【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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いや、気持ち悪くなった

 騒がしくなっている所悪いが、用件は終わったのでそろそろ帰らなくてはならない。もう既に外では2ヶ月から3ヶ月……最悪この数時間の間にもう1ヶ月経過して10月ぐらいになってる可能性もある。

 

 誕生日までには帰るつもりだったのでそろそろ引き上げないとマズい。

 

 そんな俺の気配をドラゴンズが察した。

 

「待て、まだ帰るには早すぎるであろう」

 

「そうだ、後100年はとどまると良い」

 

『今家を建ててやろう』

 

『さあ、ゆっくりして行け』

 

「もう少しだけ……もう少しだけ……!」

 

「生活があるからだめー」

 

 うわぁんと泣かれる。抱いてた仔猫を取り上げられた子供みたいなリアクションしやがって……。本当に人間への接し方が上位存在仕草で面白いよな……。

 

 まあ、上位種がこんなのだらけなら悪くない世界だろうな。

 

 問題はトップが2代続いて終わってるって話なんだけど。

 

「オラ! ブライアン! そろそろ人間の世界に戻るぞ!! 何時までも遊んでないで帰るぞ!」

 

「待ってくれ! 今来たばかりなんだ! 俺も20時間は戦いたい! そうでなければ数ヶ月もヒマラヤを彷徨った意味がない!」

 

「それはお前がボケカスなだけ。サンダバー」

 

「くぇー」

 

 サンダーバードが仕方がねぇなぁ、と言わんばかりにブライアンを摘むとそのまま駄々をこねるブライアンを持ち上げて引っ張ってゆく。その様子を見てドラゴンが可愛いとかやはり保護とか言ってる。良い歳した大人が恥ずかしいから止めてくれ。

 

 生命根絶カメラを前に番組の締めに入りつつ、ドラゴンズバレーの奥の方へ視線を向け、ぺこりと頭を下げる。

 

「世話になった」

 

『また来ると良い……この異界の位置は……変えておこう』

 

 星そのものを揺るがすような揺れと衝撃が走る。何事かと思い、スマホを取り出す。館長特製のアプリを確認すればドラゴンズバレーの位置がヒマラヤの秘境から駆間の山脈に移動していた。

 

 すげぇ!! 世界屈指の地雷原にレベルアップだ!!! これはどの国も関わりたがらないぜ!!

 

『地軸が少しズレたか……これで良し……月の事に関しては任せるが良い』

 

 ショートカットどころか星を揺らして引っ越しとはほんとスケール違うな。地球はこの手の上位種を置くこと前提で設計されてないから脆いんだよね。

 

 何目線の話これ?

 

「ありがとう竜王。俺が他の連中全員シバいてグランドマスターになったら……その時はまた顔を見せに来るよ」

 

「その前に来ていいぞヒト!」

 

「また顔を見せに来いヒト!」

 

「今度はもっとたくさん連れてくると良いぞヒト!」

 

「いっぱい連れて来い!」

 

 欲望だらけだなこいつら。まあ、そのうち遊びに来る連中は増えると思うけど。地上でも非常に珍しい超高難易度エリアだし。問題は他国の動きが全く読めない事かな!

 

 ま、そこら辺は総理が何とかするでしょ。

 

 ばいばい、と手を振ってドラゴンズバレーに別れを告げる。ここで過ごした時間はそんな長くなかったが、結構楽しかったな。さて、家に帰ったらどう言い訳しようかなぁ。

 

 死ぬ程怒られるよなぁ、これぇ……。

 

「おう、じゃ帰るかカラスバミコト」

 

「楽しいロケでしたね!」

 

「セイメイ……コンゼツ……コンゼツ前にキロク……」

 

「まだ帰りたくないぞ!!」

 

 ……うん?

 

 なんか増えてない? 振り返ってみると当然だぞ! みたいな顔をしてるやつがいる。まあ……ええか……。

 

 俺達の伝説的な配信はここで終わり! さあ、人間の世界に帰るか!

