最強以外ありえない   作:てんぞー

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 説教された。

 

 割と心配させたのでしょうがない事なのだがやっぱりこれが一番ダメージが来る。父は話した直後に信頼を損なう様な事は良くないよ、と淡々と正しい話を展開するのでひたすらはい……としか答えられなくなる。

 

 母は感情面で心配させた事をひたすらアピールして来るのでこれもごめんなさい以外の言葉が見つからない。我が妹に関しては俺の見ている世界が半分ぐらい見えているのでまあ、逝ったら偶に会いに行こうかなぐらいの温度感を抱えている。一家全員でここら辺は教育中である。

 

 いきなり音信不通、それも1週間という期間。普通の家庭ならこれでかなりの大事になるのだが、ここにストップをかけて宥めてくれた人がいる。

 

「―――1週間音信不通になるというのはまあ、高位ダンジョンなら良くある事ですから……」

 

 滅茶苦茶後ろめたい表情でフォローを入れてくれたのは夜月家の大黒柱、修三だった。なにせ久遠曰く、本人もダンジョンに潜ったら1か月音信不通になった経験があるのだ。人の事は何も言えなかった。

 

 だけど修三のそういう経験を踏まえた説得のおかげで我が家の安寧は守られた。当然、この後説教が入るし、遠征に関するあれこれは査定が厳しくなるだろう。それでも許されたという事実は大きかった。

 

 そうして根の国から帰還して数日、みっちり怒られたり家の手伝いをやらされたりして漸く時間が取れるようになった。

 

 根の国へと向かった理由を、意味を果たすべき時が来た。

 

 場所はもはや通いなれたモンスター協会。エレベーターに乗って普段通り地下へ。だがバトル用のフロアからさらに奥へと下がって行く―――目指す場所は1つ、合体施設の利用である。

 

 これまたもはや何時も通りと呼べる久遠とのペアでやってきていた。

 

「しかし久遠はあんまり心配してなかったみたいだな」

 

「心配して欲しかったか? まあ、心配してると言えばしてたぞ。ただ父が偶に音信不通になる事があったからな。Aランクにもなると流石に時差の大きいダンジョンに潜る事もあるそうだ」

 

「慣れてるのか」

 

「それなりにな」

 

 Aランクは明確な上澄みだ。

 

 Sランクという更に上のランクは存在するが、それでもAに到達できるのは全体でもごく少数。そんな多くの人が到達できるランクではないのだ。そしてAランクともなればテレビ出演や雑誌のインタビュー等も申し込まれる程の超有名人になる。

 

 そういう仕事を全部蹴ってこの地に腰を落ち着けてるのだ。それ相応の仕事はこなしている。

 

 たとえば時折久遠が引き寄せてしまう、高難易度ダンジョンの攻略とか。

 

 こればかりは他人に協力させられない、修三が1人でクリアしなくてはならない課題であり、試練なのだ。娘と家族の安全、秘密を守る為に。その為にダンジョンに潜って1か月姿を消すのは必要経費とも言える部分がある。

 

 ―――今思うとあの人、家族の為にそれ以外の栄光の全てを投げ捨ててるのだ。

 

 中央で輝く栄誉も。人々に謡われる名声も。戦えば戦うほど増える富も。願えばもっと高く飛べるであろう翼を折り、地に足を付けて家族を守り続けてるのだ。まあ、そりゃあ滅茶苦茶尊敬できるわけだ。改めてジジイとはどういう関係だったのか気になる。

 

「それに」

 

「それに?」

 

「貴様の居場所は私の隣だ、そうだろ? 貴様はここに絶対に帰って来るさ」

 

 ちん、と音が鳴ってエレベーターの扉が開き久遠が先に降りる。その背中姿を数秒見つめて、溜息を吐いてから追いかける。

 

「女子にモテるだろうなあ、コイツ」

 

「気にする必要はない。貴様以外に向けられる事はないからな」

 

