【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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よう、坊主。総理だぜ

 ぷるるる。

 

 ぷるるる。

 

 スマホの着信音に一瞬で目が覚める。

 

 悲しいかなぁ、学生としてよりはマスターとしての……社会人としての側面が、着信音が鳴ったら即座に反応するように出来てしまった。横を見るとチビと灯が並んで眠っている。Cの間は家の中に入れなかった反動か、この中身子犬はこうやって灯を引っ張ってきて3人で眠ろうとする。

 

 まあ、俺も灯も別にそれは構わないのだが。一緒に寝てぎゃーぎゃー騒ぐような精神性じゃないし。チビが幸せそうならそれで別に良いかなぁ……で同じベッドで眠れてしまう。それが鴉羽兄妹。

 

 さて、そろそろ起きる前にスマホを手に取らないとならない。溜息を零しつつスマホを手に、ガタガタと揺れる窓を見る。

 

「はい、もしもしみこっちゃんです」

 

 凄まじい風と雨が窓を打ち付けている。こりゃあ予報になかった嵐だな。嵐の時はレアダンジョンが出現するから今日はダンジョン探索でも……と思っていた所で、打ち付ける嵐に違和感を覚え、ベッドを抜け出す。

 

『よう、坊主。総理(おれ)だぜ』

 

「あ、おはようございます総理……総理?」

 

『おう、どうやらちょっと寝ぼけてるみてぇだな。今、寝起きか?』

 

「そうです……ね……なんだ、この嵐は……いや、こいつは……」

 

『お、気づいたか』

 

 嵐かこれは? いや……違う。凄い感情を感じる。怒り、苦しみ、嘆き、絶望……行き場のない感情が嵐となって物理的に荒れ狂っている。そう、これは嵐ではなく感情だ。単純に強すぎる感情が嵐に変わって吹き荒れているのだ。その根幹にあるのは喪失に対する嘆き。そして後悔。更には狂気か。この舌に乗る感情の味が誰のかは解るぞ。

 

「大将っっ!!」

 

 廊下の方からびしょ濡れのノトスの姿が現れた。待って、と片手で制す。それで我に返ったノトスが自分の姿を確認し、少しだけ恥ずかしそうにすると雑巾とタオルの調達へと向かった。

 

「これ、何時から始まりました?」

 

『今から約20分前の出来事だ。そして今も進行中だ。勢力を凄い勢いで広げて、1時間で地球全土を覆う予測だ……これ以上説明する必要はあるかい?』

 

「いや、大丈夫です。十中八九ノアでしょう。星を嵐で包むなんて事が出来るのは海王だけですから」

 

 こりゃあ海王の感情だな。誰かがちょっかいかけて逃げたって感じかな? 星を嵐で覆って下手人を探している。まあ、こんな事をするぐらいだから多分異次元辺りに逃げてるか……成層圏の外に逃げて探知範囲外に居るだろう。

 

『椿くんの報告どおりかあ』

 

 時期的に新年度目前の春休みだし、タイミング的には悪くないか? いや、悪いよ。今の人類でこいつに対応できるかちょっと怪しいぞ。ちょっとというかかなり怪しいぞ? 出来る事全部尽くした上で運ゲーみたいな感じがひしひしとするな。

 

 胃がキリキリしてきた。ごめん、全然覚悟できてない。酒クズ、こんな早いタイミングで来るなんて聞いてねぇぞ。

 

『さて、寝起きというのなら少し時間がいるだろう。改めてこっちからオンライン会議に誘うからそれまでに髪型キめて来いよ? じゃあな』

 

 颯爽とした総理との通話が終わり、この世の終わりみたいな世界の様子に頭を抱える。ノアとロストエデン対策は色々と考えていたが、まさか本当に実行する日が来るとは思いもしなかった。

 

「ん……お兄ちゃん……? ……ん? なにこの感情……」

 

「うぅぅ……わぁん……」

 

「眠いならまだ寝てて良いぞ。ほれほれ」

 

 灯とチビの頭を撫でて布団をかけ直す。ぽんぽんと少し撫でていると直ぐに眠気が勝って眠りに落ちる。それを見届けてからさて、と声を出す。

 

 ちょっと覚悟と気合入れなきゃ駄目だね、コレ。

 

 とりあえず歯磨いて顔洗ってシャワー浴びてトイレ入って―――あぁ、もう!

 

 忙しい1日になりそうだ!

 

 

 

『おう、待ってたぜ坊主……ところでそれはなんだ?』

 

「朝ごはん」

 

 ゆっくり食べてる余裕が欠片もなかったので、総理から送られてきたオンライン会議用のURLを踏みつつカメラを机に置いて、その前に更に朝ごはんを並べる。ウチの母親はこういう所、ちゃんと栄養考えて作るタイプの人なのでシリアルみたいな甘えはひたすらに許さないんだよね。

 

 なので朝からご機嫌な朝食セットが並んでいるし、それを総理の前で食っている。

 

「体が資本なのでごめんなさいね……」

 

『いや、気にしねぇよ。食いながらで良いから話す準備はしておけよ―――うっし、そろそろ時間だな』

 

 てん。

 

 ててん。

 

 ててててててててん!

 

 入室音が響きまくる。オンラインの会議会場に次々と新しい人が入って来る。中には大統領とか首相みたいな文字が見えるし、それ以外で入って来る人間は大半がSランクマスターだったり学会の権威だったりする。有名人がいっぱいだあ。

 

 味噌汁ずずずず。美味しい。あ、東吾や国木田仮面もいるじゃん。アレは……協会の偉い人か。後は国連の偉い人? うわぁ、マジで世界の偉い人ばかりが集まってる。流石に場違いじゃない俺? こんな一般人がいる様な場所じゃないと思うんですけど?

