【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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ねえ、ババア

「ふぅ、ゴミ掃除に手間取っちゃったな」

 

 根の国の中にぽい。もうこれで日の目を見ることはないだろう。戦う前から戦力が減った? はは、ゴミは戦力じゃないよ、廃棄物だよ。何も変わらないさ!

 

 ぽんぱんぱん、と手を叩いて埃を払ってからさて、と振り返って灯を見る。

 

「大丈夫か灯? 何かされてない? 平気? 今護衛にマガちゃんつけるからな。ディザストロでも良いぞ。何か希望はあるか? 安心してくれ、お前の敵は俺が全て滅ぼすからな」

 

「流石に過保護すぎるよ」

 

「だってよぉ」

 

 見てくれよ俺の妹を。母さん似の美少女で、頭も良くて、命の答えに精通していて、悟りも開いている。こんなスーパー美少女どこを見てもいないんだぞ。

 

「大丈夫だよお兄ちゃん」

 

 そう言って灯は笑った。

 

「少なくとも私がこれまでの人生で異性愛を感じたことはないから。他の人を見ても今後そういうものを感じる事はないと思うし」

 

「それはそれで問題だと思うけどね」

 

 別に恋愛する事を否定している訳じゃないんだけどね。俺みたいに恋愛を通して世界に色彩を取り戻す様な事だってあるし。だから灯にもそういう出会いがあればいいなぁ、とは思ってる。

 

「恋愛は良いぞ灯! 世界が変わって見えるからな!」

 

「でも私が彼氏を連れてきたら?」

 

「消す」

 

「急にすんっとしないで?」

 

 根の国裏口からかーちゃんの過保護はだめよー! の声が聞こえてきた。1番の過保護がなんか言ってる程度に聞き流して家の方に戻る。ついに現れてしまったな、妹が超最強美少女だと気づく奴が。

 

 皆殺しにするしかないぞぉ。

 

「仮に彼氏を作るとして……お兄ちゃんが受け入れる条件って?」

 

「俺、父さん、母さん、大母、館長、ラグナロク、ラトが認められる人間」

 

「実在しない人類探し求めてる?」

 

 駄目だ駄目だ! 灯が結婚する相手は絶対に幸せにできる相手じゃないと許せん! 俺の妹は必ず幸せにならなくてはならない。これはお兄ちゃんルールです。

 

「それに私、今の生活に満足してるから。彼氏とか別にいらないし、お兄ちゃんやお義姉ちゃんがいればそれでもう十分幸せ過ぎる程に幸せだから……ね?」

 

「むぅ……まあ……お前がそう言うのなら……」

 

「さ、家に戻って休もう? お兄ちゃんも朝から頑張って疲れてるでしょ? 甘いものでも食べよ」

 

「お前がそう言うのなら……」

 

 あ、ちょっと待って。根の国に腕だけ突っ込んで残弾を全部吐き出すまで連射してから銃を仕舞う。これでよし。気分が良くなったので灯に手を引かれながら家に戻る。

 

 総理にモーニングコールを受けてから色々と急いでたしまともに昼飯も食ってないな。

 

 家に戻ると丁度母と久遠が摘めるものを用意しておいてくれたらしく、こういう所で実家ぐらしのありがたみを感じる。わぁい、とテーブルに飛びついてランチタイムが始まる―――いや、そうか、もうそんな時間なのか。

 

 朝の衝撃でちょっと時間感覚吹っ飛んでたな。簡単に食べられるものとして今回ランチに用意されたのはバゲットを使ったサンドイッチ。最近母がパン作りにハマっているのもあって、何と自家製である。チーズ、レタス、トマト! なんと全てが自家製!

