Bランク戦線を開始して1ヶ月時が進む。
その間に環境の変化を感じた。
去年まではたしかにあったアグロ環境は徐々に後ろめに変化していた。
その最大の理由は間違いなく流通し始めた《暗黒樹海》の存在だろう。何故か大量流通し始めたこのスキルカードの影響で単体スキルを躱す事が可能になり、その影響で試合が長引くようになった。
下位では勿論の事、上位帯では打ち消しをすり抜ける為にさえ活用される樹海の恩恵は大きくバトルシーンを変えた。それに加えブライアンが表舞台に立たなくなった影響もあった。
最強のマスタースキルを使うアグロの使い手が姿を消し、代わりにバフを積んで殴るミッドレンジ寄りなマスター仮面がグランドマスターとして活躍することで世界はそっちに注目するようになった。
環境は流動的なものだ。強さだけではなく、流行によっても変わってくる。アグロは解りやすく快適だった、だがそれだけでずっと居座る訳では無い。
そういうこともあり、Bランクの試合は長引きやすい展開を構築しやすくなっていた。
妨害が増え、どうやって相手の動きを止めて殴るか、というのが研究されるようになってきた。アグロ一強から環境は変わりつつあった。
それが俺に影響あるの? って話をされると……まあ、ない!
そもそもこっちはメタ対面を回避出来るようにモンスター育ててるので、それっぽいのは対面回避して戦えばいいのだ。詠唱メタが飛んできたらチビとノトスの出番である。
そもノトスはほぼパッシブの塊だからバフ抜きでもクリ確定ラインに届くのであんまり火力が落ちない。多少メタられた程度で揺るぎはしないのだ。だからその死神はしまってね。流石にそれはまずい。
初動は順調、エストミレーナエデの並びを攻略するのは少々難しい。環境最強格を揃えた結論パはちょっとやそっとのメタでは揺るがない。
1月を全勝で乗り切りつつ、2月になってちょっとした変化が起きた。
原作(仮)、正式リリースである。
ちなみに正式名称はちゃんとある。というか原作そのまま利用させて貰った。
コマーシャルにはマスター仮面とブライアンをコネで起用、業界トップの有名人になんてことさせてんだよ! という感じのCMになった。分身したり踊ったり歌ったり。良くオーケー出したね君ら。
超有名人が出演したCMを出した事もあり、知名度が日本のSNSで話題になる程度からもうちょっと拡大、初週売上は20万本になったらしい。すげー。
これでもメガヒット、メジャータイトルとなると50万とか90万の世界に踏み込むらしいので、新作、似たようなタイトルがある中で打ち出したゲームの初週の成果としては破格の数だった。
それだけ注目されていたのだろう。
実装範囲はSランクからワールドツアー込みで海外マップ実装。ここに根の国、図書館、そしてなんと樹海のマップデータまで盛り込んでいる。
当然、使用データは全部本物だ。
これ一本で今、リアルで存在する範囲のモンスターやバトル、ダンジョンの予習にもなる。ついでに条件が不明なレアダンジョンやレアモンスターの出現条件もちゃんとそのまま実装した。
解析は絶対に出来ないよう館長達が気合入れた結果もあり売出しは順調……海外の海賊版文化からはかなりのバッシングと低評価を貰いもしたが無視。そのまま販売。
ゲーム終盤に入り、あ、これ根の国そのまま全部入ってるじゃん!!!! と気づく者が現れた瞬間死ぬほどバズった。
本物があるからゲームなんてしなくていいぞ、と言ってた連中が一瞬で参入、2月末になる頃には100万本を超える結果を出していた。
これまではネットにテロ気味に情報を放流する事で環境のアップデートを図ってたが、これによりゲームにアップデートやDLCとして追加することで新しいダンジョンやスキルを届けることが出来るようになった。
情報が広がれば広がる程業界の唯一無二としての地位を確立し、他のコピー商品を排除するだろう。ゲーム内のランクマも稼働率そこそこ、徐々に利用者が増えているのは順調に計画が進んでいる証だった。
