アイスワームを倒して漸くドラゴンズバレー前最後のエリアまでやって来る事が出来た。
前方に広がるのは白に覆われた世界。見渡す範囲は全て白く染まっており、果てが見えない。時折、凍り付いた何かが見える。それ以外は何も見えてこない、ただただ寒くて、何もない。そんな寂しさを感じる世界が広がっている。
「凍竜氷原にご到着。ここはループ構造になってたり迷い易いからなるべく俺から離れないでくれ。俺も目印を見失うと普通に迷うから」
そう言った瞬間クルーが全員俺にしがみついてきた。鬱陶しいから離れてくれ。全員べしべしと引き剥がす。
「あぁ、そうだわ。皆、あまり私の愛しい人から離れないでね。そこを中心に防寒結界を張ってるから。正直ここ、寒さが異常よ。攻撃魔法で常に覆ってるのかってぐらいの冷気が常に満たされてるわ。普通の防寒具なんてまるで役に立たないもの。離れると氷結魔法を受けてるのと同じぐらいのダメージが入るわよ」
全員一瞬で俺にしがみついてきた。それを見てミレーナが笑っている。まあ、半径25メートルぐらいは安全圏だとミレーナが教えてくれるので、少し安心して皆距離を空ける。そうすると周りを見る余裕が出来てきて、皆が周りを観察し始める。
「しかしほんと何もないですねここ……道……どこ……?」
「ひたすら馬鹿広い氷原になってるけど、特定のルートを通ると林とか、温泉とか、遺跡とか、祠とか、山の麓とか……そういう所に辿り着く事が出来る様になってるよ。ここはね、直ぐ近くにあるドラゴンズバレーの影響を受けて時空の歪みがあっちこっちで発生しているんだ。お蔭で道がぐちゃぐちゃの滅茶苦茶になってて、前に進んでいるようで違う所に飛んでるなんて事が良くあるんだ」
ループ構造にもなっているのでちゃんとマッピングしながら進まないとまともに目的地にたどり着けない仕様にもなっている。初見でここを突破するのにはまあ、数時間の忍耐が必要になって来るだろう。
とはいえ、今回は心配ご無用。
「俺が道を把握してるから迷う事はないよ」
「よ! 流石牧場長! 頼りにしてますよ! いや、マジで! ちゃんとお家に帰れるかは全部牧場長次第なんで……」
「大丈夫、ちゃんと皆を無事に家に帰す予定だから」
さて、ララが欲しい所だけど……どっかではぐれちゃったなぁ。戦闘中に振り落としちゃった? まあ、どうせ死んでるだろうし適当に蘇生アイテムを投げて無からララを召喚しておこう。よし、訳の解からない仕様でララの死体が無から現れて蘇生されたぞ!
死体が残らないぐらい消し飛ばしても蘇生出来るんだ! 目の前に死体がなくたって蘇生は出来るんだ!
「出番っすか……なんすか、この気配……なんか……なんかヤバイのいないっすか……?」
「お」
蘇生直後だというのに、ララは氷原に目を向けると耳をピン、と立てて何かを感じ取っている。ララは特別死に敏感なモンスターなので解ってしまうのだろう。絶対に抗えない死の化身とも呼べる強さを。ウェルギリウスも先ほどから俺の影に潜って何時でも動けるように待機している。
あのノトスでさえ軽口を噤んで静かに氷原の奥を見つめている。チビは雪にはしゃいで転げ回っていた。
「……本当にラグナロク様がいらっしゃるのね」
「竜王様。私は最期まで会う事は出来ませんでしたね。魔女族の決死行の時は既に御隠れになっていたので」
「あぁ、魔女はそうでしょうね。あの時私は天に居たから見ましたわよ、天蓋を破る決戦と竜族の敗北を」
エストの黒翼はこの白い世界の中では酷く目立つ色だった。だがそんな自分が少しでも見られないように、気配から逃れる様に翼をたたんで身を丸めると、体を震わせた。
「見た瞬間、アレに勝てる生命なんていないと思わされましたわ。物理的に、概念的に、生命無機物関係なく……ラグナロク様に勝てる存在なんてないと、強制的に理解させられますの。でも負けましたわ、角を折られ、牙を折られ……後はもう縮こまって隠れる事しかできませんでしたわね」
はあ、と吐いたエストの吐息は一瞬で寒さの中に消えていった。
それに対して言う言葉もない俺はこの四次元ポーチの中から目印になるジェムを取り出す。これがビーコン代わりになって位置を教えてくれる。ミレーナがこのジェムの場所を追う事が出来るので、定期的にこれを落としながら歩けば馬鹿広い氷原でも迷わない、ってワケ。
ゲーム時代はマップがあってもうちょい見やすかったのだが、リアルになるとまるで視界が終わりの終わりって感じだね。マジで方向解らなくて面白い。目印をちゃんと用意しておいて良かったぁー。
やや曇り気味で雪がそんなキラキラしてない事だけが救いか。どっちにしろ視界が終わってる事実に変わりはないが。
「あ、の、音楽、教えて、欲し、い……!」
「自分ですか? 勿論ですよ! 牧場長には普段お世話になってますから、教えられることは教えちゃいますよ!」
エデとアイドルくんはなんか交流してた。同じ歌唱属性モンスターとして解り合う所があったらしい。エデの歌唱能力は合体由来のもので、生来のものではない。そこにちょっと引っ掛かりを覚えているからちゃんとしたプロから教わる気らしい。良い子だよお前は……。