 

 Bランクにも上がると育てられるモンスターの幅も広がる。

 

 植物を育てるモンスターの種類も増えてくるのだが、館長から彼方の世界の高級野菜やフルーツの種を分けて貰っているので、それを育てていたりもする。近頃は黒字どころかかなり売り上げが良くて、もうお金のことは気にしなくても良い生活になっている。

 

 ……のだが、我々一家がそもそもそんな成金趣味ではなくつつましく暮らす事に慣れて好んでいるので、生活に変化はほぼなかったりする。

 

 それでもこの手の食材が簡単に、しかもおいしく手に入るようになったのは今の生活で結構気に入っている事だった。最近はご近所になったドラゴンズバレーが定期的に120レベル相当のドラゴンテール……超高級食材を運んで来る影響で肉に対する舌が肥えてしまった。

 

 あれヤバいよ。もう二度とスーパーで肉買う事出来なくなる味してるよ。

 

 そう言う訳でチーズ、トマト、レタス、ドラゴンテールという超豪華サンドイッチが完成である。お手軽に食える数億円の味。あの、ご近所付き合いが初めてでちょっと興奮してるのは解りますけどドラゴンテール定期便はもう止めませんか? そんなんだからお前ら人間の脳焼いてばっかなんだよ。

 

 なにはともあれ、一口目から脳味噌が蕩けて美食家の服が吹き飛んで全裸になる様な衝撃を味わいつつ、圧倒的に向上した食生活の中でする話題とは言えば1つ。

 

「尊、それで卒業後の結婚の話だが」

 

「もっと他の話があるだろ!!」

 

 久遠が首を傾げる。

 

「他に……優先事項……が……?」

 

「今、世界の危機でしょ……!?」

 

 外見れば解るでしょ、と指差すとマスターを狙っていた筈のサメが串刺しになってバーベキューされていた。どうやら皆もランチタイムに入っているらしい。普段は不審者をランチにしてたサメ吉くんもついにランチになっちまったかぁ……やっぱSマスターは人間辞めてるなぁ。

 

「そこは貴様が何とかするだろう」

 

「母親としては言いたい事は色々とあるんだけどねぇー」

 

「父親としても言いたい事はいっぱいあるかなぁー」

 

 静かに頭を押さえて椅子の上で丸くなる。横にやって来たチビがどしたん? 頭痛いん? そのポーズおもしろいん? 真似して良い? 真似するね! とか一瞬で表情をころころと変えて前足で頭を押さえて蹲る。くっそぉ、可愛い奴め……。

 

 こんなんだからチビに甘すぎって皆に言われるんだよ。

 

「尊、お母さん実は少し怒ってますからね」

 

「はい」

 

「ちゃんと帰って来るのよ?」

 

「はい……」

 

「なら良し。細かい事はこの際あまり言いません。総理に頭を下げられた以上、私も多くは言えないから。ただ、貴方はまだ子供だってことを忘れないでね。何時だってお母さんもお父さんも心配しているから」

 

「はい……」

 

「解っているなら良し! 全力で頑張りなさい」

 

 はぐはぐはぐもぐもぐむしゃごっくん。サンドイッチを胃の中に詰め込んで、食事を終える。そのまま立ち上がったら部屋に戻る前に一回足を止めて、敬礼する。それに母がサムズアップを、父が言いたい事を言われちゃったなぁ、なんて顔をする。

 

 久遠は頬を突き出してる。何すか? どういうポーズっすか? 良く解からないっす。じゃあ部屋に戻るね。

 

「尊貴様ラスベガス以来一度も」

 

「お兄ちゃんのヘタ―――」

 

 タブレットを抱えて部屋に戻りバン、と扉を閉める。最速で部屋に戻ったのに当然の様にチビまで部屋の中に入り込んでいる。流石速度特化。回避%スキルは全部《カオスタイム》の材料になって消えてしまったが、それでも素で300%以上の回避力を保持してるのでまあ馬鹿の速度をしている。物理を当てられるもんなら当ててみろ。

 

「よっこらしょ」

 

 逃げる様にベッドに飛び込んで寝転びながらタブレットを掲げてまとめられたデータを確認する。能力や年齢、技能でソートできるようになってるのは流石だなぁ、と思ったが適性でトップに来るのは酒クズなのマジで終わってると思う。

 

 でもデータを確認すると未探索100レベルダンジョン5種踏破とかかなり偉い事書いてある。120レベル撃破経験あり、150レベル戦闘経験あり、未来予知可能、危機打開能力高し。やっぱこうやって能力を並べると滅茶苦茶有能なんだよなぁ。

 

 それを台無しにするぐらい酒癖が最悪なだけで。

 

