対戦が終わって挨拶を済ませて皆で集まる。
そして当然のようにチビの周りに集まる。
「わうぅ? ワン!」
どしたの? あ、尻尾だ! と言って自分の尻尾を追いかけ回してるチビを見てると癒やされるのはいいけど、本人……本犬? 本狼は自分が引き起こした謎現象をまるで理解していなかった。
「勝負の感想は色々とあるのにさっきの謎現象のせいで頭に何も入ってこねぇ……!」
「それな」
「ワン公……あれ、どやったん……?」
ノトスがチビの前で膝を折って視線を合わせると尻尾を追いかけてたチビはごろん、と転がってノトスを見て首を傾げる。この犬、自分のやったことに欠片も関心がない。
その代わりに俺たちが困惑してた。
ノトスとウェルギリウスが良い感じのエクスカリ棒でチビと遊び始める中、俺達は頭を突き合わせて会議を始める。
「いや、追加効果の判定は命中してからだろ」
「さっきのは絶対回避スキルだから必中効果以外は意味がないはずだぞ。確実に回避してた。なんなら余分にストックがあったはずだぞ」
「じゃあなんで火傷ったんだよ!! 当たった筈だろ!」
「当たってたら魔法で死んでる! 当たってないから魔法耐えたんだよ!!」
「無の火傷判定どこから生えたんだよ!!!!!」
皆で頭を抱えた。ついでに様子を見に来た協会の人も一緒に頭を抱えた。こういう謎現象はルールの死角になりやすいのでちゃんと把握して原因を洗わないとならない。
なのに誰も理解できてない。そりゃあ頭を抱えるわ。
「……庇う処理が悪さしたこれ?」
「ワンチャンあるな」
「回避してるのに庇ってるから回避処理に味方の受けるべき効果が発生してる? 確かに見てて物理的に意味の解んない動きだったしなんか発生しちゃいけない物理法則起こしてる可能性はあるよな」
「試すの危険か……?」
まあまあ危険かも。だから皆で顔を見合わせて頷いた。
「チビー、検証するからおいでー」
「ドローンを映像記録モードにします。私達が死んでも映像はこれで残るはずです」
「でかした!」
「流石協会の人! 気配り上手!」
「そんな……当然の事ですよ……」
じゃあ、早速検証します。
まずはチビだけを対象に追加効果付きのブレスを《カオスタイム》の絶対回避で回避する。当然何も発生しない。回避してるから当然だ。
じゃあ今度は《ワイドガード》で味方を庇わせながら回避する。最初に試しても何も起きないが、検証のために何回か繰り返していると再現性が見えてきた。
100%ではないが、どうやら庇った時限定で何か良く解らないものが発生して確率で追加効果が発生してしまうらしい。
余計に原理が理解出来なくなった。
「確定で発動するなら解るけどなんで確率!? 再現性あるのに確率発動!? どうして!?」
「どういう事だよ!!!」
「余計に解らなくなって来たぜ!!」
「なんで回避と庇う組み合わせると確率で通るんだよ!!」
皆で頭を抱えた抱えた。バトル学会の新しい議題が生まれた。それを察して研究好きの変態達が集まって、俺達から検証結果を回収すると深淵へと帰って行った。じゃあの。あとは任せたわ。でもなんか悪用できそうだよね。出来たら報告お願いします。
変な仕様からしか得られない栄養素はある……のかもしれない。
解らないから専門の変態チームに検証を任せ、ちょっと休憩。感想戦に入る。
今回の軸は絶対回避のチビ! ……ではなく、妨害と強化無効を積み込んだウェルギリウスである。この構築で最もヤバいと評判の死神、恐らく1:1だとウチのメンバー相手に封殺全勝出来る。それぐらいヤバい。
「実はインタラパフェキャン抜き」
「だろうな! なんかそんな気配はしてたよ!」
「強化無効ループ組んでひたすら詠唱沈黙させてガリガリ削るのマジでヤバかったよ。見た目地味だけど行動をほぼロックされてて半分詰んでたわ」
「攻撃はチビで吸い込むから反撃も怖くないんだよね。範囲はワイガで対処して」
パフェキャンのバリューは確かに高いのだが、試合中に無制限に使えるものじゃないので、長期戦想定になるとパフェキャンよりもループやロックが組める何度も使えるスキルのがパーツとしての単価が高くなる。
今回はそういう事でパフェキャンを抜いた構築にした。
相手側に過失は今回はほぼない。あるとすれば何らかのロック対策を積んでおこう、というぐらいだろう。というかクリゴくん、馬鹿硬くて笑っちゃった。クリで防御抜かれる前提でもしやHP特化にしてる?
