鴉羽ツアーズを終えて。
学園に全員戻して、理事長にめっちゃ感謝されても、気分は少しだけ上の空。
牧場に戻って、適当にチビを見つけたら座らせ、ごろんとお腹を出させたらそれを枕代わりに俺もごろんとする。チビのお腹は最高の枕だ。こいつでごろんとしているだけで直ぐにうとうとしてくる。
とはいえ、今は少し考える事があった。
父も母も東吾も、徐々にだが、卒業後を……未来を見据えるようになっていた。
「そっか、卒業までもう3年しかないんだよなー」
東吾と根の国で出会ったのが大体3年ぐらい前だっけ? あの時は大体中学に上がったばかりの頃……だった気がする。あれから図書館に行ったり、交流戦に行ったり、パペッターを過去改変パンチで抹殺したり……まあ、時間が過ぎ去るのも早いもんだ。
確かに、少しだけ未来の事を考える時期か。何時までも子供らしくはいられないもんか。あー、ヤバい、大人になった自分があんま想像出来ない。
「ヘイ、ブラザー」
「ヘイ、シスター」
チビの腹を枕にしているといきなり上から灯が覗き込んできた。俺が心地良さそうに悩んでいるのを見ると自分も、とチビの腹を枕にしようとしてくる。
当然、1つ分のもちもちに2人はちょっと入れない。だが俺は長男なのでチビのもちもちは妹に譲ろう。その代わりに近くをうろついていた金毛の羊を捕まえて枕にする。
……心地良いけどちょっと色がな……。
他にもちもちは近くにいねぇのか? と辺りを見渡しているとチビとこのランクを終えたら合体予定の聖獣ジャッジメントウルフがやってきてお腹をごろん、と見せてきた。
チビの今の種族であるカオスウルフとは対照的なモンスターで、聖獣として人々に親しまれ、守護者として活躍していたモンスターらしい。属性も光属性マシマシ、カウンターと火力を血統で管理している子だ。白くて邪悪なカオスウルフに対して黒くて金色のラインが入った聖なるジャッジメントウルフ……ネーミングセンスもうちょいどうにかなりませんでした?
いや、まあ、数百匹もモンスターの名前を作るとなると相当めんどくさい気持ちは解って来るけど……。
まあ、こいつも中々良いもちもちをしてる。うむ、毛並みも柔らかくふさふさ。まだ涼しさが残るこの季節には丁度良い温かさだ。ごろりん、と再び転がって青い空を見上げる。
「将来かぁ」
「難しい話題を出して来たねお兄ちゃん」
「お兄ちゃんは1年分大人だからね、妹よりも社会に近いのさ」
「社会性の無さを売りにしてるのに?」
「言って良い事と悪い事があるぞ」
「事実なのに……」
ぼーっと空を見上げる。父も母も東吾とそんな話してたんだなぁ、という驚きとウチの両親が今後の事を考えてたんだなぁ、という当たり前の話と、俺が今までそういう事をあんまり考えてなかった事実を突きつけられてしまった。
大体女神が悪い。アイツを倒さなきゃならない。アイツを倒さないと未来がない。だから全部その後で……と考えていて、本当は何をしたいのか、なにになりたいのかという事を全く考えてなかったのを理解させられる。やっぱ大人だなぁ、皆。ちゃんと先の事を考えてる。
俺の考えてる先って結局、どう強くなるか……という事だけだし。そう言えば未だに夢みたいなもんを一切持ってないんだよなぁ。未来の事、これからの事、それを考えているって話をされるとじゃあ俺はどうなんだ、って話になる。頭が痛ぇ。
「とりあえずお兄ちゃんがすべき事は1つだけあるよ」
「世界を救う事?」
「それは障害。目標じゃない」
「えー」
世界を救ってエンディングに行くのは最終目標にならない?
「ううん、だって世界を救っても私達はエンディングって訳じゃないもん」
「……それはまあ、そうか」
「そうそう。世界を救ってもその先があるんだから。ほら、お兄ちゃん、絶対にやらなきゃいけない事があるでしょ。まずはそれを第1目標にしなきゃ」
「やらなきゃいけない事ぉー……?」
妹の方に顔を向けると妹がメッチャ顔を顰めていた。え、そこまで!?
