いやあ、酒クズから困った話を聞いちゃったなぁ。
来年ノアかエデンって言われてマジでどうしよう。どうしようかと思ったけど、見えた事は政府に報告するらしいし、何か動きがあるならこっちにも話は来るか……。記憶の中のノアやエデンのマップを書き出すぐらいの準備はしておくか。データそのものは既にゲーム用に用意してあるし。
まあ、覚悟だけ決めておくか、という話。覚悟してるとしてないではだいぶ話が違ってくるし。それにここ1年か2年ぐらい、永世GM決まってからブライアンとかの一部のSランカーはひたすら新環境に備えて合体と再合体を繰り返して戦力の強化を続けている。
数年前の状態と比べればだいぶマシになっている……筈だ。
まあ、今考える事ではないかもしれない。今は久遠との時間を大事にしたいし。
七海にも別れを告げて再び学園祭を歩き回る。段々と時間が進むにつれて人が増えて、結構混んでくる。気づけば何時の間にかメディアの類も入り込んでいる……何時の間にか駆間もメジャーになって来たもんだなぁ。
「駄目です! カメラ動きません!」
「ここまで来て手ぶらで帰れるかよ!! 奪ってでも撮影するんだよ! 護衛を雇うのにどれだけ金がかかったと思ってるんだ……!」
可哀想な声も聞こえて来る。慣れてない、適性のない人が駆間で取材とか撮影をしようとするとこういう事になるんだなぁ、という解りやすい例である。悔しいだろうけど次回はもう少し頑丈な機材かその場で生命根絶カメラを作成する根性を持ってほしい。
そう言えば生命根絶カメラあの後どうしたんだろうね? 局の機材だし局に返したのかな? 返して良いもんなんかアレ?
「そろそろ腹が減って来たな……」
七海の所を出て少しすると久遠が何か食べたそうにそんなことを呟く。そう言えば始まってからそこそこしてるのに何も食ってなかったな。
「何か食べるか。どっかで落ち着ける所が良いなあ」
「あると思うか?」
需要と供給って言葉があるじゃん! もしかして落ち着いて食べれるための需要を理解した異常者がいるかもしれないじゃん! いや、ここまで考えておいてだけどこの高校で普通に食事する場所はありえなさそうで困るな。
「仕方がない、適当に見繕うか」
「最悪、私達の教室に戻っても良いだろう。少なくともまともなものは出してくる」
少なくともウチの店はコンセプトは邪悪だが内容は普通だ。コンセプトは邪悪だが……。
だから最悪教室に戻れば良いかなぁ、と思って校内をうろついていると屋上への道が開いているのに気づいた。普段、屋上は封鎖されていて入れないようになっている。屋上は高い位置にある都合上、飛行型モンスターに襲撃されやすいスポットなので基本封鎖されている。
だが今日は開いている……という事は何かあるのだろう。折角だし確認してみるか、と2人で屋上に出るとそこにはちょっとおしゃれなカフェがあった。どうやら3年の先輩たちが経営しているようだった。
「ここ、どんなカフェなんですか?」
「猛禽カフェですよ! ご利用する場合は銃か護衛を手元に置いてくださいね! この子たちの餌は貴方達かもしれないので!」
そう言った直後、10メートル級の巨大鳥が先輩を両足で掴んで空へと浮かび上がった。このスリルの中で飯を食うのか? と思っていると先輩は片手でライフルを構え、鳥の目を撃ち抜くと回転しながら落ち、受け身を取りつつ着地した。
「ご利用しますか?」
「ここにしよっか?」
「そうだな」
屋上に用意されたテーブルに案内される。ここからは燃え盛る都市と阿鼻叫喚の校庭の様子が良く見える為、そこそこ客が入っている。上空を旋回している猛禽という言葉でデコレーションされた怪物たちは虎視眈々と自分たちのスナックを狙っているが、校舎裏からのそりとミストが首を出すと一瞬で自分たちは小鳥のヒナですと言わんばかりにぴーぴーと泣き出す。
ミストドラゴン、ご存じの通り上位種です。
ほとんどの生物は抗えない。
完全に大人しくなってしまった猛禽カフェで久遠と昼食に入る。出て来るメニューが焼き鳥だったり、鶏ひき肉のミートパイだったり、何故かやたらと鶏肉を使ったメニューが多いのはそういう趣向なのだろうか? 猛禽の前で鶏肉を食う事を求めるタイプのカフェなんだろう?
