「そっちのテーブル広げてくれ」
「こっちこっち……そっちはもっと奥!」
「それは倉庫に戻せ! それは大母様を倒した時の報酬だ! 今持ち出すな馬鹿!」
わいわい。がやがや。神宮前広場が大改造され、全員が準備を整えた。何時の間にか黄泉から観客たちが集まり、大半が大母サイドの応援についていた。その中で、攻略の為に現着していたSランカーたちは全員久遠サイドについていた。人類vs死者の図式が自然と出来上がっていた。
あーあーあー。テステス。マイクテス。
花火師がマイクを弄ってスピーカーを確認する。コンセント? その先を確認すれば神使によって調達された雷獣がちゅー! とか言いながら発電していた。冥府に労基は存在しないからこそ出来る酷使発電。空に打ち上げられた自爆モンスターが花火となって舞台を彩る。
命の光……とても綺麗……だって冥府にそんなものはないから。
それでは準備も整いステージに役者は揃ったところで。
花火師が息を吸い込み、マイクに声を放った。
「てめェら祭りは好きかァ!!」
うおおお―――!
根の国に歓声が溢れだした。根本的に祭り好きな性質をしている日本神話系のモンスターはとりあえず祭りか! で集まってしまう本能があるし、祭りか! で問答無用で参加してしまう頭の空っぽさを発揮していた。それで良いのか? 良いのだ! 死んだ後でまで複雑な事を考える必要はないと彼らは良く知っている。
悩めるのは生者の特権だ。死んだ後では悩む事さえできないのだから。
「暴れたりねェかァ!!」
「おおおおお!!!」
「じゃあ今からここで暴れられる人ォ!!!」
全員一瞬で黙った。MCを任された花火師は会場を見まわし、全員が一瞬で理性を取り戻したのを見て良く訓練されてるなこいつ……と静かに感心した。それだけ死の化身、統括者の名は重く、そして慕われている。
終焉の時、最期に寄りそうのは何時だって死だけなのだから。
「よォし、全員弁えているみてェだな? それじゃあ……行くぞ! 冥府主催第1回お嫁さん検定―――!!!」
花火師のコールに合わせて再び歓声が爆発する。再び無限の夜空が見える天井へと向かって攻撃が放たれ、大量の爆発が巻き起こる。その中で花火師はステージで腕を組み、威風堂々たる姿を見せる久遠を示した。
「話は簡単だァ! この! 夜月久遠がァ! 黄泉の申し子、鴉羽尊に相応しいかどうかを深淵の大母が知りたいと申し出たァ! ならやるっきゃねェよなァ!? ちなみに俺は検定すべきなのは尊の方だと思ってる」
「でしょうね……」
「おい、狐、これはどういう催しなんだ」
運営サイドに入っているマガツキュウビがうんうんと頷いている。ディザストロは流れが良く理解できずに首を傾げてる。野生のモンスターとは基本的に敵サイドの生き物なのでは? 何故こんな舞台を設置しているのだ? どうしてこんなイベントが起きているんだ? 全く理解できんぞ! どうなってるんだ下界!!
マガツキュウビはやっぱ山奥に住んでたトカゲは話が通じなくてめんどくさいなあ、と思ってた。
「死に愛されボォーイ尊の手綱を握る恋人の久遠が本当にこの幸運野郎に相応しいかどうか……それを審査するのはこの3人!」
ででん、とスポットライトが審査員に浴びせられる。
「1人目! この根の国の統括者! 管理人! そしてェ、我らが神話の大母様! 母というポジションにおいては一切文句等ねェ! 寧ろこの馬鹿の事は適度に放っておいた方が良いですよ……と言いてェ! 深淵の大母! 伊邪那美様ァ―――!!」
「皆私の我儘で今日はごめんね。でも尊ちゃんはちょっと特別な子で特別目をかけてるの。今日は付き合ってね」
わあ、と声が上がる中会場に設置された御簾の向こう側に大母は座っていた。基本的にその姿には強い死の概念が付与されているので見た人間は死にかねないのだ。戦いに来たSランカーたちは耐えられるが、花火師たちはまだ耐えられる所まで心身が練り上げられていない。
「2人目ェ! 尊の嫁? 審査? つまり柊家の一員になるんだな? 今、この根の国で俺を置いて誰が現世側の審査員になれるッ! ナチュラルボーンリベリオン! 追うべきはその軌跡! 伝説をその足で踏破しなくては柊である意味がねェ! 柊雅人ォ―――!!」
審査員席に座っている雅人は静かに両手をテーブルに乗せて頷いた。
「俺の審査はかなり厳しい。尊の嫁という事は柊家の一員になるって事だ。たとえ本家との関係を回避しようとしても、その子供に血が流れるのは逃れられない。これからも世界を滅茶苦茶にし続ける馬鹿を支えられるかどうか、俺が見極める」
「そしてラストォ!! ダンジョンが発見されてなくて暇ァ! そろそろ人類が空に上がって来ねェか? 出番がないなら自分から降りて来るぜ! 未だに人類未踏域の1つ、ロストエデンから墜ちたヘスティアの参戦だァ!」
