到着した貨物室は案の定半分沈んでた。
まるで巨大なプールみたいになっていた。あっちこっちに巨大なコンテナが浮かんでたり積まれていたりして、ここがノアとして海を渡り、各国と貿易する時に様々な貨物を積み込んで運んでいたエリアだというのが解る。
相当広く、下にも深い……が、今はその大半が水没している。全てではないから浮かんでいるコンテナの上を歩けば奥まで行けそうだ。ここから電源室への道は幸い水没していない。もう過去と現代切り替えながら進むのめんどくさいよ。誰だよこのギミック考えた奴。
原作にねぇよ。おのれチクタクマン!!
「電源室はあっちだな―――」
ノトスが先導しようと踏み出した所で、通り抜けたばかりの扉が後ろからこんこん、と控えめなノック音がした。
『アドバイス:ごゆっくりと。足を踏み外すと危険ですので慎重に進むのがよろしいかもしれません。浮かんでいるコンテナは頑丈に見えて少々不安定ですから、もしかして乗った拍子に沈んでしまうかもしれませんよ』
チクタク音と共にアドバイスが聞こえて来る。直ぐ後ろに居るのに扉を開ける事もせず、恐怖だけを煽って此方の行動を待つ。遊んでいるようには思えるが、言葉に乗る感情には嘲笑の意図を一切感じない。寧ろそこにはどことない恐れすら感じる。
警戒されている。それが解る。この敵はパペッターなんかと違う。東京に出現していたパペッターは此方を舐めていた。最強に近い能力を持って慢心していた。現代に敵がいないと解っているから余裕を見せていた。
だけどこいつは違う。
既に同僚が死んでいる。自分に届く牙を持つ敵が存在するという認識が先にある。だから油断しない。慢心しない。手の内を確認してから封殺する事を目標にしている。
ゲーム本編では次元城でしか会えなかった奴がここまで厄介とはな。此方の手札をそこまでして割りたいか? まあ、割りたいだろう。
俺、相手から見ると最適解で敵を常に詰ませに行くバケモンにしか見えないし。パペッターとか初見討伐成功しているの絶対におかしいって叫んでもおかしくない案件だし。他の邪神の殺し方も把握している可能性あるならとりあえず追い詰めて手札を割りながら封殺を狙うよな。
俺だってそうする。
「しばらくは接触するつもりはないみたいよ」
『肯定:探索をどうぞ。活躍を観察しますので』
「会話に入ってこないで」
『成程、私の存在があっては集中できませんか。それではしばし失礼を』
扉の向こう側からチクタクマンの気配が消える。先ほどまでわざと音を立てて追い込んでいた気配が消えた事で漸く深呼吸が出来るようになった。とはいえ、気配が感じられないだけでまだ観察はされているのだろう。
「ボス、どうする?」
ラムシンが腕を組みながら方針を求めて来る。
「ぶっちゃけ、詰みに近い気もするんだけど……リーダーは何か解決策とかある感じかな? それとも歪沢さんは何か解決策が見えている状態かな?」
「あぁ、ごめん。アイツ近くに居ると見えるものにノイズが含まれててちょっと先が見通し辛いのよね。遠くの時間を観測するにはそれなりに集中する必要もあるから、そんな期待しないで。罠とかデッドエンドは察知できるようにしてるけど」
お手上げだわぁ、と両手を上げてアピールする酒クズも頑張っている事は伝わっている。ただ相手が悪い。密室、援軍不可、リソース補充不可、通信不能で逃げ場が存在しないこの環境下は奇襲性に優れすぎている。
元々邪神とやり合う予定なんてなかったのだから備えをしてないのも当然の話だ。
「アイツに関しては俺で何か考えておくから、心配しなくて良いよ。既にパペッターも殺してんだ、後1匹ぐらい邪神殺すのも訳ないさ」
無論、強がりだしそれをジャックもラムシンも理解しているのだろう。それでも俺を見て、頷いた。
「解った。俺達は自分の職務を全うする」
「任せたよリーダー。はは、こっちはこっちで結構手一杯だしね」
扉の方を凝視している酒クズがしっかりと見張っている……というかここまで真面目に頑張ってる姿は普段とかけ離れた姿をしていてちょっとだけ違和感がある。けど、死地でこそ人は本来の姿を見せるとも言う。或いはこれが酒クズの本質なのかもしれない。
いや、でも、私生活はもう少し真面目にやるべきだと思います……。
「そんじゃ、改めてこっちだ」
とん、と軽くノトスが跳躍して浮かんでいるコンテナの上へ移動する。しっかりとしているのかノトスが乗った程度では揺れる事もない。軽く力を込めるのが見えたが、沈む気配はない。乗っても安全そうだ。
とはいえ、人の力で移動するよりもモンスターに運んでもらった方が安定する。