 

 

 

 鴉羽尊が去り、再び静謐が戻る。

 

 喧騒は消え去り、ドラゴン達は佇まいを正し静かに、未だに眠りと休息に戻らぬ王の言葉を待った。

 

 鴉羽尊はある勘違いをしている。

 

 竜王ラグナロクは決して動かないのではない。

 

 動けないのだ。

 

 そもそもラグナロクの受けた傷は深く、重い。長年をかけて治療を続けているが未だに完治していない。この山脈に流れるマグマは血液そのもの、あまりにも強すぎる生命力と神秘性故に万物にとって毒としかならない程の血液。

 

 それが敗北したその日から永劫に流れ続けている。

 

 この世界で、生身のままの存在は限られる。

 

 この転移と融合を成し遂げた館長、そしてあまりにも強い為、概念化処理が施せなかった竜王、次元の狭間に隠れることで逃れた邪神共。

 

 故にこの竜王は生身のまま、そして墜落の日からの傷跡をずっと背負い続けたままだ。そしてこの状態ですら、全世界を相手にしても勝てるだろう。

 

 それ程の規格外が、未だに傷を癒せていない。

 

 それは、女神から受けた呪いだった。

 

『客人は……帰った……どうであった……?』

 

『楽しい時間を過ごせました』

 

『無礼なヒナだ! ……だが悪い根性ではありませんでした』

 

『うむ、強く育つだろう』

 

「でしょ? とても素敵な人なのよ」

 

『将来に期待が持てるものです』

 

『久方ぶりに過去を思い出せました』

 

 楽しそうに零す声の中、異音が混じる。それが誰であるのか、それを論じる必要が彼らにはなかった。本能に、細胞に、魂に、その邪悪は刻み込まれていた。

 

 感知した瞬間、四方八方から必殺の魔法が、ブレスが、攻撃が、星への被害を考慮せずに全力で放たれた。たった1人、人と同じ姿の怪物を殺す為に種が一瞬で一丸となって総攻撃を開始した。

 

「あら、反応早いわね。でも……」

 

 手を振るった。

 

 まるで消しゴムを使ったかのように全ての攻撃が消失した。

 

「ちょっと邪魔ね」

 

 ぱちん! 指をスナップさせた。それだけで上位種が、ドラゴンが、最強と謳われた竜族が竜王を残して全滅した。

 

 肉体が弾け、肉片と血の雨となってドラゴンズバレーに降り注ぐ。血族の雨を浴びながらもラグナロクは起き上がる事なく現れた災厄を、アリア=マリスを認知した。

 

「久しぶりね、負け犬。泣き続けるのはもう止めたの?」

 

『顔を見せたな災厄。ここで貴様をーーー』

 

 強制的に肉体を神話の状態にまで回帰し始めようとしたラグナロクの動きが停止した。その姿を見てえぇ、と女神は笑った。

 

「そうよ、ここは彼の住処の近く。貴方がさっき移動させたばかりだものね。そんな事をすれば跡形もなく消えちゃうわよ? 出来ないわよね、慈悲深い竜王様がそんな事を」

 

 完全に意識を覚醒させた竜王の殺意が向けられる。その道の達人でさえも窒息するプレッシャーをまるで感じない女神は空に浮かんだまま座るように足を組んだ。

 

「相変わらずね、だから貴方は私に勝てなかったのよ」

 

『何をしに来た』

 

 煽りを無視する竜王が問う。それに滅亡神は胸を張って答えた。

 

「それは勿論ーーー現地観戦よ!!!」

 

『げんちかんせん』

 

 そう! と力強く肯定した。

 

「何と言ったって20時間耐久からの逆転よ! 最初から最後まで計算されたパーフェクトゲーム! 完全に計算し、予測し、対策し、それを実行する精神性と覚悟! あぁ、もう、素敵! やはり推しの活躍は現地で見るのに限るわ! 映像では味わえない生がここにあるわ……!」

 

『……』

 

 なにこれ?

 

 竜王は静かに心の中で首を傾げた。何度か。この女神とはこんな感じだっけ? いや、何かおかしいな……。様子がおかしくないか?