 惚れさせると言われてから特別何かしている訳じゃない。何時も通りの日常を続けて、偶にデートと称して駆間に出てモンスターと関わらない遊びをする。それだけの日常が今では普通となっていた。

 

 彼女と過ごす時間がすっかり日常の一部に―――まあまあ攻略されているな、俺。

 

「さて、センチメンタルな気分もここまでだ。ここからは空気とジャンルが変わって来るから気を付けようか」

 

「ああ、ここに来ると毎度必ず覚悟を要求されるな」

 

 さて、と呟いてエレベーターを出た先、俺達はマスターたち御用達の合体施設へとやって来た。あのキャラが濃すぎるQちゃん、そして何時も死んでいるモンスター博士が運営している強くなるための必須施設。あの2人との会話、カロリー消費量ヤバすぎるから嫌なんだよなあ。

 

 とか言ってたら浮いてた。

 

「やあやあ、良く来たねぇ、2人ともぉ!!」

 

「……」

 

「……」

 

 Qちゃんがだぼだぼの白衣の袖をぶんぶん振り回しながら良く来たとアピールしているが……なんか……おかしいのが後ろにいる。

 

「ミコト、なんか……なんか……」

 

「いや、まあ、言いたい事は解るよ……うん……」

 

 Qちゃんの背後で発光しながら浮かんでいる者を見た。

 

「良くぞ来た、剛三の孫よ……」

 

 しかも喋った。誰なのかは見た瞬間理解できるのだが、上半身半裸のムキムキマッチョのジジイが地面からエナドリ色に発光しながらWelcomeしてるという光景を脳が理解する事を拒否していた。拒否していたというか今もしてる。し続けたい。

 

「凄いな、純粋に関わりたくないとここまで思えるのは初めてだ」

 

「久遠がそう言えるの中々凄いな……ところでQちゃん、アレは?」

 

「君たちが来るまでの間に新しいエナドリの配合を試したらああなっちゃったんだよ」

 

 エナドリって実は何らかの隠語だったりしない? 新しい薬物の名前だったりしない? ギャグ時空に生きる生物の理不尽さを垣間見て俺達はそろそろアイデアロールを試すべきなのかもしれないと密かに戦慄しているとモンスター博士っぽい生物は片手を上げる。

 

「心配するな、事前に叶東吾から話を聞いている。今日は新しいモンスターの合体を行うのだろう? 恐らくは新種、新種族、新スキル、新固有……おぉ、世界が、宇宙が広がって行く……! この歳になってもまた新たな種族が目視できるとは……ほぉぁぁぁあ……」

 

 モンスター博士のテンションの高さに俺達は明確な恐怖を感じていた。研究職が大好物を摂取するとこうなっちゃうんだ……という感じに理解を放棄する事で精神を守る事にした。とりあえず事前に用意しておいた合体素材、“告死蝶”の入った瓶を取り出す。

 

「これを合体素材に、連れてきたゴーストx2を合体させたいんだ」

 

「うむ、了承した」

 

「じゃああっちとあっちのシリンダーに連れてきたモンスターを入れたまえ!! その間に私は計器の準備を進めるから! ひゃっほー! データが溜まるぞぉ!!」

 

 描写する事が精神衛生に非常に悪い爺さんの姿は自動的に視界からフィルタリングし、どこにゴーストしまったっけなあ、と少しだけ考えて……そうだ、そうだ、と自分の精神のどこら辺にしまっていたのかを思い出す。

 

 自分に憑依させていたゴーストを体の内側から引っ張り出してシリンダーの中に叩き込む。

 

「うーむ、異常者が3人に増えてしまったか」

 

「ひどい」

 

 酷いけど何も否定できねぇ。

 

 否定できないので合体素材をサクッとシリンダーの中に提供し、用意しておいた合体素材も専用の所にセットする。これで準備が完了する。合体中に近づくのは危険なので久遠と一緒に下がると、様々なパラメーターを弄って博士とQちゃんが合体の為の調整を行う。

 

「しかし良いのか? この新種族を見つけたのを叶東吾のものにして」

 

