秋季駆間学園祭は文化祭だ。だからなるべく平和な出店の類を出してくれと言われている。これが守られた事は歴史上1度もない。悲しいね。
駆間文化がそもそも蛮族文化だからでは? という見事なカウンターを喰らった校長は何も言い返せず帰ったのは有名な話だ。だから俺達はここまでの学園生活で培った創作意欲をこの文化祭にぶつけて発散させる。それが原因で女子vsTS女子とかいう暗黒ゲームが生みだされてしまったのはまあなんというか申し訳ない。
狂ったやつはどのクラスにもいるんだ。
でも出ているのは店舗の類ばかりではなく、研究成果を披露する所なんてのもあった。此方は中身は胡乱でも比較的に平和な方だ。とりあえず久遠との学園祭デートの初めとしては悪くないチョイスだろう。段々と人が増えてきた廊下から逃げる様に教室の中に入り、展示されている研究成果を見る。
「えーと、これは―――」
「おや、お目が高いね鴉羽氏。これは駆間市の男性独身率を調べたデータだよ」
「なんか凄いニッチな研究が出てきたな」
「どういう研究なんだこれは?」
入った教室に並べられたデータや写真を見て行く……モンスターと仲良く暮らしている家庭って感じの写真が並べられている。並べられている写真を見ていると何か、違和感を覚える。腕を組んで首を傾げながら写真を見ていると、先に久遠が答えに辿り着いた。
「……この写真、どれも写っている女性がモンスターのものだな?」
「夜月氏ご正解!」
太っちょ眼鏡の生徒がぐっと親指を持ち上げた。
「女性型モンスターを所有している人って独身……というか事実婚状態の人がメッチャ多いんですよな。そりゃあ老いない、護衛になる、優秀で慕ってくれる美人がいるなら誰だってそっち選ぶって話なんですが。だから結婚してないけど事実上結婚してるような家庭のデータ集めてみたのです」
御覧の通りって言って壁に飾られてる別のデータを見せた。
「女性モンスター所有している家庭は人と結婚するケースが凄く少なくて……女性モンスターが発見されて増えてきたケースを確認して……そこからこう出生率を調べると」
「……」
「……」
なんかシャレにならない勢いで段々出生率下がってない? いや、エグイ。人間とモンスター相手では子供が生まれてこない。なのでモンスターを人生のパートナーに選んでしまうとその家系はそこで終わりだ、子供が生まれてこないのだから。
それに合わせて駆間市の人口は下がり……ある一点で人口の低下は停止し、出生率も上がってきてる。
「これは何があったんだ?」
「今で言う駆間女子の台頭ですな。このままだと男を全部取られると理解した駆間の女性が超肉食化してハンティングモードに突入、そのDNAが現代まで続くという訳で」
「成程なぁ」
「中々考えさせられる内容だったな……」
そうだね……でも確かに美人で老いないパートナーがいるならそっちを選んじゃうよね。どうしても人間はより良いものを選んでしまう。時にそれが破滅の一歩だと理解していても。本当に醜悪なものは、意外と美しかったりする。まあ、これとその考え方はまたちょっと違うのだが。
「愛しい人! やはりメジャー! マスター×モンスターものはメジャージャンル! ここは私に乗り換えるべきでは?」
がらり、と窓が開いてミレーナがダイナミックエントリーしようとしてウェルギリウスが登場。味方扱いなので《サクリファイス》でミレーナを即死させるとそのまま回収して消えて行く。対味方セコムとしては最強だなコイツ。
中々面白い研究展示だったな。こういうのばかりだったら比較的に安全で面白いんだけどな。隣の教室に行くと教室がデカいプールに改造されていた。
そこに金魚のコスプレをさせられている人間がギリギリ溺れない範囲で沈められていた。プールの横には銃で武装した生徒が待機している。プールの中身を見てから生徒の方を見る。
「これは一体……?」
「金魚救い」
「掬い」
「救い」
救うのか? いや、まあ、確かに救われる必要はありそうですけど。
プールに視線を向けると金魚のコスプレをした奴が必死にあっぷあぷしながら語り掛けて来る。
「た、助けてくれ! 助けて……助けろ! 見てるだけじゃなくて助けろよ!!!」
「彼らはこの駆間市で犯罪に手を染めた犯罪者たちだよ。金魚は見つけられなかったけど金を狙った雑魚なら居たからね。金魚の代わりに彼らを使う事にしたんだ」
「馬鹿だよね。駆間ならモンスターを合法的に連れまわせるからモンスター使って犯罪行為し放題だなんて甘い考えで来るなんて」
「自分が囲まれてボコられる側だなんて一切思ってない辺りが可愛いよね」
