【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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試させて貰うわ……!

「……空気が、重いな」

 

「大丈夫か? 苦しかったりしたら本当に言ってくれよ」

 

「いや、大丈夫だ……だけどこの感覚は……そうか、あったばかりの頃の貴様に近いな」

 

 大母の居る神宮へと一歩踏み出した瞬間から濃密な死の気配が空気に混じっている。隠しようのない、向こう側の存在。本来であれば生きている人間が触れてはならない領域だ。だが触れる事が出来る。それが今の世の神秘だ。

 

 ずらり、真っすぐ本殿へと向かって神使達が整然と並んでいる。獣の特徴を含んだ眷属たちはどれも人の姿を取り、顔を黒いヴェールで隠しながら並んでいる。歓迎する気配はあるものの、流石に威圧感がある―――なにせ、全員黄泉の所属、死神の類だ。

 

「安心しろ。俺がいる」

 

 後ろから人の姿に変化したディザストロがのそりと現れた。

 

「俺とお前が揃えば逃げるぐらいの時間は作れるだろ」

 

「まあ、その必要ないと思うけど」

 

「そうそう、その必要はありませんわ。なにせこれからお会いするお方は命を愛しておられますから。そんな物騒な事にはなりませんわよ。あぁ、でも、出された物を絶対に口にしてはならない事だけは気を付けてくださいね。地上に戻れなくなるかもしれませんから」

 

「よもつへぐい、だったか」

 

 子狐マガちゃんがそうですよ、と久遠の肩の上に乗る。

 

「あのお方にその意図や意思はなくとも、存在そのものがルールであり、法則ですから。うっかり再現! なんて事もあり得るので気を付けるのに越したことはありません。後、なるべく態度を気を付ける様に、貴方達2人は普段の態度が普段ですので……貴方もですよクソトカゲ」

 

「俺が従うのはカラスバミコトと竜王様だけだ」

 

「コイツ……!」

 

 ディザストロとマガツキュウビがまた睨み合っている。本当に仲が良いね、君ら。

 

 何時までも神宮の入り口でぐだぐだしている訳にもいかない。神使達もそろそろ歩いてくれないかな……みたいな空気出し始めているので彼らに見守られるように奥へ……本殿へと向かう。ゲーム時代はこの神宮自体にもアイテムが色々とあって回収出来たんだけどなぁ。

 

 流石に今は回収できないかな……。その勇気はちょっとない。

 

 導かれるままに本殿へ。なるべく礼儀を欠かさない事を意識しつつ上がれば、本殿の中へと誘われる。無数に存在する障子、それが奥へと向かって踏み込むのと同時に1つずつ自動的に開いて行く。

 

 やがて、その一番奥、御簾に囲われた舞台が見えた。

 

 自然と背筋が伸びる。傍に控える眷属達が座布団を敷いてくれる。そこに座れ、という事だろう。用意された座布団の上に座る……が、ディザストロだけは少し後ろの所で壁に寄りかかる様に立ったままだ。その姿を眷属達がキッと睨むが、どこ吹く風と受け流す。

 

 御簾の向こう側には女性のシルエットが見える。どことなくワクワクとした気配が、此方の言葉を待っている。なんて言葉を選ぶべきか……そう悩んでから、素直に喋る事にした。

 

「お久しぶりです……漸く顔を見せに来る事が出来ました」

 

 俺の言葉に御簾の向こう側の、深淵の大母は一瞬だけ沈黙を作り―――。

 

「―――あぁ、もう我慢できないわ! お久しぶりね尊ちゃん! んー! ほんと大きく育ったわね! とてもラブリーよ! 貴方は今の世の子達の中でも特に心配になる子だったけど……もう! 顔パスにしてあるんだからもっと軽い気持ちで顔を見せに来なきゃぷんぷんっ! よ? ぷんぷん!」

 

「うおキツ」

 

 御簾の中でいやんいやんとくねくねしてる姿に向かってディザストロが小声で呟いた。リトルマガちゃんがお前マジで余計な事を口にするんじゃねぇぞボケがという顔でディザストロを睨んでいるし、眷属達は新手の自殺志願者か? みたいな表情をディザストロに向けてる。

 

 幸い、グレートかーちゃんは聞こえないか、或いは気にしなかったらしい。良かった、死人が出る所だった。

 

「久遠ちゃんも本当に可愛いわねー! きゃあ! こうやって直に見れるとやっぱり全然違うわね! はあ、はあ、生者の過剰供給よ……ちょっと胸がドキドキしてきた……!」

 