味は……学祭の味という感じで特にコメントする程でもない。
でも普段とはちょっと違うシチュエーションでとる昼食というのは新鮮でちょっと面白かった。これで空から悲鳴と助けを求める声さえ聞こえて来なければなぁ。
なお捕まった人たちは先輩たちが救出してくれるので特に犠牲者はいないらしい。
ある程度学園祭を回ったら流石に一度教室に戻ろうという話になり、様子を見る為にも教室へと戻る事にした。午前の部は女子によるメイド喫茶だった。これに対抗しなければならないTS女子はもっと攻めるような、ニッチな需要を満たす為の店を展開する必要がある。
「結局、何をする事にしたんだ?」
「見れば解るよ」
周りはそれなりに盛況だがウチはどうかな? と午後の部を確認しに来ると、そこそこの行列が教室の前に出来ているのが確認できた。お、TS女子の人気あるじゃん。皆性癖壊れてるねぇ。ちゃんと教室の前に今回の趣旨は書かれている。
ちょっと並んでいる声に耳を傾けよう。
「午前の部はなんというか……所作にガサツさが見える、絶対に中身男だろ」
「馬鹿、駆間女子なら環境適応で寧ろそっちのが女の子っぽいだろ」
「こういうコンセプトなんだから寧ろ地が見えるんだろ。まあ、午後の部を確認してからでも判断するのは遅くないだろ」
「そうだな」
楽しそうにしてるし悪くないんじゃないかな? 評判もそう悪くなさそう。ゲーム的な要素も利用する為の理由になりそうだし売り上げも悪くなさそう。うんうん頷いていると久遠が早く中を確認させろという顔をしているので、一緒に教室の中を確認する。
そこに広がっていたのは庭だった。
ガーデン。つまり庭園。城とか豪邸とか、そういうのに広がっている庭園が教室内部に広がっていた。近くには池まで存在し、設置されている幾つかのテーブルには優雅にティータイムを過ごす令嬢の姿が見られる―――そう、令嬢だ。
品のある服装に身を包んだ良家のお嬢様とでも言うべきビジュアルの美少女たちが控えめに、うふふ、と入って来た客相手に談笑し、一緒にティータイムを楽しんでいる。その光景を久遠は少しだけ頬を引くつかせながら眺め、それからこちらを見た。
「ミコト」
「はい」
「これはなんだ……?」
ふ、と微笑んで腕を組み、解説する。
「この駆間ではお淑やかなお嬢様タイプの女子が絶滅している……そこに圧倒的な需要を見出したんだ」
少し前に見た研究がその答えだ。駆間女子はモンスターに対抗する為にもっと肉食に、積極的にアピールするようになった。その結果、肉食女子ばかりのハンティンググランドになり、お淑やかで、控えめで、清楚なタイプの女の子は絶滅した。
そう! クラスの男子を駆間に存在しないタイプの女子に変えたのだ!
「誰だって真実より見たいものを選ぶ……そう、こんなもの駆間には存在しない」
こんな清楚な女の子は存在しない……俺が完璧な指導を施した元彼らは駆間にいるどんな女子よりも大和撫子やお嬢様風でいられる。中身を作り上げる事に関してはプロであると自負している。俺の仕事は完璧だ。完璧すぎて接した瞬間これは駆間の女の子ではないと解る程に。
「だけどね、幻想が本物になった時人はそれを選んでしまうんだ。見てごらん、入ってきた人たちを。皆幸せそうだろう? 彼らの頭の中はこれが本物ではないと理解していながらこう思っているだろう―――これで良いや、これが良いや、って」
「悪魔か貴様ら?」
午後の部、TS女子担当お嬢様喫茶。
事実上のお嬢様風キャバクラである。学園祭でやる内容かこれ? 許されるのか? 出店許可は先生がもぎ取って来た。つまり合法、これは許可されている。見たか、女子共。男の子は清楚系とかいう言葉に凄く弱いんだぞ。
会計を済ませて教室を出て行く客達は投票用紙を午後の部に入れている。水のない砂漠でオアシスを見つけたら……そこに縋るしかないのだ。そして同時に、ここまでちやほやされて気持ち良くなってしまった成功体験を人間は忘れられない。
「悲しいなぁ、俺は完璧に仕事をこなし過ぎてしまった。何人この状態から戻って来れなくなるのかなぁ」
楽しそうにうふふと微笑むTSお嬢様という地獄の存在。普段のアンナをモデルにしてるから中々お嬢様度が高いと思うよ。
「客も味方も全て焼き払うか……流石だなミコト。もはや破壊行為に関しては、お前を超えるものはこの学園には居ないだろう」
性癖の壊れる音が教室から響いて来る。
クラスメイト達の新しい門出を見守りつつ、この危険地帯を久遠と共に去って行く。さようなら、クラスのみんな。次に会う時は何時もの自分に戻れている事を遠くから祈っているよ……!