「ふぅ―――」
腰に手を当てて天井を見上げながらたっぷり深呼吸をしてからつかつかとバカ博士へと向かって近づいて行く。それに気づいたアンモ騎士が素早く盾を構えて間に入るが、背丈はこっちが勝ってるので上から睨む。
「退け」
「……!」
ちょっとギロり、と睨むとアンモ騎士がちょっと泣きそうになりながら横に退いた。なのでそのまま博士に近づき、その目の前で足を止める。威嚇のポーズをとる博士はサメー! とか叫んでるが、それを無視してまずは一発。
「ふんっ!」
「おごっ」
腹パンを叩き込む。
「ふんっ!」
「ぐごっ!?」
酒クズから追撃の腹パンが飛んできた。直ぐにジャックとラムシンもやって来た。
「あ、待て、後輩共、この偉大なる大先輩にそんなものを向けるのは止めなさい! あっ! うわっ! 止めろ! シャツをめくるな! ワシがセクシーになってしまう! うわああ―――! スタンガンで乳首を黒焦げにするのは止めてくれ! 止めてくれぇ―――!!!」
横で全ての成り行きを見守ってた敵モンスター達が恐怖に震えながら泣き叫ぶモンスター博士の処刑を眺めている。もう完全に戦闘の空気はどっかに消えてしまった。このジジイが現れた時点で戦闘継続なんて無理だったんだ。ノアズ・シャークも水中から顔を出して出現してなにしてんの? って見ている。そこで見てろよ、この処刑をよ。
はい、という訳で乳首が黒焦げになったのでそこら辺のコンテナに博士を磔にします。
「じゃあ言い訳を始めていいよ」
「そう、アレは―――」
したり顔で語り始めるのでスタンガンがばちばちし始める。
「はい! ワシがムササビごっこで海に突っ込んだ後海流に飲み込まれて一気に深海へ引き込まれた時、水圧で流石に死ぬかなぁ、と思ったら通りすがりのノアズ・シャークくんに助けられたのじゃよ!! ワシはその恩に報いるべく格納庫に居る間ちょっと内側から持ち込んだサメミーム映画をインストールしていただけなんじゃよ!」
まずなんで決戦の舞台にサメミーム映画持ち込んでるんだ? というかなんで助けられた? もしかしてモンスターと間違えられた? 同じサンゴ迷路出身の仲間として? 人間判定されてねぇじゃねえかこのジジイ。いや、ツッコミどころは他にも色々とあるだろ。
「先輩、無事なら連絡を入れてくれると嬉しかったなあ」
「いやあ、電波遮断されてるから連絡取れないしのう……なんか、こう、イイ感じにそのうち合流できるかなぁ、って―――うわあ、スタンガンを向けるな! 今ギャグ補正少な目で無敵じゃないんだぞワシ!!!」
「まだ残ってるんだ……補正……」
「そういう人だからな」
酒クズの呆れ声にラムシンは諦めた響きを乗せて答えた。俺も頭が痛かった。こんな状況でこのボケカスと会いたくなかった。いや、回収できたのは良かったんだけどもう少し早く合流してくれたら嬉しかった。お前がいたらもうちょっとどうにかなったシーンあったかもしれないぞ。
完全に戦いの空気じゃ無くなって完殺が解けたチビとスクナが水底からぷかぁ、と浮かび上がって回収されてきた。死んでバフが途切れてしまったからバフのかけ直しだな。ちょい面倒だが数分もあれば再スタックは終了する。この先もボスは居るので事前準備はしておく。
「いやあ、ほんとすまんかった。ほら、不可抗力だったしね? そろそろワシ許されない? 許してくれない? ね?」
「不可抗力なのは理解するけどそれはそれとしてその態度は気に入らねぇんだよなぁ」
スタンガン二刀流をばちばちさせながら博士に迫る。磔にされたまま汚い悲鳴を上げて頭をぶんぶんする博士の姿を見て溜飲が下がる。まあ、事情は解ったけど俺達の感情の方も考慮してほしい。あまり茶番に時間をかけてる余裕もない。
このまま博士を処刑したい気持ちは割と強いが、今も海上では戦いが続いている。
今の人類の戦力で海王に勝つのは無理だと正直思ってるので、なるべく早くこっちを攻略して合流したい。個人的に、海上がもつのは4時間か5時間ぐらいが限界だと思っている。
海王が本気を出したら《暗き水底》で死亡時完殺付与で蘇生が効かなくなってくる。マガツキュウビとオールドテイルズで封じ込めるなら話は別だが、あの2体が最後までもつという保証は一切ない。溜息を吐きながら博士を解放し、ノアズ・シャークを説得させる。
「任せろ!」
解放された博士が爆速でノアズ・シャークの方に向かい、サメ語で話し始める。1分ほど会話を続けると、射出したモンスター達を格納させてノアズ・シャークがコンテナの迷路の中へと戻って行く……どうやら博士の説得を受け入れたらしい。