 

『どうしたんだ、貴様……?』

 

「何……って愛よ、愛。それ以外の何があると言うの?」

 

 そっかぁ。竜王はちょっとした目眩を覚えた。長らく引きこもっていたのは治療が目的だった。いずれ、この怪物と戦う時の為に体を整える必要があった。

 

 だが少し見ていない間に滅亡の神は個人への執着を覚えていた。

 

 良くない。

 

 とても、良くない。

 

 神話の者は良くも悪くも変化しない。それは生命として、存在として完成された状態でデザインされたからだ。神龍は何故、この世界に理が定着した時に再出現せず、生まれ直す事を選んだのか。それを竜王は理解していた。

 

 神龍は単体で完成されている生物だった。それ以上の成長が見込めない。育ち切って、完成された生物は可能性を使い切った、エンディングに辿り着いた存在なのだ。負けた以上、あの存在としての神龍は間違いだった。

 

 だから0から生まれ直す。全てをリセットして、新しい神龍として再誕する。自分を育てるに、使役するに相応しい神殺しの手で。その時、神龍は女神に打ち勝つ事の出来る力と存在になれるだろう。無論、それはそれまで積み上げてきた自分の人生、人格、能力、全てを引き換えにしたギャンブルだ。

 

 鴉羽尊を見て、彼と女神の間に繋がりを、縁をラグナロクは見て確信した。

 

 その判断に狂いはなかった。

 

 無い筈だった―――だがここで、恐ろしい事実が浮かび上がって来る。

 

『変わった……な』

 

「恋を知って、愛を知って……もっと素敵になったでしょ?」

 

『いや、気持ち悪くなった』

 

「酷い!」

 

 旧友との再会の様な軽い空気を漂わせる女は未だに肉体の大半を大地に隠す竜王を見て、大丈夫よ、と声をかける。

 

「別に貴方を虐めに来たわけじゃないから」

 

『我が血族らを殺しておいてか?』

 

「どうせ生き返るでしょ? 多少死んだって良いじゃない。この方が話しやすいし。今の世界、多少の死は踏み倒せるものになったのだから。そんな神経質にならないでよ。別に珍しい話じゃないでしょ?」

 

『……』

 

 女神を睨む気配を絶やさない竜王の存在に女神は可愛らしい抵抗と笑ってから、本題に入る。

 

「実はね、確かめに来たのよ」

 

『全知が、か?』

 

「そう、全知である私が確かめに来たの。だって全知にも死角はあるから」

 

 あっけからんと言い放たれる自身の弱点。全知全能たる存在にも死角は存在する。万金にも匹敵する情報だが、女神の死は将来的に確定している。だから女にとってこの情報は何の価値もない。価値があるのは彼女の宿敵、そしてそれに対する執着。

 

 神は変化しない。

 

 だがもし変化が起きるのであれば……それは進化、成長という可能性を生みだしてしまう。だから竜王は恐れた。この女が変化を覚える事を、受け入れる事を……成長する事を。

 

「ねぇ、ラグナロク……尊ってどこから来たのかしら?」

 

『その答えを我は語る事は出来ぬ』

 

 明確な拒絶は尊を相手にした時よりも強く、女神に去るように告げる意図があった。お前に語る事は何もない。その意志を女神は無視した。

 

「そんな拒絶Botみたいな返答は良いわ。そうじゃなくて、もっと根本的な話をしてるの。尊をこの世界に引き込んだのって本当に我らが天父かしら?」

 

『何?』

 

 女神の放つ疑問の言葉に、ラグナロクは黙り込んだ。少し考え、それから言葉を返す。

 

『何を言いたい』

 

「今、この世界が2重構造のループに囚われている事は把握しているかしら?」

 

『ネガコスモスが柊剛三との契約で構築した閉じた世界が1つ目……』

 

「そして私が尊とまた再戦したい、何度でもあの結末を繰り返したいという願いから生みだしたループで2重構造よ。大きなループの中に私が生みだした小規模なループが構築されている事で今、この時間の連結は複雑な事になっているわ」

 

 ヒマラヤ方面の入口から顔を突っ込んでいたドラゴンがそれ、10割お前が原因では? という言葉を出すのを止めて、そっと氷原へと逃亡した。女神には基本的に関わりたくなかった。ごめんなさい、竜王様。逃げます。

