最強以外ありえない   作:てんぞー

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積み上げた屍だけが俺達を強くする

『この前の話? ああ、ズレてるって話か』

 

『そうだな、お前のその知識には正直驚いている。俺の様なトップマスターや、学者や博士と呼ばれるような連中を凌ぐ知識に理論を兼ね備えている』

 

『だけどどこかチグハグだ』

 

『俺の言っている意味が解るか? いや、多分解ってないな。そうだな……階段を3段4段飛ばして上がっている感じに近いな。問題はない。だけど何時か躓くのが目に見えている。そんな感じだ』

 

『根本的な原因は足元が疎かな事に来ていると思う』

 

『俺が言えるのは基礎を学べ、という事だけだ』

 

『基礎と基本を押さえろ、尊。地に足が付いたらお前はもっと強くなる。お勧めは協会の方でやっているジュニア用のスタンダードコースだ。基本中の基本が誰かの色を加えられずに見る事が出来る。下手に誰かから学ぶよりもずっと良い』

 

『お前自身でそのズレに気づけたら……きっとお前はもっと強くなるだろう。今よりもずっとな』

 

『だからそれまでは戦え』

 

『たくさん戦え』

 

『手加減するな』

 

『お前を理解し、全力を引き出すライバルが現れるなんて期待するな』

 

『そんな都合の良いものは生えてこない』

 

『そんな敵はそうそう現れない』

 

『だから自分からそいつらが殺し合う領域に踏み込む必要がある』

 

『殺し合え。殺せるだけ殺せ。フィールドの上の敵を蹂躙しろ』

 

『積み上げた屍だけが俺達を強くする』

 

 サーバーに残されているメッセージを確認し、スマートフォンを閉じてポケットの中に突っ込む。熱狂が包むスタジアムの中、再び指揮所に立っていた。東吾の語っていたズレ、というものは良く解っていない。だがこの世界の実力者が言うのであれば間違いなくあるのだろう。

 

 それが今すぐ解消できないのも解る。ならやれる事をする。

 

()るか」

 

『あの男が帰って来た! 40連勝を超えてなお不敗! 傍らに立つのは新たなモンスター! 少しの間顔を見せないと思っていたら戦術を変えてきたかぁ!?』

 

 何時も通りの煽り。何時も通り対戦相手が何かを言う。何時も通りの観客の期待。その全てを一呼吸で消し去って、勝負の世界へと意識を埋没させる。フィールドにはチビと、Dランク用に調整して合体させた死神の姿がある。

 

 2世代から3世代へと移行にあたって片目を覆う仮面からは花が生え、鎌はもう少ししっかりとしたものになり、身なりも少しだけましになったように見える。それがチビの横に立って戦闘の準備を終えて立っている。

 

「お披露目だ、派手にやれよウェル」

 

 声も無ければ音もない。それでもジェスチャーでウェルギリウスと名付けた死神は応える。その反応に客席が盛り上がり、耳に試合開始のカウントが入る。カウントダウンが進むたびに雑音が排除されて行き、集中力が高まる。

 

 ―――試合開始。

 

 戦闘が始まり、全ての動作が始まるのと同時にフィールドが一瞬で大量の花々と告死蝶の舞うフィールドへと上書きされる。所々鳥居の姿があちらこちらに見え、東吾であればこれが少し前に共に探索した根の国だと直ぐに理解するだろう。

 

『ふぃ、フィールドスキル!? このランクでか!? なんてものを持ち出して来やがったんだこいつ!!』

 

 DLCエリアで取得できる玩具(スキル)の1つだ。効果はそのまま、根の国全体に適用されていたフィールド効果をその場にも展開するというもの。

 

 ゲーム内ではそこまで派手ではなかったが、リアル化するとこの手のフィールド系スキルは物凄い派手だなあ。完全に根の国出張版だこれ。

 

「いや、効果検証は後! 先に厄介な狼から潰す!」

 

 もはや定番となった《粘着糸》が2個同時に発射される。2個同時を防ぐことは難しく、Dランク帯であれば防ぐのに2手、解除するのに1手は絶対に必要となる。アタッカー+サポーターという構築だったら間違いなくサポーターの行動を制限できる。

 

 これまで通りだったら。

 

 放たれる片方の《粘着糸》はまるで命を失うかのように放たれる途中で色褪せ、朽ちて、告死蝶に貪られるように消えて行く。《パーフェクトキャンセラー》、主にS帯で死ぬほど活躍している最強の万能打ち消しスキルが発動した。

 

 それに連鎖して死神の残りの能力が発動する。

 

 《去り行く過去》。打ち消し成功時、対象に忘却状態を付与。忘却状態時はアクティブスキルが使えなくなる。

 

 《ミスチーフ》。対象に低下か異常が付与された時、対象にランダムで能力低下を付与する。

 

 《削れる命運》。デバフ成功時、対象のHPに1割の割合ダメージ。

 

 《パーフェクトキャンセラー》から始動するように3つのスキルは連鎖発動する。相手の初動を潰しながら機能不全に相手を追い込み、この連携だけで体力を2割削った。《粘着糸》はそれでも1発通る。チビの素早さが0になり、《アクセルクロー》が機能しなくなる。

 

