「死神の確保だよ。この先必須だしな」
根の国で何をやってるのか聞いてみれば当然と言わんばかりの返答が来た。まあ、それ以外に目的はないかぁ、って感じ。ついでに雅人が持っていた素材を合体させて告死蝶を作成する。これで雅人も死神を使う事が出来るだろう。
寧ろ今まで使ってない事に驚きだったけど……そうか、日本を離れる時が多いから取りに行けてなかったのか。まあ、これで雅人も死神を獲得した。これからは妨害能力もアップして編成の幅も広がるだろう。
「それにしても根性あるなぁ、ここまで潜ってくるのは。結構ヤマタノオロチ近いだろ」
「最近はここら辺も探索が進んで結構何とかなるぞ」
「そうなんだ」
やっぱゲームの影響でマップが開拓されてるなあ。なんだかんだで大母も戦闘している時があるし。こりゃあ俺が倒す前に攻略される可能性も見えてきたな。いや、ちょっと悔しいけどそれはそれとして人類のインフレが進んでいる証だから喜ばしい事なんだが。
「お前は?」
「底に行く所」
その言葉に雅人はマガちゃんとディザ兄貴を見た。
「やるのか……!?」
「確かに戦力的には凄い頼りになるけど相性的に絶対に勝てないので無理です」
「……そうなのか」
何だろう、少しだけ雅人が残念そうにしている様に見える。こいつ、もしかして俺がジジイみたいに破天荒な事をしているのにツッコミしつつ楽しみにしているのでは……? 派閥的にまあまあありえなくもないのがちょっと怖い。
思い返せばコイツ、超危険地帯・駆間へ俺に勝負挑む為だけにやって来た覚悟ガンギマリタイプだったな。期待に応えられないのは申し訳ないが流石にこれから話しに行く相手に攻略テロはかませない。
そもそも深淵の大母は専用構築要求するタイプのボスだ。
ランクマ用の構築だとリーサル通すためにかなり細い道を通す必要がある。あまり現実的じゃないので、正直攻略はどうしたもんかなー、みたいな部分はある。
「奥行く?」
「いや」
雅人が断るとどごーん、と爆発音と高笑いが響いて来た。華やかな花火のような爆発と声で一緒に誰が来てるのか一瞬で察してしまった。
「今日は花火師と一緒だしな」
「そか。じゃあ、また適当な大会で」
「ああ。Bランクの大会で会おう」
手を振って別れを告げる。
それから根の国の奥を目指して移動を再開するが、やはりちょくちょくマスターの姿を見るようになった。ここまで来ると流石に鴉羽ファームと俺の名も知られているので手を上げて挨拶されたり、構築見せられてアドバイスを求められたりもする。
ゲーム開発によって教材となった原典。そしてドラゴンズバレーの公開。もはや隠さなくなった俺の行動は世界に知られるようになり、それ相応の対応をする人はするようになった。
こうなると、自分もだいぶ有名になったんだなぁ、と思える。
裏口から道に沿ってヤマタノオロチの巣へと向かう。討伐済みなのかリスポーン待ちの連中に挨拶しつつ巣の中を通って更に奥へ進む。
道は地下へと向かって進み、その先にまた天の見える広大な空間に出る。
足元は僅かに水が張っており、天上からは木の根が空を突き破っているのが見える。
ここまで来ると黄泉の国の空気が重くなり、健常者や弱い人間を拒むようになってくる。強すぎる黄泉の気はそれだけで人の運命を死に寄らせる。
これに対抗出来るのは強い意志を持つ事か、或いはそれにすら負けぬ運命力の持主だけだ。無論、そんな運命を持つ者は本当に稀だ。
だから基本、黄泉の空気によって死に寄る運命に対抗出来るのは人の意志と覚悟だ。巣を抜けて深層に辿り着いた所で一緒にいる久遠を見る。
見た感じ、辛そうには見えない。
「大丈夫か? 辛いなら素直に言ってくれよ」
「問題ない。特に苦しさは感じないな。普段通りだ」
「ララは空気に触れただけで死んだのに……」
濡れティッシュにも程があんだろ。というかここまで耐久低くないだろというツッコミは駄目なのか? なんかもう別の生物になってないかコイツ?
