騒がしかった学園祭も段々と終わりが近づいてきた。
1日中騒いだからか学園がボコボコに……というのは普段とあんまり変わらないかもしれない。今日は建設業の方々も常にスタンバイしてて過労死確定コースだ。
だがご安心を。モンスターは死んで蘇れば疲労状態も解除される。これを利用して駆間の建設業界は疲れた頃にモンスターを殺して蘇生する事で無限残業ループに入れる。
ブラック企業も真っ青のブラック労働っぷりだ。どうして外から建設業界の人が新しく参入してこないかの答えでもある。こんなのやってられるかボケ。
少しずつ日が沈んで行き、やがて校内放送で学園祭の終わりが告げられる。
『駆間高校秋季学園祭、これにて終了です! 皆様お疲れ様、そして生存おめでとうございます!』
「放送で生存おめでとうと言うのもここぐらいだろ」
「個性的で良いではないか」
結局、ずっと外をうろついているというのも無理があったので定期的に教室に戻って手伝ったり休んだりしてたが、最終的には女子とTS女子混合で店を回して客にどっちかを当ててもらう形で遊んでた。
本日1番破壊を伴わない破壊を行ったと校長先生からも好評だったが、被害がでかすぎるから二度とやるなとも釘を刺されてしまった。面白かったのに……。
こうやって割と良い売り上げを出しつつ俺達の学園祭は終わりを迎えた。終わったら滅茶苦茶になった教室を片付けて、それから後夜祭に突入する。
暗くなった駆間はそこそこ危険で闇討ち率が高い。
が、今日に限ってはティザストロや酒クズ……本人は酒を飲んでるだけだが、そのモンスターが監督で辺りを見回ってるから比較的安全に過ごせる。
校庭では巨大なキャンプファイヤーで校庭に出現したダンジョンの入り口が火炙りにされており、外に這い出でようとしたモンスターが出現した瞬間リスポーン狩りされている。
モンスターの命を燃料に燃えるキャンプファイヤーはキラキラと輝いて綺麗だった。これが命の輝き……!
後夜祭に入るとそこそこガードが緩くなる男子が出てくるのでまだお相手のいない女子にとってはハンティングタイムでもある。まだフリーの男子を求めて肉食獣が徘徊し始める。
そんな頃、俺と久遠はそんな狩り場となった校庭を抜け出し、屋上へと来ていた。
スリル満点だった猛禽カフェが閉店した後は鳥モンスターの天国に……という事はなく、生かしておく理由が消えたので全てミスト姐さんによって狩られてしまい、安全地帯へと変わっていた。
さよなら……。
そんな訳で俺達は見晴らしの良いスポットから学園を見渡していた。ここからは未だに男に戻ろうとしないクラスメイトの姿や、捕獲されてそのまま暗闇へと消えて行く他学年の男子の姿とか、ひっそりと闇の中に消えるモンスターの姿がよく見える。
皆、暗くなってからは基本出歩かないから結構はしゃいでるなぁ。
「楽しい学園祭だったね」
「そうだな、また来年もこうあって欲しいな」
「うん」
やっぱこうやって眺めているだけでも楽しいな。騒がしさの中心にいるのはちょっと遠慮願いたいが、それを外側から眺める分には良いと思う。
しかし来年の学園祭はまた違うアイデアを捻り出さないといけないから難しいぞ。
「ことしは結構攻めたアイデアだったからなぁ……これを超えるとなると中々大変だな」
「ま、その時はまた誰かが適当な事を言い出すだろう。それに期待だな」
来年もこの騒がしさを眺めるのが楽しみだ。そう思いながらしばらく遠くからキャンプファイヤーを眺め、それからゆっくりと続ける。
「俺さ」
「うむ」
「……思い付いた事があるんだ」
「それを私に告げるという事は……自分の中でまだ固まってなくて、共有しつつ固めたい、という所か」
「言わなくても全部伝わるの、ほんと助かるよ。俺、喋るの下手だし」
伝えたい事を伝えるのって、実は結構難しい事だよね。それを正しく、間違えず、真っ直ぐに伝えるのはなおさら難しい。久遠はそれを読み取る、汲み取る能力が高くてほんと助かる。
だからゆっくりと整理するように言葉を作る。
「少し前にララが興味深い話をしてくれたんだ」
死んだと思われて放置されてたか、或いは弱すぎて認知出来なかったか。どちらにしろララは大事な話を聞いてくれた。あの女神でさえ俺の誕生を知らない。
そして神が持つ死角の話だ。
「あの女神でさえ見通せないものがあるって知って、理解した。元々俺は自分の存在そのものがあまりにも都合が良すぎるって思って、疑ってた。誰が俺を用意したんだ、って」
屋上のフェンスに背中を預け、暗くなった夜空を見上げる。冬が近づくと暗くなるのも早くなる。ここら辺は車が通らない影響で空が綺麗で、夜は何も阻むことのない星々が浮かんで見える。
ウチの牧場で夜空を見ようとすると夜中出現する怪異との殺し合いに発展するからな……。なるべく夜間は外に出たくないよね。
「だけどララの話を聞いて大体3人にまで絞り込めた」
「3人も候補がいるのか? てっきり貴様の言う創造神とやらが主犯だと思ってたが」
「それは第一候補だな。それ以外にも候補はいる。女神の死角を思い出したお陰で思いつけるようになったんだけど……」
