流れるオープニング映像。
映し出されるスタジオ。
笑顔のコメンテーター。
「おはようございます、バトモンTVです」
和やかに始まる番組、ゲストの紹介が始まり、挨拶で番組が進む。そう、テレビ番組。スタジオから生放送で始まった番組は最初に紹介を始めると、本日の注目内容を発表する。
即ち。
「鴉羽ファーム密着24時! 本日は1時間に番組時間を変更してお送りします」
「前々から鴉羽ファーム映せ映せとは良く言われていましたね。あそこはライブカメラでなぜかウサギが死に続ける映像をメインコンテンツにしてる謎の需要を満たしてますからね。精神状態大丈夫ですかアレ?」
「駆間に住んでいる人間にその質問はあまり意味ないと思いますよ」
コメンテーターの鋭すぎる言動にどわ、とスタジオが沸いた。なおコメンテーター本人は欠片も笑っていない。軽い空気の中番組が始まり、いよいよと司会者が映像を現場へと向ける。
「それでは現場の相澤くーん?」
映像が切り替わる。
映し出される空。
響く銃声。
飛び交う多国言語の罵声。
『糞が!!! 入山許可証は見せただろう!! サインだって入ってただろう!?』
『駄目ですよ牧場長! あの人達会話する気がありませんって!!』
『あの人達最初からこっちの身柄押さえに来てますよ! 国境警備隊を装った特殊部隊じゃないですかアレ?』
『お【自主規制】野郎共がぁ……! そんなにこの鴉羽尊様を押さえたいと! 手に入れたいと申すか! 良いぜこの【自主規制】共が! そんなお前らにはスペシャルな暴力で応えてやるよ!! 事前に溜めた詠唱100スタックの暴力を見せてや―――』
「おっと、映像が乱れているみたいですね」
「はは、国境警備隊と争ってる訳ないじゃないですか、一般人が……ゲストの西田さん、何分ぐらい待てば逃げ切れると思いますか?」
「うーん、鴉羽くんが迎撃の準備整えてましたし5分あれば良いんじゃないでしょうか?」
「成程、5分ですね!」
司会者がテーブルの下からカップ麺を取り出すとそれにお湯を注ぎ、カップ麺を作り出す。数分、静かにカップ麺が出来るのを待っていると横からスタッフが新しい原稿を持って来た。完成されたカップ麺を開けながら原稿を確認し、司会者が頷く。
「皆さま番組の途中ですが本日このチャンネルで予定されていた他の番組を全てキャンセルし、この荒唐無稽な映像を24時間態勢で追う事をプロデューサーが決定しました。全ての苦情、罵倒はプロデューサーが受け止めます。それでは現場の相澤くーん!」
映像に短いノイズが走る。
そして現場に再び繋がった。
「はあ、はあ、はあ、おもっくそAとBの混成編成で攻めやがって……もはやAやBでこの鴉羽尊に勝てると思うなよクソ共が」
モビーの背の上にクルー全員を収容し、視界の外へと墜落して消えて行く国境警備隊を装ってた連中に向けて中指を突き立てる。数がそこそこ厄介だったが、こういう時こそ復唱デスペリアが超刺さる。耐性無視して殴れるから乱戦や集団戦で相性を考えずにふっ飛ばせるのはやはり最強だし、単純に火力が高いから相手がAランクだろうが耐久力が並レベルの相手だったら問答無用でふっ飛ばせる。
やっぱりエストとミレーナは単純なキャラ性能の話をするとワンランク上と見て良い。エストはともかく、ミレーナは確実に最強クラスのモンスターとして調整と寵愛を受けてるから血統そのものが強い。
なおミレーナ次世代は並の最終世代ぐらい強くなる。復唱、変身、必殺魔法が全部次の段階へと進化するから当然だよな! ちなみに最終世代で変身と復唱は統合されて《超越の理》に最終進化する。これになると詠唱コストが全部無視できるようになるので魔法が別ゲーになる。
合体に必要な賢者の石はもう図書館にはない。アレはマジで1つしか存在しないアイテムだったからもう他には誰も合体させる事は出来ないって事を考えると確保していて良かったなぁ、と思う。他人に絶対に取られたくなかった。
それはそれとして、アイドルくんが撮影に戻って今カメラの前ではしゃいでいる。今回の撮影クルーは俺、アイドルくん、カメラマン、ADくん、そして現場指揮するディレクターだけである。これより人数増やすとちょっと死亡リスクがね……という感じで人数はここまで抑えられた。
「それじゃあ今回の首謀者にして主犯、鴉羽尊さんに登場して貰いましょう! 牧場長ー!」
「なんで牧場長呼びなんだよ」
手を振り振りしながらテレビに出演すると、スマホが凄い勢いで振動する。スマホを取り出してアイドルくんと覗き込むとブライアンからの電話だった。
『行くのか? 新しいダンジョンに? 俺抜きで……』
「気持ち悪い湿度してる永世GMだな……しばらく着信拒否にしておこ」
「永世GMを着信拒否に出来るのは世界でも牧場長だけでしょうね。それでGMを着信拒否したら説明して欲しいんですけど……なんで今回ファームの方じゃなくてここ、ヒマラヤ山脈にいるんですか僕ら???」
ででーん、とエフェクトが付きそうな感じに腕を大きく広げて周りの景色をカメラに映す。今、モビーの背の上にいる俺達はヒマラヤ山脈上空を飛行している。先ほどまで戦闘していたが、連中を撃墜してからは追撃の様子もない。
ミレーナがドローンや追跡の魔術を感知したが、魔術合戦だったらこっちの方が腕前は上だ。そういう物は全て解除、撃墜して今は監視の目をかいくぐっている。
「皆、ゲームの方遊んでくれてる? Sまで上げてランクマに潜ってる人も増えて来てるんじゃないかな? 根の国とか図書館とか攻略してるプレイヤーもいるんじゃないかな? 暗黒樹海はまだ攻略されたってデータが来てないんだよね。結構迷ってる感じがあるけど」
「あ! 暗黒樹海ってなんか根本的に出て来るモンスターが異様に強くて厳選とかしないと通じない感じが凄いんですよアレ! 僕もまだ攻略出来てないんですけど!!」
ゲーム版暗黒樹海の攻略者が未だに居ないのはちょっと驚きだが……まあ、良いか。
「ゲーム内図書館に飾ってる書籍は読んだ? アレが実はリアルの図書館の本棚とリンクしていて、実際の資料を読み込めるようになっているって知ってた? 知らない? リアルの図書館に行かなくてもある程度はゲーム内で図書館の書籍を読めるように館長がしたんだよね」
「実はそれ凄い貴重な情報なんじゃないですか?」
「まあ、イギリスとかヨーロッパが図書館の入館を制限しがちだからね。館長がどうしてももっと多くの人に置いてある本を読んでほしいって希望してて……ね!」
それでね?