「どうじゃどうじゃ、ワシが居て良かったじゃろう!」
「おめーが余計な事しなければそもそも回避できた戦いなんだよ!!」
「最初に馬鹿のムササビしたのが悪いんですよ」
「頼むから反省してくれ」
「私だって酒飲まずに頑張ってるのになんでアンタだけふざけてんの?」
「うおっ、凄いヘイトを感じる! 一体感……凄い一体感! 解った! 解ったから! ワシが全面的に悪かったからほんと許してくれ! ここからは活躍するから! 見ておれよ!」
本当? 本当かなぁ? ジャックとラムシンだけで十分じゃない? 今度はちゃんと働いてくれよ? ところで普段からの業務態度に対して軽い文句があるのでその感情込みで今ちょっと詰め寄ってます。いや、まあ、余裕も時間もないのは確かなのでこれ以上茶番してる暇はない。
じゃあ進みますか。
中ボス戦の舞台となったプラットフォームの直ぐ横に電源室へと入る為の扉が存在する。近づいて確認すれば閉じている。どうやら電力がここまで届いていないらしい。面倒かもしれないがここに電力を届かせる為にも別のルートから電力を引いて来る必要がある。
め、めんどくさい。
「えーと、ちょっと待ってくれ。今おぢさんがどうすれば良いかマニュアルを思い出すから……」
ノトスが腕を組んでここまでどうやって電力を引くのか思い出そうとする中、モンスター博士が自慢げな表情で前に出た。
「お、ワシだな? ワシじゃろ? 出番じゃな? 出番に違いない! あ、名誉挽回するチャンスなので出番くださいお願いします」
迷いのない土下座姿に俺達は蔑みの視線を向ける。余計な時間と苦労を掛けさせやがってという視線を受けながらモンスター博士は扉の前に立つとふむふむ、と声を零しながら扉を観察し、それからしゃきーん、と指の間に工具を展開する。それにノトスが反応する。
「もしかして解体するつもりか? 止めておいた方が良いぞぉ。なにせこりゃあ天父が創造した船だ、解体出来るようには―――」
「ふんッッッ!!!」
それは一瞬の事だった。
構造を完全に把握した博士は腕を振るうと無数の工具を浮かべ、それが落ちる前に次々と入れ替えながら扉へとそれを組み合わせて使い、持ち込んだ何かを組み合わせて扉を反応させた。本当に一瞬の出来事で、専門分野ではない俺や酒クズには理解できない仕事だった。
だが博士がその腕前を振るえば当然の様に電力の通ってない扉は開いた。
「ふふん、誰の創造物かは知らんがの……あらゆる機械、機構にはそういう風に意図して作られたデザインやアーキというものが存在しておる。構造を理解し、それに込められたメッセージを読み解けば構造から逆算して解体するも改造するもそう難しい事ではないのじゃよ」
でっでーん、と自信満々の表情を見せる博士にはやり切ったぜ! というメッセージが顔に浮かび上がってた。物理的に。ノトスはマジかぁ、という言葉を零して固まってる。
「なんでお前最初からいないんだよ」
「アンタがいたら私達シャッター地獄を問題なく抜けられたんだけど?」
「大先輩は技術は凄いんだけどそれ以外が本当にね……」
「技術だけは尊敬できる人だ……技術だけは」
「アレ……名誉挽回……出来てない……!?」
1回の働きで相殺できると思うなよ。俺達がここに来るまでどれだけ苦労してると思うんだ。エストを見なよ、シャッターやエレベーターのせいで水没区域を通る羽目になったから翼が濡れてずーっとお前を恨めし気に睨んでるぞ。
ちなみに有翼種の翼って濡れて放置するとほんと酷い匂いになるのでちゃんと拭いて乾かすのがお勧めです。特に付け根の部分、自分では絶対に手が届かない所でなので他人の助けが必要です。良い子の皆はちゃんと有翼種の翼のケアを忘れないであげてね。最終的に地獄を見るのは一緒にいるマスター自身だからね。
博士がしょんぼりしているのを無視して電源室の中に入る。
……一部故障しているが、大きく損傷している様子はない。この様子ならまた10分ぐらいでジャック達が修復してくれるだろう。その間に軽く休んでおくかぁ、と思っていると博士が中に工具を展開しつつ突っ込んでいった。
「ジャック! ラムシン! 1分で修復作業を終わらせるぞ! うお―――!」
「あぁ、自分の評価を上げる為に必死だ……」
「仕方がない、早く終わるだけ良いだろう」
博士に続いてジャックとラムシンが電源室の修復作業に乗り出す。1分で終わらせると言っている以上本当に1分で終わらせるのだろう。栄養補給用に持って来たゼリー飲料を取り出して配って、待機組でずぞぞぞぞぞと啜る。
こいつほんと最初からいてくれたらまるで話が違ってたよなぁ……。