「よし、ここは僕らの出番かな」
「直ぐに終わらせる」
息を取り戻した所で電源室の復旧作業に2人が入った。流石この道のプロフェッショナルだけあって、一瞬で部屋の中で重要な役割を持つ機器を判別すると、その修復作業に入る。
「電源が落ちているだけじゃなくて朽ちているね? 周りは無事なのにここだけ局所的に凄い風化している」
「恐らく例のチクタクマンの仕業だろう。手持ちの部品でどうにかできないか確かめよう」
「そうだね、今回は地球のピンチって事で大量に素材を持ち込めたし、マテリアルクラフターも持ち込めたしね」
「本部の連中が良く許可を出したものだ」
「あはは……強欲な連中でも星が沈むのは嫌らしいね。彼らが持っていても意味のないものだ、現場で僕達が有効活用しよう」
軽口をたたきながらも2人は素早く手持ちの道具や素材を取り出すとその加工を開始する。なんか良く知らん機械を使う事で素材を素早く加工する事が出来るらしい。ジャックなんかエンジニアスーツからメカニカルアームを5本ぐらい伸ばして同時操作してる。
世界最強のエンジニアすっげー。博士出番なのにどこ消えたん?
とんてんかんてん凄いスピードで修復に入っている。原理を一切理解できなくても見ただけで構造を理解し、それに合わせて最適な部品をこの場で作成している。本当に頼りになる連中だし、俺ソロで来てたら間違いなく詰んでたな。
いやぁ、詰みポイント多いっすね今回。
白紙の物語を手に、表紙を撫でて調子を確かめる。白紙くんはどうやらチクタクマンの存在を感知していて、それに対抗する気満々らしい。いや、まあ、やる気は嬉しいのだがチクタクマンとやり合う予定はない……というか奴には勝ち筋がちょっと見えない。
「へいへいへーい、みこっちゃん。ちょっと作戦会議しない? あっちが作業している間で良いから」
「お前からそう言うんだ……」
「言っておくけど私、この手の超高難易度攻略の常連だからね。だからなんとなーく解るのよね。さっきから首の皮一枚ずっとちりちり焦がされてる感覚あるの」
おぉ、酒クズが割と真面目だ。休憩しながら酒瓶握ってなければもうちょっと真面目に捉えられたな。いや、でも、コイツにとって酒こそが精神安定剤なのかもしれない。最高のパフォーマンスを発揮する為に酒が必要なら判断狂わない範囲では飲んでも良いのか……?
いや、良くねぇだろ。まぁ、いいや。
「チクタクマンの話?」
俺の言葉に酒クズが頷いた。と言っても、チクタクマンは事前情報が1番参考にならないかもしれない。
「チクタクマンはちょっとした特殊なボスで、ライフストックがない代わりに超膨大な体力……時間を内包をしているんだ。これを消し飛ばすのがチクタクマンの倒し方。奴が時間を巻き戻す前に全て消し飛ばす」
「簡単そうね」
「クソギミックの存在を考慮しなければね。アイツは毎ターン耐性がランダムに変化するんだよ。常に弱点が1個だけ、残りは全部無効化。ちなみに物理、魔法、火、水、土、風、光、闇から抽選ね」
「もしかしてカスの化身?」
「うん!」
なのでチクタクマンを倒すにはまずこの弱点がどれであるかを特定しなくてはなりません。まあ、次のターンには変わるのですが……。チクタクマンは時の神を殺し、原初の時を取り戻そうとした時のペナルティを受けてライフストックが作成できない肉体になってしまった。
だからそれ以来チクタクマンは時間という概念を己の中に蓄積し、己の命として運用する事にした。この膨大な時間リソースを命を削る事で吐き出させる事でチクタクマンを殺す事が出来る。
「これに加えてこのカスはある程度体力が削られると時間を巻き戻してくる」
「回復するんだ」
「するだけならまだ良い。コイツの時間遡行にはペナルティがある」
時の神を殺した時に呪われたチクタクマンはただでは時を戻す事が出来なくなってしまった。肉体が、鉄くずとなって錆びて朽ちるという呪いをかけられてしまった。時に干渉すればするほど身を亡ぼす呪いを、相手に押し付ける事でチクタクマンは克服した。
「だから奴に時間を戻す隙を与えると、回復してくる上に再生、蘇生、回復不可能の変化を押し付けて来る―――」
そこで酒クズと俺自身を指差す。
「俺達に」
「モンスターじゃなくて?」
