DLCには面白さが求められる。
何故ならDLCは続編ではない。フルプライスではない。ゲームの規模で言えば本編とは比べ物にならない程小さい。だからこそプレイヤーを引き付けるだけのものが要求される。
じゃあ面白いDLCとはなんだ? これは簡単に答えられる。
やりがいだ。
追加マップ。
追加シナリオ。
新モンスター。
そして挑戦。
ユーザーの欲しいものはSNSを検索すれば簡単に出て来る。それを供給できるかどうかはまた別の話だが、理想は何なのかというのは簡単に調べられる。後はその要求を満たす事が出来るかどうか、というだけだ。
DLC第1弾“ワールドツアー”は日本国内だけだったゲームを世界という舞台に広げた。
DLC第2弾“マスターズチャンピオンシップ”はそれまで設定だけだったグランドマスターの地位が実装され、プレイヤーたちはゲーム内世界において最強の称号をこれまでとは別レベルの強さを持つNPC達と争う事が出来る。
そしてDLC第3弾、“深淵への誘い”は世界各地に裏ダンと呼ばれるような高難易度ダンジョンを追加するDLCだった。それによって追加されるマップはいくつもあったが、その全てが製作者を死に追い込みそうな程作り込まれているものだった。
そしてその景色が今、目の前に広がっていた。
踏み込んだ瞬間に広がる夜空。明ける事のない星々が天上では輝き、足元には薄く発光する花が視界の限り広がっている。奥には社殿が見え、どこかへと繋がる道も見える。遠くには湖の様な場所まで見え、まるで別世界に踏み込んだような美しい景色が広がっていた。
手を前に出せばひらひらと舞う光で編まれた蝶が指先に止まり、歓迎するように翅を休めてから燐光となり散った。
その景色に誰もが黙り込んだ。
「……驚いたな、あの奥にこんな場所があっただなんて」
「疑ってた?」
「3割ぐらいは。自信を見るからに何かあるとは思ってたが……いや、本当に驚いた。なんだこの気配は……化け物だらけだぞ」
冷や汗をかくように東吾が呟いた。
湖の更に奥、更に遠くへと視線を向ければ巨大な影が蠢いているのが見える。恐らく日本人であれば直ぐに正体が何であろうか察する事の出来る化け物モンスター、このダンジョンに配置されている裏ボスの1体だ。
当然、DLC実装のボスなのでプレイヤーに対する挑戦状みたいな部分があり、好きなモンスターで戦いたい、勝ちたいとか甘えた事を言っている連中では絶対に倒せない様な性能をしている。好きとか嫌いとかを超えて勝利に食らいつくようなプレイヤーが倒せる難易度になっている。
無論、報酬は出る。だがその挑戦こそが最大の報酬とも言える。
「わくわくが止まらねぇなオイ」
その言葉に俺もうんうんと頷く。俺も最終世代に到達出来たら裏ダン巡りして片っ端から裏ボス討伐したいと思う。ゲーム内だと何度でも挑める仕様だったし、裏ダンに入る度に復活して欲しいと思っている。その方が絶対に楽しいから。
ともあれ、根の国に到着した瞬間から東吾のモンスター達は姿を隠すように消し、ラファエラだけが傍に控えるように配置された。ダンジョン内で即座に反応する為のフォーメーションの様だ。一体どうやっているんだろ……とは気になるが、流石に聞き出すのはマナー違反か。
「良し、尊。どこ行くんだ? 奥の気配に挑むのか?」
「滅茶苦茶心地よいし、空気が馴染むのはポイントがデカいんだけど、流石に家族を置いてコッチに移住する気はないかなあ」
「それもそうか……で、アイテム回収するんだろ? 俺はお前の護衛に回るぞ」
「良いの?」
「お前がいなきゃ入れなかったからな。俺がここを探索する時はまた別の日に、改めてお前に許可を貰ってからだな。それが終わったら協会に報告入れて……って感じだな」
「あぁ、そういう事しなきゃいけないんだ」
「まあ、報告の義務って奴だな。その時は俺が手伝おう。それなりに権力があるから面倒な部分はふっ飛ばせる筈だ」
頼もしすぎる。イケメンじゃん。
たぶん東吾とエンカウントしなかったらここ解禁した事、ずっと黙ってたと思うとちょっとだけ申し訳なくなってきたな……。
そう思いながら手帳を取り出す。頁をパラパラと開いて中身を確認する。それを東吾が覗き込む。
「白紙?」
「情報は全部頭の中に入ってるけど、引っ張りだすのに苦労するから手帳って形態をとって検索してるんだ。こうやると頭の中から情報が引っ張りだしやすくてね」
「ほー、記憶の整理術って奴か」
どっちかというと暗示とかそういうのに近いかもしれない。自己暗示で埋もれた記憶を引っ張りだしてる……というのが正確かもしれない。何はともあれ、これでこのマップの形は大体把握した。まずはこっち、と東吾を連れて移動する。
入口近くの鳥居に移動し、その裏側に移動する。その根元を軽く調べればスキルカードが落ちている。
「じゃじゃーん、《パーフェクトキャンセラー》のスキルカードゲットですのー」
「5秒で3億稼ぐじゃん」
「3億……3億っすか!?」
