法をぶっちぎってない? ヤバイ事してない? そんな考えは当然脳をよぎったりもする。だけど鴉羽尊という人間はここら辺躊躇しない事をウリにしてるのでここまで来たらフルスロットルで突っ込んで行くしかない。
レッツ・エンジョイあの世!
という訳でまずは裏口の門番、マガちゃんがメタられてる所を眺める。巨大化黒い九尾の狐が一方的にリンチされている大スケール戦闘を遮蔽物もなしに味わうのは最高のスリルに尽きる。ここにはバリアも結界もなければ守ってくれる人もいない。攻撃の余波に巻き込まれるとどうなる?
そう! 死ぬ!
そこ、頭下げないと消し飛ぶよ。うん、髪の毛ちょっと消し飛んだ? 死ななければ安い安い。じゃあマガちゃんが死ぬ姿眺めながら次に行ってみよー!
という事でアメリカ人たちを連れまわす。アメリカ人だけじゃないんだけど、まあ、アメリカ人グループという事で。最近はゲームでマップが判明した影響もあるから根の国をちらほらと歩き回ってる姿もあるなぁ。手を振れば当然手を振り返してくる。
じゃあ、挨拶した所でもっと奥に行こうか……は? なに泣いてるんだよ? お前らの弱さと情けなさに泣きたいのはこっちだよ。大丈夫、大丈夫、終われば少しは強くなれるかもしれないって。あぁ、うん、保証は出来ないけど頑張ろう!
「あたまおかしい」
「頭のおかしい奴だけがトッププロになれるんだぞ」
「トッププロになる気はねぇってさっきから言ってるのに聞いてくれないなぁ、困ったなぁ」
「困ったって言いながら視線が告死蝶を追っている君、才能あるよ。駆間に来ない?」
「いかない。卒業したら楽して稼ぎたいから。俺はBランクのぬるま湯でそこそこお金を稼いで楽して生きていたいんだ」
そんなぁ……主人公くん間違いなく才能あると思うのに……それはそれとしてそんな事が出来る様な未来は残されてないと思うので死に物狂いで頑張ってください。マガちゃんの死体に蘇生アイテム投げ込んでついでにスキルカードを数枚使う。復活して性能変化したマガちゃんが早速リターンマッチをSランカーに行い始め、地獄が再開される。
嬉しそうな悲鳴を上げるSランカーにばいばいしながら次のエリアへ。
到着するのは根の国でも有名なスポット!
「ヤマタノオロチさんの巣だよ」
「確信を持って言うんだけど今から僕達死ぬんだね?」
インテリっぽい奴が物凄い悟り切った雰囲気を発しながら生きる事を諦めていた。正面には八つ首の蛇竜がいるんだからまあ、誰だって諦めるだろう。おーい、と手を振ると巨大な洞窟の中から長い首を出してヤマタノオロチが挨拶してくる。
「お」「なんだ」「ボン」「じゃねぇか」「あんま深い所」「に」「行くなよー」「。」
「最後の奴どうやって発音した?」
「凄い! 脳がバグりそう!」
「わぁい! でかい! おっきい! でかい!」
「あぁ、一部が幼児退行し始めちゃった!」
ヤマタノオロチはアレで酒さえ入らなければ割と付き合いやすい人……蛇……竜なので素面の時は話してても安全なタイプである。お酒がある時はまあ……あんまり近寄らない方が良いかな。俺でもちょっと身の安全が確保できないかも。今日は酒飲んでなくてラッキーだったわ。
「というか蛇おっちゃんの今日は暇なの?」
「最近」「皆」「奥に」「ばかり」「進んじゃってなー」「まあ」「暇してるんだよ」「。」
「最後のどうやって発音してるんですか……?」
「。」
頭の1つがドヤ顔をした。根の国の連中は本質的にとっつきやすいというかお祭り好きというか遊び好きというか……人間を適度に襲うけどそれはそれとしておふざけも好きだから空気次第ではフレキシブルに対応を変えるという珍しいタイプのモンスターが多いんだよね。
今考えればなんで学園祭をここのモンスターに手伝わせるって発想が出て来たんだ……?