「モンスターじゃなくて。だってこれは呪いだから。間に壁があって、遮る味方がいて、庇われても、そんなの関係なく刺してくる。だから時計を回されたら基本的に後遺症ゲットだぜ! って思っておいた方が良いよ」
「うわぁ、邪悪」
チクタクマンが過ぎ去った場所の後には朽ちた鉄くずしか残らないとされている。
「だから基本、戦っちゃいけない。見かけたら迷わず逃げる。時計を回されて心臓とか脳を鉄くずに変えられたらその時点で死ぬからね。この鉄くず化は奴を殺さないと解除できないし、まず俺達では戦力が足りなくてどうにもならない」
それに……チクタクマンはゲーム内でプレイヤーのセーブ&ロードを認知、コンティニューまで把握しているメタ視点を持つ邪神だった。原初の時を観測した時からフレーム外にその視点は飛び出してしまったのだろう。プレイヤーに語り掛けてくるような場面もあった。
ここまでやる様な奴が把握されたままの能力で戦う様な事はないと思うんだよね。
最悪、自分のギミックや仕組みを大きく組み替えて対策した此方に対するメタを張って来る可能性もある。その可能性を考慮するとなるとやっぱり、奴とは戦わない方が良いだろう。
パペッターの時はかなり融通が利いたし、自分で戦力を用意して乗り込む事が出来た。
だけど今回は違う。
この深海の密室は俺達を殺す為のキルゾーンになっている。奴は間違いなく、俺を殺すつもりでこっちに来ている。助けを呼べない、リソースの回復が出来ない、逃げ場がない、時間が限られている。この極限環境でストレスを与えながら削りに来ている。
姿を見せないのは俺がパペッターを殺すのに成功しているのを考慮し、隙を見せない為だろう。
「だから戦っちゃダメ。近づいちゃダメ。モンスターもけしかけちゃダメ。見かけたら迷わず煙幕とか使って逃げる」
「逃げられない場合は?」
「なんとか逃げる。絶対に勝てないから」
少なくとも今いるメンバーでは弱点確定の為の札や大ダメージ準備が全く揃ってなくて無理だ。ノア内部だとクリティカル無効化による火力インフレの低下も大問題だ。弱点付与からクリダメを盛ればチクタクマンも比較的に爆散させやすいんだが……ノア内部だとこれが通じない。
あぁ、成程。
ここで仕掛けてきたのは自分の弱点をカバーする為か……。アルティティシア辺りがいればカンストダメージチャレンジも十分ありだったんだがまあ、今のみこっちゃんはSではなくBなのでね。やっぱ無理なんですよ。
はあー、困った困った。
酒クズと作戦会議しているとたん、という音と共にライトがついた。
「お」
「お?」
たんたんたん、と続々とライトが点灯し、電力の通る音に電子ロックで制御する扉が開閉可能になる。長い年月を経て、ノアは僅かにながら再稼働を果たした。ノトスの目がちょっとだけ潤んでいるのは良いのだが、泣いている暇はないぞぉ。
「よっし! 稼働成功! 結構構造は素直だったね!」
「これぐらいなら俺達でもどうにかなりそうだな。ボス、行けるぞ」
「オッケー、休憩終わりだ。ここからはエレベーター使って上の層へと移動する。都市部に入ったら海王ジュニアの回収の為に再び過去に突入する」
軽く説明すると皆頷いて返答してくる。時間は待ってくれない、此方地球救済RTAの最中なのだ、電源室に落ちてた《箱舟都市ノア》のカードだけを回収してから電源室を出る。
待ち構える様に浸蝕体が何体か存在したが、今更雑魚に負けるような戦力ではない。一瞬で殲滅してから小走りでエレベーターホールまで向かう。
幸い、頭にララを乗せて移動すればララが普通の罠と俺へと向けられた罠を全て吸い込んで死んでくれる為、頭の上がララの血で赤く染まる事以外は特にデメリットなしに移動が出来る。初見なのかやたら技術屋コンビがビビるものの、割とあっさりとエレベーター前まで到着する。
呼び出しボタンを押す前に酒クズに確認する。
「どう?」
「半々かなぁ」
「ノトス?」
「エレベーター回避するとなると結構遠回りする必要があるぜ大将ちゃん。エレベーターで移動するのは間違いなく早い。迂回するとなると別区画に入ってまた電源復旧して……ってなるぞ」
ゲーム時代は直す為のパーツも探し回る必要があったから、その時と比べればだいぶ楽にはなってるんだけどね。折角ジャック達のお蔭でだいぶ早くエレベーターを活用可能になったのだから利用しない手はないか……?
