国木田仮面は両親にペコペコ挨拶するとお土産だけ置いて帰ってしまった。
なんかウチの両親にはずっと苦手意識があるらしい。まあ、初対面がアレだったからね……それもしゃーない。それでも地味に時々足を運んでは挨拶したり土産持って来る辺り、本当にちゃんとした社会人だよ、仮面マン。
どっかの酒クズとは大違いだぜ。いや、先日の情報は面白かったけど何も役に立たないし。
鱗が乾燥してお外は辛いのぉ! とか言ってるおぢさんを外に蹴り出してトレーニングに送り出しつつ、自分はぬくぬくと中に戻り、仮面マンから受け取った分厚い封筒を抱えてこたつのあるリビングに戻る。
それから俺も無事こたつの一部となる。
「国木田だったか」
「なんか協会の印象を良く出来る類の仕事をリストアップしてくれたから参考にして欲しいだって」
「お兄ちゃん気を遣われてるね」
「でしょ」
褒められる事ではないが?
とりあえずこたつの中でぬくぬくしながら封筒を置くと、こたつの中に潜っていたチビがずぽ、と中から顔を出した。今日はどうやら灯に甘えたい様で、灯の膝の上に頭を乗せるとそのまま眠そうに目を細めてうとうとしている。完全に室内犬に戻ってしまったなコイツ……。
獰猛で邪悪な狼の設定はどこに行った?
まあ、ええか。灯、俺、久遠、チビでこたつを堪能しつつ、封筒を開けると何枚もの書類が出て来た。その1枚を久遠が拾い上げて確認する。
「ふむ、これら1つ1つがミコト向けの仕事みたいだな……む、付箋やメモがついてるぞ。どうやら貴様の為に整理してくれた様だな」
「今度なんかお礼しとくか」
「お兄ちゃんでも出来る仕事ってどんなんだろ」
俺でもって言い方は酷くないか? 個性潰せばなんだって出来るぞ俺は。ただ、今はそういう事をしたくないだけで。でも確かに、本能寺芸人であるこの俺向けの仕事ってどういうのがあるのか気になってくるのは確かだ。俺も早速封筒の中身を確認する。
「ほう、富裕層の子供向けに初めてのモンスターを捕まえる仕事だそうだ。指定されたモンスターを捕まえ、ついでに従うように調教するのが仕事みたいだな。確かに常に需要のある仕事だが……貴様にやらせるほどの事か?」
「協会の上層部の知り合いとか家族とかそういう所の子供じゃないかな? Bランクはコスパ良さそうだし、仮面さんと叶さんの保証あるなら信用できるって奴。……あ、お兄ちゃん、こっちはダンジョンの先遣調査依頼だよ」
「え、見せて見せて……資源採取用ダンジョンの調査と安全確認か」
確かに今の人類って資源をダンジョンに依存するようになったから、国家間で資源を原因に戦争とか紛争とか起こさなくなったんだよね。人は豊かになれば自然と闘争を忌避する……とは誰が言ったのか。確かに貧困層が食えなくなる事は少なくなった。ダンジョンがあるからそこで飯が調達できるから。
問題は彼ら自身が飯になる時があるという事だ。
だけどレアメタルの類が取れるダンジョンは未だに希少で、良く求められている。この手のダンジョンが発見されると土地諸共買い取ってダンジョンを保護し、ダンジョンが消滅するまで資源を回収し続けるシステムが今はある。
だからダンジョンの安全調査やマッピングは割と需要のある仕事だったっけ。それ専門の業者とかもあるし。
「こっちはテレビ出演の仕事だな」
「え、お兄ちゃんには無理でしょ」
「断言してくれるなこの妹め」
これにもメモが用意されてあって、局の方針や司会者の傾向まで書いてある。何かあれば連絡とか書いてあるし、メッチャサポートが手厚い。へぇ、テレビに出て環境の話すれば良いのか。今の環境の話を一般向けにするのは悪くないかも。啓蒙出来れば全体の底上げになるか……?