めっちゃ賢いなぁ……。初手でクリ耐性付ける辺り環境意識もあってよかった。ただ単純に相手が悪かった。そう、俺が強すぎるだけだ。
という訳で更に一戦、ランクマを追加。
今度はエデをウェルギリウスと入れ替えてのミレーナ構築。エデがいない関係上詠唱蓄積に倍以上の時間がかかるも、ウェルギリウスのデバフと足止めでエストが後半戦に入るまでずっと元気でいられた。
最初のターンに登場と暴走を合わせて20、図書館込みで21になる。そこに《高速詠唱》入れて24になる。
2ターン目図書高速で+4の28。
3ターン目図書高速で32になって《アルティメットフォーム》を即時解禁。
次のターンから2倍蓄積になって図書館と高速で毎ターン+8蓄積。
4ターン目に10、5ターン目に18で、6ターン目に26になって7ターン目で漸く34になる。《復唱・極》発動を祈るなら後1ターン遅らせて詠唱を42までスタックさせればデスペリアで消費しても12残る、これなら復唱率60%でまあ悪くない率だろう。
そこまで大体8ターンかかる。
エデがいるとこれが2倍速で達成できる上に復唱率100%になる。
アタッカーはバッファー次第でぶっ壊れる。エデ抜きだとちゃんとランプしてるのにエデ込みだと完全にアグロの速度になるな、これ……。いや、それでも十分強いよ、ミレーナ編成は。そもそもワンパンか2パンでリーサル級の火力が出せる事自体が異常なのだ。
まあ、《デスペリアハザード》は脅威の全体2000%倍率とかいうちょっと頭のおかしい倍率してるのでしょうがないって部分もある。物理はクリとOCで2倍4倍とダメージが飛ぶので元が単体500%攻撃でもOCで一気に2000%までぶっ飛ぶが、魔法にはそれがない。
なのでキャラ固有の必殺級魔法はそれ相応の倍率に設定しないとまあまあ不憫というか産廃になってしまうのだが……それにしたって魔法で倍率2000%は中々異常な数値だ。中級全体魔法が大体380%ぐらいだって覚えておきましょうね。《ダブルマジック》で放っても合計760%ぐらい。合体して上級魔法出せばそれが大体全体500%から600%ぐらいかな。
中級2連コンボからの合体で合計1260%ぐらい。あらぁ、デスペリア単体に対して700%以上の開きがあるんじゃない? やっぱ頭おかしいなコレ……。
コレ1本で今、この瞬間にAランクとも戦えるのでどんだけヤバイのかが解るだろう。
Bランクからはインフレが進む。ゲームシステムのメタ的な話をするとモンスターが戦闘に増えた結果登場するスキルが1チーム8枠、合計で16枠増える。これはそれだけ耐久、回復の手段が増えるという事でもある。
それに合わせて火力のラインを上げないと戦闘のペースそのものが下がってしまう。その為、Bからはインフレが進み、それがSでは爆発する。無論、これは順調にスキルの圧縮やモンスターの血統構築を完成させている場合の話だ。
現状、世界的にそれを成功させているのは俺ぐらいだ。一部マスターが今の勝利よりも未来への投資を優先してモンスターの再合体やスキルの圧縮を行っているが、それが日の目を見るのは数年先の話だろう。
だから現状、俺一人がぶっ飛んでいるように見える。
だがこれが、将来的にスタンダードになる事を俺は信じている。というかそうじゃないと困ると何百回何千回も言っている。このために駆間で検証したデータや成果を定期的に逆田へ雅人を通して横流ししているのだから。
雅人……結構逆田に友人とかパイプが出来ていて俺、泣けますよ。アイツも少しずつ成長してるんだなぁ、人間的に。所で俺達の王兄さまは柊クラッシャーメンタルから成長しましたか?
いや、アレは成長しきった結果かも。
ともあれ、エデ抜き構築だとリーサルラインまで大体8ターン、エデ込みと比べると2倍近い時間がかかった。この場合、エストがひたすら8ターンの間攻撃を受けないといけないので、何らかのヒール手段を備えるべきだという結論も出せた。
これでランクマ3戦終了―――フリーマッチに突入する。
そしてここで最も重要なマッチを行う。
ミレーナ構築で
無論、そんなマルチな動きが出来るモンスターが野良で居る訳ないし、保有しているマスターもいない。情報流した所で直ぐに用意出来る訳ではない。
なのでここはウェルギリウスを対戦相手にレンタルする。そう、駆間では普通にモンスターを貸し出したマッチが盛んなのである。世界からすれば異端なのかもしれないが、駆間を始めとするダンジョン活性域では指揮するモンスターを選ばないし、モンスター側も何故か即座に反応出来てしまうのだ。
やっぱこの土地なんかおかしいよ!
という訳でウェルギリウスの運用方法を説明し、レンタル開始。
結果、惨敗。
初手《ノイズキャンセリング》によりエデ崩壊。打ち消し成功により強化無効をミレーヌに付与、登場が無残にも失敗、そのままHPが割合ダメによって削られ、詠唱もパフェキャンによって封じられる。
サクッと忘却まで差し込まれて見事行動不能に陥り、そのままノイキャンと強化無効で無事何も出来ずにミレーナが昇天。エストが守ろうにも防御指定を抜けて直接HPを減らすのでエストでは庇えず、タンク越しにエデが死亡する。
アタッカーが崩壊すると圧力が消えて簡単にタンクとサポートも昇天し、ゲームセット。ウェルギリウス1人に此方の最強構築が崩壊する。やっぱガンメタされるとこんなもんかなー、というのが再確認できたのと、改めて何を積むべきなのかを考えさせられた。
それからもう数マッチ構築を切り替え、入れ替えつつ新しいモンスター達の試運転を行い、大体のデータを集めた所でBランク戦線の開幕はとりあえずの終わりを告げた。
変なバグにも遭遇したが、結果を見れば構築の問題点を見直せる悪くない日だった。