俺の言葉になるほど、久遠が頷いた。
「私の所感が聞きたい、という事だな?」
「あぁ、ただ俺たちの会話は全て全知の範囲内だ。何をし、言っても全部奴に聞かれるだろう。ワンチャン、ネタバレされたくなくて耳を閉ざすのもあるけど……」
寧ろこの可能性が1番デカそうなんだよね。事前に展開を知ってたら面白くないからとか言いそう。全知だからこそ許される傲慢さだ。
「だから……俺がどこから生まれ、呼出され、そして来たのか。それを知る共犯者の居る所へと行かないといけない。恐らく、俺が知る以上そこが女神の目から逃れられる唯一の場所だ」
「あるのか、そんな場所が……いや、待て、共犯だと?」
「おう」
俺の誕生には共犯者が存在する。それは間違いなく我が両親の事ではない。寧ろ彼らは俺という存在を生み出してしまった被害者だ。俺のせいでだいぶ不自由な生活を強いてしまった。
本当に、申し訳ない。
「……ゴーゾーか?」
「いや、ジジイも聞いた感じ俺の被害者だ。これはもっと根本的な話だ」
そう、命が生まれる上では絶対に通さないとならない世界がある。
「共犯者は黄泉の支配者……つまり深淵の大母だ。この世の命の輪廻を、転生を、魂の運行を、死後の行く先を信仰や価値観に照らし合わせて今管理してるのはあの方だ」
それが俺の考えた共犯者。だが久遠は納得の行かない様子を見せてる。
「納得できない?」
「疑問が残る。深淵の大母は……その……あの方なのだろう?」
その、日本人的にあまり軽々しくと名前を言えない感じのあの方です。
「貴様の生誕に関連するのが異世界の神々ならそもそも参照する神が違わないか?」
「いや、
「うーむ、解るには解るが解り辛いな」
「今のは俺の説明が下手だったかも。まあ、細かい話は後日するとして」
俺が知る限り、彼女ならこの世の魂の流れの全てを把握している筈だ。そしてそれは当然、俺も含まれる。管轄が彼女である以上、俺のこの世界への転生は1枚噛んでいると見れる。
えーと、話を戻そう。何故共犯の領域に、つまり冥府に行く必要があるか、という話か。
「単純にアリア=マリスは冥界に踏み込めない、見えない、干渉出来ないという死角があるからだ」
久遠の頭にはてなマーク。とても可愛いね。勇ましいところも好きだけど、可愛い君はもっと好き。
「アイツは自分の死を至高の物とした。それ以外の結末を認めないぐらいには。だけど冥界は死の領域、生者は入ってこれない。アイツは入ってくるのに死ななくちゃならない」
ちなみに俺達マスターは根の国に踏み込む時、ほぼ死んでいる。ちょんと冥界に踏み込んだ瞬間から心臓の動きがゆっくりになり、限りなく死に近い状態になっている。
「ああいう概念メンコする奴は存在意義とかがガチガチに縛られてるからな。たぶん無理に冥界に突っ込んだり干渉したら自身の死の否定に繋がって自己矛盾で消滅するんじゃないかな」
ぶっちゃけこれ全部、確証はないけどなんとなく感じている内容である。そして直感的にこれが正解だと感じている。根拠は薄いが……本能的に、自分に関する真実に近づいている、そんな感覚はするのだ。
久遠も俺の話を聞いているうちに俺の言いたいことを理解した様な表情をし、それからほほーん、と笑った。
「で?」
「で、とは」
「どうして欲しいんだ?」
聞いて来る久遠は少し、意地の悪い表情をしている。俺が言い辛そうにしているのを見て楽しんでいるのが解る。俺の恋人はどうしてこんなに性格が悪くなっちゃったかなぁ。俺が弄りがいがあるから? たぶんそう。
俺が久遠に強く出れるなら解決する問題なんだけどな。
あいにくと、俺は久遠に一生勝てる気がしない。
だから、ちょっとだけ言葉を考えて。
「その、この先色々とあるだろ?」
「ああ」
ララから話を聞いたのもそうだし、ノアやエデンの攻略が控えている事実もそうだ。東吾たちは忘れてるかもしれないけど……暗黒樹海の奥にも惑星破壊兵器が眠ってるから、目覚める前に始末する必要があるんだよね。
ただこれを全部やる前に、やらなくちゃいけない事がある。
「いい加減、自分の心の問題にケリを付けたい」
自分の正体、起源、それと向き合ってこの心と魂を縛る鎖を振り払いたい。
だから。
「真実と向き合う時、君が傍にいてくれたら……これ以上、心強い事はないと思うんだ。根の国を下り、冥府の底にいる大母に会いに行く。聞き出すその時、横に居て欲しい」
一緒にダンジョンの深淵へと向かって欲しいという正気を疑う様な誘い文句。普通の女なら断って当然の口説き方だ。だけど俺の恋人は普通ではない。恐る恐る手を前に出せばそれを掴んで、体を寄せて来る。
「喜んで」
身を寄せて来る久遠にこの心音がバレてないかちょっとだけ不安を覚える。けどそれ以上に直ぐ傍に見る彼女の瞳は綺麗で―――後ろで聞こえて来るキャンプファイヤー中央からの断末魔さえ無ければ、とても絵になる光景だったんだろうなぁ、と思えた。
アレだね。
ちょっとロマンスを感じる空気を作るには駄目だね、ここ。