 

「重要なのは柊剛三が幾度となく繰り返してきたループの中で尊が登場したのは1度だけよ」

 

『貴様がその1度を永遠にした』

 

「そう、ピン止めしたの。この時間を逃したくなくて」

 

 でも不思議よね? そう女神が続ける。

 

「良ぉーく考えたの。柊剛三の過去を遡って彼の涙ぐましい努力を確認したわ。数多くの周回作業で彼は愛している妻と出会い、同じ娘を授かり、そして柊家を優先した結果娘に逃げられ……その娘はこの流れの中で常に同じ夫を持ち、同じ子供を産んで来たわ」

 

 でも、と言葉が続く。

 

「鴉羽尊が生まれたのは今回だけよ。この周回だけが特別なのよ」

 

『それは―――』

 

 言葉を続けようとして、ラグナロクが言葉を止める。そこには明確な違和感が存在した。

 

「そう、そこよ。なんでこれまではダメだったのに今回だけ生まれて来たの? どうして生まれて来るという因果が成立したの? どうして生まれて来る事が出来たの? 不思議じゃない? 急に風向きが変わったみたいで。まるで急に世界が私を滅ぼす気になったみたいで」

 

 もしこれが本当に天父の仕込みだとすれば、もっと早い段階で全てを終わらせる事も出来た筈だ。

 

「何故今? どうやって? ―――貴方達が仰いでいるのは本当に私の父なの?」

 

『疑うか』

 

 声に怒りが交じる。が、同じトーンで女神が続ける。

 

「樹海では天父が巫女に神託を授けたそうじゃない。それ、本当に天父の言葉だったのかしら?」

 

 面白そうに、思考にノイズを注ぎ込むように。

 

「そもそも、あの白紙の本の来歴は見えてたかしら? アレがどこから来たのか、誰が用意したのか知ってる?」

 

 腐っても女神。女神どころか女ゴミとさえ言われる女だが、その視点は本物だ。全知の視点は時空を超越し、リアルタイムで過去の出来事を閲覧する事さえ出来る。

 

 その彼女が見れないとは即ち、同質の力が働く事を意味している。

 

 だがラグナロクの反応を見て、自分の求めていた答えが得られないことに落胆すると、竜王(ざこ)から興味を失った。

 

「そう、貴方も見えてないのね。なら結構だわ。所詮は暴力装置に理性を与えただけの失敗作ね。時間を無駄にしたわ。これで心置きなく推し活に戻れるわね。早速掲示板に戻って感想交流しなくちゃ……!」

 

『本当に変わったな……貴様は個人に執着する様な者ではなかった筈だが……』

 

 時間を無駄にしたと言わんばかりに女神は姿を消し、竜王は息吹を吐き、生命を谷に響かせるとそれで死した血族たちを蘇らせ、自身は決戦に備えて再び深い眠りへと戻った。本来であれば竜王と女神しか知る筈のない会話。

 

 それを雪の下に埋められていた姿が聞いていた。

 

 ぼふん、と雪を振り払ってララの姿が現れた。本来であれば死んでいるであろう環境も、竜たちの過剰な保護によって生きながらえる事が出来てしまった。だから墓の下、ほとんど存在しないに等しいレベルの生命力と強さと存在感のララは会話が聞こえてしまった。

 

「ははぁん、中々大変そうな内容っすね。アレの狂言って所がまたまたありえそうなのがミソっすか。それとも嘘をつく必要がない存在と見るべきっすか」

 

 耳をぴこぴこ。辺りを見渡し、誰も自分に視線や意識を向けてないのを確認する。

 

「僕なんて生きるだけで大変なのにどうして上の生命は意味とか起源とかどーでも良い事ばかり求めるんすかね? やっぱ人生に余裕があると余計な事ばかり考えるんすかねー」

 

 のそり、と墓から全身を引っ張り出すと、そのままマグマの川へと向かって飛び込んで行く。

 

「まー、考えるのはマスターに任せるとして、僕はそろそろデスポーンして牧場に戻るっすかねー」

 

 ぴょん。ぴょこ。

 

 じゅっ。

 

 ララは死んだ。

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