「まだあんまり目立ちたくないからね」

 

 今はアンナが一番目立っている。彼女は既にCランクまで昇格しているらしいし、その影響で他の親戚から全力で足を引っ張られているらしい。俺はジジイに注目されている事もあって名前は憶えられているが、家を出ている母の息子だからそこまで重要視されていない。

 

 その中で高難易度ダンジョンをうろついて新種族を解放したとかいう情報が出回ったら100%妨害される。

 

 まだ連中に対応できる程力も手札もない。そこら辺の面倒は全部東吾が請け負ってくれる事になった。協会もそれを了承して、正しい記録を残している。その代わりにまた今度、新しい隠しダンジョンに連れて行けという約束を何度もさせられたが。

 

「家督争いじゃったか」

 

「家督争いというよりは遺産争いかなあ。本気でジジイの後を継ぐことを考えているのはアンナぐらいじゃないかな」

 

「前家に来てた娘か」

 

 柊家で明確に将来のビジョンが見えてるのはあの娘だけじゃないだろうか? 或いは俺の知らない親戚にちゃんと未来を見てる奴がいるのかもしれないが、正直自分から積極的に関わりたい連中ではない。良い奴にしろ悪い奴にしろ、結びつきが出来るだけ面倒なのは確実だ。

 

 誰が好き好んで肥溜めに頭突っ込みたいんだ。

 

「よし、これで調整は完了じゃな。確かに予測データには2通り、通常通りの合体予測と、アイテムを使用した結果生み出される新種族のルートが表示されておる……此方の方で良いんじゃな? 宜しい……」

 

 設定を完了させたのか博士は浮かんだまま手を振るうと施設が稼働し始める。シリンダーの中にいたゴースト達が情報へと分解され、同時にセットされていた隠し味も分解され、それが機械を通して結合、融合、1つになって行く。

 

 まばゆい光が博士とQちゃんの高笑いと共に施設を満たして行き、やがて合体が完了して光が収まる。

 

「完成だ……! この情報パターン、間違いなく新種! 死霊系から派生した新種、死に近く、されどその存在としての格は高く……パターン的に見られる属性は神かっ! この新種族を死神と呼ぼう―――!」

 

「おめでとう! 誕生おめでとう! ハッピーバースデー!! この世界にようこそ新たな命よ!!」

 

 中央シリンダーのガラス扉が開き、そこから現れるのはぼろぼろのフード付きマントだった。マント、手袋、ぼろぼろの鎌、そして片目だけが残された砕けた仮面。それが生み出されたモンスターの姿だった。

 

 ぱぱん、ぱーん、と鳴り響くどこからともなく現れたクラッカーを前に、ふわりふわりと最も新しい死神は俺の前までやってくるとその頭と思わしきものを下げ、膝を突くようなポーズを取る。それは生まれた瞬間から此方へと向けて来る敬意と忠誠の証明だった。

 

「将来的に、奴と戦う事になる。その為の1歩目がお前だ。これから何世代も交代しながらだけど……頼むぞ」

 

 言葉に応えるように姿が揺れる。これで“死神”血統が確保できた。後はここから順当に成長と合体を繰り返すだけ。この血統に関しては一番難しい所は既に終わった。次に行かなきゃいけないのはイギリス辺りか。

 

 ただ、その前にDランクの攻略をしなくてはならない。死神のDランク化と調整が終わったらすぐにバトルだろう。

 

 血が滾る。新しい力、試したい戦術、そして東吾に言われた事。その全てを抱えて勝負の場へと飛び込みたい衝動をぐっと堪える。まだ準備をして、それから一気にDランク戦線へ復帰する。イギリスに行くのはCに上がってからか。

 

「道筋は見えた、後はやるだけだ」

 

 呟く俺の顔を横から久遠が見つめ、後ろでは煩く発狂してる研究者2人がいる。

 

 あの2人さえいなければそれなりに良い雰囲気だったのになぁ。

 

 そう思いながら帰った。

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