最強以外ありえない   作:てんぞー

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わくわくが止まらねぇなオイ

 戦闘によーいドンは存在しない。

 

 試合や競技では存在するものの、戦いには空気がある。そしてそれを感じ取ったものが真っ先に動く。それがダンジョン内でのイニシアチブの奪い合い、速度とは関係のない先制権の奪取になる。

 

 概念として戦場も殺し合いも理解し、経験を与えられた怪物。

 

 何人もの強者と戦って殺し合いの空気を知り切った現役の修羅。

 

 そしてまだ未熟―――でも死の意味を理解する己。

 

 戦場の空気を全員同時に察知し、同時に動き出す。なら誰が行動を挟み込めるのか? イニシアチブを握るのか? それは純粋に反応速度の勝負になる。

 

 即ち、最初の行動のアクションが一番小さい者。

 

「先制即死ゲッ―――」

 

狂え―――」

 

 スキルを発動するよりも早く、モーションに入るよりも早く、思考速度が肉体的なアクションを上回る。だからこそキュウビの先制権取得よりも先に強制的に視界をジャックする。シンクロを通してラインを形成し、その意識へと繋げる。

 

 半分意識が共有されている状態に入れば後は此方の領域。

 

 自我と意識力の勝負で、一気に中身を破壊する。

 

 ―――ぱぁん。

 

「……あ?」

 

 弾けたのは俺の右目だった。

 

 痛い。苦痛。右目が弾けて視界が遮られる。まだ左目は無事だ。だが痛みで集中力が途切れ、倦怠感に体が崩れ落ちそうになる。

 

「……おやおや、物騒な事をなさいます。成程、中々凶暴な中身をお持ちの様で。ですが残念ですね、それに伴う肉体が無ければ身構えている相手には……我々の様な神に等しき存在(100レベル)には通じませんよ?」

 

「いや、初手を潰しただけで十分だ」

 

 既に隠れていたモンスター達の展開が終わっていた。イージスが守護に入り、べリアスが妨害の準備を整え、ラファエラがヒールを発動待機させ、ジャガーノートが拳を構えた。

 

 ―――一瞬の停滞の後に戦闘の準備が整い、全ての行動がタイムライン順に処理される。

 

「では逝きましょうか」

 

 行動前にオートアクションでキュウビによる全体を対象としたバステ:呪いを付与するスキルが発動する。手番外の行動にリアクションを東吾は挟まない。様子見のつもりだろうか? それでは駄目だ。片膝をついて片目を手で覆い、声に出す。

 

「呪い、ライフロス、デッドライン」

 

「べリアス」

 

 魔人の《パーフェクトキャンセラー》が手番外の行動を打ち消し、使用済みとなって戦闘中再使用不可の状態になる。素早くウチケシ指示が飛んだことにキュウビがげ、と表情を浮かべる。イージスが全体防御に入り、ラファエラが動く。

 

「……此方ですね」

 

「うー、流石歴戦の勇士ですね、直ぐに理解して対応してきますかっ」

 

 《ディヴァインベール》、全体状態異常1回無効のスキルを発動させて備える。直後に全体を対象とした呪い付与が飛び、それが打ち消し合う。最後に動くジャガーノートの4連撃がキュウビに叩き込まれ、その姿が打ち上げられる。

 

「うー、これは封殺かもしれませんねぇ」

 

「ルートは1個だけか? なら封殺するが」

 

「はは、まさか」

 

 殴られて体力の多くを消し飛ばされたキュウビが着地する前に、体から散った血がそのまま呪いとなってジャガーノートに突き刺さる。巨大な凶獣の肉体に呪いが付与され、回復禁止効果が付与される。

 

「そしてここからが本領発揮ですっ」

 

 呪いの付与に連鎖し攻撃力低下デバフが発動、ライフ上限が1割削られ、回復禁止が回復反転に悪化する。そしてデバフの悪化に反応して追加でデバフが発動して更に攻撃力が落ち、それに連打してHP上限低下のデバフが再び刺さる。合計で2割HP上限が減り、

 

 その処理が4回攻撃に合わせて4回発動する。

 

 体力の上限が2割になった所でジャガーノートが即死して倒れた。

 

「HP一定ライン以下で即座に死亡って所か。確かに面倒だし攻撃反応はキツイが、種が割れれば怖くないな」

 