私生活が順調に進んでいる中、3月が近づくと段々と中学卒業が見えてくる。
あんなに色々とあった中学生活もBランクで終わり、Aは高校中に……果たしてSは高校生在学中に届くのだろうか? そんな疑問を抱えながら新学年が迫っていた。
しかしどうせこのまま駆間高校に行くしな……と思っている所に、アイツはやって来た。
「よ、尊」
「よ、東吾」
牧場ドラゴン達のケアをしていると東吾が顔出してきた。大きなブラシを使ってゴシゴシと鱗を削るように掃除すると、気持ちよさそうに目を細めてだらり、と雪の中にカラダを投げ出す。溶けてるようにリラックスする姿は中々威厳が無くて可愛らしい。
『おとーさんぼくもー』
『ぱぱーわたしもー』
『おとーさーん』
「はいはい、順番にな。良い子で待っててね」
じゃれついてくるドラゴン達の姿はもう既に俺よりもデカく、大きなもので10m級の大きさをしている。しかし中身はまだまだ子供……というより合体前のミニドラ状態を強く引き継いでる様で、中々の甘えん坊集団だった。
ドラゴンの体は大きく、そして鱗も硬い。汚れの溜まった鱗を掃除するにはかなり力を込めて鱗を削るつもりでブラシを動かす必要がある。だがその力加減がドラゴン達には丁度良いぐらいになる。
角も定期的に削ったりしないと変な伸び方するからね。こっちも重労働なのだがしっかりしないとならない。
「大変そうだな」
「育児の大変さを噛み締めてる。合体して五世代目に入れば精神も成熟するって聞いてたんだけどな……」
「一般的にはそうだな。お前は中々珍しいケースを引いてるよ」
手元のドラゴンがもっとと尻尾をばたつかせたのでブラシに力を込めて鱗を磨く。これ、やると気持ち良さそうだし、終わったあとに鱗がピカピカになってて嬉しそうなんだよね。
とはいえかなり疲れるから1ヶ月に1度、皆纏めてやる、って感じになるが。
「何でだろ……甘やかしすぎた?」
うーん、と唸っているとそうだなぁ、と東吾が顎を摩る。
「やはり特殊ケースなんじゃないか? 未来から干渉されるとか……合体先から干渉されるとかお前の場合そこそこの確率であり得るケースだろ? ドラゴンの精神性が成長しないのはそう言う事なんじゃないか?」
いや、まあ、そういうのはありえる世界だし実際経験してる部分もあるから否定できないけどよ。
「なに? 超カッコいいドラゴン様が実は若返りおぎゃばぶ願望持ちって話をしたいのか??? 神龍って君臨すれど統治はせずってスタンスで世界の頂点に立っていた生物やぞ。おぎゃばぶドラゴンとか俺嫌だぞ!!!」
俺の言葉に東吾は数秒考えてから頷いた。
「この話は止めておくか」
「うん」
良し、これで終わり! 磨き終わってピカピカになった子のケツを叩いて立たせると、他の子達の所へと見せびらかすように走って行った。流石に肩が凝った。
「お前達はもう少し後! 遊んでおいで!」
『はーい!』
『いっくよー!』
『わーい!』
『ボスー! あそぼー!』
雪の中でごろごろしてたチビを目敏く発見すると、そっちの方へと走って行く。見つかったチビは年長者ぽい雰囲気を出して良いだろう、という顔をすると直ぐに走り回って駆けっ子して遊びだす。
走って蹴り飛ばされた雪の中からここ数日行方不明になっていたララの死体が舞う。埋もれてたか……。飛んできた冷たいララをキャッチして、蘇生アイテムを突っ込んだらそのまま家の方へとリリース。んもー、また簡単に死ぬんだからー。
「しかし最近は調子が良いみたいだな」
「まあね、漸くここまで重ねてきた血統の強さが表に出せるようになった……って感じかな」
「元からモンスターのパワー自体はあっただろ」
「アレで? 全然ポテンシャルを発揮出来てなかったよ」
ここまでのランクはキャラパワーの強さで突破してきたみたいなものだ。特にウェルギリウスとフラメアのパワーがC帯ではデカかった。逆に言えばこの2人抜きでは絶対に勝ち抜けなかったと思う。スキルとキャラクターの性能、それを先取りする事で不足を解消していた。
