最強以外ありえない   作:てんぞー

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どうして空は青いんだろう

「予想よりも戦利品が増えたな」

 

「まあ、アレだけ戦えばね……」

 

 戦闘は回避しようと思えば回避できる。だけどしなかった。回復リソースは多いし、連戦しても問題ないぐらい物資はある。じゃあ皆殺しにしながら進むか……というSランカーの気分によって地獄絵図は繰り広げられた。そしてその全てがララによるトレハン効果を受けた。

 

 その結果、ジャガーノートが抱えるレベルで戦利品が溜まっていた。捨てて行っても問題はないのだが、初解禁のエリアに初登場のアイテム、検証チームは間違いなく発狂しながらこれをしゃぶって数週間は全裸で研究室を走り回る。

 

 それを見る為だけに東吾は持ち帰ると言っていた。

 

「名残惜しいが用事が終わったのならそろそろ帰るべきだな。ここじゃ外の時間も解らないしな」

 

 お互いスマホを取り出して時間を確認しようとすると、時間表示がバグってて正しい時間を確認する事が出来ない。GPSシステムを使って現在位置を確認しようとしても場所が特定できない。コンパスを使っても南北が捉えられない。

 

 でもWIFIは通ってるからエロサイトには繋がる。

 

 どういう仕様? 空に浮かぶキュウビのサムズアップの“私がやりました”が圧倒的にウザい。

 

「で、地上には直通の道があるんだったな?」

 

「道というかワープなんだけどね。もうそこまで来てるよ」

 

 戦闘……というよりは殲滅しながら移動してたところで漸く出口に近い所までやって来た。そこは何十何百という鳥居が列をなして伸びている場所で、その先は壁に埋まっている様にしか見えない、奇妙な風景だった。立ち並ぶ鳥居の前に立つ。

 

「ここから出られる。この鳥居の前から1度も振り返る事無く1番奥の鳥居まで進むと、地上の鳥居に出る事が出来るようになるんだ」

 

「そしてこっちに入って来る時も同じルートで、って事か」

 

「正解。ショートカットが開通するから何時でも来られるようになる」

 

「それは他人も通れるのか?」

 

「いや、これは通った人だけが通れるようになる奴。だからここに新しい人が来るにはまた黄泉平坂で呪い酒を作って、それを飲んで根の国に踏み入る必要があるよ」

 

「成程、新しく入って来る奴は難儀しそうだな」

 

 正直な話、ここでの用事はもう終わってるから公開しても良いと思ってる。主要なアイテムの回収が終わったから残りは隠しボスと隠しボス作成用のアイテムの回収になるだろうが、そっちに関しては興味を持たないからどうでもよい。

 

 それを含めてこの隠しダンジョンの扱いをどうするかは後日改めて考え直そう。今は先に脱出する方が優先だ。流石に長く潜っていただけあって疲れてきた。精神的な疲れはどうとでもなるが、肉体の脆弱さは否定できない。

 

「振り返らずに、か。帰りになるとまだ残りたくなるなぁ」

 

「また来られるんだし好きな時に来れば良いでしょ」

 

「それはそうなんだが」

 

 鳥居の間を抜けるように歩き出すと少しだけ空間が揺らぎ、景色が段々と色あせる。まるで深海の底から地上へと戻ろうともがいているような感覚に近い。そして歩き出すと後ろから呼び止める様な声がしてくる。

 

「東吾くん、もう行っちゃうの?」

 

 その声に東吾の足は止まらない。

 

「今のは?」

 

「火事で死んだ元カノ。もう心の整理は付けてる」

 

「死んだから、整理したからで過去にしちゃうんだ……酷い人……」

 

 それに応じる事無く東吾は前に進む。その表情に感情の変化は一切なく、寧ろつまらんとさえ言えてしまう程の呆れ具合を感じる。この男にとってこういう過去は全て清算し終えた事なのだろう。だから死者の国からの呼び声にも応じない。

