「牧場長! 見てこれ! 見てくださいよ!」
温泉周りをぐるっと一周してアイテム回収を終えて戻って来たらアイドルくんがバスタオル1枚姿になってた。
「本当に温泉に入るのか……」
「入りますよ」
きらーん、と歯を見せて笑みを浮かべた……と思う。ポーズ的にそんな感じだろう。駄目だ、前なら見える範囲の人も今じゃ見えないな。
「だってアイドルですから。それにほら」
温泉の方を指差す。
「もう入ってますし」
温泉に視線を向けるとノトスが頭に手ぬぐいを乗せて温泉に浸かってた。なんというか凄いおじさん臭いけど似合ってるんだよね……。カメラが向けられるといやん、と体を捩った。
まあここ、非戦地帯だし大丈夫か。一応見とくから、と伝えて俺は靴を脱いで素足になってから、それを温泉に入れて足湯モードで楽しむことにした。なお、チビは迷わず飛び込んでる。皆、ちょっとした休憩タイムだ。
DやADもちょいと腰を休めている間に事前に用意した手書きの地図を取り出し、ここまでのルートと取得物をカリカリと書き込む。アイドルくんのサービスショットを撮るのに忙しくしてたカメラマンは此方に気付くとカメラを向けてきた。
「鴉羽さん、それは?」
「ここまでの地図かな。手書きだけど。あ、今スクショ撮られてる気がする」
良く考えたらこれ機密情報の塊だったな。まあ、良いか。現在地をマークして、ドラゴンズバレーまでのルートを示す。
「ここから山脈沿いに中央を避けて、崖沿いに移動しながら……この通路を抜けて、ドラゴンズバレーはここだな。ここに行く」
「中央を避けるんですか?」
「中央はドラゴンの縄張りになっててな。ボスモンスターもいるんだけど120ボスだからちょっと避けたい。今の俺にはキツイ」
勝てないとは言わないが、ドラゴンズバレーに入ってからもやりあう可能性は高い。ドラゴンはかなり賢い生き物なので、1度見せた戦術は間違いなく対策されるだろう。
対大ボス用の戦術は用意したが、体力的にもリソース的にもやれるのは一回だけだ。それを無駄撃ちするつもりはない。俺にも体力の限界は存在するしな。
温泉に目を向けるとララが死ぬことなくぷかー……と浮かんでいる。チビがそれを押して遊んでる。ララもリラックスした様子で遊ばれてる。エデはアイドルくんに教わった歌唱トレーニングを早速頑張ってるみたいだ。
ミレーナとエストは……此方とカメラをチラチラと見て、温泉に入るのを諦めた。流石に羞恥心はあるらしい。良かった。本当に良かった!
出来ることなら図書館へ戻ってそこで休憩するのが理想なのだが、感じる視線はこちらを値踏みするものだ。この視線の中で流石にズルをする気にはなれない。
アイツら、プライドが高いから格下と認知されるとまともに取り合わないからな。舐められないのが大事だ。
なのでこの温泉を休息地に、仮眠と食事をとる。牧場から久遠お手製のお弁当を貰っているので、これを食べて気力体力を回復させて、軽く眠って体力を戻せるだけ戻したらいよいよ後半戦開始だ。
キャンプを畳んで、ドラゴンズバレーに向けて移動を開始する。
ここまではアイテム回収や解禁を目的にうろうろしてたが、本来の目的に戻ろう。
温泉を出たら事前に告げたルートで中央を迂回する。山脈沿いに移動を再開すると崖上へと移動する道が見えてくるので、そっちに移動して大きく迂回する道に入る。
こっちでも回収できるもんはあるが、回収できない物の方が多い。やはり固有種とかは危険なエリアに踏み込む必要がある……とはいえ、残りの回収作業は他の人達に任せよう。
崖の上に来ると今度は寒冷地に適応したワイバーンやハーピーの類が出現してくる。流石にドラゴンズバレーに近づくとモンスターのレベルも上がってきて、90や100が基本になる。
ここら辺になると事前アルティメットの魔力限界突破デスペリアじゃないと雑魚を突破しづらくなってくる。仕方のない話だが、環境レベルがS寄りになるとキツイ。デスペリアじゃ火力が足りなくなってくる。
早く来てくれアルティティシア―――!! 俺がSにならないと来れないんだわ。早くSになりたーい。
90や100レベルのモンスターを殲滅しながら進んでいくとだいぶ高い所までやって来る。崖から見下ろせば氷原全体が見渡せるようになってくる。雪やら風やら霧で奥の方は見通しが悪いが、魔法の双眼鏡を使えばそういう障害を無視して奥まで視線を通せる。
中央ルートの奥の方に双眼鏡を向ければ、やっぱりヤツがいた。
「お、視線が合った。怖ぁ」
「牧場長! 牧場長! なに見てるんです? 牧場長! 見たい! 俺も見たい! 見せて! というか見えるの?」
「魔法の双眼鏡だから見えるよ。ここを真っすぐ……あっちにね。中央ルートを進んでたらアレとぶつかってたって話」
「えー、なになに? うわっ、こっちガン見してませんアレ? え? この距離でこっち認知してる? うわ、横に動いたら視線で追って来た、怖ぁ……」
