勝った。
これ、実機だと戦闘加速と演出スキップで最速状態で進めれば大体1時間ぐらいで決着がつく筈だったんだけどな。やっぱりリアルとゲームは全然違うなぁ、というのを解らせられた。いやぁ、キツイ。マジでキツイ。ほんとキツイ。
頭はガンガンするし。
喉は乾いてチリチリするし。
腹は減ってぐーぐー鳴ってから何も感じなくなったし。
戦闘終わってモンスター達が全員倒れる様に気絶した影響か、ミレーナのかけてた魔法まで途切れてしまって馬鹿寒くなっている。これ、数分もしたら寒さで死ぬかもしれないな。いやぁ、お疲れさまでした。ほんと良く俺の無茶ぶりに耐えてくれたよ。ループ処理から無限レイドリーサル、超王道パターンで大半のボスは殺せるんだよね。
ただレベル150族相手だと連撃耐性とかで一定回数以上の攻撃感知で自動反撃とかダメージ0化とかしてくるからこれで倒しきれずに逆に全滅しちゃうんだよね。ディザストロが120族で助かった。複合属性タイプじゃなくて光闇のみで良かった。
3属性から4属性活用タイプのボスだったらまず間違いなく負けてた。今回は運が良かった。だけど運命の戦いというのは往々にしてそういうものだ。運の悪い奴は一番大事な局面で何かしらのミスを誘われる。そういう意味では俺は運命に愛されている。
……たとえそれが作為を感じるものであっても。
あー、ヤバイ、マジで辛い。どうしよう。体がだんだん動かなくなってきた。
そう思った瞬間、温かい熱が体を満たし、尽きた体力と生命力が補充され、体が一気に元気になって来る。気づけば何体ものドラゴンが周囲を囲んでおり、生命力を分け与えてくれている様だった。
「死ぬなヒト! 今生命力を分け与えているぞ!」
「加減しろ愚か者! そのまま注ぐと爆発するぞ!!」
『ねつ。ひかり。いやし。まもり。かいき……ふぅ、真言を唱えれば直ぐに解決する問題であろう? 何故そうやって焦るのだ……もっと冷静になれ血族の面汚し共め』
『ほら、鏡を作り出したぞ。己の顔を良く見ると良い』
「牧場長―――! 牧場長ぉおおおお―――!!」
すく、っと立ち上がる事が出来た。体がどうやら戦闘前の状態まで戻されたみたいだ。それはモンスター達も一緒で、一瞬で健全な状態まで戻された。真言……或いは世界の言葉。最も原始的な言葉を通して世界の法則そのものをコントロールする術。確かラトゥーリアが得意としてた奴だったな。というか原初の村の住人らが使える奴だ。
ドラゴンも使えるのか。そりゃあ強いわ。いや、人種族で使えるラトゥーリア達がおかしいのか。流石創造主の寵愛を受けてる連中だわ。
先ほどまで滅茶苦茶体が辛かったのに物凄い体が快適だし、頭の痛みも消えている。それどころか視界も凄くクリアに見える。アイドルくんやAD、D、カメラマンの顔も見える。すっげぇ爽快で気分が良い。ここまで頭の調子が良く感じられるのも凄い久しぶりだ。ドラゴンの治療法やっば。
とりあえず。
飛び込んで来たアイドルくんにラリアットを叩き込んで雪の中に叩き込む。そのままD、ADとハイタッチしてからカメラマンの前でダブル中指をキメる。
「これが人類の力だぁあああ―――!!」
いえーい、と盛り上げるとDとADがうんうん、と頷きながら直ぐにツッコミを入れて来る。
「人類の力にしては狂気的すぎるでしょ」
「鴉羽尊、お前を人類から追放する。理由は説明しなくても解るな? お前の動きがあまりにも人類を逸脱しているからだ」
「困ったなぁ。あまり否定できない」
でも人類から追放するのは止めてね。人類でいないと久遠と一緒に居られないからさ……。
「牧場長やりましたね! 凄いですよ! 前々から言ってた完璧なループ処理でした! まさかレベル差がいっぱいありそうなあんな強いドラゴンに勝っちゃうなんてほんと凄いですよ! イカレてますって! やっぱ牧場長すげぇ!」