そんなツッコミを流しつつ、根の国の深層は流石に生身だと俺も初めてだった。それでも最奥への道が容易なのは戦力が整っている以上に自分達が歓迎されているからだろう。
「……どこからともなく笛の音が聞こえてくるな……まるで祭囃子みたいな華やかな音だ」
耳を澄ませば楽しげな音楽が聞こえてくる。更に耳を澄ませばどこからか楽しそうな声も聞こえてくる。具体的に何を言っているのか、それを久遠が聞き取る前に耳を手で塞ぐ。
「それ以上は駄目」
「?」
「この世の物ではない声を聞き続ければ運命がそっち側に引き込まれちゃうからね」
「なるほど」
そう言うと久遠は更に距離を詰めて背中を預けるように体をぴったりと預ける。
「ならこうやって……貴様の事以外何も感じられないようにすれば解決だな?」
「凄いですわね、この娘。何をしても全部イチャつくための出汁にしてきますわ……!」
この対応には思わず背景BGMも興奮。聞こえてくる祭囃子がなんかバラード調だったりロックだったり変わりだす。たぶん演奏してる連中が今音楽性の違いで殴り合ってる。なんて事だ。
「あ、祭囃子が止まった」
「グループ解散……しちゃった……!」
「この世界の冥府は芸人の集まりなのか?」
ディザストロの言葉に俺達日本人は何も答えられなかった。まあ……ここの連中のノリの良さは芸人気質って言われたらそうだしな……。あんまり否定出来ない。
深層の歓迎を受けつつ奥に進む。ここに来ると出現するモンスターも変わってくるのだが、今回に限っては根の国の主そのものから歓迎されているから特に妨害なんてものはなく、時折遠巻きに此方を眺める気配を感じるだけ。
やがて、黄泉の空気は目に見えるほど重くなる。
死に近しい者を優しい眠りに誘う空気を感じる。
それを振り払いながら更なる地下へと進む石階段を下りて行く。その奥に、現実と死の境界を分けるようにそれはある。
そこは広く、生と死を分ける宮は大きく、その正面にある空間には10人ほどの小規模な集団が見えた。頂上から底までマガちゃんを使って一気に降りると、一瞬だけ警戒される。
が、次には背中に乗ってる俺たちを見つけてお、と声を零される。
「鴉羽の坊っちゃんじゃねぇか」
「ボスを乗り物代わりに使うなよ!!」
「もっと言ってくださいまし。私の平穏の為に」
挨拶してくるのは歴戦のマスター達で、そこはテントや焚き火で簡易キャンプ化されていた。どうやらここに数日単位で滞在しつつ攻略している様だった。
どれも裏口を利用出来るレベルのプレイヤーばかりだ。国内ランキングはそこまで高くはないが、それは彼らがしばらく大会等から離れて攻略や戦力の強化に集中していたのが原因だ。
ここまで死ぬ事なく辿り着き、なおかつ深淵の大母に挑むだけの資格を持つことが何よりも実力の証明になっている。
ここからは徒歩だ。マガちゃんから降りて、次に降りてくる久遠を抱きとめるように受け止め、地面に降ろす。
「ちっす、みんな元気?」
「おう、元気だぞ」
「比較的に攻略に行き詰まってますけどね」
「死の宣告、カウントダウン、老衰、寿命、不運の死……使ってくる攻撃手段が特殊すぎて対策が難しいんですよ」
ほれ、と言って持ち込んだ発電機に繋がっているテレビとパソコンを見せてくる。その画面にはうちのゲームと、ゲーム内の深淵の大母戦が映し出されていた。
どうやらゲームで攻略しつつ手持ちの戦力で突破する方法を相談しているらしい。
「薄々感じていたが……この手の大ボス、マトモに戦おうという意志を感じねぇよなぁ」
「なんというか……死ぬ事前提で情報を取得して、専用対策練ってこいって感じしますよね」
「逆に聞くけど、汎用構築で攻略出来る強敵は、強敵って呼べるか?」
言い返すとせやな……と納得される。そもそも育成シミュレーションRPGなんだから、専用対策を育成して連れてくる事までがゲームの想定なんだ。汎用構築で攻略される事は想定していない。
子狐モードになったマガちゃんの横でそういえば死んでたっすね……と現実を受け入れて死体になったララを抱き上げる。
「……」
そのまま数秒程、攻略に集った人達を眺めた。それに気づいておう、と声をかけられた。
「どうしました?」
「いや……」
予習手段があるとはいえ、ここまで来たのだ。深淵の大母と戦うだけの力を手にして。
「強く、なったなって」
「お、格下が甜めた事言ってるな???」
「おめーはまだBなんだよー!! 俺達Sを崇めなー!」
「人類の適応力を舐めるな上位存在共」
中指を突き出してくる連中に笑ってから奥にある最下層唯一の建造物……この根の国の現実と死を分けて、蓋をする深淵の大母の神宮を指差す。
「行っても良い?」
「おう、今日は客人を迎えるから戦えないって追い返されたからな」
「ずっと貴方達を待っていたみたいですよ」
「行ってきな」
「ありがとう……まあ、そんな長くはならないと思うから」
じゃ、また牧場で。そう告げてから正面、死の統括者が過ごす場を見る。通常であれば相当覚悟しなければならない場所だが……不思議と、今は歓迎する様な気配を感じる。久遠を見て、久遠も準備が出来ているのを確認する。
少しだけ目を閉じて、覚悟を決めて踏み出す。
「行こう」
俺が何者か、その答えを貰いに。