「おう、来たか坊主―――その返り血はどうしたんだ?」
「あ、お気にせずに……駆間では良くある事なんで」
いっけなーい! 遅刻遅刻ぅー!
返り血で真っ赤になった状態のまま会議室に来ちゃった!
という訳でゴミの末路は語る必要もないし、思い出す必要もないのでサクッとケジメてから会議室に戻って来た。各国のお偉いさんが今度は物理的に揃っているのを見るとまあまあ心臓に悪い光景なのかもしれない。会議室の奥のホワイトボードの前には作戦説明していたブライアンが立っており、こっちにマーカーを投げ渡してくるので入れ替わるようにホワイトボードの前に立つ。
「それじゃあ皆さん、根の国、図書館、暗黒樹海、ドラゴンズバレー及びノアの発見者鴉羽尊です。今回、この世界に迫る危機を一番よく理解している人間として全体の作戦の流れを説明させて貰います」
移動しながら大まかに決定された作戦の流れは確認したし、俺が担当するパートは俺に説明させろという話なので、ホワイトボードの前で説明する。近くのモニターにはドローンを使って海上に浮上した海王の姿が映し出されている。
海蛇をモデルとした巨大な海竜……それも都市よりも巨大な、山脈に巻き付けるほど長く巨大な姿。竜王には届かないが、それランクの巨大さを誇るバケモンだ。
「よ、待ってたぜ!」
「これが終わったら一緒に飲まないか?」
「お前と2人きりで話させてくれ」
「好きだ!!」
「はいはいはい。ウチの秘蔵っ子のナンパはおやめくださーい」
「そういうのは
「ウチの子になってくれぇぇええ―――!!」
さて、馬鹿の戯言は無視するとして、ホワイトボードに簡単な図と海王のステータスを書き出して基本的な流れを説明する。それぞれのフェイズの全体的な流れ、やらなくてはならない事、そして最終フェイズはノアを使って海王を倒すという話を。
「海王を地球戦力だけで倒せないのか?」
「核弾頭3発撃ち込む頃には耐性獲得してダメージ通らなくなる生き物相手に勝てる自信があるならどうぞ」
質問者も一応の確認として質問していたみたいで、本気で人類で攻略出来るとは思っていないらしい。実際、映像越しに伝わって来る迫力だけで心臓が締め付けられるような力と感情がある。とてもこの世に存在して良い暴力ではない。それを強制的に脳に理解させ、屈服する事を促している。
理解を、そして対処を超える絶対を前に人は屈服する事しか選べない。これほどの存在は信仰対象になりうる。人類で勝てないのだからしょうがない。受け入れるしかない、と。
普通なら。
ここにいる人間は普通じゃない。Sランクに至る様な連中はそういう絶望や感情に対する耐性が極まっている。力はまた別問題だが、その精神性は相対の場に立つ事の出来る格に至っている。だからこそ見ただけでどれほどの力の差があるのかを理解出来てしまう。
「ノアの復活は絶対だ。雨の様に降り注ぐミサイルが全弾ブラックホール弾頭だったりする超兵器だぜ? これがなきゃ話にならない……です」
喋り慣れてないからちょくちょく敬語崩れちゃう。なるべく総理とか大統領とか偉い人の前では流石に取り繕いたいんだけど、普段が普段なのでちょっと崩れてしまう。怒られないと良いなぁ。
「起動条件は?」
「ノアの継承者が隠し部屋で封印保護されてます。これを確保し、ノアを再起動させます」
「出来るのか?」
「やれます。というかやれなきゃ終わりです」
確認してくるどこかの国の偉い人に対して断言する―――実際は既に死んでいて白紙の物語次第である事は黙っておく。これを口にした所で誰も幸せにならないし、余計に状況が複雑になる。今はもう、白紙の物語でどうにかなるのを祈って突入するしかないのだ。
ノアの再起動が不可能ならもう終わりなのだ。
後は竜王に海王をトレインしてぶつけて、地球が終わる前に勝つ事を祈るだけかな……。まあ、この時はもう戦える人類残ってなさそうだからマジで終わりかな。
「ノアの動力は創造主の創造の権能そのもの。それを利用した無限のエネルギーと創造プロセスを逆算した万物の反創造エネルギーによる解体攻撃は海王にも通じます。理屈が理解できない? 人類を超越した領域のものなので理解できなくてオッケーです」
俺も良く解かってない……。
でも設定って読み込む人向けのもんだし……そこまで深く考えなくて良いよ。
「とりあえずノアには勝つ手段があるのは解った。問題は乗り込むまでをどうするか、という事だが……」
「当然あるんだな?」
オフコース、と偉い人達の期待に応える。
「海王はまだ本気を出してません。というか僅かな理性と自制心で自分を縛ってますので、コイツが残っているうちに強めのを頭にぶち込んで1回スタンさせます。今の状態なら1回か2回ぐらいなら動きを止められる筈なので」
でもまともに攻略してる余裕はないので。
