頂上から少し下ると横穴が見える。その中に入ると氷に覆われた洞窟の中に入る。そこを通るのだが……勿論、モンスターも出現するので気を付けないといけない。なので事前にチビにウェルパンチでクイックレイド蓄積させてレイド10連発ぐらい発射して敵を蒸発させる。
ルールの存在しない野良だからこそ許される無法だ。蓄積が必要なタイプのスキルや構築は事前にスタックさせておけば結構自由に探索出来る。特にチビは回避でMPが回復するようにしてあるので、暇な時間はウェルギリウスにパンチさせてるだけで無限に攻撃手段が回収できる。
これと同じようにダンジョンやらなにやらに挑む時は詠唱を延々とスタックさせられる。ミレーナは結構高位の魔女なので詠唱中は足を止めなきゃならない、みたいな典型的な魔法使いの弱点みたいなものはなく、やろうと思えば肉弾戦しながら詠唱したり魔法を放つ事も出来るらしい。
魔法少女ってすげー!
さて、ドラゴンズバレーに向かう事で唯一の懸念点は知識にあるマップと違ってたりする事だが、ヒマラヤの横穴に入って進んでいるうちにこの地形が自分の記憶にあるものと変わりがないのを確認出来て一安心。とりあえず氷を砕いて中に保存されてるアイテムを回収。
「アンブロシアゲットだぜ」
「わあ、リアルタイムで凄いバッシングですよ」
「もうウチの倉庫に10個ぐらいあるんだよなぁ。まあ、AとSで使う予定だから10個じゃ足りんしもうちょっと欲しいなぁ……」
「今、世界で最も豪華な使い方を考えてません?」
いや、Aでロストエデン攻略する予定……というかしたいからね。そうなると100レベは欲しいし、Aのメンバーにアンブロシア食わせて100にするのが一番安定するんだよ。Aで100にすればまあ……ギリギリ行けるんじゃねぇか? 援軍に誰か欲しい所だけど。
「おっと、こっちの中で凍ってるのはスキルの《大氷原》ちゃんではないか」
「名前からしてフィールドスキルですか?」
「うむ、展開中は氷スキルのダメージが1.5倍になり、炎属性攻撃を0.8倍に落とす」
「使える様な使えない様な……なんか扱い難しくないですか」
「フィールド系のダメージ係数の計算を忘れてる人が多いけど、これって最終ダメージ計算後に入るタイプのバフだから強いよ。まあ、でも使い辛いのは確かだよ。属性染めしてないと火力を実感し辛いし、染めてると簡単にメタられるしね」
まあ、でも回収しておいて損はないだろうし回収だ回収。ついでにパフェキャンも回収してどんどんポーチの中に放り込んでおく。ここまで来ると回収できるアイテムもだいぶ高価なものが増えてきているが、大半使わないもんばかりだからな……。
おら、出番だぞララ……ララ? も、もう死んでる……! 死体にしてアイテムポーチに詰め込んでた筈なのに、いつの間にか罠にかかって死んでる。
お前はついに因果逆転罠死にまでたどり着いたのか……? まあ、なんでもいいや。ララ、まだ死ぬ予定あるからはよ起きろ。
氷に覆われた洞窟を抜けて少しずつ下がって行く。山の斜面に出ると道とは言えなさそうな道が続いている。それを進みながら次の洞窟を目指し、アイテムを回収する。
「ででーん、聖騎士の薬ー! 使用すると味方全体にディスペル耐性を付与するつよつよアイテム。なお公式戦では当然、アイテムの類は使用禁止である」
「強いには強いけどちょっと使いどころに困りますよね、こういうのって。ダンジョンでボス挑むときに使うぐらいかなぁ……」
「そのダンジョンボス攻略だって結構アイテムを使わないのが主流だしね。120ボスとか150ボスが相手になったら流石にアイテム解禁も増えて来るんじゃないかな。アイテム使うと楽をするって考えはまあ、解らなくもない……」
俺も基本的にはアイテムを使わず攻略する事を考えるタイプだし。なんかボス戦でアイテムを使うと負けた感じがするんだよね……とか考えている間にちょっとデカめのモンスターが道を塞いでいる。デスペリアぶっぱすると洞窟が崩れたりするので、《ディストーション》の様に範囲を絞れる魔法や、弱点付与から《クイックレイド》連射で即殺する。
出現するモンスターのレベルは大体80台から90台ぐらいで、適正ランクはAぐらいになる。レベルだけ見れば間違いなく負けてるが、モンスターのスペックはこっちのが上だ。そうそう力負けする事はない。
「牧場長、疑問良いですか」
「牧場長って呼び方どうにかならないの? どうぞ」
「これ、視聴者からの質問でもあるんだけど……なんで上空から行く必要があったんですか? 地上ルートの方が安全だったりしませんか? 態々上空から洞窟抜けるのはリスクがあるし、空路を経由するなら直接現場まで乗り込む方が安全じゃない? って質問が」
「良い事を聞くね」
周りを確認する。3方向に分かれる道を見て、回収できるアイテムを思い出して順路を進むかと決める。洞窟を抜けると再び外に出る。雪山系マップって斜面と洞窟を通るパターンが多いよな……RPG系のお約束というかなんというか。
なお当然、罠もある。ララをシュー! あの世へゴー! はい、解除完了。愛護団体からのファンメールが凄い? 知ったこっちゃないぜ!
