【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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黙って戦え

 深き竜の渓谷、多くのドラゴンに見守られる中、戦いの幕が開ける。視線はずっと感じている。このヒマラヤの地を踏んでからずっとだ。恐らく竜王は見ている。狸寝入りしているだけ。いや、せざるを得ないのかもしれない。

 

 その姿と強さを知っていれば、彼の竜王がおいそれと姿を現す事が出来ない事は誰もが良く知っている。それでも王には起きて貰わないとならない。あの女神は既に動き出していて、ドラゴン達を遊ばせている余裕なんてものはない。

 

 ―――世界は既に、動き出しているのだ。

 

 《ドラゴンズバレー:深層》へと踏み込んだ……。

 この世界はあらゆる境界の力を以てしても壊せず、上書きされない。

 竜の領域が存在し続ける限りあらゆる生命は限界を超える力を有する。

 ディザストロは試練として貴方の前に立ちはだかる事を選んだ!

 ディザストロは《竜王の一瞥》を受けた!

 ディザストロは《BOSS》を獲得した!

 ディザストロの《グレーテストパワー》!

 力が限界まで強化される! 攻撃力が99段階上昇した!

 《竜王の子ら》は力と魔力を共有する!

 魔法攻撃力が99段階上昇した!

 《ノータイム》! セットアップタイミングに攻撃行動が差し込まれる!

 

「さあ! 歓迎の一発だ! これを耐えられないなら……お前に! 俺の敵となる資格はねぇ!!」

 

 ディザストロが飛びあがった。空に飛びあがると翼を広げ、爪を空に突き刺し、空間に罅を入れた。そのまま爪、針金の様な翼を空間に突き刺し、逆さまの状態で空を走る。空に傷口を作り、破壊し、その向こう側に宇宙の深淵を覗かせた。

 

 その果てにあるのは暗黒物質。宇宙の最果てに眠る未知の恐怖が濁流となって空の傷痕から降り注いでくる。

 

「災厄とは常に未知と恐怖から訪れる! 耐えられないなら死ぬが良い! 《ヴォイドフラッド》ォ!」

 

「1ターンの猶予を作らせて貰うぞ」

 

 《アローン・イン・ヘブン》!

 孤独の空にエストは1人佇む!

 《インビンシブル》! しかし彼女は無敵だった!

 《ヴォイドフラッド》ではダメージを与えられない!

 《怨讐》! ディザストロに微細ダメージ!

 《堕天の誘い》! 《絶対強者》のデバフ耐性で抵抗した!

  ―――セットアップ処理続行

 エデは歌唱を開始した! アイドルくんとの特訓の成果が出た!

 今戦闘中歌唱効果が1.5倍になった!

 ウェルギリウスは《輪廻転生》を約束した!

 ウェルとエストはまた来世で会える事を保証された!

 《魔法少女登場っ》! ミレーナの登場にファンが沸いた!

 《運命共同体》! ノトスはチビと運命を共有した!

 《スポットライト》がチビを照らした!

 Dはチビを褒めちぎった。

 「スター性を感じるよ! やれば出来る! イケる! 最高だ!!」

 チビは満更でもなさそうな顔を浮かべた!

 《スポットライト》の効果が永続化した!

 ADは生きる事の辛さを語った。

 「危険手当は出るんですけどねぇ……待遇別に良くならないし……」

 味方全員が食いしばって生きる事の大切さを学んだ!

 全員に食いしばり/1回が付与された!

 カメラマンはマイクを修復中だ!

 「さっきアリ……って所でマイク爆発しちゃいまして……」

 

 S環境のセットアップ長いッッ!!! アイドルくん、AD、Dの支援を入れてギリギリ通用するセットアップになったな。これソロだったらちょっとキツかったかもしれない。いや、それでも何とかするのが俺の仕事なんだけど。とりあえずヘブンとインビジで1ターン構築する猶予は作った。

 

 このターンで出来る限りの仕込みを行って、リーサルに向けた準備をする。

 

「行くぞ、ターン処理に入る」

 

「腑抜けた戦い方を見せるんじゃねぇぞカラスバミコトォ!!!」

 

 腑抜けてるかどうかは……数時間後のお前が判断してくれるさ。この世で最も堅実で、残酷で、そして容赦のないリーサルの取り方を教えてやるよ。それが今……俺の出せる全力だからな。見てるか竜王。その視線はずっと感じているぞ。

 

 俺の覚悟と本気を見て行け。

 

 ディザストロの行動!

 全ての攻撃はエストの無敵に無効化される!

 エデは歌唱フルセットを実行した!

 《ワルプルギス・ナハト》の効果が上がっている!

 《貴方を守る為に》の効果が上がっている!

