「ここがカラスバファームか!?」
「わくわくダンジョンワンダーランドかよぉ……!」
「テンション上がっちゃうなぁ」
集合を命じられた各国のマスターが現着する。飛行モンスターで飛んで来るものや、時間がかかるものは図書館を通して回収。各国からトップを名乗るに相応しい猛者たちが集まって来る。前、女帝が人の庭に勝手に建てたゲストハウスがあるのでそっちを利用して貰ったり、図書館内にスペースを用意して利用して貰っている。
今も公道の方から数人のマスターがやってきた。
放し飼いにされている野生のサメが道路を突き破って出現し、マスターの1人を飲み込んだ。
だがその直後には両手足で口を足開き、サメの口を広げながら笑っている。
「こんなウェルカムサプライズまで用意してるなんて……素晴らしい環境だ」
「ああ! 死生観が狂って感覚が研ぎ澄まされそうだ!」
「ここに住みてぇなぁ」
地球全土を覆う嵐は一時的に展開されたバリアや結界の類で遮断されている。少なくともそういう強大な力を行使できる国は首都圏などの安全を確保した。しかし、世界全てがそうではなく、時間が進むにつれて嵐が激しくなるのが観測されていた。
ここ、鴉羽ファームも強力な結界を展開する事で海王の嵐を退け、その上から翻訳魔法を展開する事で多国籍のマスター達に対応するように準備を整えていた。やる事見る姿トンチキな魔法少女だが、あれでミレーナはガチ有能な魔女なのだ。
お蔭で集まったマスター達は笑いながら到着次第ダンジョンに突撃して地上から消えようとしていた。
それを必死に政府の人たちが止めてた。
「駄目です」
「ちょっとだけ! ちょっとだけ利用させて欲しい! ほんの数か月消えるだけだから! な!」
「数か月消えたら帰って来る頃には地球が消えてるからダメです!!」
「皆さん此方の指示に従ってくださーい! 迷わずドラゴンズバレーに飛ぶのはおやめください! エンドコンテンツの時間じゃありませんよー! 戻って来いつってんだろクソ共が! おい! スタン弾の使用許可下りたぞ!!」
マシンガンによるスタン弾乱射とそれを反射神経で回避するマスター達の醜い争いが始まった。これで本当に人類救えるのかなぁ? 俺ちょっと不安になって来ちゃったよ。でもさっきみたいに責任を求める姿とか一切ないし、これが皆の本音なんだろうなぁ、という感じはする。
ちょっと感心した。人類まだやれるかも。このバイタリティは生きる力だ。
なので俺も仕事をする。
「はーい、50番台から80番台のデータ共有終わったぞー! 対象のマスターはデータ送ったから確認してくれー!」
対象のマスター達がタブレットやスマホで更新されたデータを確認し、交換に上がったスキル候補やその習得地を確認する。大半のスキルは根の国、図書館、樹海、バレーが揃ってればどれかで覚えられるし、汎用スキルで補強したい場合は過労死中のスキル合成屋がここにはある。
その全てを利用してスキル面でのアップデートを行う。
OC対応編成と未対応編成では出力する火力に天と地程の差がある。そして上限解放スキルと詰みを組み合わせた合体魔法コンボはボス戦における超火力フィニッシュムーヴの1つだ。
世界的にこの動きに対応してる所は実は多くなく、そのほとんどはDLCダンジョンが存在する国によって独占されている。俺が普段から接している連中は上澄みの中の上澄みで、Sランクの中でOCや合体魔法に完全に適応できてない所も存在する。
それを今、スキル面できっちり最前線環境にまで整える。
把握していないスキルだって多い筈だ。それを公開し、モンスターに合わせて調整する。合体してレベリングするだけの時間はないが……たとえば威力80がデフォルトだった時代に威力100の3回攻撃がデフォルトになるインフレ後の時代にまでアップデートを行えばだいぶ出力される火力は変わって来る。
モンスター自体をどうこうする時間はなくても、スキル面を入れ替えるだけで変わって来るのならやるしかない。クリバフを撒ける様になるか自前で備えるだけで火力は上がるし。《王鱗》の影響でクリ300%確保しないとOCは発生しなくなっている。
これを旧態のままモンスターを運用すれば話にならないのは見えて来る。
100の力に対してどれだけプレイヤースキルを駆使しても10の力で勝つことは出来ない。
だから底上げを行う必要がある。
そのせいでテンションが上がりまくって踊り出しそうな勢いの変人集団になってしまったが。本当にこれから世界を救う為に戦うって事を理解してるんかこの人ら? 政府の人たちもお疲れ様、って感じだ。特に各国上層部は今滅茶苦茶頭が痛いだろう。
人類団結させて戦う事なんて恐らく想定していなかっただろうし。
まだまだマスターは増えている。数百を超えて増え続ける。それに対応する時間はあまりない。俺も必死にタブレットで他のマスターの編成を確認し、更新箇所をチェックしてからデータを持ち主に送る。こうやって他人のデータを確認できるのは非常事態だから……なのだが……。
こう……言葉を濁しますとね。
今まで良くこんなので戦えたな……? って言葉が出て来る。想像以上にデータ的な弱さが酷かった。まあ、それでもSランクになると核兵器投げ合うみたいなゲームになって来るから戦力としては十分だっただろう。
でも核兵器じゃ宇宙戦艦には勝てないんだよなぁ。
最終フェイズで《天空海》が展開されると文字通り空を泳ぐし。あれで宇宙空間航行可能らしいからやっぱ創造神の頭の中おかしいよ。一体どういう意図で生物デザインしてるんだ?