折角東吾と仮面マンが骨を折ってくれたのだ、俺もちょっとは頑張って仕事しないとならないな。
とはいえ、なるべく人と関わらないタイプの仕事が良いかもなあ。知らない人とうまくやって行く自信が俺にはない。というか万人受けするキャラでやってないのは理解してる。俺の存在はちょっと世間一般には劇薬すぎる。
「家庭教師か……低ランクマスターの家庭教師としてバトルを教えるってのは悪くないなぁ」
「お兄ちゃんが人にものを……!?」
「ラブリーシスターよ、流石に俺を舐め過ぎだ」
見てくれよ七海を。アレは事実上の俺の弟子だぞ。ひぃんひぃん鳴いてた生き物が今では俺の首元に刃を突きつける謎生物にまで成長していたんだぞ。アレを見れば俺がものを教える事が出来るって解るだろうに。危険思想は植え付けるかもしれないけど。それぐらい強さの代償になら安いだろ。
「そこだよ」
「そういう所だぞ」
ナチュラルに人の考えを読める2人だった。くそぉ……。
「しかしこんなに色んな仕事があるんだな……高位マスターの需要ってもんをこうすると可視化するな。あのレとしか喋らない連中も少しぐらいは仕事すれば良いのに……」
「まあ、事実上あそこに駐屯してダンジョン間引くのが業務みたいなものだから」
それはそうなんだけど。というか凄い助かってるんだけどそれで。お蔭でウチの裏庭は何時の間にかAとかBとか何故かSまでいる変な環境になってるしな。
Aがこれまで年1だか2だけで会場が東京、大阪、横浜、京都、札幌、名古屋とどこだっけ? 日本規模だと年に10人から12人ぐらいまでしかAは生まれてこない事を考えるとAの人口ってやっぱ限られてるよな。ウチの庭になぜか20人ぐらいいるけど。ほんと何なんだアイツら。
「……」
「ミコト、どうした? 変な仕事でも見つけたか?」
「あ、偉いお爺ちゃんとお茶飲みながら剛三お爺ちゃんの話してるだけで1時間1000万のお仕事だって」
「燃やしておけ」
灯が暖炉の中にヤバそうな仕事を投げ込む。さりげなくヤバいの混じってるじゃん! 混じってるじゃんヤバそうなの!! それとも本当にマジでただのジジイファンなのか? いや、純粋なファンはいてもおかしくはないんだけど。それはそれとして数時間ジジイの話してるのは嫌だよ。
塩撒いておけ。しっしっ。
「そうじゃなくて……こういう仕事を見てるとさ、これは合法だけど非合法の仕事とかある訳じゃん? そしてそういうのに参加してくる闇マスターとか」
「なんか聞くね、犯罪マスターの話」
強盗とか殺人とか、闇マスターの組織とかそこそこ聞く話だ。ああいう話を聞いてるとAランクは年あたり10人前後で押さえられてる筈なのに、そういう所から想定されていない闇のAランクマスターとか出現してくるよなぁ。
闇のAランクマスターって字面がなんかもう……何? って感じがするけど。
「ああいう犯罪者連中って結局普通に認定戦受けた後闇落ちしてる訳?」
「昔聞いた話だが裏社会の認定戦があるらしいな」
「マジで!?」
「何その漫画みたいなのー!」
久遠の何気ない言葉にほえー、となる。裏社会の認定戦なんてあるんだ。え、いや、成立するのそれ? 認定戦って儀式みたいなプロセスだから簡略化するのは難しいって館長が前話をしてた筈なんだけど。
「詳しい話は知らないし、父は教えてくれなかったが、裏社会には裏社会なりのランカーやランクの上げ方があるらしく、それを通してちゃんと上位のモンスターを作成できるようになるらしい」
「まあ、非合法のマスターが居るのは知ってたけど、裏社会用の認定戦なんてあるんだ……へぇ、知らなかったな。という事は認知してない所でAとかSのマスターが生まれてたりするのか」
「するらしいな」
久遠がもっきゅもっきゅと幸せそうにあんみつを食べてる。久遠はあんみつが大好物なのだが、普段から食べていると飽きるし勿体ないから、という事で週に食べる個数を制限している。
制限してるのだが……食べる姿が結構幸せそうで俺は好きなのだ。
美味しそうに食べる君が好き。もうちょっと食べる回数増やしても良いと思うよ。でもストイックな君も好き。やはりそのままで良いかも。
「まあ、私達がそれらに関わる事はないだろう。関わるにしても心配する事はない」
久遠は続ける。
「プロシーンで戦うマスターの方が強い……と父は最後に言っていた。私にはその言葉で十分だ」
「修三さんがそう言うなら間違いないかな」
「そだね」
ちょっと興味深い話だったけどこの話題はここで終わり。仮面マンが持ち込んで来た仕事を確認し、それから自分でも出来そうなのを何個か選別する。とりあえず出来そうだな……って奴に挑戦して、まだやれそうならもうちょい手を出す。
面倒だからと諦めず、挑戦してみるのは可能性を広げる事だ。
仮面マンと東吾が折角用意したのだ、それを放置してたら罰が当たる。偶には俺も善行を重ねないとちゃんとした死にざまを迎えられない。
という訳で。
鴉羽尊、初めてのお仕事である。