「そんな顔をする……!?」
「するに決まってるでしょ! ほら! ブラザー! あるでしょ! 絶対にしなきゃいけない事が! ほら! 良く考えて!!」
「えー……」
マジで思いつかねぇなぁ。特に自分の人生に目標はない。あるとすればあの女神を殺す事だけで……後は皆が幸せになってくれればそれで良いと思う。どうせ、あの女神を相手にして無事に済むとは思ってないし、その後の未来があるとは思ってないし。
だから、まあ、俺の事を忘れないでいてくれたら良いなぁ……ってのが俺のちょっとした未来に残す願いかもしれない。
「結婚」
「ん?」
「結婚式! お兄ちゃんお義姉ちゃんと結婚しなきゃ」
「……おお」
「おお、じゃないんだよ。おおじゃ。幸せにする、責任を取るって話はまずそこから入らないと」
結婚、結婚か―――確かに婚約関係だし何時かは結婚もするのだろう。だけど具体的なイメージみたいなものは何もなかった。今の生活が幸せで、これで自分には十分すぎる気もしていたから、結婚なんて単語、すっかり忘れてた。
「ちゃんとした結婚式をあげないと。高校卒業した辺りとか良いんじゃない?」
「は、早くない? せめて二十歳になってからとか……」
「お義姉ちゃんの方は卒業直後に式あげる予定だけど……」
「まって、俺それ聞いてない」
「まあ、覚悟してもしてなくても結婚ダンクキメる気でいるから覚悟した方が良いかもね。ほら、こんな話をすれば少しは未来に向けた希望とか、夢とか、なんか、湧き上がって来るんじゃない?」
難しい事を言う。生まれは特殊でも真人間な妹と比べ、俺は生まれが少々捻じ曲がっている。それは俺自身が悪いのだが……って、こんな事を考えているとまた灯に怒られる。そうだなぁ、結婚か。確かにこれは良い考えだ。
「和式が良いかな、洋式が良いかな」
「お義姉ちゃん絶対ウェディングが合うと思うんだよね」
「確かに。俺個人も白無垢よりもウェディングドレス見たい派だな」
「がびーん」
声のした方へと視線を向けると根の国の方から白無垢も良いですよ、どうですか白無垢、やっぱり日本で挙式をあげるなら白無垢がベストでは? とかいうセールスをかけて来る駄狐を黄泉から伸びた手が掴んで引きずり戻した。どうやら白無垢に対して異様な執着を持つフォックスだったらしい。成仏しろよ。
「結婚後の生活は?」
「そんな事を言われてもあぁ……今が十分に幸せだし……今までみたいな生活じゃ駄目?」
「駄目に決まっているだろう? どういう生活がしたいんだ貴様は」
ん? 灯? なんか声がちょっと違くない? まあ、でもそうか、幸せな未来か……。イメージが難しいけど一般的な話をしてみるとやっぱり家族を持つ事が幸せらしいし……?
「やっぱ子供が出来る、とか……? あぁ、でも、俺がちゃんと子育てとかできる自信はない。子供に優しく出来るかな俺。駄目だ、不安だ。やっぱりこの考えは忘れよう。今のままで良いんじゃないかな」
「そんな訳ないでしょ」
「私は全然構わんぞ。モンスターの扱いを見ていれば子供にだって優しく出来るのは解っているからな」
おっかしいなぁ、2人分の声がするなぁ。視線をちょっとごろり、と横に向けると、仁王立ちしているマイ・婚約者の姿があった。逆方向に頭を向けて膝を抱え、そのまま丸くなる。
「良し、死のう」
「本当に魂抜けてるじゃん。逃がさないよ」
ヤバイ、久遠だ。こういう時の久遠は軽く無敵だ。何を言ってもまるで勝てる気がしない。早く逃げなくてはならない。素早く転がって逃げると、そのまま這って根の国か樹海か図書館か、どこかへと逃げ込もうとするも、それよりも早く背中の上に久遠が乗っかって動きを止めて来る。
そのまま伸ばした後ろ髪を掴むと、その中に指を通すように遊ばれる。
久遠の趣味で伸ばした髪だが、すっかりこうやって手遊びに使われるようになってしまった。
「えっちだ……」
「灯? お兄ちゃんそういう言動するの良くないと思うんですけど」
「お兄ちゃんは他人の事より自分の事を考えた方が良いんじゃないかな」
おっしゃる通りです。背中に座られている上に髪の毛で遊ばれているので完全に抜け出せない状態になってしまった。困ったなぁ。死ぬほど恥ずかしい話を聞かれてしまった気がする。助けを求めて牧場に視線を巡らせると、おぢさんがカメラで此方の写真を撮って、両親と一緒に微笑みながら家の中に消えてゆくのが見えた。こんちくしょう。あ、ミレーナがウェルにパフェキャンハメ喰らってる。
エデはずっとおろおろして近づいてこない。エストは良い様ね! と言いたそうな顔をしてる。アイツだけトレーニング3倍にしとこ。
「ミコト……で、将来は私とどういう風になりたいんだ? ん? 家庭が持ちたいのか? 私は全然構わないぞ」
ミレーナ! そこだ! 覚醒しろ! 止めろウェル! 封殺するな! 封殺するんじゃねぇ! 負けるな魔法少女! 勝つべき場面だろ! 封殺確定ィ―――!!
「久遠、俺達はまだ中3なんだ、この話は早いんじゃないかな」
「3年後には結婚するのだから別に早くはないだろう」
「あ、確定事項なんだ」
高校卒業と同時に結婚って法的に大丈夫なの? 法律って守らないと面倒だよ? ちゃんとした市民として皆法を守るべきじゃないかな! ね? 問題ない? でもほら、世間の目とかもあるしあんまり良い見られない方しないと思うよ? もう既に遅い? はい。
「久遠! この話は止めよう! 俺にはまだ早い! 未来の話とかみこっちゃんちょっと良く解んない!」
「馬鹿になったフリをして煙に巻こうとするな。貴様とは前々から真面目に将来に関して話し合おうと思っていたのだ。貴様もその気になったのなら丁度良い。時間を取って話し合おう」
「あっあっあっ」
その細腕のどこにそんな力があるんですか? というぐらいにあっさりと体を引きずり上げられ、そのままずるずると家へと向かって引きずられて行く。置いて行かれたチビや灯達が静かに敬礼して俺を見送って行く。
俺も引きずられながら静かに敬礼する。
これが大人になって行く……って事なのかな……東吾……。
こうして中学3年生、最後の時間は過ぎ去った。