 

『逃げるなよ坊主』

 

「うす」

 

 逃げ道塞がれた。しゃーない、腹括るか。

 

『皆さま、今回は参加してくださいありがとうございます。今回進行を任された―――』

 

 偉い人ってどうしてめんどくさい喋り方するんだろうね。無駄な装飾を言葉から省いて欲しい。がつがつ朝食を口の中で流し込んで最後は米と味噌汁を口の中でフュージョン! これこそ日本伝統にして最強の朝ごはん! おじや! うますぎる!

 

『よって、凡そ1か月で地球は海に沈みます。我々はこれが現実になる前に打開策を出さなくてはなりません』

 

 1ヶ月も無いで。

 

「1週間」

 

 学者の見解に口を挟む。

 

『はい?』

 

「1週間で地球は沈むよ」

 

『その根拠を伺っても宜しいでしょうか?』

 

 根拠って言われると弱いなぁ。これ、経験とゲーム時代と俺の大体の予測が絡み合った結論だから説明し辛いんだよね。どう言おうかなぁ、と悩ませていると相手が話を切ってしまう。

 

『データの出てない話はこの場では止めていただきたい。ここはふざける場所ではなく、人類の滅亡と向き合う最前線です』

 

「別にふざけてないんだけどなぁ」

 

 館長の名前を使うかぁ? と思っていると援護射撃が飛んできた。

 

『MR.カラスバ、話を続けてくれ。君は数年前にイギリスを未曾有の危機から救ってくれた。君の話は聞く価値があると思う。話を続けてくれないか』

 

 そう言って三輪車首相がウィンクしてくれた。

 

 三輪車のおっちゃん……! 久しぶりだけど辞表を画面内に飾ってるのはどうかと思うよ!

 

『あー、ウチの国のマスターの鴉羽尊は確かにまだBランクで若いが、この分野においては誰よりも理解のあるプロフェッショナルだ。話を聞く意味も価値もある。こいつに少し話させて欲しい』

 

『俺もミコトの話を聞くべきだと思う。そもそも今、世界の裏側の事情と異世界の事情に1番詳しいのはコイツだ。除け者にする意味が解らん』

 

 総理とブライアンからも援護射撃を貰って、全員の視線が此方に集中した。チビが何やってるのー? と、尻尾をゆらゆらさせながらやって来た。

 

 勝手にベッドから出ないでよー、と不満そうな顔をしてる。危機感がなくて可愛いね。

 

「じゃあ、ブライアンや総理に紹介いただいた鴉羽尊です。根の国、図書館、暗黒樹海、ドラゴンズバレーの発見者と言った方が早いし、OCや合体魔法を世界に適応させた奴って言ったほうが解りやすいかな?」

 

 自己紹介するとマスターの1人がこっちを指さしてくる。

 

『お前のせいで構築が完全再育成行きだよ!!』

 

『しばらく何もできずボコられたぞ!!』

 

「ごめんて」

 

『いいよ許す』

 

『前よりも楽しくなったしな』

 

 ノリ軽っ。

 

 じゃあ話を戻すね? えーと……あぉ、あった、事前に作成しておいた海王のデータ。それを会議に参加している全員に共有、っと。

 

「尊ー! 食べ終わったら食器をさげなさーい!」

 

「今それどころじゃないー!」

 

 まあ、皆海王のデータ確認してるし、確認している間に食器を流しに置いてくるか。ささっと食器を流しに突っ込んで戻ってくると皆これ何……? って顔をしてる。

 

 まあ、解るよ。

 

 《神域》。他者からのフィールド破壊効果を受け付けない。

 

 《王鱗》。クリ率100%耐性。クリ威力100%耐性。弱点変更耐性。連撃耐性。

 

 《海王権限》。水場にいる限り毎ターン最大まで回復。水に属する存在からのダメージ無効。

 

 《究極生命》。打ち消し、デバフ、バステをターン終了時に回復。ターン中最初に受けたものに耐性を獲得し3ターン継続する。

 

 《星の守護者》。ノア及び星の脅威特攻を獲得する。

 

 《こうずい》。星の水位が上昇する。戦闘中常に発動。

 

 《ひょうが》。星を氷河期に変える攻撃。

 

 《アクエリアスエイジ》。星を海に沈める。文明特攻。

 

 一部だけでこんなもんだからな。そりゃあ、え!? ってなるに決まってる。まともに戦うような相手じゃないよ。

 

『この文明特攻とは』

 

「撃たれたら終わりだと思っていいよ」

 

『あの、この《王鱗》』

 

「インチキだよね。解る。でも竜王にも標準搭載されてるんだ」

 

 邪神はこのインチキ耐性持ってないからまだマシって言葉が出てくるのはまあ、なんらかのバグだと思う。今思うとパペッターくんはだいぶ優しかったね……。

 

 いや、嘘だ。データ抜きで初見討伐目指したら間違いなく死ぬわ。優しさなんて欠片もねぇよ。

 

 まあね。データ見てウキウキ絶望してる皆さんに朗報です。

 

「この状況を解決するには海王を突破し、その足元深く、深海に眠る隠し(DLC)ダンジョン……方舟都市ノアを攻略する必要があります」

 

 拳を作ってなるべく明るい表情で掲げる。

 

「人類の総力でなんとか未来を勝ち取ろう!」

 

 画面の向こう側から一斉に怒声と罵声が爆発した。責任とか誰がとか紛糾する声が聞こえてくる。

 

 いやぁ……人類詰んでね?

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