根の国。
黄泉の世界。
死後を管理する領域。
最初に訪れたDLCダンジョン。
実の話、死後の世界をモチーフにしたダンジョンは複数存在する。統括神も何体か存在する。だが根の国が特別なのは……このゲームが日本出身で、開発が日本人だから。
そう、日本贔屓である。しょうが無いね。
重要なのは黄泉の世界は元々我々の世界に存在した概念であり、実在するかどうかは定かではないが、異世界の実在する冥府と融合した結果実在する世界になったことだ。
だから根の国は実在する死後の世界であり、それを管理する領域になった。
人間の死後は存在するのだ。根の国はその保証を行った。そしてそれは人の命、その神秘、その秘密に迫る事でもある。
根の国の深部に挑む事はその秘密を暴く事でもある。
奥に進めば進む程生が遠のく。死の真相に近づくだけの悟りが求められる。根の国の深淵を目指すものはそういう生と死のシステムを直視する精神性が求められる。
元々フレーバー要素でしかなかったそんな設定も、ゲームから現実になれば人の魂を試す為の試練へと変わる。
11月、まだ冬休みに入る前に根の国の裏口に俺と久遠は立っていた。
学校には事前に許可をもらって早めの休学を貰った。既にドラゴンズバレー関連で数年学校休んでもお釣りが来るレベルで色々とやってるが、もう学生でいられる時間はそう長くない。
その時間を大切にしたい。だからなるべく学校には通うつもりでいる。
卒業する頃には……きっと、ふざけていられる時間が世界にはそう残っていないだろうから。
双方の両親への説得はそう難しいものじゃなかった。普段から根の国には遊びに行ってるし、ちょいと遠出するぐらいの感覚だった。勿論、目的は伝えている。だがそれも大人からすれば自分探しの一環なのかもしれない。
だから探索用フルセットに着替えて、根の国の前に立ち、改めて久遠に意志を確かめようとして……止めた。目を見ればそれ以上何か言う必要がないというのが解った。
だからゲートの向こう側へ。
根の国へと裏口を通して踏み出した。
踏み込んで一歩目、肺を黄泉の空気が満たす。濃い死の気配が辺りを包み、蔓延している。神秘的な見た目はフィルターの1つでしかない。
ここに来ればここの根本が他のダンジョンとは違う事が良く解る。
「あらあら、これはこれはご両人、本日はそこそこ覚悟決めた顔でようこそという感じですね。どうされましたか?」
デカい黒い九尾の狐が前足でゴロゴロとデカい糸玉を転がしながら寝転がってる。昔はもうちょい体面気にしてたんだけどなぁ。
「ちょっと底まで行く用事が出来て」
「うむ、黄泉下りだ」
「なんとまあ」
俺達の言葉にマガツキュウビは驚いた表情を浮かべてから糸玉を消すと体を下げて、背中に乗りやすいようにしてきた。
「表情を見るからにそれなりのご覚悟は決めている様子。なら育てていただいた恩のある身として道行きを手伝いましょう。あ、戦う気はあまりないのであしからず」
「そこはお前が心配する事じゃねぇよ」
そう言って3人目が裏口から根の国の中へと入ってきた。黒髪のウルフカット、チンピラサングラスに服装を着崩した不良ぽさを感じるビジュアルの男が現れた。
それを見てマガちゃんがぐえー、と声を零した。
「後輩じゃありませんか」
「何がぐえーだ、お前のが年下だろうが子狐」
「年功序列でしか語れませんのこのトカゲは? ハメ殺されてる癖に態度はデカいですよねー」
「あぁ!?」
チンピラーーー即ちディザストロは人の化身を解除して本来の姿に戻るとドラゴンの姿でマガちゃんにガンを飛ばす。お前ら、相性悪かったんだな……。
久遠と並んでマガちゃんの背に乗りつつぽかーん、としていると視線が此方に向けられ、それからディザストロが舌打ちした。
「取り敢えずお前が護衛を心配する必要はねぇ……元々必要なさそうにも感じるけどな」
「えぇ、まぁ……そもそも歓迎されていますからね。ノリで勝負を挑まれる事はあっても、本気で害する気持ちのある者はこの黄泉にはいないでしょう」
だって、同胞でしょ?
という言葉は聞こえなくても誰にも見えた。まあ、見てろよ。卒業してやるからな。俺は見事に真人間になって光の世界に帰るんだ。俺はやるぞ。
「無理だろ」
「お前はどう足掻いても闇サイド」
「足掻くな。受け入れろ」
「失せろ悪霊共!! 悟りフラッシュッッッ!!」
ぎゃあああと叫びながら悪霊が消し飛んで行く。油断するとすぐに集まるんだからもー。
取り敢えず本日はマガちゃんとディザストロ兄貴のW120組を使って移動である。本当ならチビ達を経験のためにも連れて行きたい所だったが、正直1ヶ月程度ではあの20時間戦闘とドラゴンズバレーという高負荷環境の疲れは抜けきっていない様だ。
俺は体力が戻ったが、あっちは生と死の境をずっと彷徨い続ける20時間だったのだ、そりゃあ1ヶ月程度で治るはずもないわ。俺は結局ほぼ座って生命力落として耐えてたしな。
と、そういう事情もあり過剰戦力コンビ、出動となった。
マガちゃんとディザストロ兄貴の性格的な相性が悪いのは少々予想外だったが、戦力的には頼りになるコンビじゃないだろうか?
