第1の試練を軽々と乗り越え、更に第2の試練家事能力のチェックが行われる。
とはいえ、日常的に鴉羽家に入り浸り普段から鴉羽マミーから尊の、つまりは息子の面倒の見方を教わっている久遠からすれば、嫁検定の試練等何するものぞ。
家事能力、教養、美容、そして服装のセンス。全てにおいて久遠は突出した才能と素質を見せていた。さしもの花火師も久遠のパーフェクトっぷりには驚かされるものがあった。物凄い真面目な顔で未だに膝枕されて死んだような眠りについている尊を見て、やはり勿体なさすぎるなんていうコメントを零す。
「やはり優秀ねぇ。何をやってもお嫁さんとして欲しい能力を備えているわ」
「そうだね。嫁入りした後で欲しい能力を全て兼ね備えているパーフェクトブライドの可能性を感じるよ。これなら良い家庭を築けるに違いないね」
大母とヘスティアが満足な顔をしている中、1人だけ神々よりも難しい評価を出している男がいた―――そう、柊雅人である。ここまで来ると逆に神々の方がアイツナニモンだ? みたいな視線や慄く気配を見せる様になる。
ここまで完璧に試練を越えてきた久遠を前に、この男は一切の不満を隠さない。
ナニモンのつもりだコイツ? 花火師は内心大爆笑してた。
「ふむ、どうやら貴様だけは満足していないようだな、マサト」
「あぁ、勿論……今まで見て来たお嫁さん力は高いものがあった。結婚したら間違いなく幸せな家庭を築けるだろうな……」
「なら文句はないんじゃないかしら?」
大母の言葉にすかさず切り返した。
「甘い……甘すぎますッッ! その発想は甘すぎるッッ! パフェキャン握ってるのが見えているのに打ち消されない事前提でリーサルを組んでいる時の甘さぐらい甘いですッッ!」
「相当な駄々甘さだわ……」
「自殺志願レベルの甘さじゃないか!」
ビシリ、と雅人は久遠を指差す。
「ぶっちゃけた話、今の試練からはあまり柊力を感じなかった」
「独自ゲージの導入はおやめくださいつってんだろ」
まあまあまあ、と雅人が待てと手を出した。
「良いか、今、この地球で最もハチャメチャで滅茶苦茶なアホ人間は誰だ?」
大母もヘスティアも久遠も観客も花火師もマガツキュウビもディザストロも全員尊を見た。このことに関しては議論する必要すらなかった。人間じゃなくて神にカテゴリーを変えればたぶん全員滅亡神を探しただろうが人間だったら今、目の前に純度100%のアホがいた。
「そうだ。コイツはアホだ。学習しないアホだ。学習しているのに適応できない問題を抱えたキング・オブ・アホだ。だがコイツの歩みは全てを破壊しながら突き進み自分だけの道を進んでいる。羨ましくなるぐらいに自由だ」
名誉に、地位に、名声に、血筋に。
その全てに知ったもんか! で常に歩んでいる。その誰よりも自由で、自分の進んでいる道こそが新しい伝説になる。それこそまさしく鴉羽尊だ。最も柊の血が濃い人間。柊本家から離れて開花した最も柊らしい血族。本人は嫌がるだろうが、雅人だけではなく多くの本家の人間は認めるしかない。
「コイツはこれからも世界に我が道を示し続けるだろう。そして世界がこいつを追いかける。その片鱗は既に見せてる。コイツの嫁に必要なものは決して通常の家庭的なお嫁さんとしての能力ではない! いや、そりゃああった方が生活は充実するし大事だとは思うけどそれが主題という訳ではないんです」
「急に日和るな」
こほんこほん。
良いか?