イカレてんのか? はい。
じゃあボケとツッコミも終わったのでみんな、お持ちの虫取り網でそこら辺を飛んでる告死蝶を捕まえてください……はい、さっきよりいっぱい飛んでるのが見えますね? これはね、皆の死が近づいているからですよ。死に近づけば近づく程それを伝える為に数が増えるって寸法なんです。
はい、凄い数飛んでるでしょ? じゃあ今から全力で逃げましょう。
虫かごの中に必死に告死蝶を詰め込んで走り出すと、根の国が震えて奥の方から爆発音と衝撃が伝わって来る。どうやら誰かが本格的にウルトラかーちゃんとの戦闘を開始した様だ。攻撃の規模と衝撃から多分様子見の類ではなく、殺しきるつもりで戦闘を仕掛けてる。
これほどの規模となると戦闘の余波でダンジョンのあっちこっちが揺れたり吹っ飛んだりするだろう。当然、ここらをほっつき歩いている俺達も危険だ。
きゃー、ぎゃー、うわー、と悲鳴を上げながら全力ダッシュで裏口へと向かって全力逃亡する。
裏口近くまでやってくると東吾の姿があって、良く見るとモンスターを連れてこっちに飛んでくる攻撃とかを迎撃してくれていた。奥の方を眺めつつも、こっちが近付くのを見るとおー、と声を放ってくる。
「楽しんだみたいだなわんぱく共」
「良い思い出になったと思うよ」
本当ならもうちょっと案内して上げたかった所だけど、流石に深淵の大母戦が始まってるとなるとツアーして遊んでる場合じゃなくなってくる。
どごーん、どがーん、ずごーん。
ちょっとボカして表現するとこんなもんだが、追想パペッターを思い出せば解るだろう、裏ボスの類との戦闘はそんな生易しいものじゃない。天地を蹂躙し世界を破壊する。そういう規模の戦いになるのだと。
震える学生達が抱きしめ合いながら生まれてきた事とまだ無事なことに感謝している中、主人公くんは遠くを見るように目を凝らしていた。
「……あの先って確か深淵の大母とかいうのがいるんだったよな……?」
「そうそう。この根の国最強のボスにして支配者。レベルは当然150あるから、生半可な攻撃は防御力で耐えるし、耐性も高いから耐性を削る手段がないとダメージが通らない」
しかも多重即死、特殊即死、ルール改変即死と凄まじい即死の塊で毎ターン耐性を貫通して誰かしら抹殺してくるんだよね。その上で隠しダンジョンの大ボスの特殊仕様でフィールド保護もあるので《根の国》からフィールドを切り替えられない。
強いよ、グレートかーちゃん。
だが根の国全体が鳴動する程の衝撃が走るのを見れば、対戦相手も決して雑魚じゃないのは解る。
こうして観察している数分の間もまだ戦闘は続いている。それだけで十分強さが伝わってくる。
「流石にツアーは終わらせて引き上げかな。もうちょい観光スポットはあるのに」
「そういえば駆間のツアー会社が黄泉の名所を回るプランを出してたな」
「あれね、うちと提携してるの」
黄泉探索プラン。根の国のモンスター達は基本的に国内のSランカーが相手してくれるお陰か割と暴れ欲が満たされていて観光に来てる奴とか襲わないからな……。
奥を見れば戦闘やら遊んでたりしてた連中が全員酒やなにやらを手に裏ボスの戦いを観戦するために命も恐れず更に深淵へと踏み込んで行くのが見えた。
戦いも、滅びも、全ては刹那の夢に過ぎない。
彼らにとってその全てが華やかな祭りのようなものだ。
ちらり、と学生たちを見る。うん、生死の境を彷徨ってちょっと魂が磨かれてるね。これならまだまだ成長しそうだ。もうそろそろ家に帰してやるか。
やっぱ養殖はダメだな。
「尊」
やはり生と死の境界に立ってこそ人は初めて自分が今力を持たないとならないという自覚を得るのだ……と、思っていると東吾に呼ばれて視線を向けた。
「どうした?」
「今回もそうだが、これからは今まで程あれこれ口出しするつもりはない……これはお前の親御さんと話して決めた事でな」
「え、初耳なんだけど」
というか父と母が普通に東吾とそういう話をしてたことにも驚き。俺の表情に東吾は笑みを見せた。
「あと一ヶ月もすれば高校1年だ。それから3年もすれば卒業して社会人になる。解るか? 子供からすれば3年も、となるが俺達大人からすればたったの3年だ」
覚えてるか?
「ここで一緒に歩いた時を」
「あん時はまだ中1だったっけ」
「実はあれからそんなに時間は経ってないんだ。だけどお前はこんなにも大きくなった。姿形だけじゃなく立場もな」
だから、と続く。
「色々と勉強させるつもりで本当に困ったりした時以外は過度に助けたり干渉しない方が良いかもしれない……みたいな話をしてな」
「卒業か……」
大地が揺れ、世界が揺れる。かつて踏み込みもしなかった世界に人は到達し、挑戦することを諦めない。それを見ればどんどん未来へと向かって全てが進んで行くのが解る。
「あんま意識してなかったな」
「だから余程の事じゃなければ口出しするつもりはない」
「これも?」
怯えている可哀想な連中を指差すと、はは、と東吾が笑った。
「おいおい、俺達が最初にあったのは黄泉の国の中でだぞーーー死なないし欠損もしないならセーフだろ」
「それもそっか!」
わはははははと笑っていると主人公くんがうーん、と唸る。
「これがトッププロの狂気かあ……」
大ボス使用中につき、ツアーはここまで!
鴉羽ツアーズご利用ありがとうございました!