崩壊した楽園の女神が腕が手を振った。
「やあやあ、家庭の事に関しては私は煩いよ。後そろそろ誰か空にまで上がってこない? 領空侵犯? 国境? 気にしてる場合かい? ルシフェリアが暇そうにしてるよ? 悪さする前にそろそろ人類は空の方まで出て来る必要があるんじゃないかい? 無理そう? そっかー……」
「それじゃあこの3人が久遠の審査をするぜェ! 覚悟は良いかァ!?」
花火師の前振りに久遠は自信満々の表情で応える。
「私は既に尊のお母様から尊を託されている……この意味が解るな? 既に認められている将来の嫁なのだ。外野がどうこう言おうが結論は変わらない。私が唯一絶対にして無二だ」
「出やがった……久遠のストロングスタイルッッ! この圧倒的なまでの自信にはこれまで尊を攻略して来た実績が伴ってやがるッ! さあ、神が与えるお嫁さん検定に人の身でどれだけ抗えるのか見せて貰おうじゃねェか……可能性って奴をよォ!」
「神々の試練は基本理不尽で乗り越えられないものだろ。おい、狐、これやる意味あるのか?」
「あのですねクソトカゲ、これは茶番というものでしてね―――」
相変わらずディザストロは何1つ理解していなかったが、既に第1の試練に向けて舞台はセッティングされていた。黄泉に眠る職人たちが叩き起こされてセットアップされたのは―――そう、厨房! 根の国の! 深淵に! 厨房!!
これが配信されてなく良かったなぁ、というのはマガツキュウビの僅かな良心の呟きだった。
「さあ、第1の試練は……!?」
ドラムロール。数秒の溜めを作ってから大母が宣言する。
「当然……料理よ。お嫁さんと言ったら必須のスキルよ。味、栄養、日々の潤い……お嫁さんになったら毎日夫を支える事になるわ。そこで一番最初に出てくるのは当然、料理よね」
ぽんぽんと膝枕継続中でぐっすり眠っている尊の頭を撫でながら大母が最初の試練を言い渡す。内容はシンプルに夫婦生活を彩る料理を証明する事になる。用意されたセットに久遠が向かい、食材のチェックに入る。
「ちなみに黄泉戸喫対策にフィールドスキルを使う事で対処してるし、食材も今急いで地上から調達してきた物だから心配する必要はないぜ! それでは第1の試練、料理タイムゥ! 開始ィ―――!!」
「おい、狐」
「はいはい、説明しますから……あぁ、ネタとノリが通じない相手との会話のストレス具合がァ……!」
厨房と食材の確認を終えた久遠に迷いはなかった。一瞬で素材を選ぶと調理に入る。その動きは料理に不慣れなものではなく、普段から厨房に入り、料理に慣れ親しむ者の動きだった。その迷いのない動きにうんうん、と大母が声を漏らす。
「どうやら花嫁修業は欠かしていないみたいね。材料の目利き、包丁の握り方、下準備の入り方……全部ちゃんと出来ているわね? この出だしだけで心配の必要がなさそうなのが解るわね」
「おっと、最後まで油断しちゃ駄目だよ。世の中には何故かまともに料理しているのに錬金術を暴発させるタイプのモンスターが存在するからね」
「とはいえ、アイツ協会でバトル漬けの時間過ごす時は嫁の作った弁当を持ち込んで自慢してたからな、そこまで心配する必要はないんじゃないか? アレ日常的な光景らしいし」
特別厨房で弁当箱を用意した久遠はそこに素早く卵焼きや肉巻き野菜等弁当箱に詰められるサイズの料理を複数、彩りを意識して作って行く。慣れた手つきは淀みなく全ての工程を完了させ、尊用の弁当箱を完成させた。
「テーマは特に指定されていなかったから此方で普段、尊に作っている弁当の方を用意させて貰った! 彩り、栄養バランス、好み……そして味付けは鴉羽家のものを参考にさせて貰った! こういう時は特別な一品ではなく、普段から何を食べさせているかが重要だと思ってな」
「これは久遠選手ゥ、愛妻弁当で普段からの良妻っぷりをアピールだァ! これには大母様も思わず満足げな頷きィ! スペシャル審査員のヘスティアも家庭的な姿に肯定的だが雅人はやや不満そうだぞ……!?」
雅人は完成された弁当を見て不満げな表情を浮かべる。
「確かに普段の家庭的な部分をアピールするのは趣旨的に正しいだろう……けど、こういう場なんだからもう少し掟破りな面を見せて欲しかった。これは良妻力は感じるが柊力は低いと認めざるを得ない。尊の嫁になるならもう少し柊力を高めて欲しい」
「独自ポイントの加算が始まった! てめェそれはルール無用になり始めるから止めろ!!」
わー。きゃー。騒ぎ出し品評する観客たちを眺めながらディザストロが首を傾げる。
「おい、狐。この茶番は何時まで続くんだ……?」
ディザストロの言葉にマガツキュウビが空を見上げて嘆いた。
「私が知りたいですわ……!」