近未来的なつくりの船内。まずは上層を目指したい……所だが、無理だ。
「まずはサブ電源の復旧だな。区画別にサブ電源があるからそれを復旧させなきゃエレベーターが動かん。ちなみに壊そうとしても壊れないから諦めた方がいいぞ」
スクナが近くの壁とか天井とかをパンチパンチしまくってから手が痛ぇって泣いてる。馬鹿かコイツ? とか言っている間に奥の方からモンスターが出現した。全身が真っ黒な人影で、全身に小さな口を生やした怪物だ。
「小口浸蝕体だな。小口に貪られて形だけ残っちゃった奴……もう元の人の部分は何も残ってないよ」
「つまり倒しちゃって問題ねぇって事だよなぁ!」
スクナックル! 相手は死ぬ。
フルバフ乗せたパンチが浸蝕体を1発で消し飛ばす。それを見送るノトスの表情はやや複雑そうだが、止めるようなことはしない。もはやこの都市で今、救えそうな存在は1人として存在しない事を理解しているのだろう。
まずはサブ電源復旧の為に電子ロックのないルートを行く。その間にチクタクマンの説明をする。
「チクタクマンは昔、ある街の時計屋を営んでた男だ。腕の良い職人で町中の時計の管理をしていたその男は、寸分の狂いもない正しい時間を常に管理していた。彼にとって己の職務は誇りであり、そして同時に当然の行いでもあった。やがて国の為に大時計を生みだした彼は国の時間を管理し、死後、時の神に導かれ神格を得る事になった」
「あ、人間から神になるパターンあるんだ」
「不思議な世界だよね」
「人間以外のものになるのはごめんだな」
ラムシンは人間である事に誇りがあるみたいだ。ちょっと面白い意見だよね、大体の人って神とかもっと上の格の存在になれるのなら大歓迎って感じなんだけど……あ、モンスター達も割と真面目に耳を傾けてる。そっか、邪神がどうして生まれたかって話は需要あるのか。
邪神誕生秘話って邪神討伐後じゃないと図書館に情報が追加されないから、現状知ってるのは俺と本人だけか。まあ、興味も出るか。
「喜んで時の神の眷属神となった時計屋は時の運航管理を神と共に行う様になり、その際1つの真実を教えられる事になった―――これがチクタクマン最大の狂気の原因であり、同時にこの邪神が生まれた理由でもある」
はい、じゃあクイズです。
通路を進み、梯子を見つける。これ、絶対に途中で罠仕掛けて来るよなぁ……避けられないタイミングとか絶対に重ねて来るだろ。あぁ、そうだ、ララを盾にすれば良いのか。ララを頭の上に乗せて梯子を掴む。
「チクタクマンが発狂する原因となった事実は何でしょうか」
はい! と酒クズが手を上げる。
「実は時の神じゃなくて便所の神に仕えてた!」
「うーん、違う!」
「え、これそういう流れ? 僕もなんか笑えそうな答え考えた方が良い?」
「お前まで流されるな」
ぺしーん、とラムシンがジャックの頭を叩き、溜息を吐いた。
「この手の奴は解りやすい。高く積み上げたもの程崩した時の衝撃が大きくなる―――大方、それまで信じていたものに裏切られたのだろう」
ラムシン、流石最年長だけあって凄い賢い。俺もララを頭の上に乗せて梯子を上り始めたら案の定梯子の半ばで罠が発動するも、ララがそれを吸い込んで俺の頭の上で弾けて死亡する。お蔭で俺もその下も真っ赤だ。でもこれで時間跳躍罠は回避出来そうだな。
「ラムシン正解。チクタクマンはねぇ、時の神によって知らされちゃったんだよね……元々時間という概念は動いていなかった事に」
梯子を上がり切るとそこには浸蝕体の姿が。今度は防衛ロボットを浸蝕した個体か。が、動き出す前にチビが《クイックレイド》で瞬殺してくれる。いやぁ、快適だわ。
「???」
「???」
「???」
馬鹿トリオが首を傾げてるがこれはちょっと難しい話だから補足しておく。
「世界が生まれる前、まだ天地の創造もなく、天父が肉体を持たない情報生命体だった頃の話になるんだけど」
「待って待って待って待って!! 軽い気持ちで凄い事言い出してませんか!?」
「待ってくれ、それは人類が把握出来る範囲の出来事じゃないだろう! 待ってくれ! それ以上はほんと待ってくれ!」
出来まーす! 原作情報だから出来まーす! 尊くんはこういう情報ゲロる事に躊躇しませーん! 館長とはネタバレティータイムを通してもう既にこの手の話は既に共有済みなんだよね。図書館の本棚にこっそりと爆弾として追加されてます。天父好きの人は是非とも読んでくださいね。
地球人類で好感度高い奴たぶんおらんが……。
「まあ、色々と端折ると世界が始まる前は時間の概念は存在しても、それが流れる事はなかった。その流れは後から天父によって生み出されたんだ。つまり今ある過去から現在、そして未来へと繋がるという時の流れは本来、そうあるべき自然の形ではないんだ」
これ、どうでも良い事じゃない? 関係なくない? そう、普通の人間なら思うだろう。
だけど時計屋にとっては違った。
