口を開けば天地が震え。
体を揺すれば国が滅び。
翼を広げれば文明の終わりが近づき。
鼓動が響くだけで環境は熱帯化する。
生物としてのスペックが違う。スケールが違う。次元が違う。デザインされた意図が違う。生命として付与された権限が違う。とりあえず何もかも違う。ララなんか見上げようとしたままひっくり返って死んでしまった。ドラゴン達がララの命の儚さを嘆いて涙を流している。
ララ……戦闘に参加してないのに……。
本気で起き上がったわけではない竜王様の姿はそれでもデカかった。あまりにも巨体で見える範囲の山々全てが竜王だった……そう、俺達が足場にしているここさえもそうなのだという事実を視覚的暴力で無理矢理頭に理解させて来る。
「……竜王ラグナロク」
その名を呼ぶ。
『鴉羽尊……良く来た……な』
直接脳内に響くような声だが、そこに痛みや苦しみ、違和感を覚える事はない。寧ろ優しさと……生命を愛しむ様な気配さえ感じる。僅かな言葉だけで膨大な知恵を持った生物である事が伝わって来る。
「前々から一度は会いたいと思ってた……来るのに随分と時間がかかっちまった」
『人の身……それもその若さでここまで来れたのだ。誇れはすれど、嘆く必要はない……貴様は……良くやっている……実に……父の期待よりも良くやっている……』
「やはりそこか」
竜王の父、という言葉にドラゴンズバレーがざわめく。その意味が解らずアイドルくんが近づいて来る。
「牧場長牧場長、父って誰です? このデカゴンにデカゴンパパがいるって事ですか?」
「このデカゴンのパパは天の神……つまり世界を創造した創造主そのものだ」
「あぁ、なんか異世界の偉いおっさん」
流石にアイドルくんの雑な認知に対しては俺もびっくり。それでええんか? でもまあ、大戦犯だしそんぐらいの認知でいっか……いや、流石にちょっと怖いわその認識は。というかしっかりと認識出来るんだな、創造主の事を。やっぱり地獄巡りしてるクルーは違うな……。
「……ん? 所で父の期待って?」
「ラグナロク、尋ねたい! 俺を……俺をこの世界に生まれる様に仕込んだのはお前達の天父か!」
世界にとって都合の良すぎる存在。即ち、俺。俺だけ知識も、素質も、才能も、他者とは比べ物にならない程優れている。まるで最初から勇者の役割を与えられたかのように。これを俺は偶然だとは思わない。流石にそんなおめでたい頭をしているつもりはない。
「俺は、この為に……あの女を殺す為だけに生み出されたのか……?」
声を上げて、ラグナロクに問う。
「答えろラグナロク、この茶番は天父が仕込んだのか?」
ざわつくドラゴンズバレーをやがて静謐が包む。ラグナロクの発する体温が徐々に雪を溶かし始める。その中で、ラグナロクは短い溜息の様な思念を送ると、俺の問いに答えた。
『私に、その答えはない』
「何故」
『その資格がない』
「お前に無ければ誰にあるって言うんだ」
『―――』
ラグナロクはその問いに答えようとはしなかった。或いは、出来なかったのかもしれない。この竜王が本当は他者に優しく、そして困っている相手には手を差し伸べられる事を理解している。だからここまで口を荒げていながら答えようとしないのはラグナロクそのものに、それをする能力か権限がないからだ。
だけどそれは同時に、答えでもある。
上から口止めされている。それはつまり、あの創造主が俺の生誕に関して何らかの形で関わっているという事だろう。まあ、ある程度予測のついていた話ではあるが……実際にこうやって突きつけられるとちょっとキツイ所があるな。
まあ、これは本題ではないから適度に流すとしよう。流すと言ったら流す。
『人の子……鴉羽尊、いずれ貴様の求める全ての答えは明かされる……運命のままに進むのが良いだろう……』
ラグナロクの言葉に応える様に白紙の物語が出現した。ぺかー、と光る姿は運命という単語に反応して現れたように思える。まあ、この本はファッキン運命! 未来は自分の望む形で掴むぜ! を地で行く本だからな。反逆精神だけで出て来たっぽい。直ぐに姿を消した。
『思うがままに進むが良い……その歩みが未来へと続くであろう……』
「言い直した……」
『言い直された……』
『言い直すべき部分だったのかもしれぬ』
『うむ……』
『これは覚えておくべき事だな……』
『竜王様は運命否定派か……』
ドラゴン達も運命よりも自分の足で歩める未来が良いよね、みたいな感じに頷いている。もしかしてここ、コント会場に変わりましたか? 君達竜王の事全肯定すぎない? まあ、崇拝する気持ちはわからなくもないけど。
「じゃあ話を変える……と言っても既に用件は理解してるだろうけど」
『神龍……の事であるな……』
深い、嘆き、苦しみ、喪失感が伝わって来る。自分の感情じゃないのに、それを感じ取ってしまうとまるで自分の物のように感じてしまう。成程、これを原液で浴びせ続ければ確かに何かをやろうとする気概が無くなってしまうだろう。
「鱗が必要だ。鱗じゃなくても良いけど、一番使いやすいのは鱗だろう」
『良い……貴様の助けになるのであればもっていくが良い……』
ずぞぞぞぞぞぞと大地が震える。四つん這いになって大地にしがみつくと、何かが正面に持ち上げられるのに気づく。それが竜王の一部だと気づくと、壁……というよりはビルみたいにデカい鱗が目の前に広がっていた。
「竜王様」
『どうした……』
「どうやって剥がすのこれ?」
『……』
物理的に不可能じゃね? ちょっと周りのドラゴン達に協力して貰い、竜王の鱗を剥がす事が出来ないか実験してみる。
案その1、力任せに引っ張ってみる。
力自慢のドラゴン達が集まって代わる代わる鱗の隙間に爪を突き刺しては引き剥がそうと頑張ってみた。だが鱗が剥がれる前に皆の爪が折れてしまった。爪の折れた可哀そうなドラゴン達が並ぶばかりの可哀そうな光景になってしまった。
案その2、攻撃してみる。
魔力上限突破デスペリアを飛ばしてみるが、そういや竜王様には強化無視がパッシブでついてましたね。デスペリアがぺちーん、って弾かれた。ぺちーんって。攻撃回数耐性もあるのでクイックレイド連射も通じない。弱点再生もあるから弱点化してから殴っても直ぐに元に戻る。
この究極生物がよ……!