だがBからは違う。
Bからはエストやエデが活躍できるようになるし、これまで積み重ねてきた血統の力が発揮できる。この世界で研究が進んでおらず、認知の薄い領域の話だ。
1からSランク向けのモンスターを作ろうとすればBで半年、Aで8か月、Sで1年と1体育てるのに2年以上の時間を要求されるだろう。血統の積み重ねがSでどういう影響を与えるのか、これを調べるのには相当な時間と覚悟が必要になる。
ゲームではスキップとセーブ&ロードが活用出来たが、実験した結果ゴミみたいなSモンスターが生まれた時、この世界ではそれをなかった事にする事は出来ない。だから血統の積み重ねの検証、それを行うだけの力や環境がない。
だがその中で、俺だけが正しい法則を知っている。
だから環境に居るあらゆるプレイヤーよりも1.5倍増しの強さを発揮できる。そしてこの差は上のランクに行けば行くほど増えて行く。正しい血の積み重ねがどれだけの力を発揮するのか、それが真価を発揮するのはこのBから、そしてSで爆発を起こすだろう。
「まだまだ、もっと強くなれる。そして強くならないとアイツらには勝てない」
「……ま、そうだな。お前だけじゃなくて俺ももっと強くならないとな」
雪の中ではしゃぐチビとドラゴン達。図体はでかい癖にはしゃぎまわる姿を見てるともしかしてチビが悪影響になってないかこれ……? というちょっとした気付きを得た。もしかしてお前らチビを見て育ってる? ほんと止めてよね、チビは子犬時代が長かったのが悪いんだから。君達はちゃんと威厳あるドラゴンに成長してください。
おぎゃばぶ神龍が現れたら死ぬぞ。
竜王様がショックで。
ちょくちょくミストが情操教育している所は目撃してる筈なのになぁ……。
しかし、そろそろ子供扱いせずに実戦経験も積ませないとならない。将来的に神龍にする為に全員統合させるのだから、それまでに体に直接戦闘経験を叩き込まないとランクマで咄嗟の動きが出て来ない可能性もある。
まあ、その前に何十回も合体を繰り返す必要があるのだが。
神龍血統の作成条件は異界のドラゴンを血統内でコンプしつつ最終世代合体時竜王の鱗を使う事だ。そしてこの異界のドラゴンってのは普通に4世代目や5世代目で何十という数が存在する為、ストレートに合体させるだけじゃコンプ出来ないのだ。
その仕様のせいで発見が遅れたモンスターでもある。
同世代を合体させると次の世代にシフトする。この仕様を逆手に取り、下の世代と合体させる事で世代をキープしたり下げたりする事で血統内の情報を増やす事が出来る。これを駆使する事で神龍を作成する事が出来るようになる。最終的には第6世代……Aランクで全ての情報を2分化させたドラゴンを用意し、そこに竜王の鱗を使って神龍を作成する事になる。
ちなみにこれを駆使して血統内に情報を増やせるなら厳選不要じゃね? って意見もあるだろう。ノア解放済みで合体先をある程度コントロールできるならいざ知らず、デフォルト状態の合体だと余計なモンスターが混じった影響で血統内にノイズが混じる。
そのせいで得意ステータスが思ってた程伸びなかったり、予定よりもステータスが低かったりボーナスが違う所に乗ったり……なんて事故も起きうる。それを回避する為にもなるべく最短ルートの最適ルートを構築するのが大事だ。
なので神龍の合体はかなり難易度が高く、そして事前知識なしで合体を発見する事は不可能に近い。俺もWIKIを見なければ一生理解できなかっただろう、こんなパズルみたいな合体レシピは。
「と、そうだ、お前に頼まれてた物を持って来たぞ」
「お、サンキュー」
コートの中から東吾が1枚の大型封筒を取り出し、それを渡してくる。受け取ったそれの中身を開けて確認すれば、数枚の書類が入っている。
「お前が求めてたヒマラヤ山脈の入山許可証だ」
「これがないと今のヒマラヤって入れないらしいから困ってたんだよね……おー、確かに5か国からの許可が出てる。すげぇ」