 だがその結果ウェルギリウスが先手を取れるようになり、《アーマーラスト》による防御1段階下降デバフが入る。連鎖して《ミスチーフ》、《削れる命運》再発動。デバフが2回付与された事で2度体力が削られ、チビの行動前にHPが4割削れる。

 

 そこに最遅行動のチビの攻撃が入り、HPが4割ほど吹っ飛び、そのまま敵が即死する。

 

「……は?」

 

「フィールド効果だ。HPが2割を下回った時、敵味方関係なく即死する。それだけのフィールドスキルだ」

 

 正直、強くはない。玩具と呼べるレベルのスキルだ。使いどころはほぼないのだが……相手より早くHPを削る自信があるなら、雑なHP計算で相手を屠る事が出来る。

 

「対戦、ありがとうございました」

 

 1戦目、死神魔狼で削ってフィールドで殺しきる。

 

 

 

「動きが違いすぎる! これまで構築してきた対策じゃ対応できねぇ!」

 

「デバッファーから落としたい? 残念、行動阻害で止めるんだな、これが」

 

 2戦目、1戦目とほぼ同じ内容で詰ませる。

 

 

 

「パフェキャンナーフいっすか?」

 

「ナーフするとS帯が馬鹿のゲームになるんでダメです」

 

「駄目かあ」

 

 3戦目、その前と同じ流れで勝利。ランクマ分終了、フリープレイに移行する。

 

 

 

「パフェキャンどこで手に入れたんだよそれズルいだろ……俺も欲しいわ……」

 

「カードは拾った」

 

 4戦目、《粘着糸》を捨てた魔法軸でチビが落とされた。チビが落ちた後に忘却が2体に刺さって攻撃力を延々と下げながらフィールド効果で昇天させた。かなり考えた動きをされた影響で危ない結果になった。対応してくる奴はいる。要警戒。

 

 

 

「ぐぬぬぬぬ、勝てない……! ズルい!! 私もそれしたーい!!」

 

「マスタースキル切らされたなぁ」

 

 5戦目。知ってる巨乳との対戦。軸が明確にコントロール軸へと切り替わっていてデバフとバーンダメージを主軸に長期戦を仕掛けて来るカスみたいな戦術へと進化していた。存在が許せない。明確に自分の弱みを理解していてカバーする為のタンク、そして付与役と役割分担した戦いを見せた。

 

 ウザくなった巨乳がバーンのほかに忘却を絡めて回復によるケアを封じようとするのを打ち消しつつ、被害をタンクが軽減、回復を互いに許さないまま被害を最小限に抑えて8ターン目まで突入した戦いは削れてきたタンクを押し込んで、マスタースキルの使用でかかったデバフを解除する事で乗り切った。

 

 

 

「下からも有望株が上がって来るな……」

 

「対戦ありがとうございました」

 

 6戦目。CランクマスターがDランク用のモンスターを引っ提げて勝負を挑んできた。これまでにない変則的なマッチだったがDランクとの最大の違いは経験と視野の広さ。勝つためにそこまでを見通せるか、レンジがどこなのかを理解しているかどうか。

 

 見慣れたアグロ戦術を使ってくるものの、Cランクともなれば手に入るものも違ってくる。Dランクでは対抗する為に《粘着糸》を駆使して素早さを0にしてきたが、Cランクから見られるようになる追撃スキルを駆使して連続で3回魔法攻撃を行ってチビをフィールド効果で一気に始末する。

 

 そこからは泥沼の戦い……にはならず、1体倒す所までは善戦するものの2対1という状況では勝ち目がない。明確にCの中でも上位と思えるスキルを使った速攻戦術に敗北する。やはり最大の鬼門は回避できない魔法攻撃が連続で叩き込まれる事。このパターンは相方がウェルギリウスの時は絶対に対応できない。

 

 7戦目。

 

 8戦目。

 

 9戦目。

 

 ―――20戦。

 

 大量の汗を流しながら20戦を完了させて、死神の使い方を習熟する為のバトルを一旦終了させ、休憩エリアで水分補給しながらそれまでの試合を振り返る。勝率は凡そ8割。敗北率が高いのは死神が高級なスキルを付けていても、そもそもまだ運用段階には難しいランク帯に理由がある。

 

 連勝は途絶えたが、それよりも重要な事は自分の研鑽。

 

 強くなるのがモンスターだけではなく自分もそうだ。考えを改めなくてはならない。その為に必要なのはバトル、バトル、バトル。

 

 戦って殺して喰らって成長する。

 

 それを知れて良かった。

 

「うし、休憩終わり。もっと戦うぞ。可能ならさっきのあの人みたいにD調整してくれるCかBの人がいてくれる方が負け筋確認出来て良いんだけど……まあ、望みすぎか」

 

 休憩が終わる。ランクマや大会とは関係のないバトルはどれだけ重ねてもポイントにはならないし、無駄になる。その為の戦いは回避していた。疲れるし、自分の情報が無駄に漏れるし、それで注目されるのが面倒だったから。

 

 だけどそういう考えを捨て去った今、残されたのは闘志だけだった。

 

 ただただ戦いを重ねる為だけに、再び強者を求めて無差別級のフリープレイエリアへと向かう。

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