ついでにクリティカル耐性で常にクリティカル-100%計算されるのでクリ200%確保しないと普通のクリティカルもしない。滅茶苦茶だよこの生き物。他のドラゴン達は攻撃するのはちょっと恐れ多い……という事で辞退されてしまった。
案その3。
「自分で剥がせない?」
『動くと周りが……な』
お爺ちゃん環境への配慮が出来てとても偉いね。偉いけど困るね。体の一部動かすだけでも凄い揺れるもんね。これはちょっと困っちゃったな。皆で神龍復活の為にも竜王の素材は必須なのだが物理的に採取する方法がなさそうで非常に困った。
「おいカラスバミコト、竜王様の鱗が落ちてるかもしれねぇ、それを探そうぜ」
「ナイスデザくん」
「デザくん……」
他のドラゴン達にも呼び掛けて竜王様の生え変わった鱗を探して貰う事にした。ワンチャンそこら辺に落ちてないかなぁ、と期待して辺りを探して貰うが……やはりない。もうちょっと遠くを探して貰うが、基本的にここに住んでいる連中なのだ。もし生え変わった古い鱗があったりしたら既に保管してるだろう。
というかこんな馬鹿でかい鱗を見過ごすわけもなく。
困った。
「もう海王をぶつけるしかないのか?」
『星が滅ぶぞ……?』
竜王様に困惑されちゃった。たぶん人類で初の実績解除だから人生のトロフィーを追加しておいて欲しい。いや、そうじゃないだろ。鱗を剥ぐだけのパワーがないのには困ったが、このままだと手ぶらで帰る羽目になる。それだけは回避しなくてはならない。
「竜王様!!! 無いの!? 古い鱗!?」
『むぅ……』
竜王様、お悩みボイス。お悩みの時はむぅ、なんですね。それから数秒間程考え込んだ竜王はそうだな、と声を零した。
『最後に我があの女神と戦ったのは宙の世界であった……そこであれば……』
「スペースデブリを漁れとおっしゃってる????」
『人間には難しいか』
「もしかして俺の事を舐められてらっしゃる?」
『何を言っても逆鱗に触れる気がしてきたな』
「牧場長どうどう、興奮しない興奮しない。なんかそこそこキレてません?」
「キレてないよ」
やっぱ神って糞だなぁ、ってのを再確認してちょっとイラっと来てるだけ。竜王そのものに思う事は……いや……まあ……ちょっとはあるけど……。それでも別に嫌いって訳じゃなくて、芸風の一環みたいなものだ。だから竜王側もちょっと楽しんでる。
『ちょっと宇宙行ってくる』
翼からエネルギーをスラスターの如く噴射して宇宙へと1体のドラゴンが飛んで行った。それを見上げるとわー! と声が続いた。
「ズルい! 我も! 我も!」
「か弱い下位種を助けるチャンス……!」
『ズルいぞ貴様ら! 大気圏外活動能力を持っていて! 自己改造するか……』
「コンビニ行く感覚で宇宙に行っちゃうんですね、アレ」
「そうなんだよ」
宇宙へと向かってダンジョンを突き抜けて飛び出して行くドラゴンズを俺達は立っているのも辛いので体育座りで眺めながら待った。
空を見上げながら待つ事数十分。ドラゴン達が帰って来た。
「見つけたぞ、竜王様の鱗を」
「角もあったぞ」
「マジで」
「マジです」
「どこに?」
ドラゴン達は全員一斉に空を見上げそこに浮かぶものを鼻先で示した。
「月」
「刺さってた」
まさか過ぎる場所に脱力感のまま地面に俺は崩れ落ちるほかなかった。月。月面? あっちの世界で宇宙決戦してたからこっちと混ざる際、月に流れ着いたという訳?
これだから神話の戦いしてる奴はよお―――!!!
「ミコトーーー!! 数カ月ぶりだなーーー!!」
「ついでに直ぐ外をやかましいのがうろついてたから拾ってきたぞ」
わあ、とドラゴン達と一緒にブライアンまでやってきた。
どうすんだよこれ。