正直、酒クズの事は好きではない。
だがそれはそれとして、目の前で助けが必要な人を見過ごすのは気持ちが悪い。そういう気持ちがあるので酒クズを助ける事にした。まずは両足折れている女に痛み止めを処方する―――よく見ると激痛で痛覚が麻痺しているだけで凄い汗を流している。
急いで通りすがりの辻ヒーラーを召喚して治療しつつ、スクナの蘇生に入る。牧場を見ればクラマオウ、コノハナサクヤヒメの死体も転がっているし、黄龍のどでかい体も牧場の大地に横たわって死んでいる。人格は別として、強さだけは本物の酒クズがここまで消耗してぼろぼろなのは普通に異常事態だ。
モンスターを蘇生して出来たばかりの温泉に投げ込んで湯治をさせつつ、酒クズも治療を行う。そうやって数時間する頃には漸く、危険なラインを越えて一息つく事が出来るようになっていた。ちょっと外が暑いのもあるからゲストルームに叩き込んだらエアコンを全開にするとあぁ、とおっさん臭い声を零してた。
「あ゛ー……生き返るぅ……」
「お前でもあんなにぼろぼろになる事があるんだな、ビックリしたわ」
「まあねぇ、純粋な相性や実力でダメって時もあるしねぇ。私は比較的に怪我が多い方だよ。あんま表ざたにならないだけで……ごくっ、ごくっ、ごくっ……ぷっはぁ! はあ、極楽っ!」
缶ビールを開けると美味しそうに中身を一気に飲み干した。普段なら酒臭いとか文句を言う所だったが、流石にこれだけ苦労した人間にそんな事を言う程俺も鬼ではない。湯治中のモンスター達は他の皆に任せるとして、俺はこの珍客の相手をする事に決めた。
「で、どうしてそんなにぼろぼろだったんだ? お前仮にもSランカーだろ?」
「ん? それ聞いちゃうかあ」
「まあ、そりゃあ」
しばらく考え込む様に酒クズは腕を組むが、新しい缶ビールを片手でカシュ、と開けて飲みだし、それからまあ、いいか、と零す。
「仕事よ、仕事」
「お前……仕事出来たのか……」
驚愕の表情を浮かべて戦慄しているとげらげらげら、と酒クズが笑った。
「まあそうね、そうなるわね! 私が仕事するってガラじゃないものね!」
げらげらげらって笑ってから缶ビールを一口。
「まあ、協会の裏の仕事だからね」
「急にぶっこむじゃん」
「死亡率爆高、表沙汰に出来ないタイプのお仕事ってあるのよ。私って基本的にそっち専門なのよね」
「嫌な話聞いちゃったなぁー」
まあ、モンスター協会も決してクリーンな組織じゃないだろうなぁ、ってのは解ってたんだけどこうもストレートに裏の話が出てくると逆に感心してしまうな。普通にそういうタイプの仕事あるんだぁ、って。フィクションじゃないんだ。
「裏って、どういうの?」
「ん? 法では裁けない奴を始末するとか。未探索の高難易度ダンジョンの先遣調査とか。後は合体して生まれてきた手に負えないモンスターの始末とかねー。蘇生出来ないように処理する方法とかあるのよ。ちなみに今回は先遣調査でちょっと危険な所に行ってきたパターンね……あ、これお土産」
ごそごそと酒クズはぼろぼろの服の中に手を突っ込んで、1枚のカードを取り出した。
そしてそれをペタン、とテーブルに置いた。
「―――《次元城》」
それは《次元城》のスキルカードだった。無論、《次元城》以外で手に入れる事は出来ない。つまりそこまで踏み込むか、或いはその直前のダンジョンで運良く手に入れる以外に手にする手段がない。土産と言って出して来たものを持ち上げて確認し、本物なのを確信する。
「お前……次元城に潜って来たのか!?」
「面白い話しよっか」
にやり、と酒クズが笑う。
「モンスター協会を牛耳ってるトップたちは公平に運営してる……様に見えて実は裏でガンガン権力闘争中なんだよ。その最大の理由はこれまでトップに立って全てを支配してた柊剛三が死んで権力が放棄されてしまったからなんだよね。つまりここ数年、色々と裏では大きな動きがあって、表ざたにならない事は結構あるのよ」
また缶ビールを1つ開ける。ダースで持って来たけど、足りない気がするなぁ。
「ぷっはぁ! 結局色んなお酒飲んで来たけど仕事終わりのこれが一番おいしいかもね……。で、ええと、何の話だっけ? あぁ、そうそう、協会の権力闘争の話ね。つまりね、柊剛三の遺産を狙ってるのは何も柊家だけじゃないのよ」
「協会に協力して一緒にジジイの足跡を追ってる奴がいる、って事?」
「そゆ事」
次元城の話は確か後継者候補にしか知られていない内容の筈だが……そうか、戦力があるのなら馬鹿みたいに継承レースに参加しないで、直接ゴールへと飛べば良いのか。賢い方法だ―――無論、それが可能な戦力が地上に存在するなら、という話が前提に来る。
「今回は私含めて5人の特殊技能持ちマスターが集められたわ。調査内容は柊剛三の足跡を追い、彼が隠してた秘密のダンジョンを暴く事。私達は特殊ダンジョン、ドリームランドに挑戦する事になった。まあ、これが酷い所だったよね。探索中に皆死ぬし。一番奥に辿り着く頃には私1人になっちゃってたし。でも途中で出てくる猫ちゃんは可愛かったわ……」
