【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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その答えは……CMの後で

 ドラゴンズバレーに踏み込んだ瞬間から全員が黙り込んだ。ここまで盛り上げる為に喋っていたアイドルくんは静かになり、道中歌唱練習で空気を和やかにしていたエデさえも音を発さない。

 

 まるで静謐を破る全てを許さない空気がそこにはあった。

 

「……」

 

 エストは思い出してしまったのか、身を震わせると此方に距離を詰めてくる。それを見てミレーナが小さく口の中でユダ……! とか言ってる。ノリが戻ってきたな。有り難い。

 

 前を行くララを持ち上げる。

 

「お、死ぬっすか?」

 

「いや、ここからはもう罠はないからね」

 

「そっすか……。え、本当にここ地球?」

 

「地球って星がデストラップだと思ってらっしゃる?」

 

 左右に広がる程岩壁が細い道を作る。頭上から差し込む光がまっすぐ前に進む道を示している。それに従って岩壁の回廊を抜ければ、そこはもうドラゴンズバレーの中だ。

 

 高地から見える雪に覆われた山々。

 

 轟々と吹き荒れる風。

 

 そして谷底に流れる赤きマグマ。

 

 極寒と灼熱が共存する極限環境。高度も上がり空気が薄れ、何時の間にか空間は現実融合型ではなく完全なる異界化された空間になっている。この生存に適さない世界の果てとも言える空間、景色こそがドラゴンズバレー。

 

「最強種が辿り着いた最後の地だ」

 

 馬鹿みたいに広い、見える範囲全てが竜王の領土だ。移動には飛行モンスターを使わないとまともに歩き回る事さえ出来ない。だがここでは様々なドラゴンと戦い、固有種を解禁する事が出来る。

 

 まあ、上位のドラゴンって基本固有ばかりだしね……。

 

「広ーい!」

 

「凄い景色ですねー……マグマ流れてる?」

 

 Dの言葉にカメラマンが谷底のマグマにカメラを向けた。熱く流れる赤き液体が永劫に谷底を照らし続けている。

 

「アレはマグマに見えるけど血液だよ」

 

「血」

 

「そ、ここに来たばかりの竜王の血だよ」

 

 もうずっと前に癒えてるとは思うけど。それでも昔流した血がずっと冷めることなく永遠に熱を放っているのだ。当然、人間には毒だ。触れて無事に済むと思わないほうが良い。

 

 たとえヒールを貰ったとしても、触れた時点で致命傷だ。

 

「さて、いよいよここまで来たけど……」

 

 辺りを見渡す。ドラゴン達の姿はない。空も飛んでいない。隠れている? 姿を見せないつもりか。ここだとちょっと低いな。もっと高い所に行かないと駄目そうだな。

 

 手書きの地図を取り出して、ルートを確認する。一番高い山までのルートを確認し移動を再開する。

 

 ゲーム内ではレベル100のドラゴン軍団が雑魚として出現するエリアだったが、不思議とモンスターは何も出現しない。まるで最初から存在しないかのような静けさだけがあった。

 

 だというのに視線だけは感じる。

 

 間違いなく隠れている。理由は……まあ、察しがつく。だからもっと見晴らしの良いところを求めて高所へと移動する。

 

 その間に1枚目を拾う。

 

「あった、《ドラゴンズバレー》」

 

「あ、フィールドスキル! 来ましたね! で、どんな効果何ですか? やっぱ環境破壊します?」

 

 カメラに拾った新しいフィールドスキルを見せてからポーチに仕舞う。

 

「フィールドが出ている間、全ての存在は強化上限が無くなる」

 

「?????」

 

 《ドラゴンズバレー》の効果にアイドルくんが一瞬でヤバさに気付いて大量のハテナを頭の上に浮かべた。

 

「え、ヤバくないですか」

 

「ヤバイよ。ヤバいけどフィールド破壊すればどうとでもなるからそこまで怖くないよ。それでも対策なしだとインフレゲーが始まるんだけど」

 

 ルール無視出来るなら采配連打+ドラバレで大抵の生物をミンチに出来るようになる。ただしギミックボスは勘弁な! 火力で解決できないやつはそこそこいる!

 

 これで1枚確保したので、駆間に戻ったら量産して流通させられる。また環境が激変するかもなぁー。でも選択肢は多いほうが楽しいからな……。

 

 欲しかったカードを回収しつつ山を登る。

 

 道は人向けじゃないから当然険しい。だがモンスターの力を借りれば1時間ぐらいで近くの山頂に辿り着く。広場のようになっている大地はボス戦をするのにぴったりの形だ!

