兄ちゃんが“使わせて貰うぜダディー!”って言いながら四国に持ってったよ」

 

「そんなぁ。コンビニ遠いのに……」

 

 

 

 そういう訳でビールを酒壺の中に注ぐ。実は酒であればなんでも良いので好きなもんをぶち込めば良い。これで完成!……という訳ではない。この中身を満たされた酒壺をもって別の所で呪って貰わないとならない。その為このクソ重い壺を抱えて移動する。

 

 ララ死亡カウント12。

 

 合間に罠復活タイムを待ったり舞ったり休憩入れたりしてエリアを再び横断、崩れた像の前に酒壺を置くと呪霊型モンスターが出現するので直ぐに逃げて罠にぶつけまくってララ諸共抹殺する。呪霊が死亡するとお供え物の酒が呪われて見事呪い酒が完成する。

 

 ララ死亡カウント34。シンクロ多用により脳がオーバーヒートして1回休み。精神は無敵でもハードはそうじゃないという学びになった。

 

 呪い酒が完成したらこれを運んで根の国の入り口へと移動する。ちなみに壺が割れたら最初からやり直しなのでここが一番キツイ所になる。酒杯も専用のものではないと意味がないため、壺諸共壊さないように気を付けながら面倒なモンスターが徘徊しているエリアを突破する。

 

 ゲーム時代に死ぬほどやっているのでララを4回犠牲にするだけで突破できた。

 

 そしてそれを突破すれば、黄泉平坂最下層最深部へと到達できる。

 

 常に薄暗い地の底の世界。陰鬱で、時折見える彼岸花と鳥居の赤のみが癒しとなる。それ以外は出て来るモンスターも含めて、陰鬱な景色でしかない。だが最深部は少しだけ違う。

 

 人も滅多に来ない事もあってここら辺はもはやモンスター以外は踏まない道がある。

 

 その先に進むと開けた場所になる。その広場には大量に捨てられた鳥居があちらこちらに落ちており、その周辺をぐるりと彼岸花の花畑が囲んでいる。ここだけまるでライトに照らされているかのように明るく、静かに流れる水の音だけが聞こえる。

 

 その一番奥、唯一まだ立っている鳥居の前で座っている武者が存在する。

 

 ―――そういうエリアの筈だった。

 

 轟音。

 

 衝撃。

 

 破砕音。

 

 誰もいない筈の空間から音が響いていた。

 

「マスター! この音……なんか戦闘してるっぽいっすよ!」

 

「どうやら俺達よりも先に戦ってる奴がいるみたいだな」

 

「こんな死ぬしかない場所で!?」

 

 適正レベルで来れば別にそう難しいエリアじゃないんやぞここ。少なくとも雑魚はB~Aあれば対処できる範囲内だ。それをララに告げながら酒壺を担いで、通路の方からボス―――いや、門番のいる広間へと視線を向けた。

 

 そこでは4体のモンスターを引き連れた男が大刀を構えた武者と戦っていた。展開されているモンスターは凶獣、天使、防壁、そして魔人の姿をしたモンスター達。見覚えのあるモンスター達の姿から即座に展開されているのが最終世代のパーティーであり、指揮者がSランクマスターである事を悟る。

 

 一瞬で動く戦況、目まぐるしく変わる状況、久々に見るSランクの戦闘はこれまでやって来たどの戦闘ともレベルが違い、見ていて楽しい。一瞬で連鎖するように発動するスキルの数々はやはり、上位のマッチでしか見られない面白さだ。

 

「うわっ、何をやってるのかまるで解らないっす……。マスターはアレが理解できるんすか? なんか1秒間に5回ぐらい動いてないっすか、アレ……」

 

「普通に理解しようとしてるからダメなんだよ。見た情報を脳で整理して理解できるフォーマットへと変換しなきゃ。脳内で戦闘ジャンルを入れ替えな……こんな風にな」

 

 ララとシンクロで意識を繋げて、俺の見て理解している世界をそのまま共有する。

 

 戦闘は最速で防壁―――電磁障壁の様な姿をしたモンスター、イージスから動く。それから武者が、天使が行動を合間に挟み、反応して魔人が、その直後に天使が動いて、再び防壁が反応し、武者が連続で動き、最後に凶獣が殴り込む。

 

 イージスは防衛モードを起動した ダメージ50%カットを付与

 聖天使ラファエラのインスタントヒール イージスに20%ヒール

 聖天使ラファエラのヒールシェア 5%のヒールが敵味方関係なく癒す

 獄門への回復は反転している ダメージを受けた @???