 舞を披露した! デバフは弾かれた!

 アイドルくんも歌唱している!

 《ワルプルギス・ナハトArrange Ver》!

 味方全体に詠唱が20スタックした! 喉が疲れて1回休み。

 ミレーナの《暴走詠唱》! 

 《アルティメットフォーム》が解禁された!

 チビは《カオスタイム》を纏った!

 得意げな顔で《クォンタム》を発動させた!

 絶対回避が更にスタックした!

 エストの《ディスペル》!

 ディザストロの強化が解除された!

 

 ターン終了と共にエストだけしか攻撃できなかったフィールドが元に戻る。それはつまり、ディザストロが自由に行動できるという事でもあった。流石にレベルが50差もあると先手は相手に取られる。それはチビがいても同じ事だ。元のステータスが違いすぎる。

 

「行くぞ! 耐えてみろ!!」

 

 ディザストロの《デッドリーレイヴ》!

 致命の爪撃が命を刈り取る! 確定OC乱撃!

 《スポットライト》を浴びるチビに攻撃が吸い寄せられる!

 Miss!

 Miss!

 Miss!

 Miss!

 Miss! チビは絶対回避した!

 ディザストロの《ティタノマキア》!

 かつての巨人戦争を想起させる広域破壊の一撃が振るわれる!

 《ワイドガード》!

 Miss!

 チビは攻撃を誘導して回避した! 絶対回避が尽きた!

 ディザストロは再び《デッドリーレイヴ》を振るった!

 チビへと攻撃が吸い寄せられる!

 Miss! Miss! Miss! Miss!

 チビはドヤ顔を披露している!

 ディザストロの《ドラゴンダイブ》!

 必中攻撃がチビに迫る!

 《カバーリング》でエストがチビを庇った!

 エストに大ダメージ!

 《怨讐》! 微細なダメージがディザストロに与えられた!

 《堕天の誘い》! ……Check! ディザストロの攻防が下がった!

 

「わん!」

 

「コイツ……!」

 

 チビがディザストロの前でひゅんひゅんしながら煽りステップを披露している。その煽りステップもしかしなくても俺から学んでないか? ちょっとチビにコレ真似されるのはダメージデケェし今度から煽るのはもうちょっと考えてからやるか……。

 

 エデは歌唱を《貴方を守る為に》へ切り替えながら後衛に下がった。

 ウェルギリウスが前に出て来た!

 ウェルギリウスの《ダブルマジック》!

 《フォートレス》を連続発動させた!

 味方全体の防御力が2段階上がった!

 合体魔法を通して更に全体の防御力が1段階上がった!

 ミレーナはエストのHPを回復した!

 エストは《逆風》を起こした!

 敵味方全体のブレス系攻撃のダメージが低下した!

 

「2ターン目っ! 非戦闘員は全員下がれ! そろそろ範囲広がるぞ!」

 

「支援は!?」

 

「しなくて良い!! 助かったけどそろそろ挟み込む余裕がなくなるぞ!」

 

「我らがこの者達を守ろう」

 

「思う存分戦うが良い、ヒトの幼体よ」

 

『まかせろー!』

 

 観戦に回っていたドラゴンの一部がやってきてクルーたちを回収し、背中に乗せて飛び上がる。ディザストロが此方に物理攻撃が通じないと理解し、次からは魔法攻撃に入るというのを彼方も理解したのだろう。

 

 魔法連打に入れば間違いなく攻撃範囲、被害規模も増える。俺は割と回避する距離を確保しているが、素人には回避するのも逃げるのも辛いだろう。ドラゴンが守ってくれるならこっちも考える事が少なくて助かる。

 

 サポートが入らないのはそれはそれでキツイが、まあ、ギリギリ何とかなる範囲かもしれない。

 

 祈ろう。

 

 全ての計算を終えた果てに残るのは乱数への祈りだけだ。

 

 だがそこが楽しいんだ。

 

 立ち位置を調整し、少し後ろに下がり、安全な距離……なんてものはないが、それでも指揮に影響の出ない範囲を管理しながら次のターン処理に入る。

 

 ディザストロの《ヴォイドフラッド》!

 《BOSS》! 詠唱を必要としない!

 外宇宙の暗黒物質が洪水の様に襲い掛かって来る!

 《スペルアブソーバー》!

 ウェルギリウスは大魔法の発動を阻止した!

 《可能性の否定》を行った! ディザストロは強化無効状態になった!

 《ダストルイン》! ディザストロは翼を広げて飛び上がった!

 生命を塵に返す邪光が雨の様に降り注ぎ打ち付ける!

 エストにダメージ!

 《怨讐》! 《堕天の誘い》……失敗!