「俺はお前の歌唱技能にもの申したいけどね」
なんで歌唱スキルのアレンジが出来るんだよ。アレンジVerってなんだよ、聞いた事がねぇよ。詠唱20どっと入るなんて最終世代の完成されたスキル相当の性能だぞ。やっぱ国民的アイドルになるにはそれだけのパワーが必要なのか? それにしたって頭おかしいだろコイツ。
まあ、俺も20時間耐えとかいう相応におかしい事したしここはお互いにおかしな生き物って事にしておくか。
アイドルくんともハイタッチを決めたらここは起き上がって来たモンスター達も労う。20時間も耐久に付き合わせたのでこの探索から帰還したらたっぷり休養期間とボーナスを出さないと駄目だなぁ、と思いながら1人1人労いの言葉をかけて行く。
それが終わる頃には力尽きたディザストロも回復されて、起き上がる事が出来ていた。
まだ少しどこかダルそうな様子を見せつつも、その表情は楽しそうにしていた。
「カラスバミコト……面白ぇ勝負だったぜ。認めるよ。お前はただの雑魚じゃねぇ。上位種に手を届かせる強い奴だ。お前の言葉に偽りはねぇ。勝利の為にここまで執念を燃やせる奴が嘘を語る必要はねぇ」
どし、どし、どし、と歩いてディザストロは目の前までやってくると、膝を折って座った。
「好きに使え。俺の身が神龍様の復活に役立つってなら何も文句はねぇ」
それからディザストロは辺りを見渡した。
「お前らも見てただろう! このヒトの根性と覚悟を! これだけの奴が! 力を示して! 俺達の前に立ったんだ! 俺は応える事にした! お前らはどうだ!? 乗らねぇのか!? あぁ!? それとも世界の終わりまで何をすべきなのか語り合い続けるつもりか!? なぁ、おい!」
滅茶苦茶煽りながら語り掛けるディザストロの存在は頼もしい。だけどちょっと困る事もあった。
―――実は神龍の合体に君らは不要なんだよね……!
種を明かそう。
神龍の合体には全ての異界の竜を血統に収める必要がある。この条件に何1つ間違いはない。ただこれにはちょっとした裏事情があって、限界があるのだ。
システム側の。
そう、システム側が保存できる血統内のモンスターの数には上限があるのだ!
だから解放が面倒な奴は弾いて揃えやすい奴を強く育てて調整すればそれで済む問題なのだ!
片っ端から解放して本当に全部コンプする必要は一切ない!
保存できる上限まで埋めれば解決してしまう問題なのだ! だから解放出来る奴で楽なのを選んで解放して、それで神龍を作成するつもりでいたのだ! だけどディザストロが兄貴心を見せてくれるせいで俺の合体プランは現在進行形で崩壊している。
どうしようこれ!!!
十中八九俺が合体プランを口にしていないのが悪いんだけど、真似されても困るから黙ってるしかないんだよね。いや……でも確かにボスを素材にしたほうが強くなるのか……? というかボスモンスターって素材に出来るの? 流石にボスを素材にするのは俺にとっても未知の世界すぎるんだけど。
『ディザストロの若造に勝ったか……』
『まだ若造といえどドラゴンに打ち勝ったのなら勇者として認めねばなるまい』
『あのちんまい姿で勝ったのなら十分すぎるだろう! 俺は同意するぞ! 我が身を使えヒトの幼体! 神龍様復活の力となれるのであれば躊躇はない!』
『待て、貴様は頭が悪い。貴様なんぞ贄にしたら神龍様まで頭が悪くなってしまう。ここは我が行こう』
『何だって良い……神龍様の一部になるチャンスだ! 私は乗るよ!』
収拾つかなくなってきたなぁ。
ドラゴンズバレー全体がわいわいがやがやと騒がしくなって来た。先ほどまでの戦いを見たドラゴン達が根性のある人間だ、覚悟がキマってて良い、これは推せるタイプのヒトとか好き勝手言い出してる。竜言語が解からないと思って好き勝手言ってる。