「本当に好きなら悪癖や短所を克服する努力ぐらいはするだろう。夜月お前、前から料理とか出来たのか?」
「……いや、正直そこまで興味はなかったな。自分で色々とやる様になったのは尊と会ってからだな」
そうか、と雅人は頷いて話を続ける。
「お前みたいに本気の恋をしてる奴はそうやって今出来ない事を克服するし、自分を磨く事だって忘れない。別に女に限った話じゃなくて男だってそうだ。俺達の尊だってお前の目から見ればだいぶ変わろうとして変わって来たんじゃないか?」
「ん」
短い言葉だが、その短さの中に久遠の感情が色々と詰まっていた。雅人は男なのでそれ以上追及する様な事はしない。しないようにメイドの方から教育されていた。グッジョブ坊ちゃまと後ろからサムズアップが飛んできている。
「確かにこの手の能力はあれば良い! だが本質的には結婚した後でもどうとでもなる! 本当に求められているのは覚悟だ!」
「成程」
「あの人間面白い事を言うな」
「確かに間違ってはいない」
「覚悟か……」
雅人の言葉に周囲がざわめく。面白くなってきた。そう思った花火師は握っていたマイクを雅人へと投げると、雅人はそれをキャッチし、マイクに向かって、誰にでも聞こえる様に声を上げる。
「アイツはこれからも滅茶苦茶やるぞ。だがそれでは終わらない。嫉妬する奴は出て来る。後を追う奴が出て来る。真似する奴が出て来る。アイツみたいになりたいって言う奴は既に居る。耐えられないから害そうって考えの奴も当然出て来る!」
雅人の言葉に感慨深げにSランカーが頷いた。
「俺もSに上がった時は大変だったな。つきあいのない親戚が急にすり寄ったり、知らない兄弟が生えてきたり、金の無心に来る奴が急に増えたり」
「あるある。本人は無理でも家族の方は……って考える奴結構多いよな」
有名になるという事は何もプラスの出来事ばかりではない。これからの時代、波乱の中心を駆け抜ける鴉羽尊という男は待望も嫉妬も背負い続ける。決して平坦な道にはならない。そもそも自分の命を軽んじている。
「目に見えない所で死にかける事だってありまくる! 強くて、金があればそれだけ寄って来る女も増えて来る! 美少女モンスターなんて基本人間の上位互換で、お前よりも優秀で見た目の良い奴が出て来ない保証なんてまるでない!」
故に、必要なのはお嫁さんスキルではない。それは一般家庭に求めるものだ。
鴉羽尊の嫁に求める能力は1つ―――覚悟。
「このクソボケバカボケカスと何があろうとも添い遂げる覚悟のみ……!」
揺るがず、折れず、曲がらず、己の道を貫き通す信念と覚悟。それこそが柊力。型にハマったスタイル等笑止千万、そのようなものでは一生柊剛三の背中を追い続ける人生でしかない。あの偉大な背中を、伝説を超えるには挑み続ける精神が必要だ。
柊雅人は柊力をそう解釈していた。
なお柊力なるエネルギーは現在一度も観測された事はなく、柊剛三本人でさえなに言ってるんだコイツ……? という困惑の表情を浮かべる胡乱エネルギーである。だからコイツつるんでて面白いんだよね、とは花火師談。
「コイツはこれからもこういうダンジョンに乗り込んて行くぞ! 最悪1年とか姿を消したままだ。時差の関係でどんどん年齢は離れるぞ、耐えられるのか?」
「竜の谷の事だな? あの時、奴が時差を受けていた時、私も図書館で同じだけの時差を受けるように調節してた。同じ時を生きたいからな。なんならどこへでも一緒に行く覚悟程度はある」
問2。
「これからコイツの周りには多くの敵が出来るぞ。モンスターだけじゃない。人間もだ。嫉妬や負けた恨み、そういう矛先は本人じゃなくて家族の方が向けやすいからな。お前も当然報復対象になるぞ」
「私は元々Aランカーの娘だ。そういう視線には慣れている。今更な話だし、その程度の覚悟もなく添い遂げようとはしない」
問3。
「強くなればなるほどより多くの人が惹きつけられるだろう。その中には当然お前よりも優秀な人間が混じってるかもしれない。もっと献身的で狂気的に崇拝する奴が出てくるかもしれない……どうする!」
答えは簡単だ、久遠は答える。
「やれるものならやってみるが良い」
自信満々に久遠が言い放つ。
「この夜月久遠、人生で一度も恥じる様な事はしたことがない! 天地に誓い、常に堂々とあった! 私にはこの男の心を独占している自信がある! 他の女? 献身? 良いだろう、やってみるが良い!」
だが。
「心の中心を占めるのは常にこの夜月久遠! モンスター、上位互換何するものぞ! どれだけ擦り寄ろうともあの心を奪ったのは私であるという事実は永劫に変わらない!」
ふんっ! と胸を張る。
「欲しいか? 欲しいのなら奪ってみせろ! だがこの男が拠り所とするのはそこらのぽっと出の量産型ヒロインではない! この私だ!」
拳を掲げると共に観客達のテンションが最高潮まで上がる。ここに来て見ているモンスター、神々は皆この癖が強く、それでいて愛の深い少女の味方となっていた。
「愛すのも、愛されるのもこの私だ! 尊の心を占領するは私1人! 勝てると思うものはかかってくるが良い!」
「見事……お前も柊だ……」
完全に久遠を認めたように頷いた雅人がゆっくりと拍手を送る。それに合わせて歓声が溢れ、花火師は腹を抱えて爆笑しながら転んでいる。その騒音の中、漸く尊の目が覚め、見下ろす大母と視線を交わした。
「くーおーん! くーおーん! くーおーん!」
「それでこそ女傑よ!!」
「愛深き女よ! お前は美しい!」
「良い覚悟だ! 嫁に来ないか? うおっ、何をするやめ」
数名への殺害が開始される中、聞こえてくる久遠コールと熱狂の混沌。目覚めた尊は周りを確認してから目をもう一回閉じる。
「終わったら起こしてください」