 

 振り返らず進む。

 

「待ってくれ、置いて行かないでくれ! 忘れないでくれ……」

 

「誰だっけ? 忘れちゃったな。まあ、忘れるなら大した事ないだろ」

 

「―――」

 

 切実そうな呼び声を一刀両断する。

 

「東吾」

 

「なんだ母さん、まだ成仏してなかったのか? 早めに成仏しないと良い来世を送れないぞ」

 

 母の呼び声を受け流し。

 

「東吾! なんだその言いざまは!」

 

「あー、隣の家の爺さんだっけ? 嘘だよ嘘、父さんの事は忘れた事ないよ。いや、ほんと節操ねえなここ。呼び止める為にこんなのまで引っ張り出すなんて。思わず唾吐きに振り返りたくなるなあ」

 

 父からの呼びかけに笑って答えながら進んで、後ろに向かって中指を突き立ててる。この短い時間でそれなりに激動の人生を送っているんだなあ、ってのが伝わってくる。

 

「いや、まて、俺だけこんな愉快な仲間たちが現れてるのにお前のが出ないのはズルいぞ」

 

「え、俺?」

 

 うーん、と唸りながら首を傾げる。

 

「そこら辺どうなの?」

 

 振り返る事無く呼び掛けてみると鳥居の外側から揉み手で待機している霊っぽいのが見える。

 

「いや、何時でもフリーパスで戻って来られる人を呼び止める程暇じゃないんで」

 

「最近は割と死ぬ気ありませんッッッ!!」

 

 どうかなぁ? 本当かなぁ? とか骨とか霊が外で頭を抱えながら疑っている。なんだその疑惑は。俺はちゃんと生きるつもりで最近は頑張ってるんだぞ。その証拠に東吾に言われてからはちゃんとシンクロも制限しているし、作戦も命優先に切り替えているし。

 

「そうですかぁ……まあ……外の世界ではお元気で……実家の方は何時でも帰りをお待ちしてますよ」

 

「実家扱いするのは止めてくれない?」

 

 東吾はずっと爆笑してた。というかこの骨と霊、見ても昇天しないアタリ実は結構位の高い奴なんじゃないだろうか? ちょっとそこら辺を考えないようにしながら最後の鳥居の前まで来ると、俺達を止めるべき最強の刺客が現れた。

 

 後ろから声がし、俺達の足が止まる。

 

「―――あぁん、着物のあわせがはだけちゃいました」

 

 爆速で振り返ろうとする俺達をラファエラが振り返れないように頭を掴んで正面へと無理矢理向かせて、そのまま引きずるように鳥居の奥へと向かって飛行する。

 

「どうして、どうしてこんな解りやすい罠に引っかかろうとするんですか……!」

 

「許せ、ラファエラ。男としての義務だ」

 

「ここで振り返らなかったら嘘だろ」

 

「いや、ほんと期待裏切らないっすね」

 

 ラファエラに引きずられたまま鳥居を通り抜けた瞬間、景色が変わる。それまでの重苦しい強者のみの世界から、もっと開けた世界へと戻って来る事が出来た。頭上に輝くのは太陽の光で、周りに見えるのは観光地と化した黄泉平坂の入口だった。その近辺に設置されている数多くある鳥居の1つから俺達は地上に戻った。

 

 ラファエラに解放されて振り返ると、鳥居の間の空間が揺れていて、そこから再び根の国に戻れるのが確認できた。

 

「んっんー、結構長く潜ってた気がするな。久々の地上の空気って感じがする」

 

「いやあ、ほんと楽しい冒険だった。次回からはもうちょっと安全マージンについて考え直そうと思います」

 

「そうしろそうしろ。……良し、とりあえず休憩ついでに何か食うか。奢ってやるぞ」

 

「やったぁ」

 