「猫ちゃんは可愛い」
うん、と頷く。猫は可愛いけどそれ以外は何も可愛くないダンジョンだったよな、アレ。ドリームランドは最終コンテンツ、次元城へと続く入口の様なダンジョンだ。ドリームランドの一番奥、ラスボス討伐後に次元の亀裂が生み出され、そこから次元城へと行く事が出来るのだ。
当然、ドリームランド自体も入る人間を試すレベルで最悪の強さをしたモンスターが野生で襲い掛かってくる。正直コイツが死んでないのに驚きだ。
良くもまぁ、その旧世代レベルの性能であそこに突っ込んで生きて帰って来れたな。あぁ、だから特殊技能マスターなのか。酒クズみたいな特殊能力を持ったマスターを集めたチームだったのかもしれない。どちらにしろ、チームは強制解散したようだが。
「ほんと良く生きてたな……」
「まあね。私はまだ死なないっぽいからね。最終的に黄龍に龍脈と同化して貰ってそれをパスにぶっ飛んで逃げたんだけど、いやあ、体が千切れるかと思った……」
「たぶんお前、体の内側もぼろぼろだからちゃんと検査受けようね……」
酒クズがウチの前に現れた時は何事かと思ったが、偶然出て来た出口がここだったのか、或いは必死に頼れそうな相手を辿って飛んできたのがここだったのか。なんにせよ、酒クズみたいにルールや法則に乗らずに戦う様なマスターじゃなければこの戦力差で生き残る事は出来なかっただろう。
人物としては正直嫌いだが、その強さに関しては尊敬出来る。
「あれだけ苦労して持ち帰れたのがそれ1枚なんだからほんと、割に合わないお仕事だったわ」
「じゃあやらなきゃ良いだろ」
「人間性死滅しててトラブル起こしてばかりでまともにメディアや商業関連の仕事もしない人間がどうやってSランクの大会に出られると思う?」
「うげえ」
「私はコネとアルコール全振りなの」
まあ、手段は褒められたものじゃないが、実力そのものは本物だ。その一点においてケチをつける事は誰にも出来ない。インフレしていく環境の中でこの女は未だに3位という座を守り抜いているのだ、それこそ彼女の実力の証明に他ならない。
とはいえ、人間として付き合いたいかどうかという話をすると俺は迷わずブラックリストにコイツを突っ込むだろう。会わない方が幸せに過ごせるタイプの人だと思う。
「俺は別に親でもなんでもないから特に何も言わないぞ」
はい、と《次元城》を返そうとしたが、酒クズは手をひらひらと振る。
「いらにゃい。それは私が持ってるよりアンタが持ってる方が都合が良いと思うし」
「4人死んででも手に入れた成果だろ。俺には重すぎる」
「良いの、良いの。正直ここに流れ着かなかったら私も死ぬルートに乗ってたしなぁ……いや、でもまだ死ななかったという事はまだって事なのかな……うーん」
ビールを飲む手を止めると、少しだけ考え込む様に唸り、それから再びビールに口を付けて考える事を放棄するように見えた。あまり、深い事を考えたくないという顔をしていた。
「あぁ、そうだ、上が権力争いしてるって話したよね」
頷く。
「彼らが今、一番恐れてるものが何なのか知ってる?」
「……ジジイの帰還?」
その言葉に酒クズは頭を横に振った。
「
「……」
「偶には自分のやってる事、振り返った方が良いかもね」
今のは助けてくれたサービスだから、と言うと酒クズはビールを飲み干してそのままベッドに飛び込んで一瞬で爆睡し始めた。それ以上聞き出せるものが何もないと解ったので俺も空になった缶を集めるとそれを持ってゲストルームを出た。
「ゲームを牛耳る運営側の思惑かぁ。そう言えば考えた事はなかったな、そっち側の事情」
デカい組織である以上、裏があるのは当然の話なんだろうけど……こういう部分があるのはなんというか、知りたくはなかったかもしれない。しかし酒クズの話を聞いていて思った。
「憂鬱も采配も事実上俺専用だったし、それを封じるのってバランスを取る為なのか、それとも……いや、駄目だな、こういう話を聞いた直後だとなんか色々と勘繰っちゃうな……あんま良くないな。酔っぱらいの言う事は、話半分に……か」
まあ、今の自分には関係のない話だと思っておこう。何より今の協会の裏の話、知っていた所でどないするねん、というレベルの話だったし。俺がこれに関わる事はまあ、ないだろう。
俺の炎上騒ぎも年を越せば飽きるだろうし、大会やランクマはその頃になって考えよう。それまでは育成を筆頭として色々とやる事がある。特に今、一番注目すべきなのは来月に迫るゲームショウだ! 館長達がボケナスをやりまくったせいで色々と問題が発生した俺達の原作作り! 俺達が魂を込めて作った原作が! 原作に! 原作として! 生まれるッッ!
来月、楽しみだなぁ。一般評価どうなるかな……。
今はとりあえずこのお土産のスキルカードを叡智の書に突っ込んで会話内容を忘れ、来月を楽しみに再びトレーニングに戻ろう。
どうせ、世界は俺の知らない所で勝手に回り続けるのだから。
メリー(初代魔女)加入辺りの勧誘内容を修正したので暇があればご確認ください。尊くんの罪深さが少し上がってます。