「私の事を、知っているのですか」

 

 久遠の疑問に、御簾の向こう側の神は頷いた。

 

「勿論よ。私は覚えてるわ。ここに来た子供、去った子供全て覚えてるわ」

 

「このお方……伊邪那美命様にとって、汎ゆる生命は子なのです。生命は慈しむもの。死は優しく包み終わりを与えるもの……生と死のサイクルを管理し、見守られるお方ですから」

 

 マガツキュウビの説明に久遠も目の前の存在の壮大さを理解したのだろう。流石に緊張が走るのが見えた。が、それを深淵の大母は笑った。

 

「そう緊張しなくてもいいわ、久遠ちゃん。私にとって地上の生命は愛しい愛しい子の様なもの……遠慮する必要も萎縮する必要もないわ。母に甘えるように私にも接してね?」

 

「無理だろ」

 

 後ろで入るディザストロのコメントそこそこ面白いよね。ツッコミの才能があるのかもしれない。

 

「さあさあ、尊ちゃん。もっと顔を良く見せて頂戴。近くで貴方の顔を見せて頂戴な」

 

 その言葉に寧ろ周りで控える神使達に緊張が走るも、大丈夫と手で軽く制してから立ち上がり、中央を回避……久遠が向こう側が見えないように、横から御簾の向こう側に入る。

 

 そこに居たのは美しい着物に身を包んだ、全身が焼け爛れた怪物の姿だった。目は存在せず、喉に穴が空き、全身を食い破られたようなグロテスクな姿を見せる大母に歩み寄る。

 

 常人なら目視するだけで穢れるであろう姿も、俺には馴染みの深い姿だった。

 

 近寄ると、両手で頬を挟むように顔を見られる。

 

「あぁ……綺麗な瞳ね……生きようとする意志に満ちているわね。本当に変わろうとしているのね。でも……まだ()を振り払えないのね。可愛い子。貴方は生きているのだからこの様な手を振り払えないといけないのに」

 

「……申し訳ありません。ずっと……忘れられなくて」

 

「良いのよ」

 

 でも、と言葉が続く。

 

「この状態で……貴方に真実を語る事は出来ないわね」

 

 少し寂しそうに、悲しそうに、俺を見つめながら母はそう言った。

 

「知って、いたのですね」

 

「勿論よ。地上での出来事は大凡把握しているわ。そして貴方の言う通り、彼女の目はここまで届かないわ。ここは彼女にとっても克服できない領域……そう彼女自身が定めてしまったから。だから来たのは正解だわ」

 

 でも、と言葉が続けられる。その間にさささ、と俺を寄せるとそのまま自然に膝枕へと移行された。この世で最も恐れ多い膝枕だった。待って、今俺誰に膝枕されている? 力……力強くない? 滅茶苦茶強くない!? あ、違う! 人と神では力の基準が違うだけだ! 糞! 戻れないぞ!! 久遠の横に戻して。

 

「世界が滅びても死を消し去る事は出来なかった。彼女自身も何時かは死を迎える。そう、死は絶対。どのような超越者でさえ終焉を迎える。だから滅ぼす事が出来ない」

 

 不死者も不老者も永遠も何時かは終わりを迎える。死というピリオドはあらゆる物質、概念に用意された唯一の終点。それを覆す手段は存在しない。摩耗、劣化、損耗、そうして完成された存在であっても何時かは終わりを迎えるようになる。

 

「だから彼女はここには干渉出来ないし、見る事も出来ない……とはいえ、だから何が出来るという訳ではないけど。秘密のお話をするぐらいなら何も問題なく出来るわ」

 

「あの、そろそろ」

 

「だーめ。もう少し……ね」

 

「うす」

 

 日本のグレートマザーにそう言われたら逆らえないんだわ。

 

「貴方の聞きたい事は解るわ尊ちゃん。久遠ちゃんに良い恰好を見せたいのね? 凄く男の子らしくなったわ。貴方の事はとても誇らしいわ……でも」

 

 でも、という言葉が付くと次になにが来るのかは大体解る。

 

「駄目よ」

 

「あの、どうしてでしょうか。というかそろそろ膝枕をですね」

 

「貴方が確かめに来る行いは逃避だからよ」

 

 文句を何とか口にしようかと思ったが、それが鋭い言葉によって遮られた。

 

