最強以外ありえない   作:てんぞー

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我が理解者

「いやあ、最高だな隠しダンジョンって!」

 

 ゆっくりと消滅して行く龍鱗の剣士、キュウビ、大蛇、雷神の野生のパーティーを前に東吾のパーティーは半壊してた。死んでいるべリアスとジャガーノートに蘇生アイテムを投げた後、ラファエラが回復して行く。死屍累々という様子で山場を越えているのにこれ以上なく東吾は楽しそうにしていた。

 

「そこら辺歩いてるだけで大会に出てるような気分になれるワンダーランドに迷い込んだような気分でテンションぶち上がるなここ。もうここに住みたい。いや、駄目だ。住んだら飽きるな。飽きない程度に殺しに来たい」

 

 喋る事は物騒だが、実際プレイヤーの大半はこんな思考してたので何も文句は言えない。俺は俺でアイテムをさっきから回収しては鞄に詰め込んでるし。さっきから置物(したい)になっているララのおかげでアイテムのドロップ率も上がっていて東吾も得をしている。

 

 皆ハッピーな結果だ。

 

「ワンダーランドに落ちた時のアリスの気持ちが良く解るよ」

 

「童話のアリスって赤の女王を見て食い殺そうと考えるタイプの娘っすか? たぶん違うと思うんすよね」

 

「何言ってるんだ。アリスだってとりあえず見かけた生物には手あたり次第襲い掛かるバーサーカーだろ」

 

「違う世界の話してるっすか?」

 

「ちなみにアリスって名前のモンスターはこの世界にも存在するよ」

 

「へぇ」

 

「そうなんすか?」

 

 うん、と罠に向かってララを投げ込みながら解除しつつ道を進む。この世界で発見済みかどうかはちょっと解らないが、アリスは少し特殊なモンスターで面白い固有スキルを習得する。自分が場に出ている時、敵全体のスキルを2個封印するというクソみたいなスキルを習得する。

 

 ちなみに当然、大事件を起こした結果ナーフされる。

 

 最大最悪のアリス染めアリスロック事件である。

 

 アリス染めを決行したロリコンがあれ……? もしかして封印される枠は重複しない……? とかいう頭のおかしい仕様を発見した結果、アリスを4体並べる事で相手のパーティーのスキルを全て封じるというこれまた修正必須案件に発展した。

 

 この結果生まれたのがアリス染めロックというもう二度と見たくなくなる地獄。

 

 皆アリス染めにする。アリス染め意識調整アリスとか染め対抗意識対抗調整とかいう頭のおかしいビルドが生まれた。

 

 アリスの調整でメタ回せる? で、できらぁ!! とかいう変な意識を芽生えさせたプレイヤーたちは積極的に全スキル封印でゴリラ化したアリスで殴り合うというこの上ない地獄絵図を楽しんだ。

 

 この期間、僅か3日である。この後様々な仕様変更によりロリコン祭りは終わりを告げた。それなりに楽しんだ奴らでさえもう二度とアリスという名前を見たくないと言い出す酷い祭りだった。当然、俺も二度と見たくない。見かけた瞬間発狂する自信がある。

 

「これが6世代のモンスターとかだったらスカウトする意味もあるんだがな……現状倒すしか選択肢がないのが惜しいな」

 

「世の中には倒したモンスターのスキルを抽出してカードに封印する能力を持った人がいるらしいよ」

 

「どこでそんな話聞いたんだ? ……実際にいたとしたらなんともまあ、夢のあるもんだ」

 

 原作の話である。DLCで追加される同行NPCで、戦闘後に倒したモンスターから確率でスキルを抽出してくれる。アンブロシアもそうだが、数を絞って手に入れづらくするとプレイヤーが対戦に入る事が出来なくなるからその救済で色々と緩和されている。

 

 あの環境があれば楽なのになあ。

 

 そう思いながら時折モンスターと戦闘を交わしながら道を進む。

 

 それなりに広さのあるマップで、配置されているアイテムも多い。全てを回収するつもりはないが、それでも貴重品は回収しておきたい。特にランクの高いスキルカードと、アンブロシアの様に金で入手する事がほぼ不可能なアイテム。こればかりはDLCエリアの特権として回収しておく。

 

 モンスターを倒し、その能力を把握する度に少しずつスキルカードを使って構成を東吾は入れ替えている。その度にヤバイ額の金が動いているのを本人は気にしていない。それどころかそうやって対策しながら少しずつ戦闘して進めて行くのが楽しそうでしょうがなかった。

 

「従来のパーティー構築論では1種類にパーティーの方向性を固めたら、その1点突破で相手を殺しに行くのが効率的で強いって思われていた……が、このダンジョンに出て来るモンスターは相互に関係しあいながらも複数のキルルートを構築してる。面白いな」

 

 パーティーのコンセプト染めは大事だ。シナジーを組める方が効率的に勝利できるのは確かだ。

 

「ルートを絞った方が通しやすいのは確かだけど、複数のコンボパーツで組んでる方が止めづらい」

 