 キュウビが着地、最初の呪い付与は開始時発動なのでもう出て来ない。なのでべリアスが先に動いて回復反転を付与し、そのままラファエラが完全回復魔法で100%ダメージを叩き込んでキュウビを一気に始末する。

 

「あぁん、やはり1人だけだと駄目ですね。ばたんきゅー」

 

 体がぼろぼろに崩れ始めるキュウビが力なく地面に倒れ込む。徐々に体の端が塵になって死んでゆく中で、ふふふ、と笑い声をキュウビが漏らす。

 

「勝ち誇った表情、実に宜しいです。ですがお忘れなく、私は所詮このダンジョンに出没する量産型キュウビ、ダンジョンが存在する限りはキュウビどころかインフィニティビであるという事を! ここをうろつく限りあなた方は無数の私達に狙われる、そうそれはまさしくジェットストリームハーレムNTRプレイ……! 需要、ありませんか?」

 

「ありません」

 

 半ギレ気味のラファエラの死体蹴りヒールによってキュウビが跡形もなく消し飛ぶ。相手が1体だけだったという事もあり戦闘は一瞬で終わり、終わった瞬間ラファエラが此方に寄って来る。

 

「さあ、私に目を見せてください……うん、これぐらいなら治せます。宜しいですね主?」

 

「少し待て……尊、痛むか?」

 

 戦闘が終わって死亡しているジャガーノートを確認しつつ、東吾が此方へと向き直って聞いてくる。まあ、無駄に心配させないように手をひらひらと振って軽く見せる。

 

「そこまで痛まないよ」

 

「そうか、なら猶更良くないな」

 

「良くない?」

 

「ああ、良いか、尊―――自傷は癖になる。ラファエラ、治すな。少し待ってろ」

 

「……」

 

 不満げな表情を浮かべながら聖天使が下がる。

 

「痛みは特に問題がないって顔をしてるな? 実際、痛みは訓練さえ受ければ慣れる。俺達マスターは苦痛と隣り合わせの世界で生きてるしな。モンスターの世話、訓練、日常、探索、バトル……何時怪我をしてもおかしくない環境にいるし、痛いのにもそのうち慣れて来る」

 

「まあ、それは」

 

 チビも合体した後の大きい体に慣れてなくて、そのまま俺を起こす為にベッドに飛び込んできたという事件がつい最近あった。そして俺の身体はチビが思っているほど頑丈ではないので、それで数本骨をやった。

 

 その時のチビの凄い申し訳なさそうな顔を覚えてるし、アレ以来チビはベッドに飛び込まない様になった。

 

「痛みは危険信号だ。だがそれも慣れてしまうと怪我や自傷を勘定に入れて動くようになる。そうだ、癖になるんだ。これならまだ軽度のダメージだから、と解りやすいリソースとして自分自身の体を管理し始めてしまう」

 

 滅茶苦茶覚えのある話だった。

 

「そうやって自分の体をリソースとして消耗する事を良しとすると何時か、それが仇になって失敗する。人間はモンスターと違って怪我をしても100%のパフォーマンスを維持できる訳じゃないんだ。消耗すれば消耗するだけ効率は落ちる」

 

「だから、体を大事にしろ、と?」

 

 ああ、と東吾が頷いた。

 

「お前には才能を感じてる。間違いなく大成するだろう。だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「自己犠牲なんて考えてはいないんだけど……」

 

「そこまでじゃないかもしれない。だがお前の中には軽くだが自分がどうなるともそこまで気にしない……って考えがあるんじゃないか? お前の行動や言動はそうだな……どこか地に足が着いてない」

 

 或いは、と言葉が続く。

 

「お前が本当の意味で地に足が着くようになったら、その時は本気で怖くなるな。今のお前はその才能と能力に振り回されてるだけだ。それを本当の意味でコントロールできるようになったら化けるだろうな。俺はそれが見たいし、その前に死んでほしくない」

 

「最後の本音だろ」

 

「バレたか」

 

 けらけらと笑う東吾の本音に俺も笑い声を零す。要約すれば自分の体をもっと大事に扱え、という話になる。言っている事は全面的に正しいから反論できないのが悔しい。とはいえ、俺もまさかここで反動を喰らうとは思わなかったが。

 

「黄泉平坂の雑魚相手だったら問題なかったんだけどなあ」

 