 

「うお、広っ! 地平線の向こう側までダンジョン広がってますよこれ!」

 

「ドラゴン族を収容する為のダンジョンだからね。それなりに広くないとあの巨体は収められないよ……まあ、ほぼ竜王の体を収める為のダンジョンなんだけど」

 

「……そう言う割にはドラゴンどこにも居なく無いですか……?」

 

 どこを見てもドラゴンは居ない。ドラゴン最大の居留地なのに、何故姿を見せないのだろうか? そんな疑問がアイドルくん達に走るのが解る。一体何処に居るのだろうか?

 

 その疑問に答えよう。

 

「さて、ちょっとした昔話をしようか」

 

 ここなら声も良く響く。さ、て、と。どこから話したもんかな。まあ、最初からで良いか。

 

「竜王ラグナロクと海王ネプチューンは星の王として原初に生み出された生命だった。創造主は海を律する為の王と、天を律する為の王を生み出した。当時はほぼ陸地がなかったしね。あったのは小さな島と火山だけだったよ」

 

「創世神話だー」

 

 キャッキャッされた。そうかそうか、そんなに聞きたいか!

 パパ色々と喋っちゃうぞー!

 

「神はまず生命を生み出し……しかし多くの失敗作を生み出した。それを隔離するための大地を創造し、それらを暗黒樹海に隔離した。そして成功した丁度良い生命は将来の星の住民として巨大な方舟を生み出し、そこを居留地として与えた」

 

 これが暗黒樹海、ノア、そしてラトゥーリア達の村の始まりね。ラトゥーリア達の役割は失敗作が樹海から出て来ない様に監視する事なんだが……そもそもあの樹海は失敗作達が安心して生きて行く為の環境だからな。出ようとはしないだろう。

 

「竜王ラグナロクは天の支配者となり、陸地や生命が増えるに連れてより多くの領地を持つに至った。穏やかで知恵に富んだ生命の王は君臨すれども統治せずを貫く、生命を愛する優しい王様だった」

 

 だからこそドラゴンという種の有用性が認められた。

 

「ラグナロクをモデルに神龍が生み出された。あらゆる龍と竜の祖として。それはラグナロクにとって生まれて初の家族だった。実力も近く、それから多くのドラゴンが創造され、世界に個体数を増やして行った」

 

「うおー! ダーウィンが墓から飛び出して殴りかかりそうな会話だ!!」

 

 寝かしておいてやりなよ。

 

「そんな訳で。ラグナロクと神龍はとても仲良く家族をしてたある日、とある凶報が入りました。なんと彼らを創造した天の支配者が、創造主が死んだのです。それも己の後継者として用意した娘の手によって」

 

 当然、あらゆる生命は怒りに狂いました。この様な者を許してはならない。

 

 制裁を。

 

 討滅を。

 

 滅ぼすべきだ。

 

 こいつは、あらゆる生命の敵だ。

 

「ラグナロク様は神龍と並び立ち、こう言いました……皆のものよ! 安心するが良い! この様な暴虐決して我が許さぬ! 我らの力をすればかの反逆者を討つことが出来る! と」

 

 山々がざわめいている。盗み見してた連中に声が届いて反応し始めてるな。

 

「ラグナロクは神龍と共に天の国へと決戦に向かいました! 伴う仲間はなし! 他の生命は全てが脆く、儚い……この様な凶事にどうして連れて行けようか? この戦いは極限を超える……他の者たちなど不要! 我らの二柱のみで終わらせよう!」

 

 ラグナロクは天へと向かいました。

 

 両手を空へと向けて掲げて、それから落とす。

 

「そして敗北した」

 

 殺気。

 

「確かに、あの時ほぼ無敵だったワールドイーターに勝てたのはラグナロクと神龍の最強コンビじゃなきゃ無理だっただろう。だが竜王には慢心があった。己達なら絶対に勝てるという傲慢さが身を滅ぼした」

 

 月を穿ち。

 

 衛星を撃ち落とし。

 

 太陽にさえ相手を叩き込んで。

 

 地軸を捻じ曲げ。

 

 季節を破壊し。

 

 空が裂けた。

 

「それでも敗北した。その傲慢さ故に竜王は敗北し、神龍を失った。爪を剥がされ、牙を抜かれ、角を砕かれ、そして逆鱗を撫でられ、ラグナロクは天から墜落した。その時かけられた言葉を知ってるか?」

 

 こほん。

 

『あら凄い。本当に倒しちゃった』

 

『でもそれだけね。強くて賢いだけ。何も面白みはないわ』

 

『そもそも何で2匹で来たの? 勝てるとでも思ったの? これで十分とか? 自分の敗北なんて欠片も考えてない? 面白いわね!』

 

『自信過剰というか……自分が強いからどうにかなると思って全てを失ってるんだもの、これ以上面白い見世物もそうそうないわ』

 

『少しでも力を借りようという考えはなかったの?』

 