お蔭で大分威厳が崩壊しているのに気づかないのだろうか? ディザストロは良い事を言った! と言わんばかりの表情を浮かべていて満足げだ。お前のせいでこんな状況になっているんだぞ。
とりあえず、少しだけクールダウンする為にも軽食を挟む。ポーチの中から取り出すのは笹の葉に包まれた肉巻きおにぎりである。そう、久遠お手製の弁当だ。モンスター用にもちゃんと数が用意されているので激戦で消費したカロリー……状況回復されたからカロリー減ったのかなぁ? これ質量保存の法則に反してない? 今更か。
まあ、減った気がするので食べて補充する。
もぐもぐ。
うまうま。
ごっくん。
腹を叩いて立ち上がる。
「―――うっし、気力補給完了」
ぱんぱんと頬を叩いてから息を深く吸い込んで、吐き出して、覚悟を決める。俺の動きに、ドラゴン達が、そして地球上のあらゆる生命がその視線を集中させているのが解る。次に取るべき行動を、何か理解しているのだろう。自然と渓谷に静けさが戻る。
その中で、俺だけが声を通す権利を持った。
「竜王ラグナロク! 俺は覚悟を示したぞ! そして可能性を見せたぞ! アンタだってこの戦いの間、ずっと視線を向けてただろう! 見ていただろう、可能性を、未来を、そして結末を求めて! 自分がどうするべきなのかを!」
もう一度深く息を吸い込んで、声を張る。
「アンタの番だ! いい加減―――姿を見せろ!!」
声が反響するように響く。ずっと感じていた視線の主が誰なのかを語るまでもない。それはずっとヒマラヤへと到着した頃から此方を見極め続けていた。竜王たる存在の視線だ。それはただ見ているだけではなく運命を、未来を、過去を、その根源や起源までも見透かす事が出来るだろう。
もう十分、見極めるだけの時間はあったはずだ。
起きる時間だよ、竜王。
言葉に、意思に応える様に空気が震える。
大地が鳴動し、動き出す。立ってられない程の地響きが起きる。揺れる体をすかさずノトスとミレーナが支えに回る。それでも揺れは更に激しくなる一方だ。アイドルくんたちが立つのに必死になる中で、カメラマンだけは真っすぐ、震源地へと向けてカメラを向けていた。
「……マジかよ」
カメラを向ける先、映像が届ける景色を見てそんな声が漏れていた。
ドラゴンズバレーに広がる山脈が、山々が動いていた。まるで全てがつながった1つの生物の様に揺れ、そしてゆっくりとかかった雪を鼓動の音で払い落して行く。そう、鼓動だ。この環境がここまで冷え込んでいられるのはその主が鼓動を止めていたからに過ぎない。
鼓動が動き出せば、その衝撃で降りかかっていた雪は溶けて落ち、世界に熱が生まれる。
雪山という環境が一瞬にしてその様子を塗り替えられて行く。
その中で遠くまで広がっていた山が1つの生物として、ゆっくりと、星を壊さないように慎重に僅かに、首を持ち上げた。あらゆる生物を凌駕するサイズが、ただ動き、呼吸するだけで国を滅ぼすほどの巨体とスペックが、長い眠りから漸く目覚めた。
「おはよう、竜王」
ドラゴンズバレーという地そのものが竜王ラグナロクの体の上であり、また竜王の巨体を地球を破壊しないように収める為の鞘でもある。この土地は、この大きすぎる体を地球に存在させる為だけにあるのだ。この巨体を収めるダンジョンだからこそ、ヒマラヤ周辺の空間は歪んでしまっている。
歩けば国を滅ぼし、鼓動の熱だけで環境を熱帯に作り替える。
それほど規格外のスペックを持つ生物が長き眠りから目覚め、心ではなく真の眼を開いた。
『―――おはよう、人の子』
ぼん、とその存在に耐えられずにカメラが爆発した。ただ意思を発する、それだけの事に耐えられなかった。それにしてもクルーたち全員無事なのは本当に何なの? なんで君ら平気なの? やっぱ人類の可能性か何かなの?
心の中でツッコミを入れながら漸く……ドラゴンズバレー、その主。
竜王ラグナロクとの謁見が叶った。