「格の違いが出てきたな。S相当のモンスターは文字通り格が違う。見た感じ強制的にシンクロを繋いでる感じだな? あのランクのモンスターと人間では物理的な脳構造が違う。気を許している相手ならともかく、抵抗する気満々の相手にはそんなもんだろう」

 

「そんなぁ」

 

 これを使って他の隠しダンジョンも攻略する予定だったのに、完全に予定が崩れてしまった。俺の脳のスペックだと6世代モンスターまでが射程範囲で、最終世代に関しては種族として超えられない差がある、という事だろうか? となるとこのシンクロテロ戦術を根本的に見直さないとならない。

 

 俺の最強の武器が一番大事な所で役に立たないのが発覚してしまった。

 

 悲しい。

 

 そんな俺の考えを知ってから知らずか、腕を組みながら東吾が続ける。

 

「あぁ、ラファエラもう治療して良いぞ……尊、シンクロ、普段から戦闘で使ってるか? ランクは?」

 

「D。使うと勝てちゃうから全然使ってない」

 

「じゃあ積極的に使え。お前のそれはまだ研鑽途中の状態だ。使わないと成長しないし、使い方も身につかない。その上でもっと制限しろ。その上で出来る事のプロフェッショナルを目指せ。その方が強くなれる。例えばマスタースキル特化か、或いは探索用特化とか。方向性を決めてお前の個性を伸ばせ。強くなれるのはモンスターだけじゃない、お前もだ」

 

「制限した上で特化させる、か……」

 

 アリかもしれない。少なくともさっきの戦闘でキュウビに通じない事を考えれば、いっそ妨害手段としてのシンクロを切り捨てるのは全然ありだろう。その上でマスタースキル方面に技術を伸ばせば、将来的に取れる手段が増やせるかもしれない。

 

 その発想はなかった。俺1人では絶対にたどり着けない結論だ。そもそも俺はモンスター方面に強さを伸ばせば何とかなる、としか考えてなかったし。自分自身のスキルアップは完全に頭から抜けてた事だ。

 

「誰かに師事してるのか?」

 

「いや、独学……」

 

「そうか」

 

 腕を組みながらうーん、と唸っている間にさくっとラファエラが治療を完了させた。右目は潰れる前と全く同じレベルまで復元されていた。こうやってモンスターのヒール能力を体感する度にモンスターのいる現代ってやべぇなぁ、と思える。

 

「1回、どこか……ちゃんとした所で基本を学ぶべきだと思う。知識か、或いは型として覚えておくだけでも良い。使わないとしても学んでおくだけで力になる筈だ。少なくとも一般人向けの基礎や基本は何十年百年と積み重ねられてきた無駄のない骨組みだ。使わなくても役に立つ」

 

「考えてみる」

 

 師事できる相手なんていたかなぁ、とは思うが。

 

 どうしたもんかなぁ、と唸っているとんで、と少し離れた所から声がする。

 

「話し合いは終わったっすか? そろそろ助けて欲しいすけど」

 

 釣られて声の方に視線を向ければキュウビ3体に囲まれたララが焚火の上で焼かれてた。3倍数のデバフが飛んでくるのかぁ、と呟きながらスキルカードを取り出してスキルを取り換え始める東吾、その動きだけで秒間数千万の金が動いてる。

 

「何してんの」

 

「見て解らないんすか? 今から物理的に食われるらしいっすよ」

 

「久々の新しいお肉ですから」

 

「ここに用意した香草と一緒に食べる事でお手軽に黄泉戸喫できますよ! 一緒にエンジョイ、黄泉ライフ!」

 

「火加減はお任せくださいませ、特技は料理と家庭内暴力と政争です」

 

 そんな事を言っていると何かが砲弾の様に飛んできて焚火と3匹のクソ狐を吹き飛ばして着地した。龍鱗の肌を身に纏った上半身裸の剣士だった。

 

「はーっはっはっはっは! 祭りか! 祭りの気配がしたぞ! 退屈だったこの地にようやく挑戦者が現れたか! 待ち望んでいた勇士の登場か! いざ、あぁ、いざ、尋常に―――ぐふっ」

 

 キュウビを3体同時にふっ飛ばした剣士は3倍のデバフを同時に受けて3倍速で即死した。

 

 それを見ながらスキル調整を終えた東吾が笑った。

 

「わくわくが止まらねぇなオイ!!!」

 

 Sランカーって凄いなぁ。

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