『そう、アナタは他の生命を見下してるのね?』

 

『否定しなくても良いわ。だってほかは誰も連れてなかった事が答えでしょう?』

 

『並び立つ者は神龍だけ……だけどそれも失ったわね? 誇りも強さも家族も失ってなにか残るものはあった?』

 

『……あーあ、アナタが他の生命を統一し、連れてくることに期待してたのよ? それが出来るなら喜んで滅ぼされてあげたわ』

 

『でもね、そうならなかったの。アナタが他の生命を信じてないから』

 

『……何? この程度で心が折れちゃったの? 負けてそれでぽっきり? はあ、期待外れね。そんなに神龍が大事だったら猶更仲間でもなんでも連れて来るべきだったでしょうに』

 

『まぁいいわ。もう興味ないから』

 

『これでもうこの世界に勝ち目はないわね。地上に返してあげる。ばいばい』

 

「こうして、人類の勝てる要素をラグナロク様は潰したあげく負け帰りましたとさ。最強の竜は負け犬に、相棒は死体に、最高戦力は一瞬で消えてしまいましたとさ!」

 

 殺意。

 

 もはや吹き荒れる殺意が物理的な風となって感じられる。吹き荒れる殺意の風の中、腕を広げて風に負けないように声を張る。

 

「この後! 世界は本当に戦力不足に陥った! 強者たちは団結せず! 勝手に挑んでは敗北して! 人類同士で争い合って! 最後は敗北して滅んださ! あーあ、あの時ラグナロク様がちゃんと他人に頼る事さえ出来ればなああああーーー!!!」

 

 横から飛んできたエスト、ミレーナ、ノトスに羽交い締めにされた。

 

「大将! やりたい事はほんとーに良く解る! 解るけどそれ以上はヤバい!!」

 

「愛しい人? 止めましょ? これ以上は不味いわ」

 

「この星と心中する気ですの!?」

 

「聞こえてるかラグナロク!! お前が少しでも慢心してなければ海王は迷わず参戦してくれただろうなぁ!!! なんでノアは孤独の戦いを強いられたんだろうなぁ?? 解るかおい竜王! 狸寝入りしてるんじゃねぇぞ!! おい!! 開けろ!! 人類だ!!!」

 

「誰か大将の口を塞げ!! 不味いぞ!!!」

 

「館長はずっと協力してくれるのを待ってたんだけどなぁ! 1人で図書館で耐えて待ってたんだけどなぁ! ラグナロクさんなにしてはったんですか? そっかぁ、ニートっすか!」

 

 全力で頭をぶんぶんして逃れていたが、口を塞がれてそのまま雪の中にタッチダウン。全力で青い顔をしたモンスター達に裏切られて封じ込められる。だがもう遅い、俺のメッセージは既にこのドラゴンズバレーに響いてしまった。高まった殺意と怒りをもはやドラゴン達は抑える事は出来ないだろう。

 

 王をディスられた子供たちがやってくる。

 

「き……来た……」

 

 空気が震える。誰かが咆哮をあげた。それに続きまた空気が震えた。誰かが応えた。そこから一気に動いた。これまでこの凄まじく広い空間の隅々に隠れていたドラゴン達が翼を広げ、飛び上がり、その姿を晒した。空に上がり、周辺を覆いつくすような大群が出現してくる。

 

 数百……数千を超えるレベル100や120の暴力集団。

 

 その絵面を見れば誰だって理解するだろう―――現在の人類戦力を超える暴力の総力を。

 

「あ、おわた……」

 

 エストの体から力が抜け、膝をついた。ミレーナ、ノトスが呆然と現れたドラゴン軍団に静かに手で顔を覆った。もうこうなってしまったらこの星はおしまいだと言わんばかりの空気が流れる中、カメラマンはこの終末の景色をしっかりとお茶の間に放送していた。

 

 たぶん本日1番のグロ映像。

 

「よっこいしょ」

 

 起き上がりながら迫って来るドラゴン軍団を前に、壮観だなぁ、と感想を零し、腕を広げて迎える準備をする。

 

 そして、ララがカメラに目線を向けた。

 

「さあ、偉大なる僕らのクソボケマスターの言葉によって人類のピンチっすよ。クソ度胸と自殺志願は違うって何時になったら学習するんすかね? それではこの圧倒的ピンチを前にマスターはどうするのか、その答えは……CMの後でっすよ」




 この度HJノベルス様より書籍化する事になりました……というかします。準備出来てます。出ます。

 https://x.com/HJ_novels/status/2078023053746045157?s=20

 既に予約は可能で来月19日発売予定です。
 驚いた? イラストはクレタ先生が担当してくださいました! 挿絵はどれも素晴らしいので皆も買って確かめてね。
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