でもエレベーターで仕掛けられた場合、割とどうしようもないな。
全員、黙って視線を此方に向けている。判断は任せるという事か。
「……」
少しだけ考え、直ぐに決断する。そもそも時間の余裕はないのだ。リスクを避けてゆっくり遠回りしている暇なんてない。罠の気配がしたとしても、乗り込んでなるべく早く移動した方が良い。そう判断してエレベーターを呼び出すボタンを押す。
「エレベーターに乗って移動する。間違えたらごめんね」
ちん、という音と共にエレベーターの扉が開く。軽く距離を開けて開くのを待ち、中に何もないのを確認してから全員でエレベーターに乗り込む。
目指すは都市部……だが。
果たして、海上の方は上手くやれているのだろうか? ノアに到着してから海上からの通信や連絡が何も入ってこない。オペ子の声も聞こえなくなっている。たぶん届かないのだろう。上の戦況がどうなっているのか実に気になる所だが……上手くやれていると信じて今は進むしかない。
耐えてくれよ皆!
―――その頃、海上。
「あ、うんこ漏れそう。トイレ行っていい? 行ってきます!!」
「ダメです」
「は??? 成人Sランクマスターが恥も外観もなく糞を漏らすところが見たいのか??」
「背水の陣ってあるだろ」
「うん」
「でもここ海の上だから水を背に出来ないじゃん」
「うん」
「だからトイレを全部破壊してきた。これで背水の陣ならぬ背便の陣ですね!」
「海王の前にお前から殺すね?」
無論、仲間割れしている暇はない。誰もが口を動かしながら必死に指示を飛ばしている。
「皆壊れ始めたなぁ」
「まあ……しょうがないだろ……これじゃあな……」
そう言う男の前には戦場全てを飲み込むほどの大津波が迫っていた。
海王の《タイダルウェイブ》!
高さ1000メートルの大津波が全てを滅ぼす!
海王の《プリズミックヘイル》!
光を吸収した極光の雹が降り注ぐ!
海王の《こうずい》!
オールドテイルズに没収されている!
海王は《エーテルの嵐》を呼び起こした!
《封鎖領域》が上書きされた!
誰かが《封鎖領域》を再発動させた!
《神域》が阻害する!
《神域》は無間獄に凍り付いている!
海王の《メイルシュトローム》!
戦場全体を渦潮が包み込み始めた……!
ハーデスは《明日に死す》を事前に打っておいた!
誰かの《スキルギフト》!
《明日に死す》の回数が回復した!
《タイダルウェイブ》着弾! 全員のHPが0になった!
命中した者は戦場から除外される……!
《封鎖領域》が戦場からの逃亡除外を許さない!
《プリズミックヘイル》着弾! 全員のHPが0になった!
全員の光耐性が弱点になった! 光弱点ダメージ2倍になった!
《メイルシュトローム》着弾! 全員のHPは既に0だ!
毎ターン大ダメージが発生する!
ハーデスは死んだ表情で《明日に死す》を構えた!
海王はハーデスに狙いを定めた!
月から落ちて来た海の王は一切容赦する事のない怒涛の攻勢を見せていた。
世界崩壊の最前線。
そこは地獄だった。