「DとADも準備オッケー? カメラさんもイケる? 良し、それじゃあ真っすぐドラゴンズバレーに行くぞ! ……って言いたい所だけど、実はここ、何体かのモンスターを解禁出来るスポットでもあるんだよね。次何時来れるか解らないし、他の人類の為にもちょっと寄り道して新しいモンスターの合体を解禁させておこうか」
「え、生放送でそんな事して良いんですか!?」
ADのツッコミにうむ、と頷く。
「近いうちに理解すると思うけど人類はもっと強くならなくちゃいけないからね。ここで解禁できるモンスターはどれも優秀だし、種族単位で解禁出来るモンスターもあるからそれを含めて説明とか解禁作業していくよ」
そんじゃレッツゴー。
ざっざっざっ……雪を踏む音が静寂の世界に響く。結構雪が深いのもあって歩き辛い。周りの景色は似たようなものばかり、こういう時絵が地味で暇だよなぁと思う。が、流石プロだけあってアイドルくん達はこういう時の話題を幾つも備えていて場を持たせるのが上手。
今はエデに歌い方を教えていた。モンスターと人間では謡い方、歌の乗せ方が違うらしく、それを共通の話題に盛り上がっていた。俺もちょっと混ざりたいなぁ、とは思うけどそこまでの余裕はない。
というのもここは結構迷いやすいのもあって、記憶の通りに歩いた所で迷わない保証はどこにもないのだ。なにせ、周りの景色が変わり映えしなさすぎる。ゲームでは左に何歩、右に何歩、みたいな覚え方でよかったのだがリアルにもなるとそうもいかない。
めんどくさいよー。地図もないし。
とはいえしばらく歩いていると氷原にオブジェみたいな物が見えて来る。凍り付いたモンスターとか、凍り付いたララとか、崩れた氷塊とか、ドラゴンの骨とか。凍ったララだけ溶かしたら再び先頭を歩かせてフリーズトラップ踏ませて定期的に罠を起爆させる。
「動物愛護団体のファンメール凄いですよ! 今人気ナンバーワンじゃないですか?」
「ララの死亡シーン纏めた動画を俺の代わりに送っておいてくれ。ウチのHPに飾ってあるから」
「闇の部族の魔除けか何かで?」
「そもそもララに文句言うならバトル文化そのものに文句言うべきだろ」
「そっちもファンメール凄いらしいですよ」
もう既に噛みついてた。やるじゃん。ちょっと見直したよ、その無駄な努力。残念だがララの死は俺達が生き残る上で必要な事だからこれからも死に続けて貰う。ほら、見てごらん、既に死んでいるのに死んでいる事実に気づかず次の罠へと向かって行く姿を。
宣言通りまずは寄り道をする。
凍った木を見つけたらそれを東に進み、凍った川を超えると林が見えて来る。その中に見かけないモンスターが浮かんでいる。透き通った氷と冷気を纏ったモンスターの姿だ。
「氷の精霊、精霊種の氷属性……水と風複合型の種だねぇ。とりあえずデスペリア数発ぶち込み殲滅します」
「あぁ、キラキラ綺麗な精霊がっ!!」
ばごーん、とデスペリア連打で殲滅完了。観測された事によってこれまで合体出来なかったモンスターの種族ロックが解禁される。これで複合属性の精霊のロックが解禁された。精霊そのものは強くないが、モンスターの属性関連を強化するには非常に有用なモンスターだ。
で、氷の精霊を解放したら林の中をもう少しうろうろする。
するとサンタクロースを発見できる。
「やあ、良い子にぎゃあああああああ―――!?」
「このサンタクロースですが見かけたらまず殺します」
「まずサンタクロースを殺す!?」
「袋の中はプレゼントなので強奪します」
「強奪します!?」
わぁい! レアアイテムがたくさん! お、アンブロシアが入ってた! ラッキー! 手に入れたアンブロシアをカメラの前に持って来る。
「それでは視聴者プレゼント! 番組が5分以内に出してくる宣伝ツイートを公式をフォローしてからリプライしよう! 抽選で1名様にアンブロシアをプレゼント!」
「とんでもない事をし始めたこの人」
「髭を毟って……えい! はい! 此方合体素材も抽選で1名にプレゼント! 子供の夢の守護者、サンタクロースはいかがかな?」
「今テレビの前の子供ギャン泣きしてると思いますよ。いや、目の前で殺してプレゼントはサイコパスかなんかですか?」
「う、うぅ、な、何を……」
「息があったか」
止めを確実に刺して殺してから残りのアイテムを回収する。レアモンスターをこれで解禁出来るんだから皆嬉しいでしょ。ついでに近くを彷徨ってる赤鼻のトナカイも殺して素材を回収、合体解禁しておく。林の奥にサンタの秘密基地があるので奪った袋から合いかぎを取り出して物色。
アイテムを幾つか回収してから去る。じゃあな、お前はもう用なしだ。ついでに林ともグッバイ。
背を向けて氷原へと戻って行く。
「さあ、次の回収と解禁現場へと向かうよ」
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