「エレベーター……止まっちゃったね」
「止まっちゃったねぇ……」
エレベーターの隅で膝を抱えながら丸くなる。いやあ、五分五分って言われたから最短ルートを進む事にしたけど見事エレベーター止まっちゃった。ジャックとラムシンがパネル開いて配線を確認しているが、システム的な障害はないらしい。
つまり何らかの妨害を受けているという事だ。
「階段の方が良かったかなぁ」
「どうだろ? 見えた時点では五分だったけど階段に行ったら階段で結局妨害されてたんじゃない? 改変合戦って結局そういうもんじゃない?」
「そんなもんかぁ」
でもエレベーターの中に封じ込められるのは読める内容だったからもうちょっと熟慮するべきだったかもしれない。何にせよ、相手は的確に此方の足を止める手を取ってきている。お蔭で無駄な時間を所々消費させられている。解っているのだ。こっちが動かなければ地上も詰むって。
或いはこのまま封殺する気か。どちらにせよどうにかしてエレベーター外に脱出しなくてはならない。そうしなければここで干からびて死ぬだけだ。今、スクナが扉を開けようと力を込めているが、エレベーターも作りが一緒なせいか無理矢理開けるようなことは出来ないらしい。
電力は通ってるから配線が途切れているという訳でもない。となるとエレベーターを何かが物理的に止めているのか?
「駄目だ。技術的には何も問題はなさそうだ」
「天井からエレベーターシャフトに入って何が止めているのかを確認する必要があるな」
「あんまりやりたくない奴ね」
うへぇ、という声が漏れる。天井を見上げればエレベーターの外に出る為のメンテナンス用ハッチが見える。これから外に出なければならないのか。狭いし、待ち構えるには丁度良い場所だ。出た瞬間攻撃されたらどうしようもないぞ。
「しゃーない、比較的に投げ捨てても良いララ先輩を生贄に安全性を確保するか」
「何時もの事じゃないっすか」
そうだね。全員でこの大型エレベーターの天井を見上げ、ハッチを開ける為に行動しようとした所で。
Tick……Tack……Tick……Tack……。
ハッチの上からチクタク音が聞こえて来た。その瞬間、全員の動きが停止した。誰も一切動かず、声を上げず、静かに臨戦態勢に入った。
Tap、Tap、Tap。靴がエレベーターの天井裏を叩く音がする。
『挨拶:初めまして鴉羽尊さん。或いはお久しぶりです鴉羽尊さん。我々はもう会っているかもしれませんし、まだ会っていないかもしれません。時の流れの中で誰が初見で、どっちが先なのかを論ずるのは意味がないのでここはお互いに初めまして、という事にしておきましょう』
「チクタクマン……」
『肯定:はい、チクタクマンです。さんは不要です。そのまま、チクタクマンだけで結構です。良く呼び捨てにされるのでもう慣れました』
「……」
口元に指をやって皆にシー、とジェスチャーを送る。ジャックが静かにスクリーンを見せてそこにどうする? と表示させる。考える。最善を。コイツからどうやって逃げるのかを。戦ってはならない。絶対に勝てない。勝つには準備が必要だ。そしてその準備はここでは出来ない。迎撃は不可能だ。
『気遣い:不要。時間の無駄ですから。ただでさえ浪費されているのでこれ以上は勿体ないと感じていますので。貴方をこうやって閉じ込めるのも中々豪華な時間の使い方かもしれません。貴方はどう思いますか?』
「たわしが食べたい」
『既知:胡乱な言動で次週に向けて情報を残さない動きは既に見た事があります。貴方以外の多くの人は真っ先に同じことを考え、そしてそれらが活躍する事無く終わりを迎えるのでやらなくて結構です』
―――こいつヤバくない?
―――ヤバイよ。
―――どうするリーダー?
―――ノトス、ここ下の層どうなってる?
―――下は緊急避難用のシェルターになってるけど多分水没してるぞ。
『感情:寂しさ。もっと此方の相手をしてくれませんか? 貴方と話す時を楽しみにしていたのですが。女神の寵愛を受けるとはどういう気持ちなのか教えて貰いたいのです。世界を滅ぼした女に執着されるとはどういう気持ちなのですか?』
天井に向けて中指を向けてからハンドサインで会話する。
―――エレベーターを下に落とす事出来ない?
―――構造上無理じゃない?