それで、えーと、何だっけ? あぁ、ルートの話か。これは館長から聞いたやつだな。
「答えを言うと空間が捻じ曲がってて真っすぐ進んでも着かない、ってなる」
「空間が捻じ曲がってる」
「あるだろ? ワープしなきゃ進めないダンジョンって? そう言うのと一緒でここら辺はとある事情から空間が凄い捻じ曲がってるんだよ。まあ、アレだけのデカい体をダンジョンに押し込んでるんだから空間が捻じ曲がるのも当然だよな」
「今なんか相当ヤバイ事言いませんでした? ここらの山の空間がサイズだけで歪むとか」
「言ったよ。まあ、見れば解るさ」
竜王ラグナロク、死ぬほどデカいから。ビビるぐらいデカいから。見たらマジで腰抜かすから。覚悟しろよ。ここに居なきゃ成層圏の外で浮かんでろって言いたくなるレベルだからな。それぐらいデカいんだからな。
「お、出口か」
洞窟を抜けると開けた崖に出た。左右に道はなく、ここで道は途絶えている。崖の端まで移動すると、撮影クルーもついて来る。皆は辺りを見渡し、それから他に道がないのを確認し、首を傾げた。
「アレ……牧場長、先に進めませんよ? 道間違えました?」
「いや、ここであってる……と、そろそろかな」
図書館の栞を取り出してゲートを開く。そこから待機させておいたエスト、エデ、ノトスを呼び出す。手持ちのパーティーを全員並べても暴れ回るぐらいのスペースがここにはある。そしてそれぐらいの広い場所に出た場合、何が起きるかはゲーマーの皆さんならお察しですよね!
ずんっ―――。
揺れる。
衝撃が走り、崖の上にいる俺達のバランスが崩れる。おっとっと、と倒れそうになる体を素早くミレーナが横に回り込んで抱き着くように支えてくれる。ありがとう、そう言う前にピキ、という音がやけに良く響いた。
撮影クルーの顔が真顔になった。
全員が一斉に洞窟の方へと視線を向けて、それから洞窟の出口と、この崖の境に亀裂が走ってるのを見る。
「あー、その、鴉羽さん? その……亀裂が見えるんですが」
「そうだね」
「……」
「……」
「あのぉ」
ディレクターが声を震わせながらこっちを見る。嘘だと言ってくれよという表情で俺を見ているので、サムズアップを向けてから……直ぐにそれを下に向ける。
「これが順路だ」
「―――」
絶望の表情を浮かべた瞬間、大きく離れた所で山の斜面が爆発した。その衝撃が響き渡り、崖に刻まれた亀裂が一気に広がって―――山から切り離された。
「うわああああ―――!!!」
「うぎゃあああああ―――!」
「ぎょあああああ―――!!」
「死んでもカメラは放さねぇ―――!!!!」
まるで巨大な足場みたいに切り離された足元の大地は突如として自分の前世はジェットコースターだった事実を思い出し、前世の職務を忠実に再現する事に決めたらしい。最初はゆっくりと、やがて滑りやすい山の斜面を加速しながら滑り落ちて行く。凄まじい風が吹き荒れる中、重力と風力の操作が行われ、体が足場から離れて行かないように調節される。
前世代からここら辺のエレメントコントロールはほんと優秀で助かるねぇ、魔女血統……。
ずずん、と揺れる山と加速する足場。その中で、雪を土煙の様にまきあげながら何かが斜面を泳いでいる。山の斜面に雪崩を巻き起こしながら此方へと向かってくる巨大な姿が山を覆う雪の下に隠れている。クルーが悲鳴を上げる中、カメラマンだけがそれを鮮明に映像に捉えていた。
「対大ボス特殊戦闘フォーマットでやるぞ。エスト、ミレーナ、エデ、ウェル前で残りは後衛に」
「了解大将」
「マスター、戦闘中は問題なく維持できるけど、私が死んだら諸々の補助は途切れるって意識しておいてね」
「なんか今日は無限残業させられそうな気がしてる」
「がん、ば……るっ!」
「わんっ!」
指示通りにモンスター達が戦闘配置につく。その間にも巨大な影は雪の中を泳いで―――飛び出し、滑り落ちる足場の後を追いかける様に出現した。砲丸の様な雪の塊が雨の様に降り注ぐ。炎のバリアを生みだしてミレーナがそれを払い、その向こう側に出てくるのは横幅50メートルを超える巨大なワーム型モンスターの姿だった。
「なにあれ! なにあれ!! なにあれぇ!! ぼ、ぼぼ、牧場長! アレなに!? なに!?」
「アイスワーム、中ボスだよ」
でででっ、とロックなBGMがかかり出す。良く見るとADがミュージックプレイヤーで音楽を流し始めていた。サムズアップを浮かべるのでそれに俺もサムズアップを返し、クルーたちを足場の端へ……アイスワームの反対側奥へと移動させる。
俺はノトスとチビと並び、指示しやすい距離を保つ。
「―――!!!」
巨大な円形の口から言葉にならない咆哮が溢れだす。この山々の斜面をまるで水の中の様に泳ぐ姿は他の生物の生存を許せるほど器が大きいようには見えない。倒さない限りはゴールにたどり着いても追いかけて来るだろう。
「このメンバーでボス戦やるのは初めてだな? とりあえずは公式戦に近いルールで体を慣らす。相手は格上だが恐れる事はない。この程度の雑魚、俺達の敵じゃない……行くぞ」
ぱちん、と指をスナップさせてモンスター達がここまでスタックさせてきたバフを一回霧散させる。事前積み込みアリだと簡単に勝ててしまう。それじゃあ意味がない。だからバフを消してリセットした所で改めてアイスワームを見上げる。
中ボス戦の開始だ。