「ふぅ……とりあえず100番台までは強化プラン提出完了っと。まだあと200人分あるか」
あ、消化率が加速した。従僕で手の空いている奴がこっちのヘルプに入ったっぽい。やっぱこういう時の館長って死ぬほど頼りになるな。これからも世界がピンチの時は存分に頼らせて貰います!
しかし《王鱗》《こうずい》どうするかなぁ。《王鱗》はまだ良いけど《こうずい》とか《アクエリアスエイジ》がほんとダメ。《ひょうが》は農作物全滅しそうなぐらいだけど他が文明にダメージデカすぎる。あ、今農作物ってダンジョン内で育ててるの? じゃあ《ひょうが》はいっか。
なんも良くないけど。
「あー、館長に内緒で育ててた奴を使うしかないかぁ。やだなぁ、サプライズにしたかったのに……」
こっそりボスモンスター育てるの楽しいんだけどなぁ。人類にぶつけて人類を育てる俺の計画が明るみになってしまう。その点で見るとマガちゃんはだいぶいい仕事してくれるよね。誰も俺が育ててるとは気づいていないし。もし気づいてるなら皆黙ってくださいね。物理的に黙らせたくないんで……。
「あー……俺が足りない。もう1人ぐらい……いや、それは良くないな」
俺を増やすって事実上灯が参戦する事になるし。灯だけは戦わせたくはないんだよなぁ。アイツは生まれてから死ぬまで、ずっと普通の少女でいるべきだし。
大変だなぁ。本当に。
家の前のベンチに座りながらタブレットを操作している足元には今日はお客さんたくさんだね、と辺りを見ているチビがいる。それを時折撫でつつ作業しているとよ、と声を零して横にノトスが座って来る。まあ、ここまで来ると言葉にしなくても解る。
「別に急かしたりはしないよー」
「いやいや、こんな状況になったんだからおぢさんもそろそろダンマリってのは良くないでしょ?」
ノトスの言葉に白紙の物語が出現する。再び過去の光景を再生しようとし、ノトスが片手を上げて止める。
「あ、そんな長い内容じゃないからそれは良いんで」
「あ、消えちゃった」
白紙の物語が寂しそうにすぅぅ……と消えてしまった。過去キャンって可能だったんだ……。微妙に人格っぽいもん見せてる白紙の物語にコイツほんとなんなんだろうなぁ、と思いながら視線はタブレットから外せない。
「あぁ、そのままで良いよ大将ちゃん。今、滅茶苦茶忙しいし、おぢさんの為にそんな時間を取らせるのも申し訳ないからね」
「というか忙しくて軽く流されそうなタイミングで来たでしょ」
「心を読むのは良くないぞ……って程でもないか。大将ちゃんはおぢさん達の事良く見てるからなぁ」
「ノトスは割と解りやすい方だよ」
「マジでぇ?」
本人の名誉の為にあまり言いたくはないけど……君達の血統は全員似たような所があるよ。そういう所、一貫して共通してるよ。
「驚くほど放置されてるから興味ないのかと思っちゃった」
「そもそも俺も自分の心の事に関しては全然ダメなタイプだからね。覚悟を決める、向き合う、話す、変えようとする……それがどれだけ苦しく、難しい事かは解ってるよ。下手に一緒にいるとか、一緒に向き合おう! とか……そういう言葉はたいして心に響くものじゃないって事は俺がよーく解ってるからね」
結局の所。
「心の特効薬は信頼と時間だよ」
「心の特効薬か。ははぁん、大将ちゃん良い事言うね」
これが前世含めた長い時間で見極めた―――と言いたい所だが、恐らくそういう時間含めてもノトスやドラゴンズの方が長く生きてるだろうから普通に若輩者なんだよね、俺。戦闘力だけじゃなく年齢もインフレしてるな。
「だからこの件に関しては聞かない、責めないで待つ事にしてるんだよね。一緒に暮らして、遊んで、ふざけて……それで何時か喋る気になったら喋れば良い。まあ、その前にこんな状況になっちゃったけど」
「ま、おぢさんの話をするには丁度良いタイミングだったかもしれないね。じゃなきゃ何時までもずるずるとその好意に甘えていると思うし」
さてさぁて、とノトスが呟く。
「どこから話したもんかなぁ―――」
世界に終末が訪れる最中、ノトスの心は静かに荒れ、その平穏を求める様に過去へ。
かつて、彼が過ごした情景へと戻っていった。思い出すように、噛み締めるように。
彼がかつて、何を失ったのかを見つめ直す為に。