カメラマンにも双眼鏡を渡してカメラを合体させて問題児の映像を撮る。
「ウズゥ・ベルヴァー。別名剣神竜、斬撃トカゲ、剣魔竜、斬撃ぶんぶん丸、その世界斬とかいうクソスキル使うなクソがさん」
「最後だけ凄い私怨混じってない?」
皆の怒り。
姿が銀色、四足歩行で背から翼を生やした甲殻鎧持ちの西洋竜……ドラゴンタイプなのだが、身にまとう銀色の甲殻がまるで鎧の様な姿をしていて、それが西洋甲冑をどことなく思わせる。翼膜も薄い銀色に輝いてとても綺麗。
「メッチャ綺麗なドラゴンですね! どういうドラゴンなんです? 男の子皆ドラゴン好きだから気になっちゃう」
「あの体に纏っている銀色の甲殻とか鱗、綺麗だろ?」
「うん、とても綺麗ですね」
「アレ全部液体金属」
「もう嫌な予感しかしなくなった」
「戦う時はアレを変形させてオールレンジで斬撃を放ってくるぞ。しかもライフが尽きて復活する度に《世界斬》というスキルで防御、耐性、カット、バリア、無敵貫通の大ダメージを前衛後衛関係なく叩き込んでくるから最大HPが耐えられるラインにないと強制的に全滅するぞ」
「クソゲー過ぎる」
うん、そうなんだ。超火力速攻パを用意するとライフストック消費時のオート《世界斬》でそのまま全滅するのだ。HPの高いタンクを用意してもタンクだけ生き残るからそのまま戦線が壊滅するし、軽減出来ないから単純に馬鹿の火力だしで一般的な対ボス編成キラーなんだよね。
今のメンツだと《世界斬》越えられずに全滅する。先制パンチしてもライフ消費で強制ワイプだ。絶対に戦いたくないタイプのボスだ。
「倒すと合体解禁出来るんだけど……まあ……俺にはちょっと倒せないモンスターかな。ちなみにブライアン、国木田仮面、東吾、全員モンスターのHPが足きりラインに届いてないから全滅するね」
「これ、そこそこ絶望的な話じゃないですか?」
「うん」
今の世界トップ層が全滅するって話だからね、これ。ちなみに《カオスタイム》で《世界斬》を突破する事は出来ないので当然チビも死ぬが、《白紙の未来》習得後の《カオスタイム》だとバフ優先度が《白紙の未来》持ち有利に運ぶので回避できるようになる。
そう、《白紙の未来》はバフの矛盾許容と保有側の判定有利化スキルなのだ。絶対回避に対して必中を持ち出した場合、必中がシステム的に勝利する。だが《白紙の未来》を習得している場合、絶対回避が必中効果を上回るようになるのだ。
馬鹿の効果。絶対回避ビルドが生みだされてしまった諸悪の根源。悪用されるって100%解ってただろこんなの。まあ、問題があるとすれば太公望が出てきたら何も出来ずに死ぬしかないって事かな……後イナゴもだいぶキツイ。ゴキキングの方ならまだイケるんだけど。
という訳で。
「あれはスルーします。後続のマスターもなるべくスルーしよう。無駄に死ぬ必要ないから。あぁ、でもアイツのほかにも中央は固有種解放イベントや討伐イベントがあるよ。流石にSに上がるまではちょっと手出しできないかなぁ、ってのばかりだけど」
「それ、ほぼ死と同義じゃないですか?」
「そうとも言う」
だから皆触るの止めようね。ウズゥ君こっちガン見しながら翼をぶんぶんするのマジで止めてくれない? どんだけ距離あると思ってんだよ。素振りするだけで怖いんだよマジで。何回全滅したと思ってんだよほんと。なんで攻撃デバフに対して耐性持ってるんだよ、普通に考えて絶対に許されないだろ。開発はアホなのか? はい! アホなので敵も味方もインフレさせました! カス!
良し、死ウォッチング終わり。関わらないと決めたからこれで終わり。
ドラゴンズバレーもだいぶ近づいて来た。移動しよう。
見晴らしの良い崖から進めば横穴が見えて来る。ここは確かビッグフットの住処だったか? 種族解禁出来るイベントなのでちょろっと寄って解禁しておく。ここも皆殺し……という訳じゃなくて、ビッグフットの親がいるので迷子になった子供のいる場所を教えると爆速で迎えに行く。
子供を連れて戻って来た後にもう1度話しかけるとロック解除で合体解禁。居場所は知っているので伝えるだけで終わってとても簡単に終わる。ゲームやった時に思ったけどこれ、移動中に回収してこっちに来た方が早くない? 駄目っすか? システム対応してない? そう……。
「殺さないんですか……?」
俺を皆殺しを楽しんでるサイコパスみたいに思ってる事に関しては全力で抗議させて貰う。
ともあれ、ビッグフットを解禁以降はもう雑魚モンスターレベル100しか出現しなくなる。それらを無法スキルとコンボで掃討しながら進めば崖はぐっと下へと下がる道に繋がり、中央と合流するルートに変わる。
そしてその果て、巨大な岩壁に挟み込まれるような細い道が待つ。
この先が、ドラゴンズバレーだ。