「そろそろ一部の書籍に書いてあると思うんだよ、ドラゴンズバレーの話。伝説の竜王。史上最強の生物。あらゆる生命を凌駕する生態系の頂点の話」
「あー、なんか読んだ事がある気がします。なんか伝説扱いだった気がしますけど」
「アレ、実在します」
「ふふ、嫌な予感してきた」
カメラに向けてダブルピースする。
「全世界のみなさーん! 後日実装予定のDLCとして準備中のドラゴンズバレーを! 実物がないのに実装するのはちょっとリアリティに欠けるんじゃないかなぁ、という意見が開発にもあったので! まずはリアルで発見してから実装しようという俺の心遣いで! 今日はこのメンバーでドラゴンズバレーの発見を行います!」
「うおっ、視聴率爆上がりした」
「ディレクター! 苦情と追及の連絡が止まらないみたいですよ」
「全部無視しろ。そこはプロデューサーの仕事だ。俺達の仕事は最後まで生きて映像を届ける事だ」
いえーい、ピースピース。ドラゴンズバレーを今から発見しに行きまーす、とかやってると国木田とか東吾からも凄いメールが来てるのでスマホの電源自体を落とす。今一瞬総理からも連絡来てた気がするなぁ……まあ、ええか。
「なんかさ、今の人類ってちょっと危機感が足りないと思うんだよね」
「危機感」
「うん」
にんまり、とカメラの前で笑う。
「今の人類は滅びの前にあるって事実、誰も理解してないんだよね。だからちょっと警鐘を鳴らしておこうかなあ、って。国1つ一丸になっても勝てない絶対という概念を1度、皆に見せる必要があると思うんだよね。そういう訳で今日はこれからドラゴンズバレーの発見に向かいたいと思いまーす! 行くぞ野郎共―――!」
「おー!」
声を揃えておー、と拳を掲げる。ここに居るのはもはや視聴率の怪物。視聴率という概念の為なら迷いもなく死地に踏み込む怪物。駆間に何度も足を運んだ事でもはや死生観はぼろぼろ、俺達は面白さの為に迷いなく地獄へと向かって突き進む。
「という訳でここに5か国? ぐらいに掛け合って用意した入山許可がありますね。はい、映像に残した。これは証拠になるからな。許可を出したのはお前らだからな? 言っておくけどまず間違いなくドラゴンズバレーは確保で動くよりも押し付け合いになるから覚悟しろよお前ら」
「そこまで」
そこまで。竜王様ってお散歩で歩き回るだけで国を滅ぼすレベルのデカさなんで……。都市よりもでっかいドラゴンがホップステップジャンプしてみろよ。国が物理的に消えるぜ。
全モンスター中、最もデカいのが竜王だ。次に海王、その次に神龍だっけ。この3体は全員地球上に置きたくないサイズしてるんだよね。戦うと被害がヤバイから……。
「と、いう、訳で! 散々ヒマラヤ山脈探索した所で何も見つけられていない無能共に代わり今回はドラゴンズバレーに向かうルートを紹介します! ちなみにこの後コピーしても良いけど命の保証は出来ないから大人しくドラゴンズバレーまで到着するのとDLCが公開されるまで待つのをお勧めする。命に関わるからね」
モビーが予定されていた地点に到着する。山脈の一角、とある霊峰の頂だ。もう既にここら辺はダンジョン化……というよりは異界化されており、野生のモンスターが存在する地域になっている。頂上にモビーから降りて着地し、それからたっぷりと息を吸い込む。
かなり標高が高い事から酸素が薄い―――が、此方にはミレーナがいる。魔法によって酸素や温度のコントロールは自在だ。どの環境に居ようとも快適な状態を保つ事が出来る。
「そんじゃ、行きますか」
撮影クルーを引き連れ、人類の未踏域に踏み込む。
今度はSランカーの助けもなし。
漸く己自身の力のみで、俺は世界の裏側へと踏み込む。
それだけの力が今は、ある。