ララが急にインフレした金額にビビるが、まあ、この世界だとパフェキャンもこれぐらいの値段になるかあ、という納得感はある。なにせこれ、相手の行動に割り込んで発動できるリアクションスキルという分類に入るスキルで、後だしで相手の発動スキルを1回無効化するという馬鹿のスキルなのだ。
無論、1戦闘1回という制限が存在するのだが。それでも最強の無効化、誘発スキルだと言える。これ1個あるかないかで戦闘の結果が変わるレベルだ。習得難易度もそこそこ高く、デバフ適性の高いモンスターにしか習得できない。
それでも対戦環境では必須と呼ばれるスキルの1つだ。“死神”用に確保したかった。
DLCエリアなんで落ちてるアイテムはこういうものばかりだ。お宝の山だからなるべく回収しながら移動したい。最大の目的は種族:死神の解放なのだが、そこまでのアイテムも回収して回る。他にもスキルカードや隠し味、便利アイテムは落ちているのだから。
「あっちの木見える? アレにはアンブロシアが2個ぐらいあった筈だから東吾にも分けてあげるよ」
「マジでわくわくが止まらねぇな。わくわく通り越してちょっと震えて来たわ」
アンブロシア、モンスターのレベル上限を+10するアイテム。1体に付き1個まで使用可能。最終世代でこれを使用すればレベルが100+10で110まで上がる、対戦環境必須アイテム。コッチの世界だと馬鹿みたいな値段しててちょっと手に入れるの無理ですね……ってなる値段になってるのでこういう所で拾いたい。
無論、俺も最終構築に使用するから売る事は出来ないし、確保したい。
というか持ってるのを知られたら強盗がダース単位で襲い掛かって来るレベルのブツだ。
殺してでも欲しいという奴はこの世界なら多いだろう。
「じゃああの木まで競争な!」
「あ、ズルい! オラ!」
「あ、クソ!!」
「!?」
走り出した東吾の足目掛けてララを投げ込んで、もつれさせて転ばせたら横を抜けて一気に木へと向かってダッシュする。テンション高めにひゃっほー、と叫びながら走ると後ろから凄い勢いでララが飛んできた。
「ボクは飛び道具」
「痛っ!」
後頭部にララが飛んできてそのまま草花の中に転がり倒れる。その間に追いついた東吾が追い抜こうとするので直ぐに立ち上がって並走する。実家の空気で若干テンション上がってる中アイテムを回収する為に木に近づこうとすると―――スラっとした艶かしい生足が木の裏から出てきた。
俺達は急ブレーキをかけて木から距離を空けて止まった。
「……」
「……」
脚はその脚線美を見せつけるように空を少しだけ蹴ると、木の裏へと戻る。そして今度は細く、白い女の腕がすらりと木の裏から伸びる。俺達は腕を組んで無言でそれを眺める。じぃ、っと艶かしい動きを取る手の動きを眺め、名残惜し気にそれが木の裏に隠れるのを眺める。
ふりっ。
狐の尻尾が見えた。
ふりふりっ。
狐の尻尾がもっと増えた。
俺達はこのポールショーみたいなものをガン見してた。
「あの、敵だと思うんっすけど」
「知ってる」
「それはこれを見ない理由にはならないからな」
「どうして殿方とはこうも……」
それが男の本能。逆らえない運命なのだ……とか言っていると木の裏からついにその姿が出てきた。
狐の皮を衣服の様に被った女の姿だ。但し尾が9本生えており、明らかに人ではない事が見て取れる。名前はその姿の通りキュウビ、このエリアで出現するモンスターの1体だ。
「ふふ、根の国へようこそ、勇ましき方々。迷い込まれました? それとも征服に参りました? 或いは欲のままに踏み込みました? 何にせよ歓迎いたします……ね」
ちらり、ちらりと皮の隙間から見える生肌に俺達は無言でテンションを上げる。頭の部分も狐の皮を被っていて顔全体が見えないのもミステリアスポイントが入って好感度高め。誘惑してくるような仕草に俺達のテンションも既に最高潮。
「どうでしょうか、そこの木陰でちょっと休憩でも……♡」
「あ、婚約者いるので」
「俺も妻子持ちなんで不倫はNo thank you」
「あ、一瞬で正気に戻った」
はあ、と溜息を吐くラファエラとは対照的に出てきたキュウビはずっこけて転びそうになるのをすんでの所で堪えた。
「待ってくださいまし! 今のは完全にノリノリのパターンだったじゃありませんか! ……あ、成程、解りました……これは所謂あれですね?」
キュウビが尻尾の間から水晶玉を取り出した。そこには見覚えのある同人発売サイトが表示されてる。もしかしてその水晶玉WIFIに繋がってる? スマホを確認するとしっかり外の回線がここまで届いてる。嘘でしょ。
「日本で今最も検索されている性癖はNTR、つまりこれは嫌々言うお二人を私が押し倒すというジャンルでございますね? 成程、地上の性癖も多様化しているご様子で……! えぇ、えぇ、そういう需要に応えられてこその出来る女というもの―――私、イケます」
「違うが」
「そもそも寝技に入った瞬間魂食らうつもりだろお前」
「はい」
会話が通じているようで全く通じていない。結局のところ結論は出ている。
結局、野生のモンスターとは殺し合うしかないのだ!
キュウビLv100 が あらわれた!