中学の終わり。
いよいよ高校生活に入る。
背丈はぐっと伸びて、成長期の終わりが見えてきて、大体の体が出来上がってくる。俺もいつの間にか身長が170に届き、まだ伸びそうな気配を見せていた。
体も肉が付いて体力も段違い、初めて黄泉の国に踏み入れた時とは比べ物にならない程しっかりとした体に育って来た。それは何も自分だけの話じゃなく、新しいクラスメイトの中には既に180以上まで成長してる奴さえいた。
女子も、この年齢になるとぐっと体の凹凸がはっきりしてめっきりと女の子らしい体付きになってくる。中学でもそこそこ色恋沙汰の話はあったが、高校にもなるとその話も本格化してくる。
とはいえ、高校に上がって顔を突き合わせるのはほぼ中学の同期ばかりだ。顔ぶれは減る事はあっても増える事はあまりない。悲しいね、ここは修羅の国なの。
なので。
「またみこっちゃんと一緒だー! やったー!」
「おぉ、この純情ピュアピュアボーイ、俺達が必ずお前を夜月の魔の手から守ってやるからな……!」
「お前らは俺のなんなんだよ」
「いや、お前は駆間女子の肉食さを舐めてる」
「お前が今まで無事だったのはお前が草食系天然記念物レベルの無害純情ボーイだからだ。さしもの夜月もお前には手を出すのは良心が咎めただろう」
「だけどそろそろ理性の限界に達する所だろう」
「そういう話止めませんか? 俺の恋人を何らかの怪物にするのは」
ぷんぷんと怒ると2人は顔を見合わせ、それから深く頷いた。
「守らねば……!」
「みこっちゃん……お前は俺達が守る! 信じてくれ!」
「だからなんなんだよお前らは」
この流れも小6から一切変わらないな……。なんだかんだで小学校からの付き合いなんだよなぁ、と思うと感慨深い。だがこの付き合いもあと数年。そう思うと少しだけ寂しい。
「おーす、今日は皆生きてるなー? 最近近場に100レベが安定して出現するエリアが出来たから、常に複数人で行動するのとパフェキャンと割合ダメージを忘れるなよー」
担任が入ってきてホームルームが始まる。今朝も何時も通りの連絡や注意を行い、普通の学生生活が始まる。
もう何年も味わっている筈なのに、高校に上がったというだけで新鮮な気持ちになる。4月にもなると流石に雪も溶けて早めの春が窓の外から見えてくる。
おや、車がモンスターを轢き殺してる。珍しいなぁ、車なんて直ぐに廃車になるから駆間じゃあんまり見ないのに。
そう思っている間に横から突っ込んできたモンスターにふっ飛ばされ、回転しながら反対側の車線に突っ込み、そのままビルにぶつかって爆発した。
それを眺めながらキャッキャッと皆で笑う。
爆破炎上する車から中々人が出てこないので死んだかな? と思っていると空から市長が降ってきて車を割ると中の人を救出して去って行った。やっぱり外部の人間だったか……。
最近は外からの人が増えたよなぁ。交流するのは別に良いんだけど、偶に現実が見えてなくて観光とかデモとかしに来る人がいて困るんだよね。
1番困るのは冷やかしに来た配信者なんだけど。十中八九配信途中でこの世からログアウトするし。
しかし、こういう無謀な奴を見ていると思う。
「春だなぁ」
「出会いと別れの季節だね」
まあ……俺達の言う別れは結構物理的なもんだが……。
新学期が始まり、新しい1年がスタートした。春にもなると何もかもが活動的になる。今年は4月から認定戦のシーズンが始まり、BやC昇格を目指してブラックバス共が再び駆間の外へと解き放たれた。
無論、これで外に解き放たれるのはブラックバス共だけではなく、俺もいよいよウォーミングアップを終え、大会に出場し始める。
という事で、手始めに大型自動車会社がスポンサーするBランク大会に出場する。
初めて出場するBランク大会はアンナのコネを使ってインビテーションを貰ったものだったが、交流戦程ではないとはいえ、かなり規模のデカい大会だった。
出場者は全員で8人の総当たり戦。人数は明確に絞られている。その代わりに優勝賞品には車を丸々一台進呈、メディアもたくさん入ってきて観客数も余裕でドームを埋め尽くすほどになる。
副賞に車が付いてくるくせに、賞金額も大きく数百万は貰える。Bは明確にプロの世界だ。これだけで食っていけるのラインがCよりもデカい。その分、ビジネスとしての側面がデカくなってる。
それこそあの交流戦を思い出すように。