「生涯を通して時の管理を続けてきた男は裏切られた気持ちになった。私が今まで守っていたものはなんだ? 間違っていたのか? 本来からズレた時間を守り続けてたのか? 何故こんな事が……許されるのか?」
「い、異常者!!」
「異常時間性愛者!」
「きぐるいー!」
「わん!」
ほんとそうだよ! 誰だってそう思うだろう。だけど時計屋の価値観は普通じゃなかった。男は信仰していたのだ、正しい時を。その運航を管理する事こそが人生の誇りだった。
だから。
「男は上司である時の神を殺して権能を奪った。邪神チクタクマン誕生の瞬間だった」
皆、当然ドン引きのリアクション―――と、通路が閉ざされている。シャッターが下りていて通れなくなっている。俺の記憶が正しければこれは通れるはずの道だった筈なのだが。ノトスと一緒にルートを再確認し、シャッターを開ける方法を探すが……此方側からは開けられない。
仕方ない、迂回するしかない。幸い、ノトスは別のルートを知っているようだ。其方を通る事にしよう。
えーと、そうだ、邪神チクタクマン誕生秘話か。
「チクタクマンは時の神の権能を奪って真っ先に時の流れを原初の状態へと戻そうとした。つまり過去から未来へと向かって流れる状態を止め、時の静止した世界へと逆行させようとした。当然、無理だった。それは造物主だからこそ行える奇跡だった。チクタクマンの野望はあっさりと失敗してしまった」
当然、チクタクマンの野望はそれで終わらなかった。
「奴はそれからも時の均衡化にひたすら精力的に働いた。正しい時を守る為に。正しい時間であり続ける為に。だが時は流れ、戻らない。どれだけ努力しようがチクタクマンが報われる事はなかった。やがて今の形が正しい形だと妥協する以外の選択肢が無くなった所で、チクタクマンは次善策を打ち出す事にした」
それはとても簡単な結論だった。
「今の形を守る事」
「それだけだとあまり危険には聞こえないんだけど?」
ジャックの言葉にうーん、と嫌そうな表情を浮かべている連中がいる。主にミレーナやノトスにクラマオウ達過去の出来事を把握している連中か。その表情を見るだけでチクタクマンがとてもじゃないがまともな事をしない事を察したジャックがあー、と声を零す。
「続けてリーダー?」
「チクタクマンは今の時間を守る事にした。それはつまり正しい流れ。今ある運命。或いは未来とも言える。時間の流れと書いてあるべき運命と読む―――つまりチクタクマンは変化を否定する邪神となってしまった。可能性を殺し、時を乱す全てを消し去る事を決めたんだ。己を、時の裁判官として定めて」
つまりなんだ。
運命を塗り替える! みたいな流れを全部否定する存在なんだよね、チクタクマンは。
「努力によって定められた時が変わる事を否定する。奇跡による変化を否定する。時を遡る者を殺す。未来を変えようとする可能性を潰す。
時間はただ時間として流れる。なんたる浪費。
時を管理する者として触れる全てを裁く審判。
あらゆる生命は正しく流れに従いその報いを受けるべきだ。
忘れ去られた正しい形を追い求める狂気。
歪んだ時の邪神、それこそチクタクマン。
「ただチクタクマン自身は昔、やらかした結果呪われていて色々と自分の力に対して制約を受けているんだよね。無敵って訳じゃないんだけど……と、ここもシャッターが下りてるな」
こんこん、とシャッターを軽く叩く。謎の金属で作られている通路のシャッターはとてもじゃないが壊せそうにない。ウェルギリウスがすり抜けられないか確かめているが、霊体対策も施されていてすり抜ける事も許されない。無論、力を通す事も出来ない最強素材となっている。
ちゃんと手順を守らない限りは上がらないようになっている……面倒な事になっているな。地図を確認し、ノトスと頭を突き合わせる。
「直接都市部まで行くルートを通りたかったけど封鎖されていてダメそうだな……」
「こうなると貨物室を通って……そこから都市部になるんじゃないか? そこからなら船長室が目指せる筈」
「面倒だなぁ……貨物室、確か半分水没してたよなあそこ? 水中を抜ける必要あるぞ」
通るとなると相当面倒な事になるが……と思っているとあー、と酒クズが声を放ってくる。
「皆、ちょっと良い?」
「ん?」
酒クズに呼ばれて顔を上げる。本人は来た道の方を指差している。
「なんか、来た道塞がってない?」
「はあ?」
「おいおい、電力通ってないから勝手には―――」
酒クズに促されてきた道を確認すると、先ほどまで通れた通路にシャッターが下りて遮断されていた。さっきこのフロアに上がって来るのに使ったはずの梯子はシャッターによって遮断されて通れなくなっている。
「……マズイ」
瞬きをした瞬間、それまでまだ下りてなかったシャッターが既に下りた状態に変わっていた。見える範囲で下ろす事の出来るシャッターは全て下がり、通路は塞がれていた。今、自分達のいる直径50メートルほどの通路。
そこから伸びる全ての道が閉ざされ、進む事も戻る事さえも出来なくなっていた。
まるでチクタクマンが望む時の様に。
「閉じ込められた」