「海上からサンゴ迷路ぶち抜いて、ノアまで直通でルート作ります」
「まあ、それが早いか」
「不作法だが作法を選べる状況でもないからなぁ」
ちまちま通り道を攻略している余裕はないのでサンゴの迷路はこれで無視する。そうするとその下にノアが沈んでいるので、ノアの非常用ゲートから内部へと侵入する。
「サブ電源の復旧とかAIの再起動とか色々とありますけど、それはこっちがサクサクと攻略するのであんまり気にしないでください。寧ろ気になってるのは―――」
「初手で、どうやって海王を止めるか、だな」
マスターのほとんどは黙って此方を見て、作戦に耳を傾けている。偉い人たちの方は積極的に会話に参加し、此方に質問を投げたり疑問を浮かべている。お蔭で説明がずいぶん楽に進む。考えてみればこの人たちはこの手の会話のプロなんだよなぁ。
ホワイトボードにカキカキ……。
海王のデフォルメを囲む狐と、ドラゴンと、少女を追加する。
「失礼、鴉羽氏。海王は見た所、耐性に隙がない。既存のモンスターでこの耐性を掻い潜ってスタンを取る? のは相当至難の業に思えるのだがね。君はこれをどう突破する予定なのかな?」
「正攻法の話をすると耐性貫通系のスキルに山盛りのバフ付けて通すんですけど……今の人類が解禁しているモンスターでそれが出来る奴がまだ生まれてないので、反則技を使います。海王はデバフ、バステ、連撃、弱点変化と様々な耐性を持っているインチキ耐性持ちです。ですが唯一持ってないものがあります。はい、解る人―――!」
片手を上げて解る人いるかなぁ? と小学校の先生みたいにやってみると政治家たちは困っちゃったが、イカレマスター達ははい! はい! 先生はい! って手を伸ばしてきた。流石人類の最精鋭だな、気付くのはえーなー。
「はい、そこで倒立しながら両足を伸ばしてヘッドスピンしている君!」
「ズバリ―――ギミック耐性ですね!?」
「正解! 良く解かったね! 後良くこの場でヘッドスピンできるね」
やっぱSランカーは螺子の外れ方が違うなぁ。どこの国のキチガイだよお前。という訳で狐にマガツキュウビ、ドラゴンにディザストロ、少女の名前の所にオールドテイルズと追記する。
「ボスモンスターというシステムとギミック属性は地球にモンスターシステムが館長によって持ち込まれた事で生み出されたものだ。竜王と海王は前世界においてほぼ無敵の存在だが……まだ此方の世界での戦闘をほぼ経験してないから、此方の世界特有のシステムや概念に触れていない。その穴を突いてギミック系ボスの能力でハメる」
恐らく30秒以内に耐性を獲得されるだろうが、その間に……とホワイトボードに最重要破壊目標スキルを書く。
「《ひょうが》《こうずい》と《アクエリアスエイジ》か……」
「確かにその3つは最低でどうにか無力化しないと撃たれた時に打ち消し耐性を持たれていた場合、そのまま人類が詰む事になる」
「何らかの手段でスキルそのものを封印するか破壊する事に成功すればとりあえずの文明崩壊は免れる」
絶対という訳じゃないけど、それでも最低でこの3つの破壊か封印に成功すれば人類が一瞬で死滅する事は防げるだろう。
「オールドテイルズは俺が悪戯心満載で育てたボスモンスターで戦う者に対して極限のストレスを与える為だけに生み出されたような奴でパーミッション能力の塊だからコイツで海王のスキルを封じる。本当は図書館攻略する皆にぶつけたかったんだけどなぁ」
「坊主、国際法って言葉を知ってるか?」
にこり、と笑う。
「じゃあ話を戻しますけど」
「おい、坊主。おい。全部終わったらおじさんと国際法の勉強しような? マジで」
地球残ってたらその時は恩赦ください。
「マガツキュウビで耐性を破壊して、オールドテイルズでスキルを封印、ディザストロでスタンに持ち込んでそのまま迷路も破壊する。これで海王の動きは止められる筈なので俺はそのまま海の底へとダイブ、海上戦はブライアン達にバトンを渡す事になりますね」
「大まかなプランは決まっているか」
「不安を覚える箇所はある……ほかにプランはないのか?」
「無いからこうしてるんだろ」
「どちらにせよ、私達の信頼するプロフェッショナル達がこの少年こそが最もモンスターと戦い方に精通する者だと断言し、誰も文句を口にしていない。それが答えになる」
覚悟の詰まった言葉で、全ては決まった。
それから更に30時間、細かい作戦を詰める時間に入った。連携、バフの順番、タイミング、戦闘における順序、必要なアイテム、シミュレーション……様々な可能性が考慮され、準備され、それから9時間の休息が全員に与えられた。
作戦は限界まで詰められ、何度も確認が繰り返された。
そして最後の時間が過ぎ去り……全ての戦士たちの準備が整った。
―――決戦の時が来る。