 タダ飯の嫌いな奴なんてこの世には存在しない。ララも漸く罠に突撃して吹っ飛ぶ作業から解放された事実に涙を流しながら無意識に新しい罠を探している。悲しみは短時間で染みついてしまった死に癖かなあ。アレはしばらく引きずると思う。

 

「ない、罠が……ない……!」

 

「哀れな」

 

 我々には救えない生き物なのでララのメンタルケアはラファエラに押し付けるとして、東吾と一緒に近くの屋台まで移動して串焼きを何本か購入する。彼岸串とかいう微妙なネーミングで、お手軽によもつへぐい体験が出来る事を売りにした頭のおかしい串焼きだった。

 

 味は微妙。観光地価格、味も観光地クオリティ。

 

 それでも腹は膨れる。地上に戻ってきて意外とお腹が空いていることが解った。いや、仮死状態で歩き回っていたから空腹とかを感じられなかっただけかもしれない。1度口につけると大して美味しくもないのにどんどん胃袋の中へと消えて行き、気づけば複数の屋台を制覇していた。

 

 その頃にはお腹もだいぶ膨れていて、死の世界で味わった経験と疲労も体に馴染んでいた。

 

「ふぅ、とりあえず今回はこれまでか。非常に楽しい経験をさせて貰った。連絡先良いか?」

 

「あ、此方こそ色々と助けられた。見通しが甘かったし、居なかったら確実に死んでたと思う」

 

 握手を交わして連絡先を交換する。これからもちょくちょく交流を続けようと約束する。根の国公開に関してはまた後日相談しながら決めるとする。

 

「東吾、まだこの手のダンジョンを他にも知ってるんだ。その時は―――」

 

「呼べ。絶対に呼べ。必ず呼べ」

 

「うす」

 

 根の国攻略はソロでは絶対に無理だった。となると図書館も絶対にソロでは無理だろう。ドラゴンズバレーはまあ……元々ソロでは無理って感じはしてたし、根の国での経験を反映した上で改めて考えると……ドラゴンズバレーは相当厳しいかもしれない。

 

 それでも最終的な着地点、ラスボスとの戦いを踏まえると絶対に必要だ。

 

 その上で味方も増やす必要がある。

 

 この世界のランカーは、強い。俺が思っているよりも、俺が理解しているよりも環境に馴染んで、戦い方を理解している。最後の戦いに参加できなくても、やれることは多い。そういう仲間を増やす必要がある。

 

 今回の探索は本当に考えさせられる事が多かった。そういう意味では収穫は非常に良い。

 

「さて、そろそろ解散するか」

 

 腕を伸ばして背筋をまっすぐに。疲れた体をほぐしながらスマホを確認し、東吾が手を振る。

 

「じゃあな、尊。そのウチまたな」

 

「さよなら東吾、本当にありがとう。また会おう」

 

 手を振りながら去って行く東吾は振り返らない。

 

「尊! 言い訳と覚悟だけはしておけよ!」

 

 スマホを指差しながら東吾は跳躍すると、その姿を火の鳥へと変貌したべリアスが掴み、飛び上がった。そのまま空の彼方へと消えて行く。本当に世話になった事に感謝しつつスマホの電源を入れて確認する。

 

 その瞬間、溜め込まれていた通知が爆弾の様に届いて来る。

 

「うおっ、見るのが怖い」

 

「心配されてる証拠だから良いじゃないっすか。ボクなんて死んでも誰も心配しないんすから」

 

「それが仕事だか―――うん?」

 

 スマホの時刻を見る。

 

 朝9時。もしかして一晩中根の国で過ごしちゃったのだろうか? そう思って日付を確認する。

 

「……」

 

「わ、わぁ」

 

 スマホの画面に、ダンジョンに潜ってから1週間経過したとか書いてある。

 

 凄い勢いで電話が鳴り響き始めるスマホを前に空を見上げる。

 

「どうして空は青いんだろう」

 

「現実逃避しちゃダメっすよ」

 

 そういや地上と特殊なダンジョン内では時間の流れが違うって設定ありましたね……。

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