―――エレベーターのブレーキを外せばいけるの見えたわ。
―――おぢさんの権限使えばやれるかも。
―――じゃあシートベルト着用って事で。
そい、とハッチにとりもちボールが投げつけられた。倒せないめんどくさいモンスターを一時的に行動不能に追い込む為のアイテムを天井に投げつけてハッチを開けられない様に封鎖する。まあ、気休め程度のもんだがこれで中に入るまでにちょっとした武力行使を必要とするだろう。
『態度:友好的。女神という同じ敵を私達は見ているのですから、協力しませんか?』
「……」
『流石に返答はしませんか。やはり我々を良く理解している……本当に地球出身ですか貴方は?』
ノトスとジャックとラムシンがパネルに向かって素早く作業を進めている。本当にブレーキが外せるかどうかは知らないが、この邪神から逃れられるなら何だって良い、なるべく距離を稼ぎたい。本当は上に行きたい所だが贅沢も言っていられない。
「良し! 通った!」
「ブレーキを外すぞ! 掴まれ!」
ミレーナとエストに体を掴まれ、固定される。ジャックが腕を基盤の中に突っ込み、配線を掴んだ。エレベーターに電流が走り、カチ、という音がした。ブレーキが外れ、エレベーターの支えが消える。僅かな浮遊感を得るその瞬間。
『真実:私をここに招待したのは柊剛三です』
「クソジジイやりやがったなああああぁぁぁ―――!!」
エレベーターが落下し始め、チクタクマンの声が遠のく。
『この話の続きが気になるならまた後で話しましょう。どうせ逃げられません』
支えを失ったエレベーターが一瞬で落下し始める。最下層、水没している区間へと向かって。当然、潜水用の装備なんてものはない俺達は水中で活動する様な事が出来ない。ミレーナの魔法を使って水中で行動できるようになっても、本場のモンスター相手にはまともな戦いにはならないだろう。
だから水没を回避する為にもエレベーターの階層表記を確認し、タイミングを合わせて白紙の物語による時間跳躍を行った。
その瞬間、エレベーターに乗っている俺達の居場所は現代からレッドアラートの鳴り響く過去へと突入した。エレベーターの床に叩きつけられ息を吐き出しながら落ちていない、最下層に到着したエレベーターの床の上で転がる。
「私、アイツ嫌い」
「奇遇だな、俺も好きになれそうにない」
呻きながら支えられて立ち上がる。エレベーターが落下する浮遊感はトラウマになりそうだ。しばらくはエレベーターに乗りたくはない。
「というか過去から罠を仕掛けてたのなら過去に居るんじゃないの!? なんで現代側に居たのアイツ!? 時間旅行能力持ちだからです。はい」
「はい、じゃねぇよ。勝手にキレて勝手に冷静になるなツッコミ辛いんだよ」
「撒けたか? いや、追いかけて来てないだけか」
「そういうこった! 追いかけて来ない内に距離を稼ぐぞ。どうにかして都市部に戻るぞ……ノトス!」
「おう、こっちじゃぜ」
レッドアラートが鳴り響く最下層はノアの中でも最も頑丈な作りをしている。緊急避難用シェルターが存在するこの層では漸く、浸蝕体でも小口でもない、当時の生きている人たちの姿があった。エレベーターの直ぐ外で、マーマンの警備員が武器を手にノトスを見ると驚いた顔をした。
「ノトス! お前どこに居たんだ! ずっと探してたんだぞ!?」
「お―――あぁ、悪い悪い。色々とやる事があってな。今から都市部に戻らにゃならんのよ。まだ使えるルートあるか?」
マーマンは背後のエレベーターを見て、逃げてきたように出て来た俺達を見てもう利用できないという事を理解したのだろう。頭を横に振って溜息を吐いた。
「中央通路抜けて東側に行ければ……って言いたい所だけど、中央通路に繋がるシェルターから口の化け物が大量に出現してな……他のシェルターは何とか処理出来たんだけど。今封鎖中で東側には渡れないんだよ。エレベーターが使えないとなるとなあ……」
「サンキューおっさん!」
「私達は道なき道を行く!」
「時間はないぞ!」
「急げ急げ! 星が沈む前に!」
「おい、ノトス! それにアンタ達も……どういう集団なんだ一体……」
急いで最下層を走って中央通路まで向かう。扉は封鎖されているが開けて通る事は出来る。開け放てば向こう側には大量の小口の姿が見える―――シェルターに逃げ込んだ人たちを餌に増えてしまったのだろう。
それをデスペリアで薙ぎ払って、スペースを確保したら扉をロックして、東側へと向かって全力疾走する。
はあ、はあ……。
おかしい。
RPGの筈が現代はジャンプスケア、過去はチェイスでホラーになってる!!
ジャンルがホラーになってる!!
なんでだよ!!!
「クソ!」
攻略法を……攻略法を考えなくてはならない。
どうすれば倒す手段のない相手を倒せる?