 聖天使ラファエラのフルケア イージスに上限超えた100%ヒール

 聖天使ラファエラのヒールシェア 5%のヒールが敵味方関係なく癒す

 獄門への回復は反転している ダメージを受けた @???

 獄門は一刀の構えを取った

 魔人べリアスはパーフェクトキャンセラーを唱えた 行動を打ち消した @0

 獄門の行動がキャンセルされ逆鱗に触れた 攻防↑↑

 獄門は連続行動を取得した 行動+3

 獄門は修羅の構えを取った―――

 

「見て聞いて得た情報をその場でタイムライン化して見やすいフォーマットへと変換、脳内で出力する。実際にはリアルタイムで殴り合ってるけど、俺は理解する上ではターン制バトルにするのが一番解りやすいから見てるものをターン制バトルに変えてるよ」

 

 見てる情報を理解しやすい形態に変化し、脳内で処理する。これがバトルを把握する上で一番楽だ。電子形態でバトルの内容を把握しているのでリアルタイムで戦闘情報をターン制へと処理するのもそんなに手間ではない。見れば大体の数字は出て来るし、これならミスなく手が打てる。

 

「いやあ、マスターって頭おかしかったんすねぇ」

 

「よせやい」

 

「褒めてないんっすよ」

 

 この業界では誉め言葉ですよ。

 

「しかしヒールキル、デスヒール型かあ、地獄みたいな型を使うとは才能あるな……」

 

「もう名前からして嫌な予感しか感じないんすけど……なんすか?」

 

「え? ヒール反転デバフを差し込んでひたすらヒール連打で相手を癒し殺すってスタイル。ヒールは必中、属性がないから属性耐性に引っかからない、魔防でも防御でも防げない、下手な火力よりダメージ出る上に無理に攻撃せずに防御固めてヒールシェアで相手を癒してれば殺せるからな。ハメ性能がヤバいよ」

 

 具体的に言うとデバフ解除手段がないと詰み。ここら辺のデバフケアは持ってて当然のレベルなので食らう方が悪いのだが。武者も確かデバフ耐性にボス耐性持ちで下手なデバフは刺さらない筈だから、恐らくべリアスでデバフ耐性そのものを下げてから突き刺したのだろう。やるやる、昔やったわ。

 

「と、ジャガーノートの火力が限界まで乗ったな」

 

 凶獣ジャガーノート、固有のスキルで攻撃を受ける度に攻撃力が上昇し、最大4倍まで攻撃力が上昇する。ここまで上げるには相当な長期戦が必要なのだが、ダメージカットに優れたタンク、過剰とも言えるヒールを供給する聖天使、そして妨害とデバフに優れた魔人。サポートが優秀だから限界まで火力を高める事が出来たのだろう。

 

「しかもジャガノの攻撃上昇は既存バフとは別枠扱いだ。一緒に乗っけると馬鹿みたいな火力でるぞ―――お、出した」

 

「わぁ」

 

 凶相の怪獣が拳を握り締めて、吠えながら武者に拳を叩き込んだ。大刀がへし折れて、宙を舞う中で連続で拳が武者へと向かって振り下ろされる。拳が叩き込まれる度に発動するカウンターがジャガーノートに叩き込まれるが、リアクションによるヒールとイージスによるダメージカットで被害は抑えられている。

 

 合計8発の拳が叩き込まれてボスが塵になるように消滅する。

 

 戦闘を指揮していたマスターが息を荒げる事もなくモンスター達を労う。

 

「はあ、あれがSランクの世界っすか。遠い世界っすねぇ……」

 

「……」

 

 中々強い。実際に戦うとなると相当面倒だし、デバフ対策は必須だからそっち方面でリソースを割かないとハメ殺されるだろう。最終的に想定しているパーティーだったらダメージカットを貫通してタンクを殺して、その後に要のラファエラを潰せば……という所か。

 

 うむ、最終構築なら勝てる。

 

 早く戦いたい。

 

 あんな強者と。同じステージに立って、リソースの全てを吐き出すような地獄の勝負がしたい。

 

 きっと、その瞬間俺は初めて人生で満たされるのかもしれない。

 

「―――で、何時までそこでこっちを見てるんだ? ん?」

 

 と、観戦しているのがバレていたらしい。ボスを倒したマスターは片手をポケットに突っこんだまま、振り返って来る。その視線は真っすぐ、未だに薄暗い通路から伺っている此方へと向けられている。

 

「同業者なら歓迎―――敵ならそうだな」

 

 ボスを倒してもまだ余裕を保つモンスター達が再び、マスターの背後で隊列を組む。

 

「後悔する事になると思うぞ」

 

 圧倒的強者の余裕と風格を持って、日本有数の強者がそこに立っていた。

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