 チビにダメージ! バリアが割れた!

 ミレーナにダメージ! バリアが割れた!

 ウェルギリウスにダメージ! バリアが割れた!

 ディザストロの《ドラゴンブレス・ディザストロ》!

 竜種に備わった力が全てを消し飛ばす!!

 《逆風》によって力が削がれる!

 エストにダメージ! バリアが割れた!

 《怨讐》! 《堕天の誘い》……成功!

 チビにダメージ! 瀕死だ!

 ミレーナにダメージ! 今にも倒れそうだ!

 ウェルギリウスにダメージ! そろそろヤバイかも!

 ディザストロは再び皆殺しの吐息を吐き出す!

 《ワイドガード》! エストは皆を庇った!

 エストに絶大なダメージ!

 《怨讐》! 《堕天の誘い》!

 エストは食いしばって攻撃に耐えた! ありがとうAD!

 エデの歌唱が後ろから聞こえてくる……。

 《貴方を守る為に》が聞こえてきた!

 アイドルくんが最後に1曲残してくれた!

 詠唱が20蓄積した!

 ミレーナは《ワイドヒール》を使用した!

 復唱効果により再発動した! 全体が全回復した!

 チビは《カオスタイム》を纏った!

 ????がチビを見ている……。

 《クォンタム》が発動した! 《カオスタイム》を更に纏った!

 エストは《魔絶陣》を敷いた!

 味方全体の被与魔法ダメージが低下した!

 

「チェック」

 

 心臓がバクバクする。アブソーバー抜きだったら今ので全滅してた。《ヴォイドフラッド》は詠唱を消費する魔法だが、ボスパッシブ効果で詠唱を無視している。だが処理としては詠唱消費スキルなので、アブソーバーで止められるという形になる。

 

 これはアルティティシアで《理の超越》を使った時と同様の処理になる。なので相手の行動読みのアブソーバーは対魔法戦においては非常に重要なファクターになる。

 

 これで必要なバフはほぼ撒き終わったか。

 

「おいおい、防戦一方じゃねぇか! 本当にやれるのか? あぁ!?」

 

「黙って戦え」

 

 俺の言葉にディザストロは俺を見て、しかし俺の中の意志が一切折れていない事、そして焦りが見えない事に納得したのだろう。それ以上の言葉をかける事はせず、期待する事にした様だ。悪くない……寧ろ面白い。

 

 ここまで削りながら僅かな勝機を見出す勝負、面白くない訳がない……!

 

 追い込まれ、追い詰められ、そして逆境の中で戦う。ボスとの戦いはこうあるべきだ。これでこそ勝負は楽しくなってくるんだ。はは、良いねぇ、今までずっと過保護に守られてばっかりだったからな。漸く生きた心地がしてきた。

 

 ディザストロの《ドラゴンブレス・ディザストロ》!

 エストにダメージ!

 《怨讐》! 《堕天の誘い》!

 チビは回避した!

 ミレーナにダメージ!

 ウェルギリウスにダメージ!

 ディザストロは再びブレスを放った!

 エストにダメージ! バリアが割れた!

 《怨讐》! 《堕天の誘い》!

 チビは回避した!

 ミレーナにダメージ! バリアが割れた!

 ウェルギリウスにダメージ! バリアが割れた!

 ディザストロの《ペインメモリー》!

 過去の痛みが再現される!

 《スペルアブソーバー》! ウェルギリウスは傷の再現を阻止した!

 《ロブマインド・散》! 行動を阻止しMPを吸収した!

 吸収されたMPが分割配布された!

 《ダストルイン》! 邪光が降り注ぐ!

 エストにダメージ!

 《怨讐》! 《堕天の誘い》!

 チビにダメージ!

 ミレーナにダメージ!

 ウェルギリウスにダメージ!

 エデの歌唱が響く! チビは混沌の時を纏った! ミレーナは回復した!

 エストは防御している! 《防衛結界》!

 防御している間、味方の被ダメを減らす事が出来る!

 

「チェック。ターン末の残存HP2割から3割ぐらいか」

 

 脳内で電卓叩いて計算したHPは大体こんな感じか。ミレーナエデで常に回復バリアカットしてエストで防御してバフを常に維持、1発でも攻撃を余分に通せば壊滅しかねない状況、とてもだが攻撃に出る事なんて出来ない。

 

 それでも、絶望なんてものはなかった。自然と頬が吊り上がって行く。

 

 そんな俺の様子を見てディザストロは咆哮を響かせた。文句はない、終わるまで付き合ってくれるという意思表示だろう。ありがてぇ、そして素晴らしい。付き合ってもらうぞ。

 

 俺のリーサルが決まるまでな。

 

 たとえ何時間。

 

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