インド、中国、ネパール、ブータン、パキスタンの5か国をまたがるヒマラヤ山脈は今、微妙な立ち位置になっていてそれぞれの国の許可がないと入る事が出来ない。ヒマラヤの周辺に住んでいる人や小規模な村は幾つかあるのだが、それとは別に外から来る人間は許可を取る必要がある。
というのもヒマラヤ一帯が広大なダンジョンになっている部分があるからだ。
ダンジョンゲートを使わない、その場所や空間そのものがダンジョンと同化してしまったダンジョンの末期パターンだ。ヒマラヤ山脈の様に広く、そして人の目が届かない場所にダンジョンが発生した場合、それは末期状態まで放置されやすい。
ダンジョンは徐々に周辺の環境を侵食し、同化する。そして最終的にはその地域と融合して一体化するのだ。そうなるともはやゲートもなしにその場所自体がダンジョンとなる。ヒマラヤ山脈はそういうダンジョン化した地域が多く、人が入るのに危険な地域となっている。
出現モンスターもレベルが70代から90代と範囲が広く、強い。
1地域探るだけなら1国の許可を取れば良いが、広い範囲で探索するとなると粗を残さない為にもそれぞれの国に許可を取った方が良い。ゲーム内での大まかな位置は把握しているが、必ずしも同じ場所にあるとは限らない。
―――ドラゴンズバレーは。
「本当に行くつもりか?」
心配する声色を東吾が見せるので書類から顔を上げ、東吾を見る。昔はあんなにでっかく見えたのに……今じゃ身長もだいぶ近づいて来た感じがする。後数か月もすれば俺も高校生だし、当たり前かもしれない。俺も成長してるんだなぁ。
「竜王様は何というか……凄いプライドが高く、誇り高い方なんだけど……そういう気高さを他人にも求めるフシがあるんだよね。もし俺が東吾とか国木田仮面とかブライアンとか連れて挨拶に向かったら他人の威を借りなければ一々会話出来ないのか? って怒られそうなんだよね」
まあ、それぐらいの反応が出来るだけ元気があるかどうか……って疑問もあるが。ボケカスクソ女神に負けて神龍が死んで角折られて敗北して逃げ帰って以来、すっかりと負け犬根性染みついてるからなぁ、竜王様。まあ、唯一全能者に傷を付ける事が出来た存在なのでその時点で大健闘したと褒め称えるべきなのだが。
なんにせよ、問題はない。
「ヒマラヤ周辺のモンスターは調べてあるけどウチの魔女が薙ぎ払って倒せる範疇の奴らばかりだから戦力的には問題ないし、最悪迷ったら図書館経由で脱出するから。それに行くのはまだちょい先の話だからね」
「本当に頼むぞ、こんな所でお前に死なれたらどうしようもないからな」
はあ、と溜息を吐く東吾は少しだけ苦労が垣間見える気がした。マスター仮面がGMになって世界規模で動き回るようになった結果、国内でマスター仮面が引き受けてた仕事を東吾が引き受ける様になった。その結果、これまでにない忙しさを味わっているそうだ。
なおブライアンは育成に集中している為仕事は全放棄、逃亡中。定期的にこっちに連絡をしてはレシピや構築の話してる。永世GMになって自由になった瞬間好き勝手やってるからアイツ本当にGMとしての立場が面倒だったんだな……。
「あぁ、そうだ、尊。これは別件なんだが進学先は考えてあるか?」
「進学先? このまま駆間高校に進学する予定だけど」
「そうか……まあ、そうだよな」
そう言いながら東吾は懐からパンフレットを1枚取り出し、渡して来た。そこには俺でも知っている有名な学園の名前が記載されていた。
「これって超有名なマスター養成校のパンフレットじゃん」
「あぁ。俺から……というより協会からの頼みを仲介している形になる」
排出されたSランカーの数や、施設の規模や質がパンフレットには記載されている……確か、世界でマスターを育てる為にこれ以上の教育機関は存在しないと言われているんだっけ。ここを卒業するだけで卒業後は引く手数多だとか。
「協会から?」
「あぁ、お前に是非高校からの進学先を考えて欲しいとさ」
パンフレットを眺めながらほえーと呟く。
なんか進学候補、見学する事になりそうです。