「そうだな、そうなんだよな。単発ルートの火力は下がる代わりに相互にルートを構築できるから止めづらくなるんだよな。逆に言えばこれが殺せるだけのコンボだったら態々1種類に染めずに複数のコンボから殺せるように調整する方が効率は良いのか……」

 

「そこはもう好みの範囲じゃないかな。俺もどっちかというと1本にルート絞らない方が好きかな」

 

「それはそれは……将来、どういう構築になるのか楽しみだな」

 

 将来殺し合おうな! の表情が滅茶苦茶怖い。まあ最後に勝つのは俺だけど。

 

 そんな話をしながら進めばやがて、湖へと到着する。その湖には小島が存在し、その中心には巨大な桜の木が立っている。そここそが目的地だ。

 

 湖のほとりに辿り着いて小島までの距離を測る。元々は周りのモンスターをハッキングして渡るつもりだったのだが、今更ながら甘い計画だったなあ、というのを思い知らされる。たぶん当初の予定通りソロだったら何度か死んでる所だ。

 

「あそこが目的地か?」

 

「うん、あそこの根元に欲しいものがある」

 

「周りに敵の気配はないか……良し、運んでやれジャガーノート」

 

 主の言葉に応えるように凶獣が吠える。敵を砕く為に握られている拳を解くと掌を此方へと見せて来る。それに乗れ、という事なのだろう。ジャガーノートの掌に乗ると両足に力を籠め、一気に跳躍する。

 

 一瞬の出来事だった。

 

 跳躍した瞬間にはもう小島に到着していた。此方に被害が及ばないように下ろしてくれる凶獣はその名に反するように優しく、紳士的な獣だった。降りながら振り返り、ありがとうと告げると数歩下がって待っていてくれる。

 

 それを確認してから視線を正面に、桜の方へと向ける。

 

 巨大な桜は薄く光を纏い、この世のものとは思えない幻想的な景色を産み出している。湖に浮かぶ花びらは、この桜から散ったものだ。それがゆらゆらと揺れて、沈んで、湖底を薄く照らしている。お蔭で底の底まで何も生物がいない事を目視できる。

 

 湖の主とも呼べる桜の木、その根元に人の姿はなく、透明な誰かの影が投影されているのが見える。

 

 その影に、自分の影が重なるように立つ。

 

 じじじ、と視界が、景色が掠れる。自分の姿が一瞬自分以外の誰かのものにおきかわるのが見える。

 

「あなたは、生まれた時のことを覚えていますか?」

 

 優しく、穏やかな声がする。

 

「生は長く、苦しいもの。その一生は短く、何時か死というもので必ず終幕を迎えます。生とは呪いであり、死とは祝福……されどあらゆる命は死ではなく生を尊びます。何故でしょうか?」

 

 美しい声が語り掛けて来る。心に沁み込むような声だ。まるで一生を常に過ごしてくれている愛しき隣人の様に、寄り添う声だ。

 

「それは……命には限りがあるから。限りあるからこそ美しく、尊いんじゃないか?」

 

「果たして本当にそうでしょうか? 命は限りあるから尊いのですか? では……生という呪いから逃れ、永遠を生きる命にはもう魅力が、輝きがないのですか? 不老長命は存在するだけの石くれなのでしょうか? 死後彷徨うものは永遠という牢獄で腐るだけですか?」

 

 問いかける声に答える。

 

「その答えは他人が与えるものじゃなくて、己で定める事だ。価値は己のうちに見出すものだ」

 

「ならば他者からの評価に価値はない、と」

 

「だからこそ意味ある生を送ろうとして、皆輝こうと生を全うするんだろう」

 

「成程」

 

 じ、じ、じ、と視界が掠れる。重なっていた影が消えて、己の影だけが残される。

 

「あなたは既に答えにたどり着いているようですね。もし、その生に飽いた時はお呼びください、愛しき半身よ。あなたの永遠の隣人()として次の旅路へと同行致しましょう―――」

 

 気配は常にそこにある。だがそれが語り掛けて来ることはもうない。何故ならそれは常にそこにあって、見えないが一生を常に見守ってくれる唯一無二の友人だからだ。言葉は不要、理解も不要。ただあるだけ。一生を見守ってくれている。

 

「俺達の相性は悪くない。今度からはバトルの方で助けてくれ、我が理解者よ」

 

 何時の間にか根本には1匹の蝶が止まっていた。生物ではない、光で編まれたような蝶を。だがこれまでフィールドで舞っているものとは違い、これは触れる事が出来るアイテムだ。手を前に差し出せば蝶が指先に乗り、アイテムとしての入手が完了する。

 

「死神の解禁素材、ゲットだぜ」

 

 ゲームだともう少し面倒なイベントだったが、相性が良すぎたのかかなりすんなりと獲得できた。俺1人で独占するのも悪いし、東吾用にもう1匹だけ確保しておく。手に入れた蝶を事前に用意していたガラス瓶の中に入れる。

 

 これでこのDLCエリア最大の目的は達成できた。

 

 欲しいアイテムも大体は回収できたし、東吾も連戦は喜んでいるが戦えば戦うほど疲労するのはゲームと違ったリアルでの仕様だ。

 

 つまり、そろそろ帰る時間だ。

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