「事実を知って前に進むというのは一見、覚悟を決める為に必要な行いに見えるわ。でもね、尊ちゃん。貴方が抱えている問題は結局の所全部貴方の心の問題よ。心の持ちようで全て解決するわ。答えは既にあるのに貴方はそれに気づいてないだけ、鈍い子ね」

 

 よしよし、と頭を撫でられると少しずつ、眠気が襲ってくる。

 

「でも気持ちは解るわ。答えてあげたいのよね? 久遠ちゃんに。焦る気持ちばかり募って何とかしたいけど答えは中々見えなくて……でもね、尊ちゃん貴方はちゃんとやれているわ。必要なのは本当に視点を変える事だけ。それさえ出来れば貴方は直ぐにでも変わる事が出来るわ……それはとても恐ろしい事かもしれないけど」

 

 ぽんぽん、と撫でられていると本当に眠気が深く、入り込んでくる、寝かしつけられていると理解する頃にはもう瞼が落ちていた。

 

「さあ、おやすみなさい。貴方の疑問に答えられなくてごめんなさいね。でも貴方が……己の足で世界に立ち、胸を張って己の名を高らかに名乗り上げる日が来た時、その時改めて私は……いえ、私達は、あらゆる死のフィルターを外し、本来の死の概念として貴方との相対を行うわ。その果てで答え合わせをしましょ」

 

 その言葉を最後に、意識が一瞬で落ちた。

 

 

 

 尊が眠りにつくのと同時に、見守っていたディザストロがゆらりと寄りかかっていた壁から体を離した。片手の拳は既に握られ、何時でも尊奪還の為に動けるようになっていた。深淵の大母とディザストロの合間に挟まれた子狐モードのマガツキュウビは両者を見てこれどっちに味方すれば良いんだろうなぁ、という顔をして右往左往している。

 

 そして久遠は。

 

「そろそろ尊を堪能するのも十分ではないのでしょうか? そろそろ私の男を返していただきたいのですが」

 

「あら、駄目よ。ここは冥府の底よ? 古来より冥界下りで恋人を連れ戻すには何らかの対価や試練がつきものよ。尊ちゃんを()から連れ戻したいのならそれ相応の覚悟を持ってくれないと」

 

 ぐっぱぐっぱ。

 

 ディザストロが指の体操を始め、そのまま化身体を解除し、即応する姿勢に入る。素早くその前に割り込んだマガツキュウビがまあまあ、と宥めに入る。実力は目に見えているが、もし本気でディザストロが戦闘を開始した場合、この一帯が無事で済む事はない。流石にマガツキュウビもここら一帯が更地になる事は回避したい為止めに入る。

 

 だがその間も久遠と深淵の大母がヒートアップする。

 

「何を言うのですか。尊の心は元々そこにはない、私の所にある。連れ去りたいのは貴方では?」

 

「あら、尊がここまで来て答えを求めたのはまだ()の所にその心があるからよ? 久遠ちゃんは確かに良い子だし文句は一切ないんだけど……本当に尊を預けて良いのかどうかまだ、見極めないといけないと思うのよね」

 

「落ち着きましょう、クソトカゲ。解りますか? この空気を。闘争の空気じゃないでしょ? 暴れるのはもーちょい待ちましょう! ね! これ日本的なアレですから! 前振りですから! ほらね、テレビとかで良くやってるでしょ?」

 

「いや、兄弟が囚われてるのに前振りも糞もねーだろ」

 

「いや、それはそれなんですが……あぁ、文化圏が違うッッ!!」

 

 ゴキゴキ骨を鳴らしていよいよ化身を解除しようとする中で御簾越しに久遠と大母は視線を交わし、それからババっと構えた。

 

「つまり―――私が尊に相応しいかどうか、お嫁さん検定をする……という事ですね!?」

 

「ふ、流石久遠ちゃん察しが良いわね……この子は多くの子の中でも特別目をかけ、私が手ずから現世に導いた子。この子が将来幸せになれるかどうか、試させて貰うわ……!」

 

「ほら! 見ましたでしょう! アレは日本的なトンチキイベントの導入なんですよ! だからその物騒な気配は仕舞う! ここで暴れるのは止めましょう! ね!」

 

 必死にディザストロを宥め、背後でトンチキ導入が始まり、ララは床に死んだまま放置されている。

 

 私、今必死に何やってんだろ。

 

 自分の存在意義を考えながら、マガツキュウビは必死にディザストロを宥めた。

 

 それでは第1回、冥府主催お嫁さん検定始まります。

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