Bの大会に来てそれを切実に感じた。
なお、環境の方はというと、実はまだ大差はなく、エデエストミレーナか、ウェルギリウスをエデと入れ替えた編成で7タテ可能な程度だった。圧倒的強さで全てを蹂躙するも、強さ自体は前の環境から引き続きという感じには少し不満を覚える。
とはいえ、ゲームが発売されたのは少し前のことで、そこから再育成スタートしてもそれが実を結ぶのは半年後の事になる。
つまり現段階だとゲーム基準の戦闘力を備えているのは俺だけなのだ。そりゃあ俺のワンサイドゲームになるに決まってる。とはいえ、Bランクまで来ると足切りラインを越えてきているマスターが多く、単純な雑魚と呼べるレベルのマスターはだいぶ減ってきている。
特に大会に出場する様なレベルのマスターは、見れるレベルに達している必要がある。その為、最速リーサルパターンは比較的に躱してくるレベルはあった。それだけで学園の世間知らず達よりはだいぶマシなのが解る。
そう、Bランクは食い合いを越えてきたレベルの猛者が集まって来る段階だ。ここまで来ると趣味ではなく専業としてマスターを目指す者達ばかりになって来る。それはつまり、1日の時間を仕事に使わず、モンスターの育成や戦術を練る事に費やす事が出来るという意味でもある。
まあ、それでも当然積み重ねた知識と時間の多い者の方が強い―――即ち、俺の方が圧倒的に強い。
大会で優勝すると始まるインタビューはやっぱりルール違反擦られるのかなぁ、と思ったがこれが意外とかなり真面目な内容のインタビューで、環境に対する意見やスキルの選び方みたいな結構ガチめな話をぶっこんでくるところもあって、割と好印象だった。
アンナがメディアの選別したのかなぁ、と思ったがアンナ曰く、このレベルまで来ると自然とメディアの方も真面目になって来る……というよりはマスターそのものが1つの兵器みたいなものだからあんまりバッシングみたいな事をしなくなるらしい。
まあ、そりゃあそうか。
キレたら怖いもんな。
現代において最も恐ろしい言葉がある―――テロは止めようがない。
これはこの世界だけではないのだが、テロには止める手段が存在しない。基本的にテロに対する対策は受け身になってしまう。これは元々の世界での話でもそうだが、モンスターという武力が誰にでも手に入る世界においてはレベルがだいぶ変わって来る。
うおっ! 名誉棄損だ! 殺すッッッ!!
でたとえば《デスペリアハザード》ぶち込むとしよう。これ、止められる? 勿論、無理である。常にパフェキャンを控えている駆間マインドでもないと防ぎようがない。いや、駆間人でも唐突なデスペリアはちょっと耐えられないかも。
というか過去にこの手の事件は存在したらしい。それでどうやって規制する? という話に手段がない! という結論が出てしまってまあ、大変。
誰もが簡単に報復手段を手に入れられる世の中において、一番の自衛手段は結局の所、恨みを買わない事に尽きるのだ。現代のメディア各所はそういう方に……特に上のランカーにはあからさまに媚びるように方針を取っている。
そんな訳で俺へのバッシングみたいなものも落ち着いて……という訳はなく、1度手にした玩具とレッテルをネットの民は手放さないもので、活躍すればそれだけこんな奴が勝ってていいのかよ! みたいなアンチ活動が働く。
正直少数派なので無視して良いレベルだ。だがこの手のアンチは根強く、そしてねちっこい。一々揚げ足取りに本気を出し、触れなくても良いことに触れて来る。
それでなんかのミスをしたら大勝利をした気になる。器の小さい連中だ。
それでも牧場まではやって来ないのは助かるが。
死体処理しなくて済むし。
そんな騒がしさを感じる新シーズンの始まり、その依頼は来た。
協会からの好感度稼ぎの為にも継続している幾つかの仕事、その中でも1番気に入ってるのはテレビでバトルの解説をする奴だった。
その番組のプロデューサーが俺にその話を持ち込んできた。
「鴉羽さん、今密着取材を企画しているんですけど……どうですか、密着取材受けてみませんか? 普段の様子や業務内容を詳細に撮りつつ一部は生放送で流すんです。絶対に面白いと思うんですよ」
密着取材のお誘いだった。
この時、鴉羽尊の悪知恵が働く……!
この申し出をアンナに知らせず俺は快諾。その上で質問する。
「Pって……ヒマラヤ山脈の入山許可取れる? 撮影クルーの」