俺は再びミレーナにお姫様抱っこされて持ち上げられる。それを見ていたチビが尻尾をふりふりしながら背中を見せて来る。
うーん、君の背中に乗るにはちょっとサイズがね……。残念だけどもうちょっと体が大きくなってからだね、それは。
Cランクの時は背中に乗せられたのに! というショックを受けるような表情のチビをエデがなでなでして慰めつつ、モンスター達の力を借りてコンテナの上へと移動する。広い貨物室には大量の貨物が積み込まれている。数百年、或いは数千年前の交易品が大量に。
開けて中身を売れば物凄い金になりそうだ。無論、そんな余裕はどこにもない。
コンテナの上から上へと移動し、横の水面を覗き込む。
底の方は暗くなって見えなくなっているが、何かが動いているのが見えた。どうやらモンスターがこの中を泳いでいるらしい。電力が通ってない影響でミレーナが魔法を使って光を浮かべているが、それでも底の方は見えない。
……一戦やる事になりそうだな、これ。
酒クズを見ると頷かれた。回避出来そうにないな。
「ノトス、戦えそうな所まで頼む」
「お? そうだな、少し先にうおおおおお―――!?」
乗っていたコンテナが揺れた。何かに水の下から小突かれた。何らかのモンスターが此方を確かめているのが解る。そして反応から俺達が乗っているのがバレた。こんな不安定な足場で戦う事何て出来ない。
「さっさと奥に移動するぞ!!」
「ここに来てからずっと走ってる気がするよ……」
「良い運動になってるね」
ダイエット効果ばっちりだよ。素早く次のコンテナに乗り移ると先ほどまで乗っていたコンテナがガシャーン、という音と共に打ち上げられて天井に叩きつけられた。アレに乗ってたら相当痛い事になってたなぁ、と思いながら素早く次のコンテナへと乗り移る。
がしゃん、がしゃん、再び追い立てられるように後ろから襲われる。
コンテナからコンテナへと素早く移動する度にコンテナが吹き飛び、別咆哮から飛んで来たり、明確な殺意を持って襲われる。このやり方はチクタクマンのやり方じゃないし、口に浸蝕されたモンスターのやり口でもない、別のモンスターのやり方だ。
ノトスのナビゲーションに合わせて最短距離で貨物区を進むと、中央の大きいプラットフォームが見えて来る。アレが一先ずのゴールだ。追い立てられるように飛んで来る数トンの金属の塊を回避しながらプラットフォームに飛び乗り、水辺から距離を開ける様に巨大なプラットフォームの中央まで移動する。
水面が荒立つ。
ごぼごぼと気泡が浮かび上がる。
何かが水面から此方を睨み、狙っている。この気配、間違いなく雑魚ではなくレベルが120に到達しているボスモンスターの物だ。だが俺の記憶にこのエリアで戦う様なボスモンスターの記憶はない。ノアのボスモンスターはもっと上の方に配置されている筈だ。
一体何が狙っているんだ。
そう思いながら水面を見つめる事数秒。
ひょこ、と背びれが出現した。
「あ、サメだ」
「サメだねぇ」
「サメかぁ」
「トンチキ確定っすね」
「サメ=トンチキって図式は別に確定しなくても良いんじゃないですの……?」
でもぉ、ゲームで出て来るサメモンスターって9割サメミームに汚染されてる奴らじゃない……? そう指摘するとエストは静かに視線を逸らした。そしてこの世界の元はゲームなので当然、出現するサメはミーム汚染されたトンチキ生物です。おめでとうございます。
ぶくぶくぶく……サメの背びれが水面の下に消えると、貨物区を静寂が包み込む。それが決して相手が諦めたから起きたものではないという事はもはや確認せずとも理解できる。
だから水面が爆発し、そこからモンスターが現れた所で驚きなんてものはなかった。
全長50メートルほどの巨体、肉体は装甲に覆われ、機械化されている様にも見えるモンスターは間違いなくサメだった。体に装着されているケースの様な物が開くと、そこに格納されているモンスターが現れプラットフォームの上に乗っかって来る。
プラット―フォームの端に上半身を乗り上げる様に、そのサメは大声で咆哮した。
「SHAAAAAAAAAARK!!!!」
「や、奴は!」
「知ってるのみこっちゃん!?」
ああ! と頷く。
「奴はサンゴ迷路を根城にするボスモンスター……ノアズ・シャークだッッ!」
「?????」
「間違いない、サンゴ迷路が吹っ飛んだ影響で深海まで逃げ込んで来たんだ……!」
名前からしてもう既にネタモンスター気配満々のサメはシャーク! と再び声を上げるとばしゃーん、と水しぶきを上げながらプラットフォームの周囲を旋回し始める。前哨戦となる雑魚モンスターの身を残し、自身は観察と場外からの攻撃に移る。
本来の住処を奪われたサメの復讐が始まる……!
『感情出力:困惑』