「そもそも貴様らなぜそんなにいがみ合うのだ?」
「あぁ? 聞けよカラスバミコトの番。この臭いを嗅げば解るだろ? 嘘、謀略、陰湿、そして血の臭いだ。こいつは多くの命を貪った怪物で、嘘つきだ。今は大人しい顔しているがここまで一体どれだけの屍を積み上げた? それでいて今は人類の味方ヅラしてどれだけ恥を知らないんだ」
「おーほほほ、これはこれは流石上位種は博愛精神であふれてなさいますねぇ! 外界に邪神が現れようともガン無視でしたのに。私? ちゃんと戦いましたよ?? ヒマラヤはさぞご快適だったでしょうねぇ!!」
「だいぶ火力高いなコイツら」
「何でも良いけどさっさと動き出さないと日が暮れるんだけど」
この2人の相性がここまで悪かったのはちょっと予測してなかったなぁ。でもマガちゃんはカルマ値がマイナスで、ディザストロは種族的にプラス側だから相容れないのかもしれない。
今後はこういう組み合わせも気にしなくちゃ駄目かもしれない。
さて、軽い交流も終えたのでララを呼び出す。
「皆は休みなのに僕は休みがないんっすね」
「ああ!!」
「力強く言う事っすか??? やるっすけど」
そう言ってマガちゃんの前を歩いたララは早速罠にかかり死んで、魂だけ体から抜け出た状態で次のトラップに突っ込んでいた。無論、霊体のままトラップが作動し、ララが巻き込まれる。死ぬ……様に思えてララは転がるが、起き上がると次の現場へと向かった。
俺達皆で霊体のまま罠を踏んで解除するララを眺めてた。
「アレはありなんか?」
「本人……死んでることにさえ気づいていませんね……」
「霊体のまま罠を解除すると死なないし解除出来るんだな……」
「反則の気配がするな」
純度100%の反則以外の何物でもないだろ。というか根の国だからこそ……いや、言い訳するのは止めるわ。何アレ? なんであんなこと出来てるんだ? 数年前根の国に初めて訪れた時はそんな事出来なかったよな? 慣れたの? 死ぬ事に慣れたの? なんかカジュアルに住人たちと挨拶してない? ご近所付き合いもしてない? どうなってんのお前。
データ的には普通のラッキーラビットなんだけどなぁ、お前。やっぱ変な適応してない? してるよな……?
ま、ままま、ま、まあ。見なかった事にするか。
俺達全員で首を傾げながら根の国の深淵へと向かう旅路を始める。マガツキュウビの背中は普段から良くブラッシングされている事もあってかなり座り心地が良く、快適だ。ちょくちょく顔を出してくる黄泉の住人達も流石に通りすがりのWボスに喧嘩を売る程命知らずではなく、こっちが闊歩しているのを見るとうわぁぁ、わぁぁ、とか声を上げながら逃げて行く。
まあ、120レベコンビが堂々と歩き回っているのを見たらそら逃げるわ。
偶に気合入ったのも襲い掛かって来る。
が。
《ドラゴンズバレー》展開から+99されたブレスを吐くと基本生物って消し飛ぶんですよね。食らう側もこれを1発受けてみたい感覚で飛び込んでくるのがちょっと面白かった。
裏口から根の国に入り、奥へと向かう。
神秘の花が群生する大地には鳥居や黄泉をモチーフにした石造や飾りの類が見え、天蓋は美しい夜空で満たされている。朝のやってこない世界は永遠に凍り付いた時を表している様で、これまで巡ってきたダンジョンの中で一番美しい景色をしている。
最近では一番探索しやすい、攻略しやすいダンジョンだと認知されている事もあり、根の国のあちらこちらでマスターを見かけるようになった。そういう連中もボスモンスターがWで練り歩いているのを見ると急にうわぁぁぁとなりながら泣き出す。そうだね、トラウマもんだね。
そんな中で。
「尊……お前……何、その、なに??」
見覚えのある奴が侍女を連れながら此方を地面の上から見上げていた。視線は俺とマガちゃんに向かい、それからディザストロへと向けられ、もう一度俺へと戻る。なので俺も手を振る。
「おーい、雅人ー! なんだよ! 根の国潜るなら一声かけてくれれば良いのに!」
「マサトか、久しぶりだな」
根の国探索中の雅人とエンカウントした。
俺達を見上げる雅人の表情はまあまあ引き攣ってた。