 正直アレが無ければ即決できる人材なんだけどね。ずっと苦手意識があるんだよなぁ。

 

「しかし、どれだけ苦手であっても知らない人間よりはマシって顔してるぜ」

 

 ひょこ、とベッドの下からヘスティアが顔を出して来た。こんな事になってるのに顔を見ないと思ってたらそんなところに居たのかよお前。チビがベッドの下に顔を突っ込んでヘスティアを鼻先でツンツンする。

 

「ロストエデンは助けてくれないのか?」

 

「まあ、これで負けるなら人類もそこまでだし未来はないかなぁ、というのが大部分の意見かな。なんだかんだで海王も最後の理性を残して自制してるしね。あの状態で抑えきれないならワールドイーターすら倒せないだろうし。ここで全滅した方がまだマシかもしれないね」

 

 ワールドイーター。世界食い。クソボケ女神の悪趣味なペット。

 

 食った存在を概念クラスで咀嚼し、分解し、消化する。それだけの生き物。それだけ故に何も生みださない怪物。ラスボス戦の前に倒さなくてはならないボスの1体だな。

 

「ちなみに個人での協力はアリって話だから誰かしら紛れ込んでるかもね」

 

「お前は?」

 

「私は回復とかは得意だけど戦闘力は皆無!」

 

 せやったな。HPもMPも回復できるタイプのヒーラーだからタイムアップ狙いの超耐久構築向けのヒーラーだったね。こういうレイド戦だと超耐久構築って勝ちきれないから出番がないんだよなぁ。第一、海王の攻撃を喰らってHPが残る事なんてないからヒール入る隙間ないんだよね。

 

「で、何かお悩みかな少年。お姉さんが導いてやるぜ。ゴッドらしくね」

 

「ねえ、ババア」

 

「今ババアって言った?」

 

わわん(ババア)

 

「ほらあ! 口が悪いのは良くないよ! 直ぐに真似をする子が近くにいるときは特にね! あ、こら、押し込まない! ベッドの下に押し込まないで! 私、筋力はCのモンスターにも負けるんだぞお―――!」

 

 チビがヘスティアをベッドの下に押し込んで仕舞った。ちょっとうるさいなコイツ、みたいな顔をしてる。ヘスティアを仕舞ったらそのままベッドの上に飛び乗って、俺の横にごろん、と転がる。Bになってからほんとコイツ甘えて来るなあ。

 

「……解ってたけどそう多くないな、100レベダンジョンの踏破経験者」

 

「そりゃあまだこの世界にそこまで出現してないからね。ランダムで出現するようになったここがおかしいんだよ」

 

「それはそう」

 

 登場! 殺意の100レベダンジョン!

 

 抹殺! 脅威の駆間人! 何故か適応できているこの都市の住人たちがおかしいだけで普通は区画放棄レベルの大事件なはずなんだけどなぁ。まあ、HPが設定されてるなら集団でハメて殺せば勝てるだろ……の精神が根付いている。

 

 ちなみにこの手のハメ手、レイド組が積極的にレイドボス相手に実験と検証繰り返して開発しているらしい。アイツらほんと頭おかしいよ。ゲーム時代にはなかったハメとか新戦術どんどん開発してて前1度参加してみたら訳わからなさ過ぎて怖かったんだよね。

 

 怖かったんだよね……。いや……マジで……。

 

「うーん……」

 

 戦績、経歴、技能、ざざっと確認するけどやっぱ探索力という一点において酒クズの能力が高すぎる。予知だよ予知、あれマジでズルいよ。俺もあれがあればガバを回避できるのによ。

 

 ポチポチとタブレットをタップする。

 

 人界最高の人材がリストアップされているものの、やはりピンと来る奴がいない。最大の問題はこれまで表の競技がメインの世界で、100レベルのダンジョンがなく、探索経験がない事だ。

 

 裏の仕事でバリバリ命を懸けてた酒クズが分野のトップだ。

 

 或いは裏の連中のがこういうシーンでは命を懸けてて優秀なのかもしれない。総合戦闘力は間違いなく競技者だろうけど。

 

 えー……マジで?

 

 まさかマジで酒クズと探索するの?

 

 嫌だなぁ……。




 告白者はこの後無事に根の国から生還しました。
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