「あ、救ったら飼って良いよ」
「ウチに犯罪者を飼う余裕はないかな……」
救わずに見捨てる事を選んでそっと教室を出る。金を狙った雑魚を救うゲーム……そういうものもあるのか! あるって事にしておこう。深く考えるのは精神衛生上あまり良くない。やっぱりウチの高校も出し物はカオス極めてるなぁ。
「久遠、思ったんだけど」
「うむ」
「我が校ってデート向けではないのでは?」
「気づいたか」
とてもじゃないが良い雰囲気になるって概念が存在する場所じゃないよね。まあ、それはそれで楽しいものがある。そもそも、鴉羽尊という人物は人の存在がそんな嫌いではない。勿論、人を見ると顔が見えなくて頭が痛くなってくるという問題もついて来る。
だが根本的に人の営み、生活というか、幸せそうにしている人の姿を見るのは嫌いじゃないのだ。
ここ、駆間の人間はツッコミどころ満載だけど生きる力に溢れていて、何時も元気で見ていて飽きない。こういう人たちの姿をただ遠くから眺めているのは意外と楽しかったりする。ただその本質は自分がそのグループに属していないというところから来ている事には、ずっと前から気づいている。
どうにかしたい、そう思うたびに少しずつ自分が壊れて行く感覚がする。
水棲生物が陸へと上がって苦しむような感覚がする。
いるべきではない場所へと上がって苦しんでいる。
……そんな感じがする。
「ミコト、行くぞ」
「……うん」
久遠に手を握られて校内をうろつくと見覚えのある姿を見つけた。歩いているのが見つかるとおーい、とゆっさゆっさデカパイを揺らして手を振って来る。
「尊くーん、久遠ちゃーん」
「七海か」
「アイツ、2学年上だから1年の時しか一緒の学校に居られないんだよね」
だから七海が同じ学校に居るのは結構レアな光景だったりする。2年と3年になると進学してるし。看板を掲げて七海に挨拶を返しつつ七海に近づくと七海も看板を持ち上げて挨拶を返して来た。どうやら七海も宣伝担当らしい。
まあ……確かに客寄せ効果高そうだもんな。それ。
「尊くんと久遠ちゃんはデート中? じゃあウチの出し物にちょっと顔を出して行ってよ」
「なにやってるの?」
えっへん、と胸を張りながら七海が続ける。
「学園祭の定番中の定番―――占いだよ!」
「おぉ、思ってたよりもまともな奴が来たぞ」
「待て、ミコト。ここは駆間高校だぞ、まともな占いの筈がないだろう? どうせ占った内容が現実になるとかそういう類の呪いだぞ、騙されるな」
「それもそっか。じゃあ……」
「待って! 待って!!」
七海が素早く正面に回り込んで此方を制止してくる。
「プロだから! 今回はプロの占い師を雇ってやってるから! とても安全! 信頼度第一! 命中率も凄く高い! 超安心だよぉ! これはもうやるっきゃない! やろう! 尊くんと久遠ちゃんの将来とか調べるのは悪くないんじゃないかな!?」
「必死だなぁ」
「他の出店と比べてインパクトが足りないから客引きに必死なんだよぉ……」
ひぃん、と泣き真似をするこの女だが、神経はだいぶ図太くなってるのは知ってるのでこの泣き真似も自分のビジュアルを利用してのものなのは良く知っている。それはそれとして俺と久遠の将来を占うというのは悪くないかもしれない。
まあ、折角だし? と久遠と顔を合わせて頷く。確かに俺達の未来がどんなもんかは気になるし、話半分で良いなら聞いてみるのも悪くはないかもしれない。入る気になった俺達を見て七海がわぁい、と手を上げる。
「2名様ご案内! ささ、中に入って」
「急かすな急かすな」
七海に背中を押される形で中に押し込まれると、雰囲気のある教室の中に通された。
占い師の館っぽく改装された教室内は薄暗く、フィールドを教室内に展開する事で天井を星空へと変えていた。他にも天球儀やタロットが飾られており、結構本格的な改装が施されている。さっきの拷問プール部屋もそうだけどお前ら教室を何だと思ってるんだ。
そしてそんな教室内に漂うアルコールの匂い。
「アルコールの匂い???」
嗅ぎ覚えのある匂いに奥へと視線を向ければ、レベル100ダンジョンからしか出土しない酒アイテムを片手に、だらりとソファで寝転がっているカスの姿があった。既にソファの周りには何本も空っぽになった瓶が転がっており、何を使って雇われたのか一瞬で把握した。
そういや100レベのレイドでドロップしましたねアレ……。
そんな訳で。
「救世主ぅー、元気ぃー? いえーい!」
完全に出来上がった酒クズがそこにいた。
確かに占い系で人類最強の人材だけど高校の学園祭で召喚して良い人材じゃないだろ……!